第81話「往生際が悪い」
奴隷の契約更新は王城で行う……
優勝した俺たちにそう通告してきたのはヒゲを生やした子供……っぽいオジサンだった。
なんか悪巧みしてたオジサンの一人だ、大臣ともいう。
王様も小鳥遊シエルも見に来てたんだからこの場で契約更新の儀式でもなんでも行えばいいものを……
こんな怪しい提案にそのまま飛びつくほど俺はアホではない。
コレは間違いなくアレだな。
人目に付かない王城へ誘き出し、俺達を始末して奴隷受け渡しを無かったコトにする気だ、ここの王族なら躊躇なくやるだろう。
そして少しでも抵抗しようものなら、王族暗殺未遂とか国家転覆罪とかの罪を捏造されて優勝は取り消されるだろう。
これは俺が一番危惧してたコトだ。
後ろ盾のない魔無なんかサクッと始末しちゃえ♪って考える奴がこの異世界には多すぎる。
だが大丈夫だ、ちゃんと考えがある。
俺達には後ろ盾はないが強力な後ろ盾を持ってる奴がいるだろ?
……と言うワケで剣聖祭で何の役にも立たなかった勇者を使う。
この異世界で最大の勢力を誇る宗教・聖皇教会、教会ってのはどこの異世界に行っても強力な力を持ってるモノだ。
そんな教会の犬……じゃなくてバックアップを受けている勇者パーティーに同行を依頼した。
幸い女魔法使いと女僧侶は依頼の意図を即座に理解し、同行に応じてくれた。
肝心の勇者は意図を察していなかったけど……
普通なら部外者の立ち入りなど認められないだろうが、勇者と小鳥遊シエルは師弟関係にあるのは有名な話だ、その場に立ち会いたいと言い出しても不思議はない。
そして聖皇教会の権威があればこんな無理も通る。
立ち合いに関する交渉はヴェラ嬢に一任する、俺達が言い出すべきことじゃ無いからな。
そして――
―――
――
―
―― ギルベリル王国王城・謁見の間 ――
「…………」
王様が笑顔で出迎えてくれた、しかしその頬肉はヒクヒクしてる。
あぁ……いいね、その顔が見たかった、色々とセコイ小細工してくれたけどその引き攣った笑顔を見ると今までの苦労が報われる気がする。
(おい! どうなってるんじゃ!? なんでココに勇者一行が居るんじゃ!?)
(勇者ルーファス殿はシエル殿と師弟関係にあります、またあの方は思い付きで行動を起こすことで有名です、聖皇教会経由で正式に要請されては断れません)
(それじゃ神隠し作戦はどうなるんじゃ!?)
(勇者一行が居たのでは実行不可能です)
(どうにかせいッ!!)
(どうにもなりません、剣聖祭で少々やり過ぎました、これ以上聖皇教会の視界内で無茶はできません)
大臣とのやり取りが微かに聞こえてくる…… もっと小声で喋れよ。
神隠し作戦ってのは俺たち反魔力同盟が行方不明になる作戦だろ? ホント、予想通りだよコイツ等。
そして王と大臣のコントのようなやり取りをすぐそばで聞いているのが小鳥遊・シエル・エルエネミス……
貴賓席で見かけた時は角度のせいでよく判らなかったが、なんか…… 袴履いてる、和装だよ、和装ロリだよ、やったね!
ようやくギルベリル王国編(仮)のメインヒロインに会えた!
(陛下、そろそろ……)
(ぐぬぬ…… 何故こんなコトに……)
往生際が悪い……
「あ~…… 剣聖祭……見事であった、褒美を取らす!」
王様なんか不貞腐れてるっぽい…… 背丈が子供サイズだから尚のコト糞ガキっぽく見える。
「それでは奴隷契約更新のサインをこちらの書類へ……」
まるで古文書のような古い紙……羊皮紙かな? が出てきた、魔法のスクロールですって言われたら信じるな。
つーかサインでいいんだ…… そういえばキララの時もサインだったな。
だがこれが本当に正しい手続きなのかどうか判断がつかない…… こんな時は……
チラ――
コクリ――
この世界の常識に一番詳しいであろうヴェラ嬢に視線を送ると小さく頷いてくれた。
どうやら問題なさそうだな。
書類には歴代契約者と思われる者の名前がズラリと並んでいる、当然読めない…… あ、一番上の名前が小鳥遊鶫になってる…… 偽名じゃなかったのか!
では初代契約者に習って俺も日本語で……神楽橋飯綱……と。
いつも思うんだが俺の名前は画数が多くて書くのがめんどくさいんだよね……
パァァァ―――
「おぉ?」
契約書が浮き上がって光を放つ…… 何だこの演出? キララの時はこんな演出無かったぞ?
値段が付けられない超高級奴隷と100万ディルの投げ売り奴隷…… 演出に差があっても不思議は無いな。
契約書は空中で巻かれたのち光を失いテーブルに落ちた…… 何のために光ったの?
「ここに契約は成された…… わたくし、小鳥遊・シエル・エルエネミスは新たなる主、神楽橋飯綱様への忠誠を誓います」
小鳥遊シエル…… 見た目通り子供っぽい声だな。
ここは何か答えるべきか? 今日からお前は俺の物だ!……とか?
勇者が怒りそうだから普通にしとくか。
「よろしく…… シエル」
「はい、今後ともよしなに……」
―――
その後、王様から優勝を祝したパーティーを行うので出席するよう言われたが、勇者と約束がある(嘘)ので……と、丁重にお断りさせてもらった。
この城でのパーティーなんて食事に何入れられるか判ったもんじゃないからな。
王様的にも勇者が一緒にパーティーに参加したら意味が無いから「ご一緒にいかがですかな?」のセリフは無かった。
用事は済んだので帰らせてもらう……
そして案の定、複数の追跡者を付けられた、これは想定内だ。
「師匠! お久しぶりです!!」
「ルーファス様、相変わらず声が大きいですね」
必要以上に丁寧な喋り方、弟子で最下位勇者ルーファス如きに様付けとは…… まぁ一応奴隷だからな。
「のじゃ」って言わないのかな? のじゃ来い、のじゃ来い!
…………
いや、のじゃロリはどうでもいい。
「オイコラ敗北者、なに率先して話し掛けてんだよ、こっちはまだ自己紹介もして無いってのに」
「うっ!? そ…それは…… 確かにそうだな、すまない……」
うむ、ちゃんと謝れるのはイイことだ、多少なりとも負い目を感じているようだ。
実際、剣聖祭では何の役にも立たなかったからな、だが今現在勇者の立場を利用させてもらってるからそこまで落ち込まなくてもいいぜ?
軽く自己紹介だけ済ます。
友好関係を築くのは後回しだ、こっちは脱出計画を練らねばならないからな。
だがその前に一つだけ確認しておかなければならないコトがあった。
「奴隷ってどうやったら解放できるんだ?」
「わたくし何かご不興を買いましたでしょうか? いきなりお捨てになられるのですか?」
「捨てるとは人聞きが悪い、解放だ解放、それとも解放されたくないのか?」
「してくださるとおっしゃるのなら依存はございません、が、どちらにしても直ぐには無理です」
「と、言うと?」
「契約を更新したばかりですから、後10年は主様に仕えねばなりません」
あ~…… なるほど、奴隷契約は一方的に破棄することは出来ないのか……
そうだよな、強制破棄が出来るなら色々と抜け道ができてしまう、例えば人を雇って主人を脅して破棄させるとか……
んじゃ仕方ねーな、10年間は俺の物ってコトで。
「それで? これからあなた達はどうするの?」
他のメンバーたちが雑談してる間にヴェラ嬢と今後の打ち合わせ。
なんか勇者パーティーが仲間みたいになってきたな。
「準備を整えて明日には街を出る」
「そう、判ってると思うけど私たちを使えるのはこの街にいる間だけよ? 私たちもこの後、聖皇教会総本山へ出頭しなければならない、アヴァロニア領内にあるからアナタたちを連れて行くことは出来ないからね」
「あ~…… 叱られに行くのか」
「う…… まぁ……多分そうね、よりにもよって英雄候補に負けちゃったからね、ルーファスはまだ気付いて無いみたいだけど……」
一人ため息を吐くヴェラ嬢…… 相変わらず苦労人だな、もう勇者パーティー辞めたら?
「恐らくギルベリル王国はあなた達を逃がすつもりはないと思うけど……」
「まぁそうだろうな」
「この後どこへ向かうの?」
「ルースだ」
「ルース…… なるほど…… 確かにあそこなら他国からの干渉を受けにくい……」
「と、言うワケで今日は勇者パーティーが使ってる宿に泊めさせてくれ」
夜中に襲撃される可能性が高いからね。
だが勇者パーティーがいれば抑えられる。
「ハァ…… 仕方ないわね、監視の目もあるみたいだし、ただしあなたはルーファスと同室ね」
うげ、マジかよ、勇者と二人っきりで何話せってんだよ? アイツ猥談とかできるのかな? 男の前で躊躇なくパンツ一丁になれる奴とエロ話とかしたらヤバい空気になりそう……
「非常に重要な質問なんだけど……」
「なに?」
「勇者って…… ノーマル?」
「勇者パーティーの構成を見れば判るでしょ?」
男・女・女・女……
なるほど、ノーマルだな。
その後、二手に別れて王国脱出準備を整える。
以前と違って資金があるから空船とか使ってみたかったけど、公共の交通機関を使うのは避けた方がよさそうだ。
空船に乗ったら空軍基地に着陸させられたり、船に乗ったら海上封鎖されたり…… その可能性もあり得るから困る。
本当は勇者のフライングティガー号に乗せてもらえれば楽だったんだけどなぁ…… それもこれも勇者が英雄候補に負け……
あ、小泉哲司に接触するの忘れてた、今からでも……
…………無理か、監視者が二桁いるからな。
―――
夜…… マジで勇者と相部屋にされた。
きっと今頃ベルリネッタがシエルに恒例の新人教育を行っている頃だろう。
そういえば高校の修学旅行がまだだったんだよな、異世界に吹っ飛ばされたせいで不参加になってしまった。
なんとなく損した気分なので修学旅行っぽい事してみよう。
「なぁ勇者」
「………… その勇者って呼ぶのやめろよ、勇者は俺一人じゃ無いんだから」
「それじゃ…… ルーファス」
「な……なんだ?///」
照れるなよ、お前ノーマルなんだろ?
「ぶっちゃけお前って誰狙いなんだ?」
「ダレネライ? 何の話だ?」
「勇者パーティーのなかで誰が本命なんだってコトさ」
「んなッ!?///」
「運動神経抜群脳筋系のナタリア、ちょっと天然清楚系のフラン、インテリクール系のヴェラ、誰が一番好きなんだ?」
「な……な……な……///」
ちなみに俺の予想だと本命は女僧侶フランだ、童貞なら清楚系のフランを選ぶ。
「お、お前の方こそどうなんだよ! パーティーメンバー女の子だらけじゃないか!」
「ウチは出会った魔無を保護してるだけだからなぁ…… そもそも全員出会ってから1ヵ月も経ってないし……」
「そ……そうだったな」
「でもまぁ…… 付き合うならキララ、結婚を考えるならユリア、見た目の好みなら(小型化する前の)ベルリネッタ、将来に期待の妹枠のシャロ……ってトコロだな。
シエルに関してはまだまともに話しても無いからなんとも……」
「し、師匠にも手を出す気なのか!? 彼女は見た目は若いけど……」
「別に誰にも手を出す気は無い」
今のところは……
「それでルーファスはどうなんだ? 俺は言ったんだぞ?」
「う…… その………… フラン…………///」
「あ~…… やっぱりな」
「なんだよやっぱりって!/// てゆーか言うなよ! 絶対にみんなには言うなよ!!///」
「安心しろ、そこまで無粋じゃない」
「あ! てめぇ! なにニヤニヤしてんだよ!///」
………………
…………
……
こうして男二人の夜は更けていった……
なんかちょっとだけ仲良くなれた気がする。
この世界の高濃度汚染体と仲良くなっても意味は無いかもしれないが、コイツの権威は使い道があるからな。




