第77話「慢心王のオモチャ箱」
「陛下ぁ~! 大変です~!」ドンドンドン
「何じゃ騒がしい! トイレくらいゆっくり行かせんか!」
「トイレなんかどうでもいいんです! 陛下はいっつも長すぎです!」
「何じゃとッ!? 王のトイレを軽んじると言うなら貴様の執務室をトイレにするぞ!」
「だからトイレはどうでもいいんですって! 試合ですよ試合!」
「なんじゃ? もう始まるのか? ちょっと待て、最近キレが悪くてのう……」
「いえ…… もう終わりました……」
「なにぃ? あ、いや、四回戦はマイク・ディオンじゃったな、ならば終わっていてもおかしくないか」
「えぇ、秒殺でした…… 対戦相手のカグラバシ・イヅナの……」
「はぁ?」
「試合時間、僅か1秒…… カグラバシ・イヅナの勝利です」
「…………」
「…………」
「大臣よ、知っておるか? 王に虚偽を述べると結構重めの罪に問われるというコトを……」
「残念ながら嘘偽りはありません」
「いやいや、だって1秒って物理的に不可能じゃろ?」
「剣を投げたんです、それが核に命中」
「…………」
「…………」
「嘘じゃーーーー!?!?」プリッ
「陛下…… ショックなのは判りますけど話し中に漏らさないでください」
―――
――
―
『さぁー! 色々と予想外のコトが起きる波乱の剣聖祭! 準決勝です!!』
ΩΩΩ
予想外じゃなく予定外なんだろ?
『そして~! 誰もが気になる準決勝の対戦形式はぁ~………………え? これマジ? 段取りと違うじゃん』
ん? トラブルか?
『コホン、では改めまして準決勝の対戦形式は…… 討伐数対決です!!』
…………
判らん、ちゃんと説明してくれ。
『これから闘技場内に99体の魔導人形が放たれます! それを選手二人が同時に討伐していき、先に過半数を狩ったほうの勝ちになります!』
なるほど…… 間接的な直接対決?って感じか。
小泉哲司は呪文詠唱が長い、妨害してやりゃ楽勝だな。
『なお試合中に対戦相手に直接攻撃を行うコトは禁止となっております!』
クギを刺された…… 何だよそれ、だったら同時にやる意味ねーじゃん。
まぁ妨害アリじゃ騎士王が有利過ぎるからな。
『それでは準決勝第一試合! 選手入場! 赤門からは…… 我が国最強の戦士であり! “常勝将軍”の異名を持つ第一軍将軍! ケビン・グラッドストォォォーン!!』
ΩΩΩ
『対する青門からの入場は! 1対1の対決ならぶっちぎりで世界一位! 極級冒険者! “騎士王”ベン・ドラグゥゥゥーン!!』
ΩΩΩ
『そして~! 討伐対象の魔導人形99体、投入!!』
ザッ ザッ ザッ
魔導人形とやらがキレイに整列して闘技場に入ってくる、自律型じゃなく遠隔操作型なのか……
てか、思ったよりもデケェ…… あれ俺よりもデカいぞ。
闘技場の中には選手二人、そして魔導人形99体…… 密だ。
マナウイルス感染者のくせにソーシャルディスタンスとかまったく気にしてない。
その様相はまさにアウトブレイクのさなかに開催されるフェスが如く……
さて……
普通にやれば極限級の騎士王が勝つだろう、しかし主催者は何が何でも常勝将軍に勝って欲しい。
俺がもう一人の身内を倒しちゃったから後がない…… 一体どんな小細工を入れてくることやら。
―――
準決勝第一試合…… かなりヒドイ。
これもう1対100の試合と言っても過言じゃない。
ズバッ!!
騎士王は噂に違わぬ実力の持ち主で人形を一体ずつ確実に倒していく、あれだけの実力があるなら複数を一度に相手したほうが効率がイイだろう、だがそれは出来ない……
魔導人形は距離を取りつつ魔法で牽制をかけ、決して騎士王に近づこうとしない、近づくのは常に一体ずつだ。
これは完全なる時間稼ぎだ。
一方、常勝将軍の方はと言うと……
ズドドドド!!
剣と魔法を駆使し複数体を一度に倒している…… それはいい、問題なのは魔導人形の方だ。
人形が行列つくってやられるのを順番待ちしてる。
そして絶対当たらない魔法攻撃で牽制するフリをしている……
何かやって来るだろうとは思っていたがここまであからさまとは…… もはやなりふり構ってられないってコトか。
ただこれだけ騎士王を冷遇し、常勝将軍を厚遇してもなお勝負はほぼ互角だ。
単純に騎士王の動きが速すぎる、八百長してなかったらもう終わってたぜ?
だが魔導人形は残り一桁、あと数秒でケリがつくな。
「はあああ!」
ズバンッ!!
騎士王が49体目を狩り王手! 残りは3体、コレはさすがに決まりか?
自分に一番近いラス1人形に突進した。
ターゲットにされた個体も必死に逃げる、いや、逃げるなよ……
そして……
「ッ!?」
ターゲットが逃げた先は…… 常勝将軍の真後ろ、そこで攻撃もせずに将軍に張り付いてる……
あぁ…… なるほど、対戦相手を攻撃禁止ってルールはこの為だったのか、あれだけ引っ付かれると騎士王の高速斬撃では将軍まで切り倒してしまう。
ちなみに残りの二体も将軍に「斬ってください」と言わんばかりに攻撃もせずに無防備に近寄ってくる……
いくら何でも露骨過ぎだ、隠す気ねーだろ?
「うおおぉぉぉおッ!! 炎刀円舞ッ!!」
ズバズバズバッ!!!!
勇者みたいな燃える剣で回転攻撃…… 常勝将軍が最後の三体を一気に切り伏せた。
『終ーーー了ーーー!! 49対50!! 我らが“常勝将軍”ケビン・グラッドストーンの勝利だぁぁぁーーーッ!!!!』
ΩΩΩ
ヒドイ試合を見た、ここまであからさまだと逆に清々しさすら感じる。
ウオオォォォォォォォーーーー!!!!
ん? この大歓声はどこから? 観客は全然沸いて無いのに…… あ! 座席の下にスピーカー的なモノが!? サウンドエフェクト入れやがった!
これ絶対に大問題になるぞ?
―――
――
―
選手関係者控室
「ヒドイ試合だったね……」
「あぁ、酷かったな……」
「この後の試合でご主人様も何かされるのかな?」
「それは…… 判らないな」
主催者側は英雄候補が敗退したほうが嬉しいだろう。
だが俺は主催者の身内を倒してしまっている、もしかしたら憂さ晴らし的な嫌がらせを受けるかも知れない……
それに問題なのは英雄候補・小泉哲司だ。
恐らく彼は一発で魔導人形99体を倒せる魔法を使うだろう、人間には効かない魔法とかそんな感じの…… 例えば電磁波みたいなヤツ。
魔導人形が彼の詠唱を妨害するかは判らないが、必殺魔法を使われる前提で作戦を考える必要がある。
要するに開始10秒で勝利しろってコトだ。
相手の妨害ができない以上それしかない。
…………
戦術的に考えるならベルリネッタに交代するのもアリかも知れない……
……いや、ないな。
やり過ぎて小泉哲司ごと吹き飛ばす未来しか見えない。
さてどうするか? 1秒に3~4体のペースで倒していけば勝てるだろうけど、それって騎士王を超える殲滅速度が必要だ。
いや、ここは発想を変えよう、例えば魔導人形を蹴り飛ばして小泉哲司にブチ当てるとか…… これも妨害行為になるかな?
いっそのことストレージで彼の周りの酸素を全収納してみたらどうだろう? 呼吸ができなくなって詠唱どころじゃなくなる。
ただし対象の5m以内に近づく必要アリ…… 不自然すぎるか。
いや…… 待てよ? そういえば……
ガチャ
「反魔力同盟代表選手の方、試合準備が整いました、闘技場へお願いします」
チッ! まだ考えまとまって無いっての!
「お急ぎください、観客席がザワザワしてますので」
それはあからさまな八百長するからだ。
―――
『盛り上がり最高潮!! 準決勝第二試合です!!』
ΩΩΩ
頑張って盛り上げようとしてるのは判るけど、最高潮なのは盛り上がりじゃなく不信感だろ?
『で……では準決勝第二試合! 赤門から入場するのは…… 未来の英雄! 遅咲きの最強魔法使い! “参拾魔導” コイズミィィィ・テツゥジィィィ!!』
ΩΩΩ
遅咲きの最強魔法使いって…… 遅咲きだから魔法使いなんだよ、酷いコト言うなぁあの司会進行。
『対する青門からの入場は! 予選で対戦相手を全員吐かせたキング・オブ・嘔吐! “内臓殺し”カグラバシ・イヅゥナァァァーーー!!』
ΩΩΩ
オイ! キング・オブ・嘔吐ってまるで俺がゲロ吐きまくってたみたいじゃねーか!
いくら素性が知れないからってもう少しまともな紹介できないのかよ? それともコレも憂さ晴らしの一環か?
「カグラバシ・イヅナ?」
ここで初めて小泉哲司と目が合った、しかし特に目立った反応は無い、やはり…… 完全に忘れてやがる。
だがこれは仕方ない、あの時間のバスにはあの日初めて乗ったんだからな、そもそもまともに自己紹介もしていない。
きっと俺の名前がスーパーペガサスとかだったら忘れられてなっただろう…… まぁそんな名前付けられるくらいなら忘れられてた方がマシだ。
だがよくよく考えると俺の異世界転移の原因ってコイツじゃね? コイツがバスの運転を誤ってトラックと正面衝突したから俺が苦労させられた……
そう考えれば俺はコイツに賠償請求する権利があると思う。
後で体育館裏に連れてってお話しよっかな?
ザッ ザッ ザッ
そうこうしてる間に魔導人形が密る、無駄にデカいから圧迫感がある。
「ベルリネッタ、魔導人形の急所をロックオンしてくれ」
『イエスマスター』
試合開始前だけど仕込みに入る、別に構わないよな? これは戦闘準備だ。
鞘から剣を抜く動作だって戦闘準備なんだから文句は言わせない。
『それでは準決勝第二試合…… スターーートゥッ!!!!』
スタートの合図と共に魔導人形が一斉に襲い掛かってくる。
さっきの試合の消極性は何だったのかと思いたくなる積極性、少しは八百長を隠す努力をしろ!
「よっと」
垂直飛びで10m程飛び上がる、しかし俺には空中浮遊能力は無いのですぐに落ちてしまう、落ちれば魔導人形に袋叩きにされる……
だからその前にさっさと攻撃、終わらせてしまおう。
「ストレージ・オープン!」
ズズズ……
空間から大量の刃物が現れる、その数99。
「《慢心王のオモチャ箱》!!」
ズドドドドドドドドドドド!!!!
合図と共に放たれた刃物は速度1000m/sで飛び、気付いた時のは魔導人形の急所を貫通していた。
―――スタ!
俺がジャンプから着地するまでの時間は約5秒、たったそれだけの時間ですべてが終わっていた。
「な……」
『え……?』
......
静かだなぁ…… 誰も声を上げないじゃん。
「審判さん、終わったよ」
『あ…… はい…… え?』
まだ呆けてる…… インパクト大の技だったからな。
《慢心王のオモチャ箱》…… 俺が巨大ゴキ●リと死闘を繰り広げていた時に思いついた技だ。
昨日お手頃価格の武器を買いあさりベルリネッタに全力投球してもらい、運動エネルギーごとストレージに保存しておいたモノだ。
資金に余裕がないとできない贅沢な技、まさに王の技だ。
なにせ発射した99本の剣は魔導人形を貫通した際に全て壊れてしまったから……
ヤマダタイトの鉄球でも同じコトができたけど、やっぱり剣を射出したかったんだよね。
『しゅ……終ーーー了ーーー!! まさかまさかの0対99!! “内臓殺し”カグラバシ・イヅナ! 決勝進出だぁぁぁーーーッ!!!!』
ウオオォォォォォォォーーーー!!!!
そしてサウンドエフェクトの大歓声を受けた。




