第76話「血統断絶」
「ゆ・う・しゃ・く~ん、ちょっとお話しよっか?」
「あ…… いや…… その……」
インターバル。
選手関係者控室へ来ると、勇者が膝か変えて座ってた。
おう、体育座りとはイイ身分じゃねーか? 違うだろ? お前がすべき座り方は?
「取り合えず正座しろやコラ!」
「あ、はい、すんません……」
「それで? この落とし前どうつけるつもりだ? お前が言い出したコトだろ? なのに俺と当たる前に敗退してどーするんだよ?」
「あ、はい…… ホント駄目でゴメンナサイ」
あらら、ずいぶん打ちひしがれてるな、こう素直に謝られるとチクチク嫌味を言うのも可哀そうになる。
多分勇者はこの後、聖皇教会の関係者にめっちゃ怒られるだろう、よりによって不倶戴天の宿敵、英雄候補に惨敗したんだからな。
下手したら勇者の称号剥奪されるんじゃね?
まぁ俺には関係ない話だがな。
「全く役に立たねーなぁ」
「うぅ……」
「まぁこうなってしまったコトは仕方ない、だったらせめて情報で役に立ってくれ」
「情報?」
ホントは鬱になるくらい叩きまくろうかと思ってたが、そんなコトしても何の得にもならないのでやめた。
「あぁ、俺の対戦相手の…… え~っと……」
「マイク・ディオン」
ベルリネッタさんナイスサポート♪
「そうそれ、マイク・ディオンと英雄候補・小泉哲司の知り得る限りの情報を寄こせ」
「そ、それならヴェラが……」
結局尻拭いをヴェラ嬢に押し付けるのか、お前なんにもしてねーじゃねーか。
「おい、勝手に正座止めるなよ」
「あ、はい、スンマセンした」
勇者に正座を続行させ、監視しながら情報収集を行う。
「それじゃまずはエルエネミス流剣術師範代、マイク・ディオンについてね」
「いや、ちょっと待って」
「なに?」
「エルエネミス流剣術ってコトは勇者もそこで学んだハズだよな? なんでヴェラの方が詳しいんだ?」
「俺は勇者だからな、特別にシエル先生に直で指導して頂いたんだ」
特別指導…… にも拘らずこのていたらく、税金……いや、寄付金の無駄遣いだな。
「コホン、それではマイク・ディオンについて…… 彼はエルエネミス流では非常に珍しい突き技の達人として有名よ」
「突き技……」
「硬い装甲で守られた弱点でも問答無用で一点突破する戦い方を得意としている、その為非常に速さに優れた剣士ね」
「それってつまり……」
「魔物討伐の時間を競う勝負では…… イヅナは圧倒的に不利でしょうね」
やっぱりか、物凄い忖度してやがる。
ってコトは出てくる魔物も弱点を突けば一発で終わるヤツだろう。
だが逆に考えれば…… 俺も一発で終わらせることが可能ってコトだ。
「マイク・ディオンの戦い方には隙が無いし有効な対策は無いわ、そもそも直接対決するワケじゃないし……」
ごもっとも。
まぁ元々マイク・ディオンの情報はオマケだ、俺が本当に知っておきたいのは……
「それじゃ英雄候補・小泉哲司について教えてくれ」
「英雄候補コイズミ・テツジ…… 正直あんまり詳しいワケじゃ無いんだけど……」
「え? そうなの? 勇者と英雄候補はライバル関係だから、てっきりケツ毛の本数まで熟知してるのかと思ってた」
「聖皇教会なら把握しているかもね」
げ、マジか? 冗談のつもりだったのに、プライバシーとか全く無いな。
改めて英雄候補にならなくてよかった、負け惜しみとかじゃなくガチで。
「英雄候補『参拾魔導』コイズミ・テツジ……
悔しいけど彼はこの世界で最高位の魔法使いよ」
あぁそうだろう…… なにせこっちに来る前から魔法使いだったワケだし。
「彼の使う魔法は完全に系統外、私たちが使う属性魔法とは根本的に別モノよ、さっきの試合で見せた対象を即死させる魔法なんてこの世のどこにも存在してないわ」
「系統外…… つまり何でもアリってコトか」
「そう、もしかしたらだけど不可能を可能にする魔法とか使えるかも知れないわね」
それはさすがにない、不可能を可能にできるなら彼女が欲しいなんて呪文詠唱するハズない。
そんな魔法が使えたなら今頃どっかの田舎で複数人の嫁を娶ってハーレムスローライフでも送ってるさ。
「その常軌を逸した異能魔法はどんな状況でも応用が利く、唯一弱点があるとすれば…… 長い詠唱を必要とする……くらいかしら?」
「あのノム〇ッシュ詠唱か……」
確かにコンパクトに纏められる言葉も意味不明なワードを織り交ぜて無駄に長くなるのがアノ翻訳の特徴でもある。
準決勝の対戦形式がどうなるかは不明だが、とにかく速攻あるのみ!ってコトだ。
「なるほど…… 参考になった、この際だからついでに聞いておきたいコトがあるんだが……」
「なに?」
ガチャ
「反魔力同盟代表選手の方、試合準備が整いました、闘技場へお願いします」
チッ! もうダンスパフォーマンス終わっちまったのか、観客席にいると長いのに待合室にいると短く感じるなぁ……
ついでに英雄候補・近衛白馬についても聞きたかったんだが……
「仕方ない、行ってくるか…… おっと」
ガン!
躓いて勇者の膝を蹴ってしまった。
「うぎゃあああぁぁぁーーーッ!?!?」
たかが10分そこそこの正座で大袈裟なヤツだな。
―――
『一回戦最後の試合! エルエネミス流剣術師範代マイク・ディオン 対 反魔力同盟カグラバシ・イヅナの対決だぁー!!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
『そして最終戦の討伐対象は…… 自律鎧・アルファスだぁぁぁ!!』
自律鎧? あぁ、彷徨う鎧か。
『先攻はマイク・ディオンだぁ!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
『それでは第四試合前半戦…… スターーートゥッ!!!!』
ガシャン!!
檻が開かれると自律鎧が動き出すより前にマイク・ディオンが飛び出した。
「エルエネミス流剣術・啄木鳥」
ギギギギギギギギン!!
目にも留まらぬ突きの連打、しかし兜ばかり狙っているのは何でだろう?
「はあああぁぁぁあ!!」
ガキーン!!
最後に放った突きが自律鎧の兜を貫通した。
中身が入って無い魔物だろ? 顔面ぶち抜くより足を切り離した方が有効だと思うんだが?
ガシャーン!
ん? 動きが止まった?
『終ーーー了ーーー!! 試合時間は驚愕の9秒!! 何という幸運! 運よく一撃で核を刺し貫いたぁぁぁ!!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
はぁあ~? なぁにが幸運だよ、何の迷いもなく一直線に弱点に向かって行ったじゃないか、アレは確実に核の位置を知っていた動きだ。
つまりこれは八百長だ。
そして自律鎧の残骸が掃けていく、てか一歩も動いて無いからそのまま檻が閉められただけだ。
それにしても9秒って…… 大人げないにも程があるだろ?
「ハァ…… んじゃ行ってくる」
「ご主人様ファイト!」
「おにぃちゃん頑張ってぇ~♪」
「あの…… 頑張ってください……」
…………
いいな…… 女の子に送り出されるのって……
今の俺は無敵だ! もう何も怖くない!
『さあいよいよ一回戦最後の試合だ! 類稀な強運で激戦ブロックを勝ち抜いた反魔力同盟カグラバシ・イヅナ!』
なんか俺の時だけ余計な情報喋ってないかアイツ?
まぁ確かに運だよ、ベルリネッタに出会わなければ今ごろゴブリンの巣穴で苗床になってたトコロだ…… 男が苗床になれるかどうかは不明だが。
ΩΩΩ
第一試合の時から思ってたけど、なんかちょいちょい変な歓声が混じるな? これだから異世界人は……
おっと、それよりも……
「ベルリネッタ、自律鎧の核の位置をスキャンしてくれ」
『イエスマスター…… スキャン完了、核の位置…… 股間』
「は?」
『股間』
うん…… まぁ…… 急所って言えばソコだよね?
あの自律鎧はきっと♂だ、だってリビングビキニアーマーじゃないから。
『それでは第四試合後半戦…… スターーートゥッ!!!!』
ガシャン!!
檻が開かれるより早く剣を抜き振りかぶる、如何せん猶予は9秒しかない、外した時のことを考えると1秒たりとも無駄にできない。
「超奥義!! 血統断絶! 男殺し!!!!」
ブン! ズガァン!!
開幕全力投球、俺の放った刀は見事に自律鎧の股間に突き刺さった。
なぜか普通にブッ刺すより痛そうに感じる。
『……? は? え?』
ストラーイクッ! 色んな意味でバッターアウトッ!!
なんという無残な姿、恐ろしい殺し方をしてしまった…… これがもし人間の男だったなら……
おぉう! 思わず縮み上がる!
シ~~~ン
観客席は静まり返っている…… そうだろう、こんな惨劇見せられたら言葉を失うのも判る。
たぶん観客の半分は縮み上がってる。
『しょ……少々お待ちください。只今確認いたします……』
微妙に内股になってる進行役が確認作業を行う…… 確認必要か? アンタも男なら判るだろ? 自律鎧はすでに召されている……と。
『し……死んでるッ!! しゅ……終了……終了です! 試合時間は普通じゃあり得ない1秒…… 何なのこの子?』
おい、いつもみたいに褒め称えろよ、素がでてんぞ?
ΩΩΩ
ΩΩΩ
空っぽの鎧を串刺しにしただけなのになぁ…… ウサちゃんを真っ二つにするよりマシだと思うんだけど?




