第75話「全員ドン引きしてる」
『さぁーーーッ! やってまいりました! 剣聖祭決勝トーナメント第一試合ッ!! 今年は一体どんな伝説が生まれるのかッ!! 私は楽しみ過ぎて1年前からずっと眠れぬ夜を過ごしてきましたッ!!』
司会進行のテンションが無駄に高い……
あぁいうのを見てると逆に冷めていく自分がいる…… 異世界主人公って属性的には陰寄りなんだよな。
俺は自分を中道辺りだと思っているけど、あのノリはとても真似できそうにない。
『第一試合は昨年の覇者! エドワード・ノーリスと、世界最強候補の一角! “騎士王”ベン・ドラグーンの対決だぁーッ!!
まるで決勝戦のようなカードを第一試合に持ってきて大丈夫なのか!?』
あ~あ、持ってきてとか言っちゃってるよ、一応抽選ってコトになってんだからさ……
『そして注目の討伐対象は…… 魔獣熊・グリスドベンドだぁぁぁ!!』
さっきから通路の鉄格子に体当たりしている巨大生物…… あれが魔獣熊か。
決勝トーナメントはやたらとエンタメ性が高い、観客を飽きさせないためにたぶん第二、第三、第四試合では別の魔物が用意されてるのだろう。
…………
と、いうのは建前で、あくまで身内が倒しやすく、外部参加者が不利になる魔物が用意されてるんだ。
俺の相手は一体なにになるコトやら……
淫魔とか出されたらヤバイな、試合時間を深夜にしなきゃ。
『先攻はエドワード・ノーリスだぁ!』
エドワード・ノーリスは二刀流の剣士、赤と青の二種類の剣を構えている。
たぶん炎属性と氷属性だな。
『それでは第一試合前半戦…… スターーートゥッ!!!!』
ガシャン!!
「グルゥアアアアアア!!」
勢いよく鉄格子が下がり、巨大なクマがエドワード・ノーリス目掛けて飛び出してきた。
うげ、身の丈4mくらいあるぞ?
「おおおぉぉぉお!!」
エドワードは迫りくる巨大な爪を躱すと、すれ違いざまにクマを斬りつけた。
ボウッ!!
その傷が燃え上がった。
「グォォオォォ!?」
「ふっ!!」
突如自分の身体が燃え上がり、獲物どころではなくなったクマにエドワードは間髪入れずに切り傷をつけていく。
ボッ! ボッ! ボッ!
「グギャアアアアアアア!!!!」
身体の至るところが燃え上がり、その炎はクマを包み込んだ。
ズズゥーン!!
そしてクマは動かなくなり炎の中で息絶えた……
…………
なかなかの残虐ファイト、冒険者としては最悪の倒し方だな、素材が残らない……
まぁウチのベルリネッタも素材が残らない倒し方って意味じゃ似たようなモノなんだがな。
『しゅ……終ーーー了ーーー!! 試合時間はなんと51秒!! コレは恐るべきタイムが出たぁー!!』
ΩΩΩ
―――
消火作業、クマの丸焼きの排出作業、清掃作業……
試合時間の何十倍も掛かる、スポーツ中継ってこれが嫌なんだよな、野球だってもっとキリキリ投げれば試合時間半分くらいで済むんじゃないの?
第一試合その二が開始されるまで、タップリ30分も掛かった。
やっぱり一度帰るべきだったな。
―――
『お待たせしました! 第一試合後半戦! いよいよ満を持しての登場! “騎士王”ベン・ドラグーンの登場だぁーーー!!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
アレが“騎士王”ベン・ドラグーン…… なんか顔の上半分を覆う仮面被ってて素顔が見えない。
『世界最強候補の一角は果たしてどんな戦いを見せてくれるのか!? わたくし興奮で血液が変なところに集中しております! それでは~…… 第一試合後半戦! スターーートゥッ!!!!』
ガシャン!!
「グルゥアアアアアア!!」
先程と同サイズのクマが解き放たれる、なるべく個体差の無い同種の魔物を用意しているのだろうが…… よくみるとコイツの方が僅かに大きいし勢いも強い。
故意か偶然か…… 恐らく故意だ。
対するベン・ドラグーンは……
「…………」
剣を鞘に納めたまま抜刀術の構え……
抜刀術ってのは反りのある刀でやるから意味があるのではないだろうか? ま、詳しくは知らないけど。
「エルエネミス流剣術・天燕」
ピキィィィーーーン
張り詰めた空気が破れ、一瞬すべてのモノが静止した。
さっきまで猛ダッシュしていたクマもまるで彫像のように固まっている…… 運動エネルギーどこ行った?
ズル…… ドスーン!!
ベン・ドラグーンが剣を鞘に戻すとクマの首が落ちた……
凄まじく速い一撃…… 気付いた時には剣は抜き放たれた後だった。たぶんサポートを受けられない普通の人間には何も見えなかっただろう。
勇者のアホウドリとは練度が違う、さすが最上位の極限級冒険者。
つーか、アイツもエルエネミス流を使うのか、勇者の兄弟子かな?
『しゅ……終了…… 試合時間……5秒…… わ……我々はいま伝説を目撃しましたぁー!!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
―――
今回のインターバルは10分程で終わった。
クマが燃えてなかった分だけ搬出作業がスムーズに行われたのが要因だ。
……にもかかわらず、なんかアイドルっぽい娘たちのダンスショーが始まった。
観客を飽きさせない為なんだろうけど、正直興味なし。
だから俺は……
「? おにぃちゃんドコ行くの?」
「ちょっとトイレ」
「あ、シャロもいくー♪」
普通なら幼女と連れションなんかしない、だがシャロは介助が必要だからな。
うん、決してヤマシイ気持ちなど無い、うん。
―――
――
―
「もー! 信じられない! ご主人様ドコ行ってたの!?」
オレたちが戻ったのは約1時間後、お花摘みにしちゃ確かに長いな。
「ん? クンクン、もしかして…… お風呂入った?」
さすが犬系獣人、匂いに敏感だ。
「実はトイレを探して彷徨ってたら地下に大浴場を発見してな、しかも客は誰もいない完全貸し切り状態! いい機会なので久しぶりに英気を養わせてもらった」
アレは『剣聖の英雄・小鳥遊鶫』が作らせたものだろう、さすがどこの世界に言っても風呂を欲しがる日本人、風呂にかける情熱がスゴイ。
壁に富士山の絵が描かれてたから間違いない。
「もしかして…… シャロちゃんと一緒に入ったの?」
「まぁな、さすがに早太郎を浴室に入れるワケにはいかないから」
シャロも久しぶりに思いっ切り泳げて気持ちよさそうだった、風呂なら溺れる心配もない。
あぁ、もちろん不純な気持ちなど一切無かったからな? だからロリコンを見る目は止めろ。
「悪かったよ、次に風呂に行くときは一緒に入ろうな? なんだったら今からもう一度入りに行くか? たぶん今の内に入っておいた方がイイ気がする」
「それは魅力的な提案だけど…… なんで混浴が前提なの?」
「だって浴室一つしかなかったし……」
きっとこの世界では混浴がデフォルトなんだ。
「あの、大浴場って基本的に時間で男女の入浴を分けてるらしいですよ」
ユリアからのありがたいご指摘…… 聞かなかったコトにしよう。
「それで? アイドルショーは終わった?」
「終わったわよ…… ついでに第二試合も……」
「へ~」
「へ~……って、気にならないの?」
「うん…… まぁ……」
そもそも準決勝も決勝も対戦方式が変わるんだ、見たって何の参考にもならん。
「確か第二試合は……」
「第一軍将軍のケビン・グラッドストーンと、冒険者パーティー・裏反逆のアーチボルド・レインよ」
そうそう、王国の考える優勝候補筆頭と、中二病全開の冒険者だ。
「で? 結果は?」
「グラッドストーン将軍よ」
なんだ、番狂わせは無しか。
てっきり「無名冒険者の正体は魔王軍幹部《六魔卿》の一人!」とかだと思ってたのに、残念。
「それじゃ次の対戦は……」
「“勇者”ルーファス・ヴァレンティアvs英雄候補・小泉哲司よ」
バカ勇者vs天然魔法使いの対決か…… この試合くらいはちゃんと見ておくか、勝者とは準決勝で戦わなきゃいけないし……
でも勇者が勝てば準決勝は勝ちを譲ってもらえて決勝進出が確定する。
応援してやるか、俺自身のために。
―――
『さーやってまいりました! 今大会でも屈指の注目カード! 勇者 対 英雄候補の対決だぁー!!』
ΩΩΩ
『そして注目の討伐対象は…… 瞬兎・バルニッシュだぁぁぁ!!』
「ウサギ?」
「あ~、アレかぁ~」
「キララは詳しいのか?」
オオカミに育てられたキララの主食がウサギだった可能性はあるな。
「小さくて速くて、とにかく捕まえにくいの、もも肉とかカッチカチで硬くてあんまり美味しくない。
捕まえる労力に見合わない獲物だった」
「なるほど」
完全に捕食者目線だな。
『先攻は“勇者”ルーファス・ヴァレンティア!!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
『それでは第三試合前半戦…… スターーートゥッ!!!!』
ビシュンッ!!
おぉ、速い。
いま気づいたけど闘技場の周りには結界が張られてたんだな、ウサギはその結界内を縦横無尽に跳ね回ってる。
これは普通の人間には捉えられないぞ。
「うぉぉお!? 何だよこれ!? こんなのアリかよ!?」
勇者はウサギを追いかけてあっちへ行ったりこっちへ行ったり駆け回ってる、ヒトの脚力で追いつけるワケないだろ、実に滑稽だ。
「ルー様! うしろ! あ、いや、上です、あ、正面!」
「ルーファス! 左ッ! あゴメン、私から見て左だ! 違う! そっちは右だ!」
勇者パーティーがウサギの位置を教えてるけど何の役にも立ってない。
常に高速で動き続けてるんだ、今いる位置を伝えても次の瞬間には別の場所にいる、せめて予測位置を指示してやれよ。
「くそっ! こっちか…… あぁあああ! くそっくそっくそっ!!」
…………無様。
「あぁもう! ルーファス足を止めなさい!」
見るに見かねてヴェラ嬢が声を上げる、てか怒鳴ってる。
「正面以外は無視しなさい! 追いかけても無駄です!」
「し……しかし……」
「口ごたえ禁止!」
「は…… はい……」
尻に敷かれてるなぁ、こんな大衆の面前で…… 実に無様だ。
「目で追うのも禁止! 魔力感知のみに集中! 今使える最速の剣の構えを」
「りょ……了解」
勇者は目を閉じ、ピクリとも動かなくなった。
ウサギはそんな勇者を嘲笑うかの如く周りをピョンピョン跳ねてる。
ビシュンッ!! ビシュンッ!! ビシュンッ!!
あ、この軌道は……
「今よッ!!」
カッ!!
「エルエネミス流剣術・信天翁!!」
ズバァァァ――― ポト
勇者の一撃は見事ウサギを一刀両断した。
なんだよ、アイツやれば出来るんじゃないか、ただのボケ担当だと思ってたよ。
『決まったーーー!! 試合時間は2分40秒!! 最初こそスピードに翻弄されたが終わってみれば脅威のタイムだぁー!!』
ΩΩΩ
ΩΩΩ
―――
今回のインターバルは3分程、体長20cmにも満たない小さなウサギを片付けるのに時間はかからない。
そしてすぐにあのテンションの高い司会進行役が出てきた。
てっきりダンスパフォーマンスでも始まるのかと思ったけど、どうやら前半戦・後半戦の間には挟まないらしい。
さて、お次はいよいよ英雄候補の登場だ。
『さぁー! 興奮冷めやらぬ内に間髪入れずに後半戦! 歴代英雄候補の中でも最強の魔法使いと名高いこの人物! 『参拾魔導』小泉哲司の登場だぁーーー!!』
歴代最強の魔法使い…… なんでそんな奴を剣聖祭に派遣するんだよ? 剣士を出せ剣士を。
『それでは第三試合後半戦…… スターーートゥッ!!!!』
先程と同じく光速ウサギが放たれる、2分40秒以上は掛かって欲しいところだが、どうなるかな?
「純粋なる獣クェインゾ=ク・ミディウム。
この忌むべき預言書に紡がれしファング、いつか喪失する約束の日を信じ孤独の路を行く。
女至高神ブーニベルゼ、悠久の果てに巡り合わん刻を願い続ける……」
詠唱? どことなくノム〇ッシュ臭がする……
「魔導壱拾参位《死神の嘆き》!」
キィヤァァァーーーァァァ!!!!
うぇ、なんだこの耳障りな音? まるで黒板を爪で引っ掻いたような不快な音だ。
ポト……
え? 元気に跳ね回っていたウサギがポトって落ちた……
まさか今のって…… 即死魔法?
『え? あ、しゅ……終了? 試合時間は……じゅ……15秒…… 小泉哲司、準決勝進出……です』
あ~あ、剣の大会で即死魔法なんか使うなよ、全員ドン引きしてるじゃねーか。
《特別解説》
『ノム〇ッシュ』
普通の文章をFF風味のテイストに変換できる。
《死神の嘆き》の詠唱を普通の言葉に翻訳すると……
→「童貞継続中、この称号を貰ってくれる彼女募集中(※要約)」になる。




