第74話「決勝トーナメント」
「キャーーー! ご主人様ステキーーー!」
「キャーーー! おにーちゃんカッコイイーーー!」
「キャァァァ→(棒) マスター愛してるぅぅぅ→(棒)」
見事決勝トーナメント進出を決めた俺の周りに美しい花が咲く、一か所造花っぽいけど。
うむ、やはり異世界主人公はこうあるべきだ、間違っても砂漠で渇いてションベン飲むかどうかガチで悩むポジションではない!
チラッ
輪に入れないボッチみたいになってるユリアを見る。
「わ、判ってます! うぅ~! えい!」
俺の周りで唯一余っているスペースの背後から柔らか質量体が押し付けられる!
こ……これは…… 良いモノだ……
戦いはこの一戦で終わりではないのだよ。考えても見ろ…… 背中に感じる質量と熱量を…… 俺は、あと10年は戦える!!
「キャーーー! イヅナ様…… は……恥ずかしいですぅーーー!」
う~む「ステキー」「カッコイイー」「愛してるー」ときたら最後は「抱いてー」だと思ってたんだが違ったか、そこだけは残念だった。
まぁユリアが言うワケ無いか。
せめて優勝した暁には「揉んでー」くらい言って欲しいものだ……
…………
まぁユリアが言うワケ無いか。
いつまでもアホなこと考えてないでさっさと帰ろう、明日の決勝トーナメントに備えて英気を養わなければ。
―――
――
―
― 夜 ―
予選終了後・ギルベリル王宮
謁見の間で偉そうにふんぞり返るギルベリル国王の前に、剣聖祭実行委員長が膝をつき、予選結果の報告をおこなっていた。
「陛下、剣聖祭1日目、予選全試合終了いたしました」
「そうか、で? どうであった?」
「概ね予定通りでありましたがいくつか予想外の展開も……」
「ふむ、何事も予定通りとはいかんか…… して? それは致命的なモノか?」
「いえ、むしろ幸運と言えます、第一ブロックで剣王が敗退しました」
「おぉ! ジョシュワがやってくれたか! ミスリル製の剣を与えてやっただけのコトはあるのぅ!」
「いえ、そうではなく…… まったくの無名選手が全勝で決勝トーナメント進出を決めました」
「なに? ジョシュワめ……負けおったのか、だが剣王が敗退したのは朗報だ」
「はい、しかし第六ブロックでも無名選手が勝ち残っています」
「第六と言うと……」
「第二軍将軍デビッド・バゲッドが敗れました」
「そうなると決勝トーナメントの内容も再考しないといけないな……」
「抽選も仕込み直しが必要になるかと……」
「ぐぬぬ……」
こうして国王と実行委員長の睡眠時間は削られていった……
―――
――
―
異世界生活24日目……
今日は炭鉱族娘を保護する日だ、もちろん確定事項だ。
今朝はわざわざ宿まで馬車が迎えに来ていた、VIP待遇だ。
ただ他の決勝トーナメント進出者の馬車と比べるとずいぶん簡素な造りの馬車だったなぁ…… その見た目はハッキリ言って荷馬車、気分はドナドナ、売られて行く子牛みたいだった。
会場に着くとそのまま闘技場へ通された、客席は超満員、進出者も全員揃ってるかな? そういえば英雄候補はドコだ? まさか予選敗退してすでに帰ったってコトは無いだろうな?
「おはよう」
話し掛けてきたのはヴェラ嬢だ。
「あぁ、おはよう、ヴェラがここにいるってコトは勇者の魂も予選突破したのか」
「なんで今知ったのよ? 昨日の日暮れ頃には予選も終わって結果が発表されてたでしょ? 普通気にならない?」
気にしたトコロで何が変わるってものでもないしな。
「どうせ残ってるのは優勝候補たちなんだろ?」
「はぁ…… その優勝候補を3人も敗退させた人が言うセリフかしら?」
「おう、全員吐かせてきたぜ、勇者も吐かせるから飯は抜いといたほうがいいぜ」
すでに朝飯食ってたら手遅れだが。
「残念だけど決勝トーナメントの試合は直接対決とは限らないわ」
あ、そういえばそんなコト言ってたな。
この超満員の観客の目の前で勇者をゲロらせたかったのに。
「それじゃトーナメントの組み合わせは?」
「それもこれから発表……」
『よくぞ厳しい戦いを勝ち抜いた! 戦士たちよ!』
あ、校長……じゃなくて国王の長い話が始まった。
長いので要約すると……
王国所属の者はガンバレ。
優勝した者には賞金と爵位をやる、だから死ぬ気でガンバレ。
外部の者は空気読んでくださいお願いします。
……ってコトをそれをもう遠回しに言ってる、必死感が滲み出てる。
『そしてこれが厳正なる抽選の結果! 本戦トーナメント表である!』
バサッ!
トーナメント表オープン。
え~とどれどれ?
第一試合
エドワード・ノーリス(前回優勝者)
“騎士王”ベン・ドラグーン(極級冒険者《仮面騎士団》)
第二試合
ケビン・グラッドストーン(第一軍将軍)
アーチボルド・レイン(裏反逆)
第三試合
“勇者”ルーファス・ヴァレンティア(勇者の魂)
小泉哲司(英雄候補)
第四試合
マイク・ディオン(エルエネミス流師範代)
神楽橋飯綱(反魔力同盟)
なにが厳正だよ、小細工の跡がくっきり見えるじゃねーか。
まず外部優勝候補同士をぶつけて、身内を楽そうなところに置いてる。
片方のブロックに厄介なのをまとめなかったのは盤面議会や聖皇教会に配慮した結果だろう。
…………
つーか英雄候補・小泉哲司ってダレ? 生徒会長の名前は……違った気がする。
翔馬でもなければ白馬でもない、当然綾野センセーでもない……
あ、バスの運ちゃんか、そういえばそんな感じの天然魔法使いがいたっけ。
だが顔が思い出せない…… どんな人だったっけ?
キョロキョロ
辺りを窺ってみる、見れば思い出すハズ…… だがあの部屋薄暗かったしなぁ、俺の脳裏に浮かぶ小泉哲司の顔は完全にへのへのもへじだ。
該当者ナシ。
確か\(の_の)/こんな感じだったと思うんだが……
んん? 黒髪のロン毛発見、もしかしてアレか?
黒縁眼鏡に黒のローブ、黒い魔導書みたいなのを片手に持って冷めた目で周囲を見下している…… 完全に拗らせてる。
眼鏡を外して…… 髪の毛剃って…… 黒目を左へ……
\(の_の)/…… うん似てる、俺の記憶の中の小泉哲司に瓜二つだ(失礼)、多分アレだな。
つーか何だそのロン毛は? わずか3週間でそんなに伸びたの?
スーパーペガサス先輩もそうだったが、英雄候補はロン毛にしなきゃいけない決まりでもあるのか? だとしたら白馬との再会がますます楽しみになった。
たぶん髪を伸ばす魔法か薬があるんだろうな、30代…… キてる人はキてるからな。
それにしても神楽橋飯綱の名前を見て何か思うところは無いのだろうか?
そりゃ路線バスの運転手が俺の顔や名前を覚えてはいないだろうけど……
ちなみにこの世界、少数だが日本人の名前を持つ者がいるらしい。
もちろんかつての英雄候補や迷い人の子孫だ、そのせいで気にならないのかもしれないな。
「ご主人様、私のスマホにも翻訳データ送って」
「ん?」
そういえばキララもこの世界の文字は読めないんだったな。
「ご主人様の試合は…… 第4試合?」
「あぁ最後だ、だから一回帰ろうか」
「わふっ!? なんで!? 試合見ないの!?」
「あ~…… 俺スポーツって興味ないんだ、結果だけ判れば十分」
スポーツ中継とか見る意味が判らん、特にマラソンとか駅伝。
特別応援している選手でもいるか、あるいは沿道で応援でもするならともかく延々と先頭集団だけを何時間も映し続けるテレビとか見ててもしょうがない。
スポーツ番組のダイジェストで十分です。
「でも…… ご主人様この後自分が参加するんだよ? 普通見るでしょ?」
「10秒でケリがつく競技しか見る気がしない」
「そんなの…… 短距離走くらいしか該当しないじゃん」
そんなことは無い…… たとえばほら…… 相撲とか。
「残念だけどそんなに時間は掛からないと思うわよ」
ヴェラ嬢から忠告を受けた、まさかよそのパーティーからツッコミが入るとは思わなかった。
「なんで?」
「最初の試合は魔物の討伐タイムを競う試合だからよ」
あ、ホントだ、書いてあった。
「しかし何でそれで時間が掛からないと思うんだ?」
「決勝トーナメントに進出するようなメンツよ? 場合によっては10秒で終わるコトだってあるわよ」
なるほど、もっともな意見だ。
10秒で終わるなら待ってるか…… 試合開始時に居なくて不戦敗とか困るからな。
「ちなみに一つ質問なんだけど……」
「なに?」
「この決勝トーナメント進出者の中で一番強いのって誰なんだ?」
「“勇者”ルーファス・ヴァレンティア……」
「いや、そういうのいいから、真面目に」
「何だとッ!! テメーどういう意味だッ!!」
何だ勇者、聞き耳立ててたのかよ、急に入ってくるな。
「ハァ…… 立場上、勇者様……って言いたいトコロなんだけど、最強は断トツで“騎士王”ベン・ドラグーンね」
「ぅぐっ! ちょ…… ヴェラ……さん?」
勇者、パーティーメンバーに裏切られる……の巻き。
「断トツ?」
「断トツよ、進出者で唯一の《極限級》だからね」
極限級……か。
大丈夫かな? 試合中に経験値が溜まって竜人にレベルアップしたりしないだろうな?
「しかし圧倒的に強いなら、もう優勝は決まりなんじゃないか?」
「その為のランダム試合方式なのよ、剣を使わせたら“騎士王”ベン・ドラグーンが一番に決まってるけど、魔法は得意じゃないって聞くから」
なるほど、例えばボクシングのヘビー級チャンピオンと戦えって言われても、対戦方法がeスポーツなら中学生でも勝ち目があるからな。
そして主催者である王国はランダムと言いながら身内に有利なお題を出すってワケだ。
う~む…… この分だと反魔力同盟が勝ち進んでも全力で妨害してきそうだな。
剣と魔法の世界の王族って半数以上が無能か屑だからな。
《特別解説》
『\(の_の)/』
英雄候補・小泉哲司の顔文字、実際は全然似てない。




