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非魔法使いによる反則的異世界攻略  作者: 群青
―― 炭鉱族/ドワーフ編 ――
73/175

第73話「ソードマスター」


 昼休憩。


 休憩場所は各ブロックごとに分かれているため、周囲にいる奴らは全員ライバルになる。

 やはり聞こえてくるのは“剣王”や“魔将”、それに“親衛隊長”なんてワードだ、まぁ優勝候補に挙げられる様な奴らだ噂されるのも当然だ。

 ただそんなワードの中に一つ聞き覚えの無いものが混じっていた。


 異名“内臓殺し”……


 そんな恐ろしい異名を持つ危険人物が同じブロックにいるのかよ?

 気付かない内に終わってたってことは無いよな? これから対戦する相手の中にいるなら気を付けないといけないな。

 こういう大会で最も気を付けなきゃいけないのは、そういう無名選手だったりするんだよ。

 まったく警戒されてない無名が決勝トーナメントに出てきて優勝候補をあっさり倒して初めて注目される……


 よくあるパターンさ…… 主に漫画では。


 しかし参ったな…… “内臓殺し”の名前も容姿も分からないんじゃ、これからの対戦相手全てを警戒しなきゃいけなくなる。

 もちろん警戒は重要だ、しかし箸にも棒にも掛からぬ程度の相手を警戒しすぎるのは無駄以外のナニモノでもない。


 ここはひとつ“内臓殺し”についてプロファイリングをしてみよう。

 まず“内臓殺し”なんて異名を付けられるくらいだから内臓に深い恨みがあるとみて間違いない。


 …………


 自分で言っといてなんだけど、内臓に恨みってなんだよ? ホルモン喰って腹でも下したのか? 八つ当たりにも程がある。

 あと考えられるのは…… どんなにダイエットしても内臓脂肪が減らなくて、いつしか内臓自体を恨むようになった……とか。

 この推理からすると犯人は少なくとも30代以降、脂ののった中年って見た目だろう。


 また執拗に内蔵ばかり狙うところを見ると性格に難アリって感じか。

 恐らく苦しみのた打ち回る姿を見て悦ぶタイプ、普通に危険人物だ、精神科医に掛かるコトをおススメする。


 ついでにたった数試合で“内臓殺し”なんて異名を付けられるってコトはきっとソロの参加者だ、そしてギルベリル王国の息の掛かった選手じゃない。


 以上の推理から導き出された“内臓殺し”のプロファイリング結果は……


 年齢40歳前後の男性冒険者、下っ腹が出ているがまだ機敏に動ける程度の体型、性格の悪さが滲み出たような醜い顔をしていて、たぶん不衛生な感じ。


 ふぅ…… 完璧だな、後はこの条件に合致する対戦相手に注意を払うだけでイイ。


 …………


 アレ? それって第一試合で戦った不衛生な冒険者のこと?

 いや、アイツはソロじゃなくチームで参加してたハズ、そもそも第一試合でリタイア済みだ。

 あんな感じの奴が他にもいるってコトだろうか?


 まぁ、あんな感じの冒険者はどこの異世界にも居て、冒険者ギルドで酒飲んで日本人or元日本人に絡んでくるからな。


「ねぇねぇご主人様」

「ん? どうしたキララ」

「ご主人様も妙な称号手に入れちゃったね?」

「は? 称号?」


 この世界の「ステータスオープン」には二つ名はあっても称号欄は無かったと思ったんだが?


「うん、だって周りからチラチラ見られてヒソヒソされてるじゃん、“内臓殺し”って」

「…………」


 あ、“内臓殺し”って俺のコトか。

 俺のプロファイリング、クソの役にも立ってねーな。

 診断結果が俺の人物像に1mmも掛かってない。


 ちなみに俺は相手が苦しみのた打ち回る姿を見て悦に入ったりしないからな? 相手を殺さずに手加減してたらいつの間にか内臓殺してたってだけで。

 まぁせっかくついた異名だ、せいぜい利用させてもらおう。



―――



 第七試合、相手はフルプレートアーマーを着込んでいた。

 なるほど…… アレじゃ容易に内蔵を殺せない……

 だが、甘い!


「《昼食再注文(リバース・オブ・ランチ)行列無視(ブレイクスルー)》!!」

「ぐわあああぁぁぁあッ!!」


 鎧の上から拳を叩き込む、だが別に衝撃を内部に浸透させたワケじゃない。

 衝撃を一旦ストレージに収納して、鎧の内側に解放しただけだ、こうする事によって如何にも謎武術の達人のように見せることができる。



―――



 第八試合、相手が妙にデブだ。

 たぶん腹の辺りに枕でも仕込んでるんだろう、衝撃吸収による浸透対策だな。

 そんなに内蔵殺されるのが怖いか? まぁ怖いか。

 だが、甘い!


「《昼食再注文(リバース・オブ・ランチ)超デカ盛り(アンリミテッド)》!!」

「ぎゃあああぁぁぁあッ!!」


 問答無用の全力腹パン、相手は死なないが内臓は死ぬ。

 ちょっとくらい衝撃が吸収されてもお構いなしの無慈悲な一撃だ。



―――



 第九試合、相手は魔法使い。

 この大会って剣聖祭って名前だったよね? 魔法使い多くね?

 魔法で胴体部分をガードしている、鎧でも緩衝材でも防げないなら魔法に行きつくのも当然と言える。

 だが、甘い!


「《昼食再注文(リバース・オブ・ランチ)焼き過ぎ(ベリーウェルダン)》!!」

「うぼあああぁぁぁあッ!!」


 ファイヤーウォールで防御魔法を無効化した上での腹パン、魔将戦を見てなかったのだろうか?


 そんなワケで午後も絶好調、今ごろ食堂では胃を強制的に空にさせられた敗北者たちが昼飯を再注文しているコトだろう。

 いや…… しばらく飯は食えないか。



―――



 そしてとうとう予選ブロック最終戦…… あれ? 総当たり戦ならもう少し対戦があると思ってたのに?

 どうやら俺以外にも相手をリタイアに追い込んだ奴がいたらしい。


 対戦相手は予想通り“剣王”アッシュ・ザ・ソードマスター!

 名前の方まで予想通りだった。


「予選第1グループ最終戦! 両者見合って…… 始め(ファイッ)!!」



 カーン!



反魔力同盟(アンチマギア)のカグラバシ・イヅナ…… 正直完全にノーマークだったよ」


 お? またトークからか。


「だが俺は他の奴らと違って油断はしない」


 油断…… まぁ確かに優勝候補に挙げられてた奴らは油断してたと思う、なにせ相手は魔無(マナレス)だ、普通は何もできないって思うだろう。


「お前との対戦が最終戦でよかった、お前の戦い方をじっくり観察できたからな」

「へぇ? それで攻略法は見つかったのか?」

「簡単な話だ、接近戦をさせなければいい」


 それは魔法使いの発想だろ? 剣士が接近戦を拒否してどうする?


「剣王流奥義……」


 剣王はゆっくりとした動作で剣を上段に構え……


「裂断ッ!!」


 その剣を高速で振り下ろした! すると……



 バキバキバキッ!!



「!?」


 地面を裂きながら何かが高速で迫ってくる!


「うおっ!?」


 ヤバ気なので回避、直前まで俺が立っていた場所は地面がガッツリえぐれていた。

 これは…… 斬撃飛ばし!? 漫画でよく見るアレだ!


「ほう? よく躱せたな?」


 そりゃ構えのモーションがゆっくりだったからな、そもそも躱されることも想定の内だろ?

 しかも斬撃飛ばしは距離が延びるのに反比例して速度が落ちている、避けること自体は容易だ。


「この距離で戦えばお前は何もできまい?」

「…………」


 そう言うと剣王は再び剣を上段に構えた……

 アイツを倒すには裂断を躱し懐へ飛び込み腹パンをぶち込むしかない。


 ……と、素人なら考えるだろう。


 だがこれは誘いだ、戦闘巧者がいきなり切り札を見せるハズがない。

 あのゆっくりとしたモーションもワザとらしい、多分もっと早く、それも連続して繰り出せるはずだ、だって剣王だもん、それくらいできて当然だ。

 だいたい芝居がヘタクソだ。


 この誘いに乗って懐に飛び込めば連続裂断をお見舞いされるのは間違いない。

 別に喰らっても平気だろうけど、先々のコトを考えると俺の防御力は見せたくない。

 ならば俺がとる戦術は一つだけ……


「どうした? 来ないのか?」

「あ~…… そうだな、あんたが仕掛けてくるのを待つことにする」

「な……なに!?」

「俺はこれまでの試合9戦を全勝してきた、あんたは何勝した?」

「ッ!?」


 そう、俺はこれまでの対戦相手を全員リタイアに追い込んできた、手加減しようとか思ってたんだけど完全に忘れてた、なんか途中から楽しくなっちゃって……

 そのせいで剣王は俺より試合数が少ないはずだ。

 たぶん不戦勝って扱いになるのだろう、つまり俺と奴の勝ち点は恐らく同率。


 ならばどうやって勝敗を決するのか? きっと得失点差だろう。

 全員もれなく病院送りにしてきた俺の方が得点は上、もしこのままこの試合が引き分けで終わっても得失点差で俺が決勝トーナメント進出になるだろう。


 主催者側も魔無(マナレス)より剣王が予選敗退したほうが嬉しいだろうしね。

 つまり追い詰められてるのは俺ではなくアイツの方ってコト。


 この試合、どうしても俺に勝たなければならないアイツは、例え危険だと判っていても自分から俺の射程範囲に入らなければならない。

 さあ来い! お前も昼食リバースさせてやるぜッ!


「ふ……ふふ…… なるほど、どうやらただのバカじゃないらしいな」


 誰がバカだ失礼な奴め、俺の方がお前より遥かに頭が良いに決まってるだろ?

 おまえ因数分解できんのか?


「こうなったら仕方ない、無理やりにでもお前を俺の舞台に上げてやる!」


 つまりバカだから簡単に手玉に取れると思われてたのか……

 てめぇコノヤロー! 三平方の定理わかんのか?


「予選ごときで見せたくなかったが…… 奥義を出す!」

「裂断も奥義じゃなかったっけ?」

「はぁぁぁーーー……」


 無視された……


「剣王流奥義! 裂断・六連!!」



 ズババババババッ!!!!



 結局、裂断じゃねーか。

 しかも剣王は裂断・六連を放つと同時に突っ込んできた、これは……

 左右に3発ずつ…… 逃げ道を塞ぐ用だ。


 そして剣王は唯一開いた道から裂断から一拍置いたタイミングで突っ込んでくる。

 つまり正面からの真っ向勝負ってワケだ…… なるほど、無理やり自分の土俵に上げる戦術か。


 いいね、そういうの嫌いじゃないぜ?

 何故ならシンプルな脳筋ほど罠にハメやすいからな!



 ダッ!!



 こちらも真正面から突っ込む、逃げ道がないならここに活路を見出すべし!


「そうだ! ここしか道は無い! だが剣での接近戦で剣王に勝てると思うなッ!!

 剣王流奥義! 剣王乱舞・六連!!」


 タイムラグほぼ成しの6方向からの斬撃! これは……避けられない!



 ズドドドドドッ!!



「!? 手応えが……ない!?」

「残像だ」


 人生で一度は言ってみたいベスト100のどっかに入っていたセリフを剣王の背後で言ってみた。


「バカなッ!!」


 剣王は振り向きざまに斬撃を放ってきた。



 スカッ!



 しかしそれすらも残像だ……

 より正確に言うと立体映像と言うべきかな?


 ストレージで俺に反射した光を収納、射程範囲ギリギリの5m先に投射したモノだ。

 あ、声…… 空気の振動も立体映像の位置に移動させてある。

 今の俺は姿も見えず声も聞こえない、完全に透明人間状態だ、魔力も無いから魔力感知にも引っかからない…… きっと温泉とかで凄まじい効果を発揮してくれるだろう、機会があったら試してみよう♪


 剣王は幻影を相手にしている気分だろう。

 そして…… フハハハハハッ! みぞおちががら空きだぜ!


「《昼食再注文(リバース・オブ・ランチ)》!!」



 ズドオォーーーン!!



「ぐ…ぉ… げぼぉぉぉッ!!」


 フハハハハハッ! 内臓殺しが完璧に決まったぜ!


「しゅ……終了ーーー! 勝者、反魔力同盟(アンチマギア)カグラバシ・イヅナ! け……決勝トーナメント進出!!」


 あ、剣聖祭なのに剣使うの忘れてた……






《特別解説》

『因数分解』

 中学生が習う数学。社会に出るとほぼ使わない。

 つーか忘れた。


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