第72話「スペルマスター」
「しゅ……終了! 勝者、反魔力同盟カグラバシ・イヅナ!」
おおぉぉーー
観客席から歓声とどよめきが起こる、きっとダークホースが現れたとか思ってるんだろう。
そんな微妙な空気の中、武闘台を降りると……
「キャーーー! ご主人様ステキーーー!」
キララが尻尾を振りながら抱き付いてきた、まるでワンコみたいで実にカワイイ。
「む~~~、キララちゃん、シャロもぉ~」
「あ、そうだったね、ちょっと待って…… はい、どうぞ」
キララがシャロを抱っこして俺のそばまで連れてくる…… そして……
「キャーーー! おにーちゃんカッコイイーーー!」
改めてシャロが抱き付いてくる、まるで赤ちゃんイルカみたいで実にカワイイ。
「…………」
「あ……え……と……」
そんな俺たちを見ているベルリネッタとユリア。
きっと恥ずかしがってるんだろう…… だから俺は言ってやるのさ……
「二人も遠慮せず来ていいんだぜ?」
……と。
「そう…… じゃ…… お言葉に甘えて……」
え? 意外! まさかベルリネッタが乗るとは……
もちろん拒むつもりは一切ない、どんとこい!
「キャァァァ→(棒) マスター愛してるぅぅぅ→(棒)」
ベルリネッタが若干棒読みっぽかったが抱き付いてきた、まるでAIBOのようで……うん、カワイイ。
…………
チラ
ビクッ!
残すはユリアただ一人、さあ遠慮せず俺の胸に飛び込んで来い。
「あのですね…… まだ第一試合終えただけなんです、ちょっとぉ……大袈裟じゃないでしょうか? せめて予選突破くらいしてからじゃないと…… 公衆の面前では……///」
初心だなぁ…… だがそれもいい。
「じゃあ予選突破したらハグで」
「えぇっ!? 確定!?///」
ユリアのハグか…… ふふ…… 楽しみだ。
「ちょっとご主人様ぁ、それじゃ私たちの抱擁が物足りないみたいじゃない」
「そんなことは無い、今の俺は十分満ち足りている、幸せだ、だがここまで来たら四人全員コンプリートしたくなるのがコレクターってもんだろ?」
「まぁ…… 言いたいコトは判る、課金してでも手に入れたくなるその気持ちは……」
いや、俺は無課金主義者だから……
でも金払えばユリアのたわわを我が手にできるのか? だったら払っちゃうかもしれないなぁ。
データじゃなく本物が手に入るのならな!
―――
第二・第三試合は特筆すべき点が無かったため割愛。
第四試合でとうとうネームドと相対するコトになった。
対戦相手は親衛隊長のジョシュワ・ターナー。
そして今更だが気付いたコトがある、総当たり戦の時って対戦相手をリタイアに追い込まない方がイイじゃん……ってコトに。
リタイアさせたってポイントが増えるワケじゃないし、そもそも一回しか戦わない相手だ、リタイアさせたら他の奴の試合数が減って相手に有利になるだけだ。
そもそもこの試合の得点計算方式が判らない。
つまり今オレに求められているのは「相手をリタイアさせずに試合に勝つ手加減」だ。
まぁ、相手が親衛隊長なら少しくらいやり過ぎてもきっと大丈夫だろう、不衛生な冒険者よりも強いだろうからな。
「次、ジョシュワ・ターナー 対 反魔力同盟カグラバシ・イヅナ、前へ!」
ジョシュワ・ターナーはフードを目深に被り顔を隠している、こういう場合、実は女? ってパターンがよくあるんだが、ジョシュワはガタイがかなりいい、ありゃ男だろ。
「両者見合って…… 始め!!」
カーン!
ゴングと同時にジョシュワ・ターナーは細剣を抜き一気に距離を詰めてくる。
バババッ
普通なら目にも留まらない多段突き、ちょっと待て!
ならばこちらも速さで応戦、抜刀術で細剣の腹部分を叩いて武器破壊を狙う!
ギィンッ!
「ッ!?」
「あれ?」
的確に脆い部分を叩いたのに破壊できなかった。
『魔法金属…… いわゆるミスリル製の剣…… 普通の金属の剣で破壊するの…… ムズカシイ』
ベルリネッタからの敵武器素材に関する密告。
ファンタジー金属ミスリル! ゲームによっては案外リーズナブルだったりするんだがこの世界では結構な高級品らしい、この分だと他のネームドも良い武器使ってそうだな。
武器が破壊できればこっちの勝ちだと思ったんだが、仕方ない。
「フッ!!」
ジョシュワは再び距離を詰め多段突きを繰り出してくる。
ギギギギギギギン!!
高速突きを刀で防ぐの……キツイ!!
敵の「点」の攻撃を「線」の動きで防ぐ、どう考えてもこっちが不利だ!
サポートが無ければ今ごろ穴だらけになって…… いや、パワードスーツがあるから平気か?
そうだよ、パワードスーツがあるんだから敵の攻撃くらい素手で止められるんじゃね?
アレ……やってみるか? 古の奥義を!
ヒュッ!
いい位置に来た攻撃を見極め、左手を掲げる。
「《蟹爪挟》!」
ビタァッ!!
左手の人差し指と中指で細剣を挟み止めた。
これも床屋さん(マンガ)で見た強インパクトの防御技だ。
乾燥肌の人がやったら間違いなくそのまま滑って串刺しだ、気を付けよう。
最初は手の平で受け止めるつもりだったけどチョット怖かったので二指〇空把に変更した、こっちなら止められなくても何とか避けられるから。
「バッ!!? バカなッ!!?」
だよな? その反応は正しい、だが隙だらけだ!
刀を逆手に持ち直し、柄頭で相手のみぞおちを強烈に撃つ!
「《昼食再注文・指し箸》!!」
ズドォォォンッ!!
「ゲブォッ!?」
あ、今は午前中だから《朝食再注文》か? それとも《朝食再注文》?
…………
どっちでもいいや。
「ゲボッ!! ゴボッ!!」
ビチャビチャッ!
げっ!? 朝食じゃなく血を吐いた!? ヤバイ! やり過ぎたか!?
フラ………… ドサッ!
ジョシュワは自ら吐き出した血だまりに顔面から沈んでいった……
「ヒュー…… ヒュー……」
い……生きてはいる……な。
「しゅ……終了! 勝者、反魔力同盟カグラバシ・イヅナ……」
審判が若干引いてる…… やはりやり過ぎだった、次からは気を付けよう。
―――
第五試合、何故か相手は最初からビビってた。
ありゃきっと学生だな。
他の試合では結構腕が飛んだりしてる、別のブロックではすでに死者が出ているとか何とか……
それらに比べれば俺の対戦相手はみんな(今のところ)五体満足で終わってる、何をそんなにビビる必要があるのだろう?
まぁ委縮して普段通りの力が出せないならむしろ御しやすいというもの。
ノーネームはサクッと終わらせて第六試合だ。
第六試合の相手……
剣と魔法の世界の片翼を象徴するような奴、“魔将”リアン・ザ・スペルマスター。
確実に偽名である…… リアン部分は本名かも知れないな、恐らく“魔将”に就任した時に改名したんだろう。
多分剣王の方はナントカ・ザ・ソードマスターって名前だぜ。
カーン!
「正体不明のオーパーツ使い、カグラバシ・イヅナ…… 噂は聞いている」
「は?」
魔将リアンは開始早々魔法を撃ち込んでくると思ってた、だがまずはトークから始めるらしい。
「魔無でありながら魔無では不可能な功績を上げていることも知っている」
「…………」
「今までの試合を見るにかなり高度な身体強化、さらに知覚強化のオーパーツを使用しているようだな」
おぉ~正解、ま、普通の人間にはできないコトしてるからな、身体強化の方は誰が見たって一目瞭然だ。
知覚強化の方も注意深く見ていれば気付けるだろうけど……
そうかぁ、バレたか。
「オーパーツの中には魔法をはるかに上回る効果を発揮する物もあると言う、お前が使っているモノもそのレベルのモノなのだろう」
まぁね。
「だが魔無である以上、魔法以外では対処できない攻撃には無力だろ?」
そんなことは無い……と思う。
魔法って突き詰めればマナウイルスが引き起こす現象だ、メカニズムさえ分かっていれば対処は可能なハズだ。
「俺はお前みたいな奴が嫌いだ」
ガーン! そんな…… 精神攻撃っすか?
「修行もせずたまたま手に入れた強力なアイテムを駆使し、懸命に努力してきた者を嘲笑うかの如く見下すような奴はな」
う…… 心当たりがあり過ぎる…… それを言われると全く反論できない。
いや! ここは敢えて反論させてもらう!
お前らだって魔力の有る無しで思いっ切り差別するじゃねーか! 魔力の有無は努力と関係ないだろ! にも拘らずだ!
そんな奴にオーパーツを使うコトをとやかく言われる筋合いは一切ない!
「ここで精神崩壊して朽ち果てろ! 闇系統精神干渉魔法《超越級・頭脳破壊》!!」
「ファイヤーウォール」ボソ
パキィィィン!
「なにッ!?」
「…………」
ファイヤーウォールを一瞬だけ展開し魔法を無効化する。
もしタイミングが少しでもズレてたら脳ミソ溶かされてたのかもしれない、問答無用で殺しに来やがったな。
超えちゃいけないラインをアッサリ超えてきた、多分俺が魔無だからだろう。
そっちがその気ならこっちも容赦しない、殺すつもりはないが少々痛い目みてもらおう。
「ちぃ!! 火系統拘束魔法《超越級・溶岩枷》!!」
パキィィィン!
「クソッ!! これもか!!」
………… メカニズムもクソもねーな、ファイヤーウォールならどんな魔法も無効化できそうだ。
「これなら!! 風系統魔法《超越級・斬魔》!!」
パキィィィン!
「無駄だよ、いい加減悟れ」
「あ……あり得ない…… 超越級魔法だぞ!? それを無効化できるオーパーツなど世界の軍事バランスを崩壊させる代物だぞ!!」
「いやいや、そんな大げさなモノじゃないって」
実際ストレージ経由で発動するファイヤーウォールの射程距離は半径5m程度、戦術級の魔法とか撃たれたら自分の周り以外は焼け野原だ。
「さて…… それじゃお仕置きの時間だ」
「うわああああ! く……来るなぁ!!」
パニくった魔将さんが魔法を連射してくる、一応これって剣術の大会なんだよな? せめて魔法剣くらい使えよ。
「こんなコトあり得るかぁぁぁ!!!!」
魔将さん、元気を集めるポーズ…… 頭上にバスケットボール程の光の玉が出現する、まぁだ何かやる気か?
『マスター』
「ん?」
『あの汚染体…… 魔力系大規模破壊…… 行使しようとしてる……』
「魔力系大規模破壊?」
ロクでもないコトってのは判る、恐らく広範囲にわたる攻撃魔法、ファイヤーウォールで守られてる反魔力同盟以外はすべて吹き飛ぶだろう。
それは困る、剣聖祭が中止になるし小鳥遊シエルにも被害が及ぶ可能性がある。
まったく困った奴だ、ちょっと追い込まれただけでここまでテンパる奴が大量破壊魔法とか持つんじゃねーよ。
魔将より先にあの光球を何とかしないといけないな、暴発でもされたらたまったもんじゃない。
ボゥッ
刀にファイヤーウォールを纏わせる、名付けて《魔力殺し》! 紫色の炎がカッコイイ!
コイツであの魔法を焼き斬る!
「うああああ!! 火系統魔法《極限級……》」
!! 極限級! 最上位魔法か!
「《魔力殺し》!!」
パキィィィン!
紫焔の刃で光球を斬りつけるといつもの何かが割れるような甲高い音とともに魔法は砕かれた。
「ば……ばか……な……」
「馬鹿はお前だ」
おっと、このまま斬りつけたら真っ二つにしてしまう、刀を返して峰打ちで、狙うのはもちろんどてっ腹……
「《鉄棒直撃悶絶撃》!!」
ドカキィィィーーーン……………… ドグシャッ!!
フハハハハハッ! ホームラン♪ 観客席に打ち込んでやったぜ!
「しゅ……終了! 勝者、反魔力同盟カ……カグラバシ・イヅナ……」
あ、審判がドン引きしてる…… またやり過ぎた、次……次こそは気を付けよう!
ΩΩΩ
ん? 観客席が騒がしいな? ホームランボールに観客が殺到したか?
!?
なんか…… 燃えてない?
ヤバイ! 魔将さんにファイヤーウォールの火が燃え移ってる!? 早く消さないと放火犯になる! フーッ! フーッ!
こんな位置から息を吹きかけても消えやしない! いやそれ以前の問題か!
「ベルリネッタ! ファイヤーウォールを消してくれ!」
『えぇ~……』
えぇ~……じゃなくて!
その後、渋るベルリネッタを説き伏せて何とか消火に成功する。
ファイヤーウォールは実際の炎とは違うから火傷もしないしチリチリパーマにもならない、見た目は無事なハズだ。
ただ体内のマナウイルスを焼かれ地獄の苦しみを味わったコトと…… もしかすると等級が下がってるかもしれない。
まぁ俺を殺そうとしたんだ、その程度で済んだことを幸運と思って欲しいな。
《特別解説》
『二指〇空把/にししんくうは』
2本指で矢を止める北斗〇拳の技、真剣白刃取りの2本指バージョン。
強力なゴムでギチギチに絞め付けた指の間に矢が飛んでくれば止められるかもしれない。




