第7話「くっ…殺せ」
キィィィン!
ガキィン!
坑道の先からナニか聞こえてきた、金属を打ち付けるような音……
もしかして誰か戦ってるのか?
魔物同士の縄張り争いの可能性もあるがゴブリンとオークが仲良く暮らしているんだから、戦っている相手は人間かもしれない。
「ギャギャー!」
「フゴゴー!」
前を歩いていたゴブキチとオーク先輩が急にテンションを上げて音のする方へ突進していった。
これは女騎士か姫騎士である可能性が高まったぞ?
男騎士はクズばっかだろうが、姫騎士はセレスティーナ様みたいな聖女の可能性も僅かにある、運が良ければ手厚く保護してくれるかもしれない。
仮にゴブリンやオークにやられても、ソレはソレで…… イヤイヤ! ヤラれてもらっちゃ困る!! 魔力のない俺では助けることなんてできないんだから!
そうなってしまっては、後はもう物陰からこっそり見守ることしかできない!
期待半分、不安半分でウォッチング開始だ。
念の為言っておくが、期待って別に薄い本的な期待じゃないからな?
「なっ!? ゴブリンとオークが…… こんな時にっ! ルー様!!」
「クッ!! 今はそんな余裕はない!! 誰かいないか!?」
「ヴェラさん!!」
「ッ!! 20秒耐えて!!」
そこはエントランスホールのような一際広い空間になっていた、左側の壁にはいくつかの坑道が接続しており、右側は深い谷になっている。
そんなエントランスホールの中央付近で5~6匹のゴブリンと2匹のオークを相手に4人の戦士が戦っていた。
…………
あ、結構カワイイ…… いや、かなり可愛いぞ。それも3人も。
そりゃオーク先輩のテンションも上がるよな、しかし一人だけイケメンが混じってるせいで俺のテンションは下がった……
まぁ、ハーレムパーティーとか俺もゲームでよくやってたな、だから気持ちは分かる。
そこへゴブキチとオーク先輩が「俺たちも混ぜろよ~♪」みたいな軽~い感じで突撃していく。
イケメンだけヤラれないかな……
「火焔剣!!」
一番前で戦ってたイケメンの剣が突然燃え上がった。
おおっ! 魔法か!? 魔法剣ってやつか!?
イケメンは燃え盛る剣でオークのビール腹を切り裂いた!
「フゴーーーッ!!」
う~ん…… 斬ると焼くを同時にするのって意味あるのだろうか? 凄く痛そうだし、相手に苦痛を与えるって意味ではアリだけど、傷口を焼いたら出血が止まるじゃん、長期戦には向かないよな。
まぁ、オークとゴブリンに囲まれてる今は長期戦よりも即効性が求められてるのか……
「大地揺!!」
ゴゴゴゴゴ……
地面が揺れ魔物たちが倒れる……
おい! 洞窟の中で地震を起こすな! 正気か!? 天井崩れるぞ!
「今よ!!!!」
「うおおぉぉぉお!!!!」
魔物たちはまだ立ち上がれない、しかし戦士たちは揺れる足場をものともせず攻撃に移る。
まず狙われたのはゴブリン達だ、弱い方から叩いて数を減らすのか。
あ、ゴブキチが殺られた……
―――
――
―
僅か5分…… 魔物たちは全滅した。
今は魔物を解体してる、よく人型の魔物をバラせるな? きっと討伐証明部位や素材を採ってるんだろうけど正直ドン引きだ、文化が違いすぎる。
しかし彼らはどれくらい強いんだろう?
一般人の上限といわれる上位級クラスくらいだろうか?
それより上の白馬やセンセーに同じことができるとは思えないんだが……
まぁこの際 彼らの等級はどうでもいい、重要なのはクソ雑魚ナメクジの俺を保護してくれるかだ。
…………
やっぱりダメかなぁ…… イケメンが3人もの美少女を侍らせているところを見るに俺が美少女だったら保護してくれただろう。
ただし代わりに対価を支払わなければならなかっただろう……
金のない美少女が支払う対価なんて古今東西一つしかないよな?
しかしそんな奴が男を保護するだろうか? しかもくクソ雑魚ナメクジだ。
するハズが無い、俺だってしない。
だがモノは考えようだ、無理に保護してもらう必要はない。
「さて…… みんな持てるだけ持ったか?」
「はい、ですがこれだけのオーク肉をここに置いていかなければならないのはチョットもったいないですね」
「それは仕方ないわ、まさかオークが群れで現れるなんて想像もできなかったんだから」
「こんな異常事態、このダンジョンではきっと初めての事態よ」
どうやらこのダンジョンは元々魔物がめったに出なかったらしい…… 俺が来た途端 魔物大量発生ってどんだけ運悪いんだ俺って?
だが悪いことばかりじゃない、それは彼らが大量の荷物を抱えているってことだ。
あれだけの荷物を抱えてダンジョンアタックを続行するとは思えない。
加えて言うならダンジョンで起こった異常事態を外へ知らせる必要だってあるだろう。
要するにストーキングの対象が魔物から美少女に代わっただけだ(イケメンは視界に入れない)。
きっと彼らは最短ルートで迷宮を脱出するだろう、俺はそれについて行けばいいだけだ、つまりそれは道案内 兼 弾除けを手に入れたってことだな。
さあ行け! なるべく安全で起伏が少なく歩きやすい道を! 魔法がないと通れないルートとかは選択しないでくれ? マジで。
「ちょっと待って」
「どうしたナタリア?」
「視線を感じる…… 何者かに監視されてる」
ギクッ!?
ヤバイ、見つかるとヤバイ。
リア充グループがストーカーを見つけたらボコられる、きっとあのイケメンが女の子たちにイイとこ見せようとして俺をボコるだろう。
そして全裸土下座とかさせられるんだ、頼む! 探査魔法とか使わないでくれ! 俺には対抗手段がないんだから!
「位置は分かるか?」
「待って………… ッ!! 危ない!!」
ボゴオォン!!
!?
リア充グループ達のいた場所で急に爆発が起こった。
砂煙が晴れるとそこには丸太が突き刺さっていた、俺の太ももより太い立派な丸太だ。
え? あんなのドコから出てきたの? 上から降ってきた?
「ルー様、あそこです!!」
あ、リア充グループ無事だった…… 男だけ潰れればよかったのに。
僧侶っぽい恰好をした女の子が指をさしたのは壁の上のほう、高い位置にある横穴への入り口だった。
そこには人影が…… かなり太っている、てかオークにしか見えないんですけど?
……? ……??
アレ? アイツなんか足3本ねぇ? 丸太の予備でも背負ってるのだろうか? 股の間に第3の足が……
デ……デカイ!? 体はさっきバラされていたオークの倍くらいのサイズがある。
第3の足に至っては更に倍…… oh Monster……
「まさか…… ハイオーク!?」
「そんなあり得ないです!! 中位級ダンジョンに上位級ランクの魔物が出るなんて!」
「落ち着きなさい、どんなにあり得ないことでも実際に起こっている。原因の究明は後回しよ」
「しかし…… 今の装備じゃハイオークは……」
ここって中級ダンジョンなのか、つまり下から2番目の難易度の……
そしてあの巨大なハイオーク大先輩が上位レベル……
等級が上の綾野センセーがアイツに勝てるところが全く想像できない、あの等級ってホントに正しいのか? 実に疑わしい。
「ブヒイイイィィィ!!」
ハイオーク大先輩がいかにも豚っぽい雄たけびを上げながらリア充グループ目掛けて飛び降りた。
「避けろッ!!!!」
ズドオオオォォォン!!!!
洞窟全体が震えるほどの衝撃が走る、どんだけリア充が憎いんだよ……?
「ルー様! 今の私たちの装備じゃ!」
「分かっている! しかし……」
どうやら結構ピンチっぽい、しかしここで彼らが殺られると俺の死亡もほぼ確定だ、だから頑張ってくれ。
あるいはイケメンが女の子たちを逃がすために囮になるってのもありだ、そんなことよっぽどの男前じゃなきゃできない! 漢を見せるチャンスよ! ルー様!
「ヴェラ」
「えぇ、こうなっては仕方ないわ、奥の手を使いましょう」
「よし、全員近くへ」
そう言うと女の子たちがイケメンにピッタリ寄り添う……
なんかイラッとくる光景だ。
「ハァ…… 大赤字だわ」
「仕方ないだろ、命には代えられない」
イケメンは懐から小さなガラス瓶のようなものを取り出すと……
パリン!
自分の足元に叩き付け割った。
するとそこから強い光が放たれ……
「うっ!?」
光が収まったとき、リア充グループはその場から跡形もなく消え去っていた。
…………
はっ?
おい! おいおいおい!! うおおおぉぉぉい!!??
え? 逃げたの? ふざけんな! ハイオーク大先輩を放置して逃げんなよ!!
もしかして今のってゲームとかでよくある緊急脱出アイテム? この世界そんなご都合主義全開アイテム存在するのかよ!!
「ブ…… ブヒィ……」
あ、ヤバイ、かわいい後輩たちをバラバラに解体した憎きリア充グループ、そいつに逃げられたハイオーク大先輩が怒りに震えている。
俺は犯行グループとは一切関わりは無いが見つかったら命はない、気付かれないように撤退しよう。
ズン!
「…………」
背後から音がする…… とても振り向きたくない音がする。
「ブギィアアアァァァァアアァァァアッ!!!!」
「ッ!?」
空気が震えるほどの咆哮! 現実逃避してる場合じゃない!
振り向けばハイオークとバッチリ目が合う、完全にロックオンされてる! 何故だ!? 物音ひとつ立ててないのに!?
いやアレか? リア充グループどもが転移したときに思わず小さく声を上げてしまった。
どんだけ耳良いんだよ? あんな小さな音まで拾われたらSSD並みの静音性がなきゃ逃げられないだろ!?
無理だ、もはや難易度ルナティック超えだろ! スペランカーレベルじゃクシャミの風圧で死んでしまうわ!
当然逃げる! さっきから逃げてばかりだけど、それ以外に出来るコトが無い!
ズシン! ズシン! ズシン!
ストロークは俺より広いが重量の為かスピードはそれ程でもない、体力次第では逃げ切れるかもしれない。
!?
え? は? な……なんで!? さっきまで股の間でブラブラしてた丸太が今は一本芯が通ってる!!? アレ俺の太ももより太いんだぞ!? あ……あれでまだ第一種戦闘配備なのか!? ゴブリンなんか小指の先くらいしかなかったのに!
息子殺しを使ってもはね返されそうだ…… そもそもあんな高さまで足が上がらない、サマーソルトキックなんて出来ないし、ジャンピングアッパーで直接触るのも絶対嫌だ!!
「助けてぇー!!」
「ブヒィッ♪」
ズン! ズン! ズン! ズン!
グハッ!? な…なんでペースアップしてるんだ!?
え? う…嘘だろ? なんかアナコンダがさっきよりも太く逞しく鎌首をもたげてないか?
悪夢なら今すぐ醒めてくれ!
「うおおおぉぉぉっ!!!! 全力疾走!!!! 疾風になれぇぇぇ!!!!」
神よ! 今だけでいい!! 俺にボ○ト並みの俊足を!!! 巨大捕食者から逃れるだけの力を!!!!
「ブフ? グオオオォォォォォオ!!」
ブオン!!
「ッ!?」
ハイオークが俺よりデカい丸太をミサイルみたいな勢いで投げつけてきた!!
ヤ…ヤバイ!!
ドゴオオオォォオン!!!!
「ぐはあぁああっ!!」
故意かどうかは分からないが直撃は避けられた、しかし俺は衝撃で10m以上吹き飛ばされた……
丸太の着弾地点は巨大なクレーターになっている、まるで隕石の衝突だ……
「ぐ…がはっ!」
ビチャビチャッ!!
血を吐いた…… 内臓に深刻なダメージを負ったらしい、手足の骨も折れているっぽい、何故か痛みを感じないのが不幸中の幸いか。
これ…… 致命傷だろ? 魔力を持たない貧弱な人間があんな爆発に巻き込まれたらこうなるよ……
「ブルフフフゥ♪」
「くっ……」
ハイオークが機嫌良さそうに見下ろしてくる。
今初めて女騎士の気持ちが分かった、思わず「くっ…殺せ」って言いそうになった、ただ俺の行く末は女騎士より遥かに悲惨なモノになるだろう…… だって快楽堕ちとか出来ないだろうし、身体中骨折してるから少し動かすだけで死ぬほど痛いだろう。
「夢ならそろそろ醒めてくれ…… 手遅れになる前に……」
とっくに手遅れな気もするが、もう抵抗する事も出来ない……
俺は来たるべき暴虐に備え目を瞑る事しか出来なかった。
ガシッ! ――― グシャッ!!
「グギャアアアァァァァァ!!!!」
?? なんだこの声? ハッスルし過ぎて叫んでる感じじゃない、どちらかというと悲鳴みたいな……?
「※※※※※※※※※? ※※※※※※※※※※※※?」
「!?」
な…なんだ今のよく分からない音は!?
恐る恐る目を開く、するとそこには……
「※※※※※? ※※※※※※※※※」
謎の言葉を発する一人の少女が立っていた。