第68話「至上命題」
冒険者ギルド内・会議室
突如現れた半裸勇者とその仲間たち……
昨日別れたばかりなのに再会早すぎ、もしかしてストーカーなんじゃねーの? 心当たりは……割とある。
そんなストーカー集団は密談用の会議室をわざわざ借りて俺達を連れ込んだ。
話があるってのは方便じゃなく本気だったのか?
だったら昨日話せばよかっただろ? わざわざ俺のアタックチャンスを潰しやがって。
「それで話なんだが……」
「あ~ん……?」
「……いや、なんでそんなに不機嫌なんだよ? 一応俺はお前を助けたハズなんだけど?」
「助けが必要じゃない場面でしゃしゃり出てきたって言うんだよ」
「うっ、だが面倒事を回避したんだし、ナニも損してないだろ?」
い~や、大損だ、ハァ……
「それで話って? また勝負しろとかじゃ無いだろうな?」
そんなつまらない要件だったらお前を奴隷商に売り払うからな。
「いや、真面目な話だ、お前たち《反魔力同盟》にとっても重要な話だ」
「? 反魔力同盟に?」
「この国にいる魔無についてだ」
「!? 魔無だと!?」
ベルリネッタの《監視機》は性能は申し分ないが効果範囲が狭い、街単位ならともかく国全体の調査となると時間が掛かる。
まさかこんな役にも立たなそうな人物から有力情報が得られるとは夢にも思ってなかった。
「話を聞く気になったか?」
「あぁ、真面目に聞かせてもらう」
「よし、ではその人物について話す前に状況の説明からする」
状況? そんなのどーでもいい…… いや、真面目に聞こう。
「知ってるかもしれないが、もうじきこの街で剣聖祭が開催される」
「剣聖祭?」
そう言えば妙に冒険者の数が多かった気がする……
「4年に一度開催される武闘祭だ」
「もしかして英雄候補が関係してるか?」
「なんでわかった?」
「いや…… そんな気がしただけだ……」
「剣聖祭は今からおよそ500年前、六英傑の一人『剣聖の英雄・小鳥遊 鶫』の偉業を称えるために始まったそうだ」
でた! 小鳥が遊ぶと書いて小鳥遊! 現実では一度もお目にかかったことが無いのに創作日本では下手したら鈴木や佐藤より世帯数多いんじゃね?ってくらいしょっちゅう出てくる珍名さん。
小鳥遊鶫…… それたぶん偽名だね。
「彼女はこの世界で革新的な剣術流派、エルエネミス流剣術の開祖だった」
「ん? エルエネミス流って確か……」
「そう、俺も習ってる」
「勇者なのに英雄の剣術習ったのか?」
「それほど優秀な剣術だったんだ、そもそもエルエネミス流以前にはまともな剣術は存在しなかったらしい」
あ~、なるほど、異世界知識無双、剣術無双だな。
まぁマヨネーズと違って剣術を異世界で普及させるってかなり凄いコトだけどな、俺にはできない、俺の知識じゃ籠手が臭いってコトしか伝えられない。
「そして剣聖の英雄・小鳥遊鶫には4人の養子 兼 弟子がいたんだ。
その内3名は人間族で既に亡くなっているが、最後の1人は炭鉱族で今も存命だ、剣聖の最後の直弟子というコトでも有名だ」
「炭鉱族…… もしかして?」
「あぁ、小鳥遊・シエル・エルエネミス…… 彼女は魔無であり、俺の師匠でもある」
お前の師匠とか別にどうでもいいんだが……
社会的地位のある魔無なんて存在したのか……
「迫害されてる……ってワケじゃないのか?」
「むしろ大事にされてると言っても過言じゃない」
う~ん…… 俺たちは魔無の保護が目的だ、迫害されてない魔無を保護する必要ってあるのだろうか?
「大事にはされているんだが、一つ問題がある」
「?」
「彼女の奴隷契約だ」
「え? 奴隷なの?」
「小鳥遊鶫はもともと奴隷として売られていた炭鉱族の少女を買い取り自分の養子にしたんだ、だから娘であり弟子であり奴隷でもあったんだ」
やはり魔無、出だしからハードモードなのはいつの時代も変わらないらしい。
「それで…… えぇと……」
何か言い淀んでる…… 口に出すのも憚られるほどの悲惨な過去なのだろうか?
「ここからは私が説明するわ」
ヴェラ嬢に選手交代……
「今の奴隷契約には解放期限があり一定の年数を務めると奴隷から解放されるの、500年前にもその法律はあったんだけど今と違い抜け道があったのよ。権利移譲による再契約制度よ」
あ、勇者の頭じゃ難しくて説明できなかっただけか。
「もしかして解放期限ってのとっくに過ぎてるのか?」
「その通りよ」
おい、それって大事にされてるって言えるのか?
奴隷契約更新して永遠に使い倒されるってコトじゃないか?
「そして今度の剣聖祭の優勝者にその権利が与えられるのよ。
彼女は剣聖の最後の直弟子であり、エルエネミス流剣術の師範でもある、色々な国や組織、冒険者パーティーや個人までもが彼女の所有権を欲しているの。
かくいう私たちにも聖皇教会から剣聖祭に参加し彼女の所有権を確保せよという指令が来てるわ」
「なるほど…… しかし分からないな、何故その情報を俺たちに伝えるんだ?」
まさか俺達に勝てるとか思ってないだろうな?
そりゃ「魔法使い100人に聞きました」とかのクイズ出されたら勝ち目無いけど……
「それは……」
「それはお前たちに優勝して欲しいからだ!」
勇者がヴェラ嬢の発言に被せ気味で答えてきた。
俺達に優勝して欲しい……って、それは……
「教会の意向を無視するのか?」
「俺達は聖皇教会の指示に逆らえない、しかしかつて彼女の指導を受けた身としては奴隷から解放されて欲しいと思っている。
だが大会に出場する奴はもれなく彼女の奴隷継続を望んでいる、唯一の例外があるとすればそれは……」
「俺達《反魔力同盟》だけってワケか」
「そういうコトだ」
世話になった恩人だから……か、勇者って意外に義理堅い奴なんだな。
俺はまたてっきり美少女炭鉱族に対するポイント稼ぎかと思ってたよ。
「俺達は立場上優勝を目指すが、可能な限り反魔力同盟に便宜を図るつもりだ、もっとも直接対決で勝ちを譲るくらいしか出来ることは無いだろうが……」
トーナメント方式の祭りなら一勝譲ってくれるってコトか、もちろん勇者パーティーがそこまで勝ち残ってたらの話だが。
「だから頼む! 剣聖祭に出場してくれ! お前たちなら優勝も夢じゃないんだ!」
勇者に頭を下げられた……
普段の俺なら「その見返りに対価を払え」とか言うところだけど……
「頭を上げろ、そんな話を聞かされたら例え頼まれなくても出場する」
「そ、そうか!」
そう…… 魔無の保護は反魔力同盟の命題!
そして美少女炭鉱族を手に入れる、コレは俺の至上命題だ!(誤用)
「ふぅ…… 話が無事にまとまって良かった、お前のことだから「お願い聞いて欲しけりゃ金払え」とか言われるかと思ってた」
さすが勇者、俺のコトよく判っていらっしゃる。
「上級以上の冒険者パーティーだと、金を払って秘密裏に依頼するってワケにもいかなかっただろうから助かった」
「ん? 上級が何か関係あるのか?」
「出場資格だ、上級以上の冒険者でなければ剣聖祭に出場できない」
「は?」
「うん?」
…………
…………
「反魔力同盟は上級冒険者パーティーなんだろ?」
「あぁ、ただ…… いまは仮免状態なんだよね、昇級試験を受けないと上級冒険者として登録できない」
「…………」
「…………」
「なにやってんだよぉぉぉ!! 剣聖祭、明後日からだぞぉ! 明日中に受付しないと出場できないんだぞぉぉぉ!!」
「え~と…… 勇者様のネームバリューで無理やりねじ込んだりは……」
「出来るワケないだろッ!! そんなコトしたら背教を疑われるッ!! 自殺行為だ!!」
職業勇者ってのも色々しがらみがあって大変なんだなぁ。
「下級冒険者は出場できないのか?」
「出来たらこんな頼み事しない! 制限を設けないと何百、何千って数の挑戦者がやって来ちまうんだぞ!」
「それは出場料を設ければ解決する問題じゃないのか? 供託金みたいな感じで」
「俺に言うな!」
ごもっとも。
「わかった、わかったよ、すぐに昇級試験受けるから、だから泣くな鬱陶しい」
「な、泣いてなんかないやい! とにかく! 必要書類とかはこっちで用意するからお前たちはすぐに昇級試験を受けろ! いいな!!」
バタバタバタ! バタン!
勇者パーティー退出…… 女剣士と女僧侶は一言も喋らなかったな。
「しかし結局、上級冒険者にならなきゃいけないのか……」
「それではイヅナ様、私はすぐに昇級試験を受けられるよう手続きしてきますね」
「あぁ、頼むよユリア、面倒だけどこれも美少女炭鉱族を保護するためだ」
「美少女?」
おっといかん、心の声が漏れた。
「あの…… イヅナ様」
「ん? なんだ?」
「イヅナ様は炭鉱族の寿命がどれくらいだか知ってますか?」
寿命? そういえば知らないな。
「耳長族くらいじゃないの?」
「いえ…… 一般的に耳長族の半分ほどと言われています」
「耳長族の半分?」
「耳長族の寿命は人間族のおよそ10倍ほど…… そして炭鉱族の寿命は耳長族の半分ほどですから…… 500歳ですと炭鉱族の歴史に残るレベルの長寿だと思います」
……………………は?
お婆ちゃんなの? ここまで順調に美少女を集めてきたのに炭鉱族はBBAなの?
魔無は長生きできないって勝手に決めつけてたよ……
そーかぁ…… そんなコトもあるのかぁ……
あぁ…… モチベーションが……
《特別解説》
『小鳥遊/たかなし』
超希少苗字。珍しいけど実在する。なぜか主人公・ヒロイン級のキャラに付けられることが多い気がする。
作者が知ってるタカナシはスキージャンプの高梨の方だけ。
『供託金/きょうたくきん』
選挙で売名目的のアホが出馬しないようにするための制度。
それでも出るヤツは出る。




