第67話「定番中の定番」
ショッピングを終えた俺たちはある場所へ向かっていた。
それは冒険者ギルド。
そうだよ、異世界で冒険者になったなら普通真っ先に行くべき場所だろ? なぜ武器屋とか防具屋とかフラグ立てが先に思い浮かんだのか…… これがゲーム脳ってやつか。
ついでに言うと大金を手に入れたものだから「働く」という概念が頭からキレイさっぱり消えていた。
バルハナではちゃんと冒険者ギルドに行ったのに…… これが金を持つというコトか……
しかしいくら大金と言っても、2000万ディルは一生遊んで暮らせる額じゃない、せいぜい一人分の老後資金って額だ。
この先、バカ高い奴隷を買わなきゃいけないコトもあるかもしれない。
その時になって慌てないためにも堅実に金を稼ぐ必要がある。
一応俺たちは上級冒険者だ、そこそこの依頼も受けられるだろう。
危険が少なく簡単で報酬の高い仕事って何かないかな?
キィー…… ザワッ
ギルドの建物に入ると中にいた人たちが一斉に見つめてくる、オウコラ! ウチのユリアを性的な目で見ないでください!
「イヅナ様、まずは受付で登録です」
「登録?」
「はい、私たちはスマラグドス森樹国管轄での冒険者資格しか持ってませんから、こちらの支部での登録が必要なんです」
「それって何か掛かるの? 登録手数料とか再試験とか?」
「大丈夫です、管轄移動の確認なので無料です」
そうか、補習くらいはあるかと思ったが、支部から支部へ移動する度にそんなコトしてたら護衛依頼の冒険者なんかキリがないよな。
さて…… 登録か……
「ようこそいらっしゃいました」
「お疲れ様です」
「こちらの依頼は……」
カウンターには三人の受付嬢が並んでる。
そして受付嬢の前には多くの冒険者が列をなしてる…… 非常に密です。
一番混んでるのは右側の列、受付嬢が美人で……デカい。
二番目に混んでるのは真ん中の列、受付嬢は童顔で可愛い感じ、ほどほど。
最も空いているのは左の列、ザマス眼鏡を掛けている、ちょっとキツそうな感じだ、小さい。
仕方ないとはいえ並ぶのは手間だな、やれやれ……
「? ご主人様ドコ行くの?」
「ドコって、並ぶんだよ」
「なんでわざわざ一番混んでる列に並ぼうとしてるんですか?」
「いや…… 異世界の冒険者ギルドって言ったら……」
冒険者ギルドの受付嬢ってのは巨乳率九割を超える職業だろ? ならば一番大きいトコロに並ばなければ。
「ハァ~~~、ご主人様なろうの見過ぎです」
お前が言うな。
「ほら、一番空いてるところに並びますよ! どうしても巨乳を見たければユリアさんを見て我慢してください!」
「え…… えぇッ!? どうして私の名前が出てくるんですか!?」
結局キララに引きずられて一番空いてる列に並ぶことになってしまった。
仕方ない、せっかくお許しも出たコトだし新装備になってエロさが増したユリアの胸部装甲をガン見して順番を待とう。
「ふ~む……」
「あ……あのぅ……」
しゃがんでユリアを見上げてみる……
おぉ! この角度すばらしいな!
パシャッ!
「マーベラス」
「は……はい?」
真横から見てみる……
すっげぇ重そう、今度肩でも揉んでやるか。
パシャッ!
「グゥレイト」
「ぐれ? え?」
ユリアを座らせて上からのぞき込むと……
うは! これスゲェ!
パシャッ!
「ファンタスティック」
「ふぇぇ~!」
「マスター…… 見過ぎ」
「もー! ご主人様、いくら何でもムネ見過ぎ! 終ー了!」
本人ではなく外野から妨害が入ってボーナスタイム終了、見ていいって言ってたのに……
まぁいい、お宝画像も手に入ったし今日のトコロはこの辺にしておこう。
「次の方どうぞ」
おっと、有意義な時間を過ごしているうちに順番が回ってきた。
単純に仕事が早いからこの列が短かったみたいだ。
…………
いや、明らかに並ぶ人数は少ない、ルックスも多少は影響してる気がする。
「えっと、冒険者ギルド・ギルベリル支部への管轄移動の手続きお願いします」
「はい、ではライセンスを提出してください」
「はい」
3人分のカードを並べる、それを見た受付嬢は……
「え……」
一瞬で胡散臭いモノを見る目に変わる、そりゃそーだ、3人合わせてUnknown7つ、あんな正体不明だらけの身分証など役に立つのかずっと疑問だった。
森樹国管轄内でならまだ通用したが、余所の管轄に来たらさすがに無理だったらしい。
「3人とも魔無?」
「そうですね」
「ギルドカードの偽造は犯罪です」
あ、衛兵呼ぼうとしてる?
冗談じゃない! 差別階級の魔無が衛兵に捕まったらロクな目に合わないぞ、下手したら全員処女を散らす羽目になる。
もちろんその対象には俺の純潔も含まれる。
「ち、違います! 確かに正規の手段はとって無いけど特例として……」
「…………」
ユリアが必死に弁明を試みる。
しかしどれだけ訴えかけても受付嬢の目は冷めきっている、やはりこれも魔無差別のせいか?
まったくユリアの目を見ていない、完全に聞く気が無い態度だ。
「ですから……ッ」
「…………」
ん? あの受付嬢、顔はユリアの方を向いてるのに視線はずいぶん下の方…… ドコ見てるんだ?
あ。
その視線はユリアの胸にクギ付けだった。
もしかして私情入ってる?
ユリアが必死に説明する度にプルプル震える胸を見て怒りのボルテージを上げていってる気がする。
このままじゃマズい。
弁護人交代。
年下感を前面に出して弁明する、ショタ好きのお姉さんがクラっときそうな感じで。
……
…………
………………
驚いたことに結構上手くいった、俺にこんな才能が有ったとは驚きだ。
「事情は分かりました、しかし現状では上級冒険者とは認められません、せめて昇級試験は受けて貰わないと」
「昇級試験?」
「こちらが提示する討伐・採取の課題をクリアしてもらいます」
う~む、ぶっちゃけ昇級する必要性を感じない。
ここのギルドでは無理でも東ユグドラシルみたいにランク関係なしに依頼を受けられる支部へ行けばいいだけの話だ。
むしろ下手に昇級すると魔王軍が攻めてきた時に強制的に戦闘に参加させられる危険性がある、リスクが上がるだけで大して得にならない。
うん、下級でよくね?
下手に中間管理職になって上司と部下の板挟みにあって胃に穴開けるくらいなら、嫌なことがあったらスパッと辞められるフリーターで……
いや…… フリーターっていうとこのままじゃいけない気がしてくるけど……
「おいおい! 魔無が上級冒険者に成れるワケねーだろ!」
「あ?」
見るからに厳ついオッサンが話に割り込んできた。
さっき巨乳の列に並んでた連中だ。
「ほう? しかしコレはなかなか……」
オッサンはイヤラシイ目つきで俺たちを見ている…… おい! 俺まで性的な目で見るな!
「よう坊主、ちょっとお前のパーティー貸してくれや」
馴れ馴れしく肩を組んできた、酒くさ!
「心配すんな、ちゃんと洗って返すからよぉ。ちょ~っと傷が残るかもしれねーがな」
汚して傷物にする気満々じゃねーか。
「ふざけんな、失せろ」
「あぁ? 魔無の分際で、人が下手に出てりゃ図に乗りやがって!」
「今のが下手に出てたつもりか? この社会不適合者が、幼稚園からやり直せ」
「はっ! 面白れぇ! お前ちょっと……」
「来たぁぁぁーーーーーあッ!!」
一触即発……ってタイミングでキララが叫んだ……
「来た来た! ご主人様キタよ! 冒険者ギルドで不衛生な感じの冒険者にからまれる定番中の定番イベントが!!」
「そうだね…… でもちょっと落ち着こうか?」
確かに冒険者ギルドで絡まれるのは定番中の定番だけど、既に一回経験済みなんだよね? 前に絡んできたのは勇者だったが……
「ご主人様は私たちを守るためにアノばっちい人たちを叩きのめしてくれるんだよね、見たいなぁ、ご主人様のカッコいいトコロ♪ 見てみたいなぁ♪ シャロちゃんも見てみたいよね?」
「おにぃちゃんのカッコいいトコロ…… 見たい!」
あ、シャロまで巻き込みやがった、そんなキラキラした目で見るなよ……
「あなた達、ギルド内での私闘は厳禁です、ライセンス剥奪しますよ?」
受付嬢に止められた、そりゃそうだ、どこの異世界でも公共施設内で乱闘起こせば問題になる。
「だってさ?」
「問題ねーよ、奥に訓練用施設がある、そこでなら戦闘行為が認められてる。
たとえ決闘の末不幸にも相手を死なせてしまっても不問になる」
いつの間に決闘するコトになってんだよ? しかも俺を無きものにする気だぜ。
「ハァ……、決闘って何を賭けるんだよ?」
「俺が勝ったらお前のパーティーメンバー全員を貰う」
あ、返さない気だ…… 要求がどんどん厚かましくなってくなぁ……
「こっちが勝ったら? お前のむさ苦しいパーティーメンバーなんか金貰ったっていらないぞ?」
「は! 魔無ごときが俺に勝てるつもりかよ?」
「対価が無いなら決闘を受ける意味が無い、無視すればイイだけだ」
「だったら自分の納得いく要求をしろよ、どうせ意味無いんだからな」
「なら…… お前ら全員奴隷商に売り払うってのはどうだ?」
俺ならこんな不衛生な奴ら買わないけど、体格もいいし労働用の奴隷としてならそこそこの値段で売れそうだ。
それでもユリア一人分(予想最低落札価格1000万ディル)にも届きそうもないがな。
「虚勢を張ればこっちが引くと思ったか? いいぞ、お前の条件を全部飲んでやる」
よ~し言ったな? 換金可能なアイテムから定期貯金、パーティーの運営資金、生命保険の受取人変更まで全部搾り取ってやる。
ただし内臓だけは勘弁してやるよ、奴隷商に売れなくなりそうだから。
「ちょっとあなた達……」
受付嬢が心底呆れたって顔してる。
「おいおい聞いてただろ? 双方合意の上での決闘だ、外野が口を挟むことじゃねーよ」
「ハァ……、当ギルドは一切の責任を負いませんからね?」
「は! 判ってるって、オラ小僧ついてこい!」
「へいへい」
定番イベントなど画面が暗転している間にパパッと終わらせて、小遣いの足しにしてやる。
「待て」
「あぁん?」
「ん?」
今さっき扉から入ってきた人物に呼び止められた……
てか、よく知っている人物だった…… そうだよ、アイツだよ。
「なんだぁ? てめぇは?」
「ソイツに用がある、なので手を出すことは許さん」
「若造が口の利き方に気を付けろよ? 後からやって来たくせに人様の獲物を奪おうってのか?」
「結果的にそうなるな…… それが気に入らないと言うなら俺が代わりに決闘を受けてやる!
この“勇者”ルーファス・バレンティアが!!」
そうだよ、勇者だよ、まぁたお前か?
昨日別れたばっかだろ? 再登場早すぎだ、なんなの? おまえ俺たちと一緒に旅してたんだっけ?
「ゆ……ッ 勇者だとッ!?」
アレ? 何かオッサンが狼狽えてる? さっきまでの勢いはどうした?
「どうする? 俺は今すぐ戦っても構わないが?」
「じょ、冗談じゃねぇ!」
ん?
「勇者を敵に回すってコトは聖皇教会を敵に回すってコトじゃねーか!」
え…… ちょっと待って、決闘取りやめる方向に話が進んでない?
「おい! ずらかるぞ!」
ちょっ!? 待て待て待て! Don't stop you now!!
ドタドタドタ!
不衛生なオッサンパーティーは脱兎のごとく逃げ出した……
お……俺のお小遣いが……
「コホン、え~とカグラバシ・イヅナ、お前を探してた、大事な話があるんだが……」
こ……こいつ…… 定番イベントをぶっ潰しやがった!




