第65話「ギルベリル王国」
異世界生活20日目……
遠くに大陸が見える…… この星、平面のくせに遠くまで見通せないんだよな、空気のせいか? 光の加減か? はたまた大気中の魔力のいたずらか?
まぁいい、都合の悪いコトは全てマナウイルスのせいってコトで納得しておこう。
改めまして……
遠くに大陸が見える…… アヴァロニア大陸…… ついにここまで来た!
アヴァロニア大陸よ! 私は帰ってきた!
…………
帰ってきたのは間違いないんだが、以前の滞在は薄暗い地下の一室で1時間ほどだ。
帰ってきたって感覚は全くない、例えるなら以前新幹線で通り過ぎた県に改めてやって来たって感じだ。
今度こそぜってーご当地グルメ食ってやる。
近づくにつれ山や森、草原や小川などが見えてくる、久方ぶりに見る大量の緑が実に美しい。
これで田んぼのあぜ道を軽トラが走ってたらまんま田舎のじーちゃん家だ。
しかしダークウィードの甲板からだと結構高低差がある、どうやって降りるんだコレ?
ヒュン ヒュン ヒュン
「ん?」
見れば空船が次々と飛び立っていく、そっか、普通は空船で乗り降りするんだな。
そしてその空船は山の向こうを目指して飛んで行く…… こんな何もないトコロに降りる奴はいない、きっとあの方向に大きめの街でもあるのだろう。
それよりも……
「ココ、ドコ?」
「さぁ? アヴァロニア大陸の地理についてはある程度学んだんですけど、ココが何処かまでは……」
唯一答えを知っていそうなユリアでもお手上げだった、そりゃそうだ、目印になりそうなものが何もないからな……
どっかその辺の海岸線に朽ち果てかけた女神像とかないかな? あればココが何処か一発で判るのに。
もっとも女神像はあってもらっちゃ困るんだが。
ここがアヴァロニア大陸なのは間違いはない、だが最寄りの街とか何にも判らない。
行き当たりばったり、無計画にもほどがある。
まぁ仕方ない、正規の方法で渡航したわけじゃないからな。
「ここはギルベリル王国の南西のよ、海岸線沿いに東へ200kmほど行くと王都に着くわ」
「!?」
俺達が一番知りたい情報を教えてくれたのは勇者さんとこのヴェラ嬢だった。
彼女はツンデレっぽい顔してるのに非常に面倒見がイイ、アホ勇者には勿体ないほどのイイ女だ。
「ちなみに西へ行くとすぐに国境線よ、その先は魔王領だからそっちへ行くのはお勧めしないわ」
「げっ!? ってことはココって最前線か?」
「最前線といえば最前線だけど、主戦場はもっと北だからこの辺りは比較的安全な方よ」
アヴァロニア大陸に最短ルートで来てしまったのか…… 失敗したな、もっと東へ行ってから接舷する様に指示を出すべきだった。
今からでも遅くは無いんだが、他の冒険者がみんな降りてる中おれ達だけ残るのは違和感がある。
まぁいいか、俺達の目的地は東だ、わざわざ危険な西へ行く理由なんて全くない。
「ところであなた達、ここで降りるつもりなの?」
「ああ、そのつもりだ」
「どうやって? まさかロープで降りるつもり? ここは地形的に直接の乗り降りは厳しいわよ」
確かに…… ここが1000m級の断崖絶壁ならまだしも下は砂浜だ、そんな場所をラペリングで1000m降下とかパワードスーツ着てる俺でもやりたくない。
ただまぁ……
「はっはっはっはっはっ! どうやらお困りのようだね?」
現れたのは役立たず勇者のルーファスだ。
なに「偶然居合わせた」みたいな顔してんだよ? 物陰からずっとこっちを窺ってたじゃないか。
「もし君が泣いて頼むなら僕たちの空船に乗せてあげてもいいが…… どうする?」
イヤラシイ顔してるわぁ……
ヴェラ嬢が妙にタイミングよく出てきたと思ったら、このチャンスを待ってたのか。
ヒマな奴……
「いえ、結構です」
「へ?」
「ベルリネッタ、降ろしてくれ」
「イエスマスター」
ピピピ……
アホ毛アンテナで上空と交信。
すると大きな箱が音もなく降りてきて、地面に触れる直前に浮遊状態で停止した。
大きさは…… まんまキャンピングカーだな、そして中身は…… まんまキャンピングカーだ。
「なんだそれ? 浮遊する……馬車?」
「まぁそんなトコロだ」
これも展示室で見つけたモノだ、どうせすぐ使うと思ったから上空に待機させていた、だが所詮試作品だからな推進機がついてない、本当にただの浮く箱だ。
「キララ、『空よりも濃い青』を接続してくれ」
「りょ~かい♪」
あ、『空よりも濃い青』ってのはキララのエアバイクのコトね、またえらい名前つけたものだな。
ガショォン!
「接続完了です♪」
これで馬車の代わりとして使えるぞ。
「よし、みんな乗り込め、あ、シャロは俺が抱っこしてやる」
「わ~い♪」
入り口は狭いし段差があるから早太郎に乗ったままだと落っこちそうだからな。
「おぉ」
室内には小さなキッチン、大きなソファ、ベットは二か所にあり、なんと言ってもトイレ(ウォシュレット付き)が完備されてる。
あぁ…… 砂漠を旅する時に欲しかった……
「それじゃ俺たちはこれで…… もしまたどこかで会えたらその時はヨロシク」
「え? あ…… うん」
勇者に心にも思ってない別れの言葉を告げる、もっとも数日中にまた会うコトになるだろう、アイツらは王都へ向かうだろうし俺たちも行くつもりだから。
普通に考えれば広いであろう王都で偶然出会う確率は決して高くない。だが同じ街に居て彼らに出会わないってコトは無いだろう、下手すりゃこの後ストーキングされる可能性まである。
アイツ、俺のコト好きすぎだろ? いや…… この場合は俺のコト嫌いすぎって言うべきか。
キャンピングカーの前方についてる小窓を開けてキララに指示する。
「それじゃキララ、海岸線を東に向かって王都を目指そう」
「りょ~かい、『空よりも濃い青』発進!」
シュイィィィーーーン
おぉ、全く揺れない、これは本物のキャンピングカーより快適そうだ。
―――
この世界に来て初めてのんびりと旅を楽しむ……
思えば異世界での旅路は急ぎ足ばかりだったなぁ…… だからたまにはこんなのもイイもんだ。
せっかくの余暇なので、いい機会だからユリアとシャロにコピースマホを渡し使い方をレクチャーしてみた。
科学文明に全く馴染みのない二人にスマホの使い方を教えるのはかなり大変だ、お年寄り向け有料スマホ教室が高い金取るだけのコトはあるなぁ……思った。
もっとも異世界ではスマホでできる事がかなり限られるからすぐに慣れるだろう。
「うぅ~…… ああ! また隣の文字! そっちじゃないって!」
「アハハ♪ なにこれ~、ヘンなの♪」
ユリアは文字入力に悪戦苦闘。
シャロは文字入力を早々に諦めスタンプのみで意思表示しようとしている。
まぁ、何事も慣れだ。
「ねぇおにぃちゃん、ホントにこれで離れた人とお話しできるようになるの?」
「あぁ、もし迷子になったらすぐに電話するんだぞ?」
まぁ早太郎に乗ってればその心配は無いんだが。
「試してみたい! どうやって使うの?」
「あぁ、それは……」
デンデンデン♪ デッデデーデッデデー♪
「あ」
「なぁに? この音?」
電話だ…… 仕方ない出てみるか……
「もしもし?」
『ご主人様ぁ……』
電話の主はほんの1mしか離れていないキララからだった。
「どうした?」
『納得いかないです』
「何の話だ?」
『なんで皆がくつろいでるのに私だけ運転手してなきゃならないんですか』
そんな行楽帰りのお父さんみたいなこと言われてもなぁ……
だいたい運転手はキララが主張した「仕事」だろ?
『わたし…… 運転手は交代制にするべきだと思うんですけど?』
「そんなコト言っても免許持ってるのキララだけだし……」
『それ前世の話! 今のキララちゃんは免許なんて持ってないです!』
「それは免許不携帯ってコトだろ? 免許証を取得したことあるのはやっぱりキララだけだ」
『いやいや! 剣と魔法の世界で免許証って必要ある?』
「剣と魔法の世界には必要ないかもしれないけど、科学文明の利器を使うには免許って必要だろ」
電磁投射狙撃銃を使う為には電磁投射狙撃銃射撃許可証が必要になるくらいだ。
『百歩譲って私が運転手するのはいいんです』
「じゃ、なにが不満なんだよ?」
『私だけ外!!』
「…………」
『私だけ風圧でおでこ丸出しになってるし、私だけみんなとの会話に入れない、何より私が働いてる後ろでご主人様が女の子とイチャイチャしてるのが納得いかない!! 私もイチャイチャしたい!!』
別にイチャイチャしてるワケじゃないけど、キララは俺とイチャイチャしたいのか……
そんなコト言われると「奴隷は黙って働け」とは言えなくなるな。
『さ~み~し~い~!』
グラグラ……
「おい! 蛇行運転するな!」
「きゃ~♪ なにこれ~♪」
「う! うぷ…… 気持ち悪いぃ……」
シャロは喜んでるけどユリアはヤバイ。
『可哀そうな奴隷少女キララちゃんに愛の手を!』
「ハァ…… 判ったから、ただ王都までは我慢してくれ」
キャンピングカーをプレアデスに送って改造してもらおう。
その分プレアデスの整備が遅れるが仕方ない、このままじゃキララが不憫だしユリアが吐く。
「つーかバイクでスマホのながら運転とか自殺行為だからマジで止めてくれ」
『大丈夫! ちゃんとインカム使ってるから』
あ、ホントだ、ちゃんと人間の耳の方にインカム付けてる。
シュィィィーーーン
ん? あ、キララのヤツ速度上げやがった、別にいいけど安全運転だけは心掛けてくれよ?
《特別解説》
『朽ち果てかけた女神像』
名作映画「猿の惑星」のラストシーン。
パッケージにも描かれているが思いっ切り映画のオチのネタバレである。
『デンデンデン♪ デッデデーデッデデー♪』
着信音。映画スター〇ォーズ・ダース〇イダーのテーマのアレ。




