第64話「空間支配 ―デイルーラー―」
「《空間支配・次元収納》」
取り出されたのはピンポン玉ほどの大きさの攻撃用黒魔水晶。
「これには爆発の衝撃だけが魔法で込められている、当たれば骨の2~3本は折れる威力だ」
「原始的な魔道具の一種……?」
「あん? 原始的?」
「そんなモノ…… まともに当たるとでも?」
「そうだな…… コレは衝撃に弱く道具での射出ができず手で投げて使うしかない、しかも敵との距離が近すぎると自分まで巻き込まれる、さらに持ち運びも困難で砦などの拠点防衛でしか使い道がなかった魔道具だ……だが!」
前田翔馬はゆっくりと見せ付ける様に振りかぶると……
「世界で俺だけがこの魔道具を有効に運用できる!!
《空間支配・合わせ次元鏡》!!」
黒魔水晶を放り投げた……と同時に消える。
次の瞬間、ベルリネッタの背後に出現した、距離は僅か10cm。
しかし……
「ストレージ:収納」
黒魔水晶は《空間支配》とは別の異空間に収納された。
「??? は?」
「終わり?」
「な……なんだ、不発弾か……? 工房の奴ら不良品を寄こしやがったのか! まぁいい、黒魔水晶はまだまだあるからな!」
前田翔馬は黒魔水晶を次から次へと取り出すと異次元経由でベルリネッタに投げつけた。
しかしそれらは一つとしてベルリネッタに届くことは無かった。
「なんだよ……これ? お前……何かしたのか?」
「回答拒否…… あなたは私のマスターを害すると宣言した…… だから少々痛い目を見てもらう…… 処理はその後」
「はぁ? 何を言って……」
その瞬間、ベルリネッタの姿は消え気付いた時には前田翔馬の目の前に現れていた。
「!?!?」
ズドッ!!
ベルリネッタの膝が前田翔馬の顔面に突き刺さる!
「ブバッ!?!?」
そのまま後方へ吹き飛ばされた。
「ぐっ! グハ……ッ!!」
ボタボタ……
鼻血が勢いよく噴き出す、完全に鼻の骨が砕かれていた。
「この程度の攻撃もかわせない…… 無様」
「ご……ッ! ごのガキ!! 女だがらど手加減じでやっでいれば図に乗りやがっでッッッ!!」
「? 手加減? ……してた? あと言葉が聞き取りにくい」
「殺ずッッッ!!!!」
前田翔馬は両腕を突き出し指を弾く。
「《空間支配・貫通断裂》!!」
不可視の弾丸が複数ばら撒かれる…… だが……
ピピ! スッ―――
ベルリネッタはそれらの全てをまるで見えているかのようにかわした。
「ぐっ!? まだっ!! 何故だ!? どうじでごれががわぜる!?」
「レーダーに映ってる」
「レーダーだど? やばり探知魔法が……ッ!」
「? 次はこちらの番」
「!?」
そう宣言したベルリネッタは次の瞬間、またしても前田翔馬の目の前に現れていた。
そして右側頭部目掛けてハイキックを放つ!
前田翔馬はそれを咄嗟に手で防ごうとするが……
ボッ!!
左手の平が吹き飛んでいた。
「ギャアアアアァァァアアアッ!!!!」
「昨日の反省が全く生かされていない…… もしかして学習能力……無い?」
「アアアアァァァアアアッ!!!!」
「なんで手で防ごうとする? 咄嗟に手が出るのは仕方……ないにしても、それなら手甲を着けるべき…… 他の人間族の冒険者は全員着けてた…… あの半端者の勇者ですら」
「ァァァアアアッ!!!!」
「………… それどころじゃない……みたい?」
「な……なぜだ……」
「?」
「今の攻撃ば…… いや、ざっぎの蹴りも…… まるで…… まるで!」
まるで《空間支配》の《空間転移》!
「いやッ! ぞんな筈ばない! 《空間支配》ば俺だげに許ざれだ世界唯一のユニーグ魔法! 絶対にあり得ないッ!!」
「…………無様」
「ッッッ!!!!」ブチッ
前田翔馬の中でナニかがキレた。
「殺ズッ!!殺ズッ!!殺ズッ!!殺ズッ!!殺ズッ!!殺ズッ!!殺ズッ!!」
「…………」
ベルリネッタはそんな前田翔馬をずっと冷めた目で見ていた……
「ガアアァァアアアアアッ!!!!」
フッ―――
前田翔馬は《空間転移》を使い移動する、出現位置はベルリネッタの真上……
高く掲げた右腕を手刀のように勢いよく振り下ろした。
「《空間支配・次元分断》!!!!」
見えない刃が形成されベルリネッタに襲い掛かる。
「目標までの距離4.3…… 迎撃可能」
対するベルリネッタも両手で手刀を作りその場でクルリと回りながら前田翔馬に向かって手を振り上げる。
「次元分断:二連」
ベルリネッタは《次元分断》と同じ見えない刃を2本形成し放った。
そして1本目の刃が《次元分断》とぶつかる。
バチィッ!!!!
二つの刃はぶつかり合いその場で相殺された。
「なッ!?!? ぞ……ぞんな馬鹿な……!?!?」
あり得ない事態に思考が一時的にフリーズ。
その隙にベルリネッタが放った2本目の見えない刃が迫っていた。
ズバン!!
「ッ!?!? ―――――ッッッ!!!!」
前田翔馬の右腕は肘の部分でキレイに斬り飛ばされていた……
―――
「う……うぞだ…… 空間支配ば…… 俺だげの……」
右腕を切り飛ばされた前田翔馬はそのまま受け身も取れずにホテルの屋上に落下、気を失うも痛みですぐに覚醒。
今は少しでもベルリネッタから距離を取ろうとイモムシのように這っている、どうやら腰が抜けているのか足にうまく力が入らないようだ。
或いは出血多量で意識が朦朧としているのか…… どちらにしても今は止血してくれる人がいないので、もはや逃げ出すことすらままならない状態だ。
「…………」
ベルリネッタは逃げようとする前田翔馬の背中を踏みつける。
ドスッ!
「ぎゃぶっ!?」
「あなた浸蝕率を見る限り…… 今までに何人もヒトを殺している…… それなのにいつか自分が殺される立場になると予想できなかった?」
「ヒッ……ヒィィィィィ!?!?」
「………… 精神に異常をきたした……か」
今の戦いでベルリネッタが使用した空間干渉はすべて《時空間干渉システム・ストレージ》の機能を応用した疑似空間支配である。
『ストレージには生命を収納できない』
しかしエクスマキナは生命と分類されない、したがってストレージに収納可能。
この機能を使い疑似的な《空間転移》を実現した。
また《次元分断》も同じくストレージで空間の一部を収納し断裂を発生させ放ったのだ。
ただしこれらはストレージの有効射程距離・半径5m以内でのみ使用が限られるため、接近戦以外での使い道がほぼない。
「このまま英雄候補を放置したら…… 別の問題が発生する…… マニュアルに従ってこちらで処理します……」
―――
――
―
異世界生活15日目……
本日はヒマつぶしがてら冒険者ギルドに行ってみる。
あと数日でアヴァロニア大陸に着くが、現状無理してダンジョンに潜る冒険者はいない。
昨日の戦闘でほとんどの冒険者が負傷してるからな、ギルド側も文句は言えないだろう。
だが我々《反魔力同盟》は一度は潜らないといけない、まだ回収していないお宝とかあるからね。
それでも今日くらいはサボっていいだろう、昨日一番働いたのが俺達だから……達っていうか俺とベルリネッタがだな。
街には戦闘の傷跡がガッツリ残ってる、てか道端にワイバーンの死骸が転がってる…… 冒険者が路上解体を行っているが早く処理しないと色々香ってきそうだ。
冒険者ギルド内はなんか騒がしかった。
まぁ昨日あれだけの事件が起こったんだ、騒がしくても当然……と思っていたが、ちょっと様子がおかしい。
騒いでいたのはスーパーペガサス先輩のトコのMoMiMoMiガールズ、全員がキーキー金切り声を上げている、あれ完全にヒスってるよ、近づきたくねぇ~。
まぁ近づかなくても声がデカいから聞こえてくる、要領を得ないんだけどなんとか解読してみると…… あぁ~…… 彼女らの言葉を要約すると、スーパーペガサス先輩が行方不明らしい。
ホント、くだらないコトで騒いでやがる……
確かにココは海に囲まれた絶海の孤島、そんなところで行方不明者が出たら名探偵がアップを始める場面だろう。
しかし忘れてはいけない、この島なんとかシュタインに匹敵するほど広いんだ、今朝行方不明に気付いたとして僅か数時間、あんた等ちゃんと探したのか? 島の外も中も隠れる場所なんていくらでもある。
そしてそもそもいなくなったのはあのチャラ男だ。
アイツ空間干渉系の魔法使えるんだぜ? 今ごろきっとアヴァロニア王国のキャバクラで飲んだくれてるか、風俗で腰振ってるよ。
よって心配する必要なし。放っときゃイイんだよあんな奴。
―――
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―
それから数日たってもスーパーペガサス先輩は帰ってこなかった、この島が動いているおかげで座標が判らなくなって帰れなかったのかもしれない、もしくは俺と顔を合わせたくなかったのかもしれない……
なんかデウスマギア戦のあと睨まれてたし……
昨日、MoMiMoMiガールズ達がしびれを切らして一足先にアヴァロニアに帰っていった。
明日にはこの島もアヴァロニア大陸に着く。
もうあの先輩には会いたくねーな。
―― 人魚族/マーメイド 編・完 ――




