第62話「貴様貴様貴様貴s」
ドスッ!!
「!?」
《報復棘山田》を当てることによって、スーパーペガサス先輩の顔面を狙っていたデウスマギアのシッポは僅かに軌道を変えて顔の横すれすれを通り過ぎた。
なんとか間に合った……とは言い難いけど死ぬよりはマシだろ。
「か……神楽坂?」
「神楽橋!!」
男の名前全く覚える気がねーなコイツは!
「とにかく出血多量で死ぬ前に止血を……って、その腕じゃできないか」
仕方ないのでベルトで両腕を圧迫し止血してやる。
俺の服にはベルトがたくさん付いてるから出来たんだぜ? 中二ファッションに感謝しろ。
そういえばマナウイルス感染者が自然死した場合、保有していた魔力ってどうなるんだろう? 大気中に霧散して消えるのか? それとも近くにいる別の感染者に伝染るのか?
うん、多分前者だ、この世界には過去に何人もの勇者や英雄がいた、それらの魔力が血統みたいに受け継がれてたらデウスマギアはもっと大量に現れたハズだからな。
だからこそスーパーペガサス先輩は勇者たちを自らの手で殺そうとし、デウスマギアは勇者たちを庇ったんだ。
「なんだ貴様は……」
デウスマギアからの質問……
「全く魔力を感じない…… 劣等種か……」
……ではなく罵倒だった。
「そこはせめて原種と言って欲しかったな」
俺はお前らみたいに遺伝子まで弄られてる変態感染者とは違うんだよ。
「お前の様な劣等種に用はない…… このまま去るなら見逃そう……」
「俺はお前を始末しにきたんだ、余計な気遣いは必要ないぞ」
「ま……待て、神楽……橋! アイツは俺の獲物だ……手を出すな……!」
うわ、スーパーペガサス先輩がデウスマギアと同じコト言ってる、やはり双方ともこの世界の経験値システムを理解しているな、勇者たちは気付いて無いっぽいけど。
「獲物って…… その腕で何ができるんだよ? アンタをアイツに殺させるわけにはいかないんだ、大人しくしててくれ」
「お……お前こそ何ができるというんだ…… 劣等種のぶんざいで……ッ!」
ムカ! まぁたデウスマギアと同じコト言ってやがる、どんだけ気が合うんだよお前ら、もう結婚しろよ。
「そっちこそ助けてもらったぶんざいで偉そうな口を利くなよ? 殺される寸前だったじゃねーか」
「俺は……まだ…… 戦える…… 引っ込んでろ……ッ!」
相手は非力なメタルじゃない、ラスダンで道を塞いでいる中ボスか或いはラスボスに匹敵するクラスの敵なんだ戦えるわけねーだろ、片腕を失いもう片手には穴が開いてるんだぜ? アンタがカポエイラの達人だったとしても戦闘は無理だ。
もういいや、無視しよ。
「俺のコトを劣等種だと思ってるならただ黙って見てればいいさ、すぐにやられてアンタの番が回ってくるから」
「ぐっ……」
「お待たせ、それじゃ始めよっか?」
「愚かな…… 自ら死を選ぶとは……」
そう言うとデウスマギアの周りに10個の光球が浮かび上がる……
おい! なんで俺と戦う時だけ魔法を使うんだよ! なんかずりーぞ!
コイツを確実に仕留めるため、今回の戦闘計画では一つ枷が付けられている、それは近接戦闘オンリーで戦うというコトだ。
そんな時に限って遠距離攻撃…… いや、もちろん予想はしてたんだけどもさ……
ドシュシュシュシュッ!!
光球は光弾となり、それぞれ不規則な軌道を取り一斉に迫ってくる!
「ふぅーーー…… はッ!!」
スパァン!!
「!?」
迫りくる光弾は叩き付けることで消滅した。
スパパパパパァーン!!
全ての光弾を消し去った。
……なんてことはない、手にファイヤーウォールを纏わせて叩いただけだ、この程度の魔法なら完封できるしサポートのお陰で取りこぼしも無し。
「貴様…… 何をした?」
「神楽神影流…… 起の型『廻天』……」
何となくそれっぽい流派名と技名を適当に言ってみた。
もちろん俺は神楽神影流なる謎の古武術を修めてなどいない。
そもそもそんな古武術存在しない、仮にあったとしても俺とその団体には一切関わりはありません。
スゥゥーー…… ピタ!
一子相伝の拳法のような構えを取る。
そして前に突き出していた手のひらを返し「来い来い」をする。
ぜーんぶ床屋さんで読んだ古い漫画の演出だ。
「来な」
「おおおぉぉぉお!!」
デウスマギアが一気に距離を詰めて攻撃してくる、チョット煽ったら軽くキレたな、やはり元人間、普通の魔物ならこうはいかない、狙い通りの接近戦だ。
両手に加え、翼、尻尾、さらに先程と同じく光弾を同時に放ってくる、ちょっ!? こっちは腕が二本しかないってのに!
アドヴァンスドサポート! 思考加速マシマシで!
ズバン!! ズババババババ!! ズバーン!!
ぐっ!? スローモーションでも結構キツイ!! 文字通り手数が違い過ぎる!!
だがッ!!
スパパァーーーン!!
こっちは173cm、相手は2m超え、小回りを最大限に生かし体勢を低くして一気に懐に潜り込んだ。
オラァ! 喰らいやがれッ!!
「神楽神影流!! 承の型『昇牙』!!」
デウスマギアの腹に強烈な一撃を叩き込む!
「グハッ!?」
げ! 昼飯じゃなく血を吐きやがった! しかもなんかやたら黒い、ほのかに赤い血を…… もしかして誰か喰った?
デウスマギアは僅かに浮き上がり、その代わりに身体が折れ曲がり頭がいい位置に降りてくる。
この後頭部…… 実にいい位置だ。
軽く飛び上がり右足を限界まで上げる、おう、俺の股関節ってこんなに柔らかかったのか…… そしてこの高々と上げられた長い足(自称)を相手の後頭部目掛けて無慈悲に振り下ろす!
もちろんツノやトゲトゲが刺さらないように注意しながら――ッ
「神楽神影流…… 転の型『怒鎚』!!」
ドゴォォォン!! バギィッ!!!!
デウスマギアの無防備な後頭部へかかと落としを叩き込む、その衝撃で大地が割れた。
まぁ大地と言ってもハイペリオンが1000年間海を彷徨っている間に積もりに積もった堆積物だ、船体にまでは被害は及んでいない。
そしてこれで…… とどめだ!!
「神楽神影流…… 結の型『無砲』……」
無防備に立ち上がった敵に渾身の右ストレート!!
ズドオオオォォォーーーン!!!!
デウスマギアは思いっ切り吹き飛び近くにあった建物に突っ込んだ、そして崩れたがれきの下敷きに……
「神楽橋…… な……なんなんだ…… お前は? 魔力もない劣等種のくせに……?」
スーパーペガサス先輩はまるで化け物でも見ているような顔をしている。
俺に言わせれば体内に大量のウイルスを飼って喜んでるお前らの方が化け物に見える。
「神楽神影流・壱の奥義『起承転結』…… 魔力なんかなくてもこれくらいできる」
そう! 反則的超科学があればね!
「起」で相手の攻撃をいなし懐へ飛び込み、「承」でアッパーカット、「転」でかかと落とし、「結」で正拳突き。
しかも全ての攻撃にファイヤーウォールを並列起動し、相手の身体強化を無効化して防御力・運動性能を著しく下げている。
普通の人間なら確実にあの世行きだな、南~無~。
ボゴォーーーン!!
「…………」
しかしデウスマギアは元気に瓦礫から這い出してきた……
クッソ頑丈なヤツだな、さすがは龍種と呼ばれるだけのコトはある。
あ、いや、結構ボロボロだな? ファイヤーウォールのお陰で自己治癒力も低下しているから。
「貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ッ!!!!」
おぉ~、マジギレしてる。
セリフの末尾に「……」を多用する奴は静かにキレると思ってたんだが、めっちゃブチ切れてんじゃん。
デウスマギアに転生する前は激情家だったのかもしれない。いや、そもそも前世の記憶って残ってるのかな? 転生モノで前世の記憶が残らない奴を俺は知らない。
どちらにしてもここまで激しくキレられるのは予定外だな…… 激情に任せて想定外の動きをされるのも困る。
ふむ…… ちょっと雑に煽ってみるか。
「うへぇ~、クチデッケー♪ 耳(らしき突起)近くまで裂けてんじゃん、スイカ一口で食えるんじゃね? カバみたいに」
「貴様……」
よし「……」が戻ったな。
稚拙で低レベルな煽りを受けるとかえって冷静さを取り戻したりするものだ。
ただし勇者みたいな奴には逆効果だ、さらにヒートアップするに決まってる。
「もういい…… 貴様と遊ぶのもこれまでだ……」
そう言うとデウスマギアは静かに浮き上がった。
逆だ逆、お前が俺に遊ばれてるんだよ。
しかしあのボロボロの翼でどうして浮き上がれる? やっぱり魔法で浮いてるのか……
そうだよな、身体に対して翼が小さすぎるもんな、プテラノドンも翼は大きくても身体は貧弱で軽かったらしいし。
デウスマギアは10mほど浮き上がったところで静止し、先程同様、光球を発生させた。
1秒に2~3個ずつ増えてる、いつまで増え続けるのやら…… アレを一斉に放たれたら「廻天(仮名)」では捌ききれないだろう。
まぁファイヤーウォールを全身に纏えば俺は無傷で済むだろう、俺はな。
問題は近くでのんきに観戦している勇者二人とボロクソスーパーペガサスだ、確実に巻き込まれる…… 守ってやらないといけないな。
だがギデオンの《闇夜之帳・極限剣現》ほど多くはない、その代わり威力や追尾性能が桁違いに高いんだろう。
お、増殖止まったかな? え~と…… 2、4、6、8……
ポーン♪
『マスター、光球の数…… 422です』
ベルリネッタが通信で唐突に俺の疑問に答えをくれた……
おかしいな? 脳にチップを埋めてないのになぜ俺が数を数えているコトが判った? もしかして声に出てた? 恥ずかしい…… 以後気を付けよう。
『エネルギー充填完了しました』
「あぁ、いいタイミングだ」
計画通り、状況はすべて整った。
「ベルリネッタ、やってくれ」
『イエスマスター、対師団殲滅用九連砲塔・全砲門発射』
カッ!!!!
「!?」
俺たちの位置からは死角になる地点からエーテリウス粒子砲が放たれた。
だがそのビームは9本どころじゃない、数千、数万…… 光の線で空が埋め尽くされる勢いだ、九連とは一体? 拡散ビーム砲の砲塔が九連って意味だったのか。
そしてワイバーンとドラゴンは次々にビームに貫かれ焼き尽くされていく……が、一匹あたり平均数百ものビームに貫かれたら原形なんか残ってない、つーかほぼ欠片が燃えてる。
過剰だ…… 抑え気味にするのを伝え忘れていた……
「なッ!? なんだこれは……ッ!?」
そしてそんな力の奔流はデウスマギアをも容赦なく飲み込む。
ズドドドドドドドドドドッ!!!!
? 貫通しない?
巨大なドラゴンですらビームに貫かれて謎肉サイズになってたのに、デウスマギアにはビームは刺さらず爆発? 火球? 光の玉に変わって焼かれていた。
これほどの威力があっても《龍種》を仕留めることは出来ない……のか。
「うおおぉぉぉおおお!!」
デウスマギアは光と爆煙にまぎれて姿は見えず、声も微かにしか届かない。
あとは仕上げだ。
「硬滅式・地龍殺し《ベヒモス》」
ストレージから対デウスマギア用最終兵器・龍殺しを取り出し構える。
当然こちらからも敵の姿は目視できないが問題ない、だってターゲットマーカーが出てるから。
この条件を整えるために随分と無駄な努力をさせられた……
だが、これで終わりだ。
「発射」
キュィン! バシュッ!!
撃ちだされた光弾は光の中へ消えていった…… そして……
「うおおぉぉ……ぉお……ぉ…………ぉ……ッ」
デウスマギアの断末魔と同時にマーカー表示も消えた。
《特別解説》
『変態/へんたい』
姿形がが変わること、蛹が蝶に変わるようなこと、HENTAIのコトではない。
ポケットなモンスター等でお馴染みの「進化」は、正確には「変態」と言うべきであるが、字面が悪いせいか無かったコトにされている。
『神楽神影流/かぐらしんかげりゅう』
敵を倒すことは二の次で、スタイリッシュさに主眼を置いた架空の古武術。
その構えはどっかで見たコトがあるモノばかりで、かっこよければ何でもイイという柔軟かつ自由なスタイル。




