第61話「肉を食わずに割り箸を喰う」
ダークウィード『古代迷宮・ラインフォール遺跡』第一層まで上がってきた。
なにか外に通じる階段の辺りが騒がしいが……
そこは大量の人でごった返してた…… え? ナニやってるのこの人達? ここダンジョンだよ?
「どうやら遺跡内に避難してるみたいですね」
避難て…… ゴーレム軍団とワイバーン軍団ってどっちの方が危険度上なんだろう?
単純に階段付近はゴーレムの巡回エリアから外れてるだけか?
見渡してみればケガ人も多いみたいだし外は結構な修羅場みたいだ。
あ、いた、勇者パーティーの癒し担当女僧侶のフラン嬢だ。
ケガ人の治療にあたってるみたいだが勇者は放っておいて大丈夫なのか?
まぁいいか、あんな奴のコトなんかどーでも……
『ギャアォオォアアアァァァーーー!!!!』
「な!? なんだぁ!?」
凄まじい唸り声が上の方から聞こえてきた。
見れば出入り口から一匹のワイバーンが侵入しようとしていた。
「前足が無いのによく入ってくる気になるものだな……」
「言ってる場合!? ご主人様ぁヤバいよ! ブレス吐こうとしてる!」
「落ち着けキララ、あと揺らすな、ユリア、狙撃を頼む」
「了解です」
ダァンッ!! バアァーーーン!!!!
見事一発でワイバーンの頭を吹き飛ばした。
俺が指示する前から準備してたな、非常時はキララより優秀だな。
…………
あぁ…… ワイバーンの死体が転がり落ちて階段が血塗れに…… 登る時滑ってコケないように気を付けないと。
「さて、各々の役割についてだが…… ユリアはここで待機、もしまたワイバーンが入ってきたら狙撃で仕留めてくれ」
「はい、お任せください」
距離が取れて敵の出現ポイントが確定している狙撃なんてヌルゲーと同じだ、ここは任せて大丈夫だろう。
ただ外の状況が確認できないのが少々問題だが……
「はいは~い♪ ご主人様、私とシャロちゃんはココで留守番してます♪」
「え~、おるすばん~?」
「オン」
「…………」
確かにキララとシャロを外に出す意味はない、危険が増すだけだ。
ただそんな嬉しそうに留守番宣言されると、今から外へ危険な仕事をしに行く俺としてはムカつくだけだ。
「いや、キララにはやって欲しいコトがある」
「はい?」
「キララにしかできない仕事だ、主にユリアのサポートだが……」
「いやぁぁぁーーー!! もう囮はいやぁぁぁーーー!!」
「は?」
なにかトラウマスイッチ押した?
「別に囮じゃ……」
「ウソッ!! ずっと「お前なんか囮くらいにしか使えない」って言われてきた(気がする)んだから!
しょうがないじゃない! 狩りなんてできないに決まってるでしょ! だって私の前世腐女子よ!? 妄想の中でしかアクティブに動けないわよ!!」
お前の前世腐女子かよ…… まぁなんとな~くそんな気はしてたけど……
「そりゃシャロちゃん可愛いし、だったら囮はキララちゃんでイイか?ってなるでしょうよ! 私だってこの二人なら自分を選ぶさ!」
「いや、チョット落ち着け……」
「でももう嫌なの…… 素っ裸で森の中を巨大猪に死ぬほど追い掛け回されるのがどれだけ惨めだったことか…… ぴえ~ん」
ぴえんて…… そりゃ惨めってより死を覚悟するレベルの出来事だろ。
キララの過去にはまだまだ地雷が埋まってそうだ……
「とにかく落ち着け」
チョップ!
「ぁ痛ッ!」
「キララに囮をさせる気は無い、ベルリネッタ、アレを」
「イエスマスター」
ベルリネッタがストレージから取り出したものをキララに渡す……
「こ……これはッ! スマホぉぉぉん!!」
スマホぉん……て、やめろ、乙女の出す声じゃねーぞ。
これは俺のスマホのコピーをプレアデスで作ってもらったモノだ、俺のスマホもいつか壊れるかも知れないから状態のいいうちにコピっといて貰った、もちろんデータはバックアップ済みでキララに渡したモノは初期化済みだ。
「使い方は説明しなくても解るだろ? 現状それを使えるのはキララだけだ。それを使って仕事をしてもらう、具体的には監視機から送られてくる情報を精査してユリアに伝えてくれ」
「なるほど、私にしかできない仕事…… 囮以外にもあったんだ……」
まぁワイバーンはそんなに入ってこないと思う、だが出入り口が塞がれるのは避けたいからな。
「ねぇご主人様、コレ……貰っていいの?」
うわぁ…… めっちゃ欲しそう、こういう顔見ると後で返せって言いたくなるけど……
「元々そのつもりだ、いずれはユリアやシャロにも持たせる予定だ」
「よしッ!」
そんなに嬉しいものかね? 通話可能な相手は現在オレとベルリネッタだけ、当然ネットにも繋がらない。
一応ベルリネッタが構築した「プレアデス・アーカイブ」に接続してちょっとした検索くらいはできるけど……
パシャ♪
…………
「キララ君、相手の了解を得ずに勝手に撮影するのはマナー違反じゃなかったっけ?」
「ゴメンナサイ、待ち受け画像が欲しかったんです、フヒヒ♪」
え? 俺を待ち受けにするの? そういうの撮るなら事前に言っといてもらわないと、大丈夫? 鼻毛とか出てない? こんな中二病丸出しの格好とかちょっと恥ずかしいんですけど?
「おにぃちゃん、シャロも一緒に行きたい」
おっと、予想外のトコロからクレームが来た。
「俺もシャロを連れて行ってやりたいのは山々なんだが、さすがに危険すぎる。シャロを危険な目に合わせたくないんだ、判ってくれ」
「むぅ~」
早太郎がいれば大丈夫かもしれないが、性能テストするには少々修羅場過ぎる。
「それじゃそろそろ行くとするか」
「はい、ご武運を」
「早く帰ってきてねぇ~」
「いってらっしゃ~い♪」パシャ
………… キララがウィンクしながら自撮りしてる。
こちらを全く見ていない……
「うはっ♪ 今世のキララちゃん超カワイイ! 修正しなくてもインスタアップ余裕ね!」
スマホ渡すタイミング間違えたかなぁ。マジでこいつ前世で何歳だったんだ?
―――
外に出てみると俺の想像以上に修羅場だった。
うわぁぁぁぁぁぁぁ! なんかあそこ鳥葬みたいになってるぅぅぅぅぅ! あ、なんだ、ワイバーンがワイバーンの死骸喰ってたのか。
でもこれどっかでヒトが喰われててもおかしくねーぞ。
そして……
「襲ってこねーな」
直ぐ近くを飛んでるワイバーンはチラ見はするけど積極的に襲ってはこなかった。
きっと圧倒的な実力差を感じ取って避けられてるんだ。
「目の前に魔力をたっぷり蓄えたエサが大量にあれば、わざわざ我々を襲う魔物はいないでしょう」
ベルリネッタがネタバレしてくれた。
そりゃそうだ、焼肉食い放題に行って肉を食わずに割り箸を喰うバカがいるワケない。
「ま、襲われにくいってんなら好都合か」
もちろん完璧じゃない、見た目はエサに似てるから馬鹿な個体が間違えてかじりに来るかもしれない。
「それじゃベルリネッタ、予定通り頼む」
「イエスマスター、プロトアームズ《Z》対師団殲滅用九連砲塔・展開」
ベルリネッタの周囲に合計9本の砲塔が出現する。
砲戦用追加機甲だ。
「当機はこれよりチャージを開始します、マスターは……」
「あぁ、予定通りデウスマギアを倒しに行く」
「どうかお気をつけください」
この『対師団殲滅用九連砲塔』なる武器、見た目では巨大砲塔が9本しかないように見えるが、本体の至る所にギミックで隠された小型砲塔が搭載されてるらしい。
そして最大数万の敵を誘導射撃で一度に倒せるとか、なのでベルリネッタにワイバーンとドラゴンの処理を任せる。
その間に俺がデウスマギアを倒す計画だ。
……仕方ないとはいえ、なんでこんなプランに乗っかってしまったのだろう?
俺の危険度がめっちゃ高い、計画通りコトが進めばイイんだが……
―――
ベルリネッタと別れ現場へ向かう。
デウスマギアにベヒモスをぶち込んでやれば勝ちなんだが、そんなに単純な話でもない。
まずベヒモスはチャージに多少の時間が掛かる、つまり外すと一気に大ピンチに陥るワケだ。
一発必中、確実に当てられる状況を作らなければならない。
普通の魔物ならアドヴァンスドサポートがあれば外すことはまず無い、でもデウスマギアは普通じゃないからなぁ……
まずはデウスマギアをよく見て相手の実力を把握する。
敵のデータを取ってスペックをサポートシステムに入力すると言い換えてもいい。
要するに敵を観察する時間が欲しい、今も監視機で情報収集しているが、その時間が長いほど俺に有利になるワケだ。
「ッ! みんなさがれェーッ!!」
お、聞き覚えのある声がした……
これは……
「エルエネミス流剣術・信天翁・空断ち!!!!」
アホウドリ……ってことは3位勇者か。
チャンスだ、いい機会だからじっくり観察させてもらおう。
「これでとどめだ!! 火炎斬り!!!!」
ガキィィィン!!
勇者の攻撃はデウスマギアの多層構造結界の一枚を破った…… それだけで喜ぶなよ、相手のほうが格上なんだから。
あ、ちなみに結界は120層構造だ、思ったより少ないなもっと何万枚って張られてると思ってた。
「下がりなさいルーファス!」
「ッ!? モモ姉ッ!!」
姫勇者が3位勇者の脇をすり抜け攻撃を仕掛ける、実質真正面から突っ込むとはなかなか勇気のあるお姫様だ。
「光系統魔法《超越級・閃光閃》!!」
光線系の魔法で攻撃するも全く効いてない、結界も二枚しか破れてない…… まぁそれでも3位勇者の倍だからなぁ……
しかしオリハルコン製の聖剣か…… やっぱり特別な力があるのか? あの時奪っておくべきだったか……
ピコン!
サポートから警戒音が鳴る。
見れば勇者たちの真上に突然スーパーペガサスが現れた。
空間転移……か。
バチィーン!!!!
「ぐわっ!?」
「きゃっ!?」
勇者二人がデウスマギアに思いっきりシバかれて吹っ飛んだ。
「《空間支配・次元分断》!!」
スーパーペガサス先輩が放った攻撃はデウスマギアの結界をすべて破壊していた…… すげぇ…… これは勇者と英雄候補の力の差というよりスーパーペガサス先輩の異能魔法が強すぎるんだ。
恐らく空間に切れ目を作ってぶち当てたんだ、たとえ強固な結界でも空間が割れれば耐えられない。
物理的にあの切断攻撃を防ぐことは不可能だ。
だが…… 今の攻撃、デウスマギアより勇者たちを狙っていた気がする……
この世界に来てすぐの時、魔力を高める方法を聞いたとき思ったコトがある……
―― これって人間同士での殺し合いが起こるんじゃないのか? ――っと。
いまスーパーペガサス先輩は明確な殺意を持って勇者たちを攻撃した…… 俺の危惧した通りに……だ。
いや…… 確かに危惧はしてたんだけど、そんな状況になるのはもっとずっと先の話だと思ってた、まさか2週間足らずで殺人に対する禁忌感をガン無視するようになるとは思いもしなかった。
せめて1年くらいは頑張れよ、たった2週間で闇落ちすんな。
やはりマナウイルスは禁忌に対する感情を抑制する脳内物質とか作ってるのかもしれないな。
白馬はどうしてるだろう? こういうのは劣等感が強い人間ほど影響が大きかったりするものなんだが…… 何となく白馬は大丈夫な気がする。根拠はないが。
それで戦いの方なんだが……
見ようによってはスーパーペガサス先輩優位に見える。
目に見えない次元断裂の弾丸をコッソリ撃ったりしてる、セコいけど当たればほぼ即死の攻撃は戦術的にも優れている。
ただ個人的にはもっとサッカー部らしい技を使えよと言いたい、足を使え足を。
ビシッ! ビシッ!
ス―――
デウスマギアはまるで見えているかのように弾丸を避けた。
コレは推測だがスーパーペガサス先輩の魔法は光も音も発しないため探知はできない、しかし射線上にある空気や塵、魔力などを飲み込みながら移動する、そちらを探知すれば見極めるのも容易いハズだ。
「くそっ!!」
フッ―――
ブオン!!
スーパーペガサス先輩がテレポートで攻撃をかわした、さっき突然勇者たちの頭上に現れたのはコレか。
「クッ! なぜ…… 見えない攻撃がそんな完璧に避けられるんだ」
「なんだ…… そんなことも解らないのか?」
「ヤロゥ…… だったら決して避けられない攻撃をするまでだ! 《空間支配・次元収納》」
でた! 異世界お約束のアイテムボックス! 俺もストレージを使えるけどやっぱ便利なんだよな。
もしかしてこの世界でアイテムボックス系の能力を使えるのって俺たちとスーパーペガサス先輩だけなのかな?
そんなご都合主義の権化たるアイテムボックスから取り出したのは一本の槍だった。
「雷光突撃槍!」
だから槍じゃなくボールを出せよ。
「雷帝の一撃!!!!」
スーパーペガサス先輩は槍を明後日の方向へ全力投擲…… すっぽ抜け? ダサ……
……と、思ったら。
「さあ踊れ! 《空間支配・合わせ次元鏡》!!」
放たれた槍は突然消えた。
しかし次の瞬間にはデウスマギアの背後から現れて翼を大きく抉っていった。
そしてそれが繰り返される、厄介なのは速度がどんどん上がっている事か、アレの対処は相当難しいだろう。
しかし反射を繰り返す「合わせ鏡」というより、別の空間とトンネルでつなぐ「どこで〇ドア」だろ。
だがアレならストレージで再現できそうだ…… 5mの近距離限定だが。
対するデウスマギアは結界を新たに張り対抗する。
あの槍は物理攻撃だから結界で防げる…… ん? 一枚だけ広い結界を張ってるな、スーパーペガサス先輩も結界の内側にいる…… 罠か?
デウスマギアが超スピードで距離を詰めると同時に広い結界を収束させる。
それによりスーパーペガサス先輩は背後から衝撃を受け決定的な隙を見せてしまった。
ズバッ!!
「ぐ……ぐあぁぁぁーーーッ!!!!」
うげ…… 腕を切り飛ばされた……
そこらの魔物とは頭の良さが比べ物にならないな、さすがは元人間。
「殺すッ!! 殺す殺す殺すッ!!」
「無駄だ、これが人間族最大の弱点「《魔痕》からしか魔法を出力できない」だ」
あぁ、そう言えばそんな説明を最初に聞いたな、そうか…… 両手を潰せば人間族なら無力化することもできるのか……
いつか役に立つかもしれない、覚えておこう。
そしてデウスマギアは残りの手の平を刺し貫き、スーパーペガサス先輩を完全に無力化した。
「ギャアアアァァァァァァァア!!!!」
「これで魔法は使えなくなった…… 転移で逃げることもできない……」
竜人は手の平からシッポを抜き頭に目標に狙いを定めた……
あ! やべっ! 完全に観戦モードに入ってたがそろそろ本気でヤバイ!
「これで終わりだ……」
ドッ!!
《特別解説》
『アイテムボックス』
異世界モノではかなりの高確率で出てくる便利能力。平たく言うと四次元ポケットの類似品。
作品によって「ストレージ」や「インベントリー」などと呼ばれることもあるが性能は大体同じ。
殆どのアイテムボックスには生物が入れられない制限が付けられている。




