第49話「タピオカ無双」
異世界生活10日目……
異世界転移者に休息は無い。
今日も朝から街をぶらぶらする…… 凄まじい苦行だ。
あぁ~…… 昼まで寝てたい。
「ご主人様、今日は何するんですか?」
「ハロワに行って新しい求人の確認だな」
「冒険者ギルドに行って新しいクエストの確認ですね」
キララの冷酷無慈悲なコメ返し、ツッコミ無しですか。
でもあさイチは混んでそうなので後回し。
え? イイ依頼が無くなる? 大丈夫大丈夫、高難易度クエストってのは残ってるものだから。
「まずは…… 武器屋かな?」
「武器…… 必要ですか?」
うん、全く必要ない。
その気になれば太陽系くらい簡単に破壊できる凶悪な武器庫が俺の隣を歩いてるからね。
「マスターに武器…… 必要ない」
当然ベルリネッタは反対してくる。
だが大丈夫、ちゃんと理由はあるから。
「俺が買おうと思ってるのはキララの「見せ武器」だ」
「へ? 私? 見せ武器?」
「俺たちって見た目が全然強そうじゃないだろ?」
普通の耳長族より明らかにAGIが低そうな巨乳エルフと、小型室内犬より野性風味が少ない獣人族。
そして黒一色のヒョロ男にゴスロリ美少女……
迫力ってやつが欠片ほども無い。
こんな奴らはただのカモだ、美少女が3人もいるってトコロがなお悪い。
実際ガラの悪そうな奴にチラチラ見られる。
ぶっちゃけ今も見られてる。
もちろんベルリネッタが常に『無限螺旋槍』と『無限回転式電磁加速砲』を出しっ放しにしておけば、相当抑止力になるだろう…… あの武器見た目からしてヤバいから。
でもあんなデカいの出しっぱにしておいたら邪魔で仕方ない。
「要するに「俺たちに手を出したら反撃すっぞゴルァ!」って思わせたいんだ」
「ん…… 一理あるかも……」
「だろ?」
パワードスーツがなければ1mmも持ち上げられないような大剣とか背負ってたら、一目置かれる存在になるだろう。
そんな奴がエレベーターに乗ってたら俺だったら諦めて階段使う。
「ゲームに出てくるような装飾過剰な禍々しい短剣とか格式高い長剣なんかが望ましいな」
例えば勇者が持ってた聖剣みたいなやつ、大剣とか要らない邪魔だから。
―――
ハーマン武器防具店
バルハナにある武具店の中で一番取り扱ってる商品が多い店をユリアにピックアップしてもらった。
量産品はお値段も非常にリーズナブル、貧乏人にやさしい店だ。
カラン♪ カラン♪
「いらっしゃい」
店内には多種多様な武器が所狭しと並べられている。
ちなみに防具は2階だそうだ、そっちは要らん、せっかくキララには露出度の高い服を着てるのにモンスターをハントするゲームみたいなガチガチの鎧を身に付けさせるつもりはない。
「あの…… イヅナ様、わたし上の階を見てきてもいいですか?」
ユリアが遠慮がちに聞いてくる。
「なんで?」
「ここならもしかしたら私の胸を隠せる防具が売ってるかもしれないので……」
…………?
その乳袋の服を変えるつもりなのか? そんな勿体ないコト許可するワケないじゃん!
「却下、残念だけど金がな~……」
「あぅ…… そ、そうですよね……」
金があっても却下するけどね……
まぁビキニアーマーを買いたいってんなら考慮する。
…………
イイなそれ、この店ビキニアーマー売ってないかな? ちょっと上見てきていい?
「あッ!! これッ!! ご主人様! 絶対これがイイよッ!!」
「あん?」
キララがおススメ武器を持ってきた、まるで木の棒を加えて持ってくるワンコのようで可愛い。
そして持ってきたモノは……
「出たよ…… 刀だ」
何で当たり前のように異世界の武器屋に刀が並んでるんだよ? ここが東の島国の武器屋ならまだしも砂漠の国の武器屋だぞ? シャムシールならともかく何故に刀?
そもそもラインナップが殆ど西洋剣なのに何でこんなとこだけ和洋折衷?
そんな品揃えの武器屋オレの知る限りじゃ鎌倉の武器屋くらいしかないぞ。
「あぁ、それは六英傑の一人『博愛の英雄・犬飼健』が炭鉱族の名工『蒼鋼のドノヴァン』に打たせた『名刀・上泉伊勢守』の復刻モデルだ」
武器屋の店主が得意げに解説してくれた……
あの重度のケモナー英雄・犬飼健か…… 完全に中二病拗らせてたんだな。
「上泉……伊勢守ってどっかで聞いた名前だな」
「上泉 伊勢守 信綱は戦国時代の剣士ですね、かの新陰流の祖でもあるんです!」
あぁ、バ〇ボンドで読んだな、その話……
「詳しいねキララ君」
「あ…… えぇ、まぁ…… 嗜む程度ですけど……」
コイツホントに前世はJKだったんだろうか? 極めて疑わしい。
「だが片刃の剣はいいな、峰打ちができる」
モンスター相手ならともかく盗賊とか相手にパワードスーツのアシスト斬りを放ったら真っ二つにしてしまいそうだ。
だが峰打ちなら例え脳天を全力でどついても不殺でいける、幕末最強の人斬りが言ってたんだから間違いない。
「かつて八代将軍は毎週のように峰打ちで悪人を成敗してたんだから!!
あぁ~、いいよね健サマ! たまらないわ~♪」
「お? 嬢ちゃん若いのにわかってるねぇ」
武器屋のおっさんとキララがシンパシーしてる…… それ健サマ違いだと思うよ。
「あとピーチ太郎侍とか、あと何といっても昼行燈のモンド様♪」
「…………」
「ハッ!?」
「キララって時代劇……というよりチャンバラオタク?」
「わふっ! わたし他の武器見てきます!」
キララが逃げ出した…… アイツ昭和生まれだろ?
「それでどうするんだい坊主? ケン信者のよしみで安くしとくぜ?」
俺はマ〇ケン信者じゃ無いけどな……
「ちなみにいくらだ?」
「150万のところを125万にまけてやるよ」
クッソたけぇ、完全に予算オーバーです。
「刀は力ではなく技で斬る武器だ、素人に持たせていきなり使いこなせるとは到底思えないな」
「なんだ、詳しいじゃないか」
判ってんならそんなもん進めんな。
「まずは使えるか試したいから安いのを売ってくれないか? 使えそうならまともなモノを買うよ」
「なるほど、だったらそこのテーブルのならどれでも一つ3万ディルだぜ」
広い通路のど真ん中に置かれているテーブルには剣や槍やメイスなど多様な武器が無造作に置かれている…… ワゴンセールだ…… ワクワクするね、庶民の俺にピッタリだ。
だができるだけ高品質なモノを選びたい、何故なら買い替える気は全く無いからだ。
ドラゴン殺せそうな武器ないかな?
「マスター、コレ…… いいと思う……」
「ん?」
俺が吟味しているとベルリネッタが一組の小手を選んでくれた。
手の先から前腕まですっぽり覆う小手だ、可動式のトゲ付きナックルガードまでついてる…… なかなか暴力的な見た目でイイ感じだ。
ただ…… 赤茶色のシミみたいなのが所々に…… コレ中古? 明らかに誰かの血を吸ってるぞ?
「何か特別な力でも宿ってるのか?」
そう、ワゴンセールには夢が詰まってる! ごくまれにプレミア価格が付いてる品が格安で紛れ込んでるコトがあるんだ!
まぁ残念ながら俺はそんな商品に出会ったコト無いけどね、クソゲー率100%だ。
「材質的に一番頑丈…… 長持ちする……」
「あ……そう…… うん、それ重要だよね」
この世界で常に金欠気味の俺たちには非常に重要なポイントだ。
まぁベルリネッタがおススメするならそれを選んでおけば確実だろう。
―――
「わふ…… 可愛くない……です」
見せ武器なんだから可愛さは要らないんだよ。
結局今回はキララの見せ武器だけを購入して終了。
お金が無いんです……
ホントはゴスロリ姿のベルリネッタに死神っぽい大鎌を装備させたかったんだけど、そもそも大鎌って武器カテゴリーが存在しなかった。
骸骨は使いこなしてたけど、普通に考えればアレは武器としては使いにくいだろうからな。
「それでイヅナ様、あとは何を買うんですか? もう予算の方が結構……」
「そんなに高い物はもう買わないよ」
ユリアに市場へ案内してもらった。
品揃えはユグドラシルより断然いい、港町だからな、輸入も頻繁に行われてるのだろう。
「さてキララくん、これより君に重要な任務を与える」
「わふ? あ……つ、ついにですか? わ、わたし! 経験は無いけど精いっぱい努めます! ですから最初はやさしく……お願いします///」
何の話をしてるんだコイツは?
いや、判るけどさ…… どうして真っ昼間の市場でそんな話題を切り出すと思えるんだ?
「妙な勘違いをするな」
「え? 違うの?」
違わないけど違う、それはまぁ…… 追々ね。
「キララに頼みたいのは料理だ、得意なんだよな?」
「はい、胃袋を掴むのは重要だと前世から思ってましたから」
胃袋って…… 前世で婚活でもしてたのか? 今世で夢がかなうといいね?
…………あ、俺がかなえてあげるのか。
「キララにはカレーの完全再現を頼みたい」
「カレー……ですか?」
「そう、みんな大好きカレーライスだ」
「もしかして…… カレーで一獲千金とか狙ってます?」
ルースにはすでにカレーが存在しているかもしれない、むしろその可能性の方が高いくらいだ。
だがカレーはスパイスの配合で味が変わるから旨いものを作れば確実に売れる……と思う。
この街、妙にスパイス類が豊富に取り揃えられているんだから試さない理由はない。
「でも、カレーよりマヨネーズの方が手っ取り早いし味も安定すると思うんですけど?」
あぁ、俺と同じ発想してる……
「残念、この世界でマヨネーズ無双はできません、俺たちの先輩転移者がとうの昔に無双済みらしいぜ?」
「はぁ!? あぁ、そうかぁ…… 私たちの他にも転移・転生者っているんですよね…… そりゃマヨネーズなんて真っ先に実用化されてますよね」
うん、俺が真っ先に思いつくモノだからね。
「だったらもっとマイナーな食べ物のほうがいいんじゃないですか?」
「マイナーな食べ物で天下取れる?」
「あぅ…… えっと…… タピオカ無双とか?」
なんで俺たちの思考回路はこうも似ているのか……
《特別解説》
『タピオカ無双』
令和4年、ブームはすっかり下火になる。