第48話「修羅場ってる」
異世界生活9日目……
本日も朝から砂漠移動中。
何故だか一度も魔物に遭遇しない…… ハッキリ言って暇である。
「マスター、見えてきた」
「ん? おお、やっと着いたか……」
スマラグドス大陸、国境の街バルハナ……
それは大きな入り江を囲むように作られた町だった。
「あれ? ここがケモナ砦じゃないのか?」
「あ、ケモナ砦はあっちです」
ユリアの指差す方向、入り江を囲む断崖の両端に建つ二つの灯台。
「あの断崖すべてがケモナ砦なんです。ただの崖に見えるかも知れないですけど中身はくり抜かれて要塞化されてるそうですよ」
「へぇ~…… それって魔王軍対策なのか?」
「もちろんそうですけど、ソレだけじゃないです。この大陸の周囲には水深1mにも満たない浅い大陸棚が数km広がっているそうです、そのおかげで大型の魔物がめったに陸に近づかないんです。
もちろんそんな地形だと大型の船も近づけないんですけど何箇所か例外があるんです、それは海溝が大陸棚を割っているところ」
「つまりこの入り江がソレなわけか」
そんな地形だから魔王軍も大型魔物もやってくる場所が限られるってワケか。
でもそれなら魔王軍は大陸棚を歩いて進軍とかしないのかね? 俺が指揮官なら相手の虚をつく戦略を取るな……
まぁ魔王軍はあまりこの大陸侵攻に本腰を入れてないみたいだからな、アヴァロニアばかりが攻められるって言ってたし。
ユグドラシル侵攻もたまたま都合のいい大穴が空いてたからだろうしね。
「イヅナ様、これからどうするんですか?」
「まずは…… 冒険者ギルドに行ってみるか、いい加減金を稼がなきゃいけないし」
新しい街に着いたらまずギルド! これ異世界の常識だから。
ちなみにゲームだったらそこら中の人に話しかけ、ツボや樽を破壊して街中くまなく物色する場面だ……
考えるだけでも面倒くさい…… つーか完全にキ〇ガイだ。
レトロゲームなら人も少なく街も狭い、そして何より誰も気にしないから実行できるけど、現実では実行不可能だ。
この街、広さだけなら東西ユグドラシルより広いからな。
「それでしたら私がご案内いたします」
「ユリアはこの街に詳しいのか?」
「来たのは初めてですけど、いずれ来る時のために下調べはしてたんです」
あぁ、冒険者になったら国を出る気だったんだっけ? オレ(ベルリネッタ)に会えなければ使う機会のない知識になってたところだな。
「じゃあギルドまで案内してくれ」
「はい」
―――
街を歩きながら観察してみて思ったのは…… 殆どが人間族だということだ。
割合的には人間族70%、獣人族25%、耳長族5%って感じだ。
さすが人間、ドコへ行ってもポコポコ増える。
正直言って獣人族もたくさん子供を生むイメージだった、一度に4~5人産んでねずみ算式に増えていくような……
だが実際には見た感じでは人間族のほうが繁殖力が高そうだ、きっと獣人族は一人の女を巡って殺し合いが発生したり、個体によって発情期とかがあってそんなに出生率が高くないんだろう。
実際、強い生き物の方が一度に産む子供の数は少ないものだからね。
「到着です、ここが冒険者ギルド・バルハナ支部です」
「おう、ごくろーさま」
冒険者ギルド・バルハナ支部。
周囲の建物より一回り大きいしっかりした建物だ。
さすが国境の街、多くの冒険者が行きかうのだろう……
そんなギルドの中がやたら騒がしい、聞き耳を立ててみる……
「ユグドラシルに魔王軍が攻めてきた!?」
「今すぐ上級以上の冒険者を派遣しろ!!」
「相手は軍隊だぞ! そんな少数の冒険者を送ってどうなる! 動かすなら軍だろッ!!」
「軍は大陸の入り口であるこの街を守るためにケモナ砦に駐留しているんだぞ!? ここの守りを疎かにはできない!!」
「大体今から軍を動かしても間に合わない! ユグドラシルまで行軍するのに早くても4日は掛かる! それなら軍をユグドラシル方面に展開して防衛ラインを築くべきだ!!」
「馬鹿なッ!! ユグドラシルを見捨てるつもりか!!」
ギルド内は大そう修羅場ってる。
既に問題は解決しているのだが俺がそれを伝えたところで誰も信じないだろう。
俺には「魔力」と同じく「社会的信用」というステータスが致命的に欠落してるからな。
「どうしましょうか? とても依頼を受けられる雰囲気じゃないですね?」
「今日は依頼の確認だけして引き上げよう、どうせこの混乱も2~3日で収まるさ」
既に魔王軍は撃退済みだからな。
ヒートアップしてるギルド職員と冒険者を横目に、依頼が張り出されている掲示板前へ移動する。
外野が五月蝿いけどムシムシ。
…………
うん読めない。
いちいち翻訳アプリ噛ませるのメンドクセーな。
「さすがに依頼の種類が豊富ですね…… どんな依頼を受けるんですか?」
「そうだな…… やはりここは……薬草採取だな」
「はい?」
「前回はキララ購入資金を稼ぐためにいきなり高難易度依頼を受けてしまったが、ここは基本に立ち返って異世界冒険者のお約束を……」
「あの…… イヅナ様、薬草採取って依頼は無いですよ?」
「は?」
そんな馬鹿な! 異世界の冒険者ギルドに薬草採取依頼が無いなんてコトあるのか? アレって庭の草むしり感覚でやる仕事だろ?
それじゃこの世界の下級冒険者はどうやって日銭を稼ぐんだ??
「ここは砂漠の国ですからね、薬草なんてどこにも無いんですよ」
「あ~……」
「大陸の南側にはまだ砂漠化してない山とかが残っているらしいですから、そちらまで行けば薬草採取の依頼もあるかもしれないですけど…… 行きます?」
「あ、うん…… 忘れてくれ」
そりゃそうだよな、砂漠のど真ん中で薬草採取依頼があったらただの嫌がらせだ。
「それじゃ…… 薬草採取がないなら……ゴブリン退治だな」
「この辺にゴブリンが生息しているダンジョンは無いですね、砂漠には基本的にアイツら出てきませんし」
「それじゃオーク先輩は?」
「先輩? オークもゴブリン同様この辺にはいません」
何でだヨ!! エルフの国があるのにどうしてゴブリンもオークも引きこもってるんだよッ!!
耳長族がいれば夏休みの大学生みたいに頭空っぽ(偏見)にして襲い掛かるもんだろ!!
「それじゃこの街の下級冒険者はどんな依頼をこなしてるんだよ?」
「そうですねぇ…… 例えばコレ「勝魚の一本釣り」とか「真黒魚の一本釣り」ですかね?」
魔物のいる海で遠洋漁業とかやりたくねーな。
「あとは…… 「下水道掃除」とか「砂かき」とかですかね」
ドブさらいと雪かき砂バージョン……
「えぇっと…… 私たちならもっと高難易度の依頼でもイイと思うんですけど?」
「そだね……」
遠洋漁業じゃ時間が掛かり過ぎるし街のお掃除じゃ渡航費用なんかいつまでたっても溜まらないからな……
「それじゃユリア、俺たちにちょうどいい依頼ってあるか?」
「そうですね…… コレなんてどうでしょう?」
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特級・狩猟依頼
『砂クジラ狩猟』
砂漠の砂クジラを狩猟してください。
※菜食結社グリーンイーターの
妨害・襲撃の可能性アリ
依頼者:食肉問屋ヴェルダン
報 酬:500万ディル
:砂クジラの珍味
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捕鯨か…… 海ならともかく砂の中からクジラを探すのなんてめんどくさそうだな……
あと菜食結社グリーンイーターってなんだよ? アレか? 耳長族の過激菜食主義者か?
「あとは…… あ、コレなんかイイかも」
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上級・討伐依頼(常設・定期)
『砂漠の盗賊退治』
砂漠の盗賊団を退治してください。
依頼者:東ユグドラシル政府
報 酬:生け捕りの場合1人につき
10万ディル。
※死亡の場合は1万ディル。
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「あぁ、コレはいいかもな……」
「ですよね? ですよね?」
砂漠の盗賊団なんてどうせ幾つもあるだろうし、そういうヤツらのアジトってのは街に近いトコロ、下手すりゃ街の中にある可能性だってある。
何より殺さないコトで報酬アップってトコロがイイ。
「ところでこの(常設・定期)ってのは何だ?」
「定期的に募集が掛けられるんです、この依頼だと2週に1回だから…… 来週になっちゃいますね。
相手は盗賊団ですから規模が100人を超えることもあるので、冒険者も徒党を組むんです。
常設ってのはたまたま遭遇して返り討ちにした場合でも報酬が出るってコトですね」
「ふむ……」
渡航費用を稼がなきゃならない以上、来週までのんびりしてる余裕はないんだよなぁ。
そもそも我々には生け捕りのノウハウがない……
生きてさえいれば手足がもげてても良いのだろうか? 多分生け捕りにして犯罪奴隷にするんだろう、その場合は欠損があったら商品価値が下がり報酬が減る可能性もあるな……
「あんまり「コレ」っていうのは無いな、どっかに日給10万ディルって仕事ないかな?」
「イヅナ様……」
「うん?」
「あまり「仕事」を舐めないでください、世の中そんな都合のいいモノあるワケないじゃないですか」
「あ、はい、ゴメンナサイ」
怒られちゃった、まぁそんな都合のいいモノあるワケないよな。
ただ異世界ならドラゴン退治とかでそれくらい貰えないかな? そんな一獲千金に憧れちゃうんだよね。
「ギルドの依頼は基本的にその日の朝に更新されますから、また明日見に来てみますか?」
「そうだな…… できるだけ拘束時間の少ない依頼の方が都合がイイ」
欲を言えば日給10万ディルくらいの……
なぁに無敵の超科学兵器があればある程度の危険は無視できるさ。




