第43話「なろう系の見過ぎ」
皆さんは野生の厳しさを描いた動物ドキュメンタリー番組を見たコトがあるだろうか?
インパラの子供がライオンの群れに襲われ喰われてしまうアレだ……
そこに描かれているのは弱肉強食、強ければ生き弱ければ死ぬ「自然の摂理」ってヤツだ。
この自然の摂理に人間が手を出すのは良くないコトとされている、たとえ小動物が集団リンチのような目に会わされてても「あー可哀そう、でも仕方ないよね」とか思いながら見ているコトしかできない。
何故ならそれが自然の摂理だからだ。
もしここで人間が小動物を助けたりしたら、今度は肉食動物の方が飢えて死ぬことになる。
だから仕方がない…… コレが弱肉強食、自然の摂理なのだから……
さて、今回の魔王軍襲来…… 自然の摂理で考えればこの街が魔物に蹂躙される、それは仕方のないコトだ。
これも弱肉強食、潔く喰われよう。
…………とはならない。当たり前だ。
窮鼠猫を噛む……なんて言葉もあるように、たとえ狩られる側だとしても生きるために必死の抵抗をするものだ。
異世界転生に期待して喰われてみようなんてバカはいないだろう、つーかキララは既にそれ一回やっちゃってるしね。次の世界が用意されている保証はどこにもない。
この街の人々も諦めずに戦う道を選んだようだ、実に逞しいね、なんと表現すればいいのか…… 命の輝きのようなものを感じる。
なぜ俺がこのように他人事のように語っているかというと…… はっきり言って他人事だからだ。
俺にはこの街と人々を守る意思も義務も思い入れすらもないからな。
必死に抵抗しようとする彼らの姿が俺にはドキュメンタリー番組のインパラにしか見えない…… 実際インパラの獣人もいるかも知れないしね。
だから彼らが魔王軍にやられるのを見ても「あー可哀そう、でも仕方ないよね」って感想しか出てこない……
……ハズだった。
そう、状況が変わってしまった……
今ここで彼らを見殺しにすると良心の呵責に苛まれること請け合いだ、だって……
魔王軍襲来のきっかけを作ったのが俺たちなのだから……
―――
勇者パーティーとチャレンジパーティーは最前線に立つべく行ってしまった。
こういった場合に高ランクの冒険者だと一番前の席を宛がわれるんだ。
映画館然り、学校然り、一番前の席なんてロクなもんじゃない、首は疲れるし居眠りもできない、俺は主人公の定位置(一番後ろ窓際)がイイ。
「ユリア、キララ」
「「はい」」
「二人はさっき言ったとおり水と食料、あと野営に必要なモノなんかを買って街の北東門で待機していてくれ、あ、砂ゾリもな、ハゲダチョウは要らん。あと街の外には出るなよ」
「? どうしてですか?」
「敵が多いからな…… 俺が敵の指揮官なら逃げ出そうとする奴らを皆殺しにするため伏兵を用意しておく」
「…………」
「…………」
引くなよ、例え話だろ? 相手は魔王軍なんだから目的が皆殺しの可能性だって十分にある。
もちろん逆の状況、魔物が逃げ出す立場だったら逃がすぜ? 逃げる者に戦闘力があるかどうかで状況は変わるから。
「あの…… それでイヅナ様とベルリネッタ様は何をされるのですか?」
「あぁ、ちょっと用事が出来てしまってな……」
自分たちがやらかしたことの後始末だ。
それよりユリアはあの時の大穴を忘れてるのか? それとも貫通したとは思ってないだけか?
「わふッ! 判ります! アレですネ?」
「は?」
何だ? なんかキララの鼻息が荒い……
「勇者がやられそうな場面に「やれやれ……どうにか間に合ったな」って言いながら出ていって、勇者が苦戦していた相手をあくび交じりであっさり倒して「こんなトコロで使いたくは無かったんだがな……」とか言いながらドヤ顔で今まで蔑んできた連中を侮蔑の表情で見下すんですよねッ!」
「…………」
「…………」
「…………」
あ~…… これはアレだな。
「キララ君」
「はい?」
「キミなろう系の見過ぎ」
「ッッッ!!!!」ガーーーン!!!!
キララは膝から崩れ落ちた……
コイツ生前は何歳だったんだ? まさか40~50代のオッサンだったんじゃ無いだろうな?
そしてキララの語った光景を簡単に想像できてしまう俺もなろう系の見過ぎだな。
―――
――
―
ユリアとキララを物資補給へ向かわせた。
急いで行ってもすでに値上がりしてそうな気はするが…… 仕方ない。
そして俺とベルリネッタは世界樹の折れた幹の上に移動した。
ここからなら魔王軍の全容が一望できる。
「おぉう、スゴイ数だな……」
魔物の行列は地の果てまで続いている…… 下手したら数十万単位だ。
「個体差はかなりあるけど…… 浸蝕率は平均C……くらい」
ベルリネッタが測定できる範囲の浸蝕率を割り出した、確か勇者パーティーの浸蝕率の平均がCくらいだったかな? つまり等級に置き換えると特上級…… 一般的な英雄候補と同等だ。
そんな奴らが数万…… 例え軍隊がいても勝てないんじゃないだろうか?
魔王軍は“軍”とは名ばかりでただの魔物の寄せ集めだ、大きさも個体によってバラバラ、規則正しく並んでるわけでもない、ただ適当に散らばってるだけだ。
中にはドラクエの終盤に出てきたドラゴンっぽいのまでいる……
「ベルリネッタ、あそこにいるデカいトカゲみたいなのが《龍種》か?」
「………… あんなのただの下位竜」
どうやら真に厄介な敵は含まれてないらしい。
あ、そうだ、白馬からドラクエを返して貰うコトはもう出来そうにないけど、ドラクエ分の代金は請求したいな…… 借りパクは許さん。
それはさておき……
対する冒険者連合軍は…… 俺たちのほぼ真下、魚鱗の陣で布陣している、その数およそ1000! はい終わった。勝てるワケない、今から始まるのは戦いではなく蹂躙だ。
ん? つーか何で門の外に出てるの?
ただでさえ戦力差がえげつないコトになってるのに、どーして外で待ち構えるんだよ? 少しでも生き延びたければ籠城戦しかないだろ? 運が良ければ軍隊の援軍もあるかもしれないのに……
もしかして敵を正面に引き付けて裏から市民を逃がす時間を稼ぐつもりか?
無駄無駄、たかだか1000人の冒険者でどれだけの魔物が釣れるんだよ。
「おや?」
魔物の群れの中から一人歩み出てきた…… ヒトに見えるけどあれは……
「ベルリネッタ、監視機で中継してくれ」
「イエスマスター」
魔物を従えているように見える人物は…… 浅黒い肌、赤い瞳、そして何よりも目立つのは頭から生えた二本の角だ。
アレはもしかして……
「あれは《魔人族》……です」
「あれが……」
魔人族…… ツノ以外は人間族と変わらなく見える。
アイツがこの魔王軍の指揮官ってコトか、わざわざ前に出てきたってコトは何か交渉でもするつもりか?
対する冒険者連合の代表は…… げ!
何故か勇者が出てきた。いやいやいや、お前に交渉とか無理だろ?
……と思ったら、ヴェラが慌てた感じでついてきた、補佐役か? 正直勇者いなくていいと思う。
『俺はルーファス・バレンティア! “勇者”だ!!』
うわぁ、勇者がおる…… 自己紹介で自ら勇者を名乗るとか恥ずかしくないの? 違う意味で勇者じゃん。
『へぇ? こんなトコロに勇者がいるとはね……』
『え~と…… 貴殿が魔王軍の指揮官とお見受けする……が?』
なんでそんな自信なさげなんだよ……
『あぁそうだな、今回ユグドラシル制圧を任されたギデオン・ウェストウィックだ。それが何だ?』
ん? ギデオン?
『ギデオン・ウェストウィック!? ま……まさか……』
『え?え? なんだ? ヴェラの知り合いなのか?』
『《魔男爵ギデオン》、魔王軍《六魔卿》の一人……です』
『…………………… ハァッ!?!?』
反応遅! 今さっき勉強したばかりだろ、こっち睨んでただけで全く話聞いて無かったのかよ。
しかしまぁなんてタイムリーな…… いきなり出てくるとは思わなかった。
そして男爵か…… 《六魔卿》の一番下っ端、四天王の最初に出てくるポジションだ、あいつきっと土属性だぜ。
『な、ならば話が早い! 魔男爵ギデオン! 俺……いや、勇者の魂との一騎討ちを提案する!』
? 一騎討ち? 一騎討ちを提案すること自体はイイ、だけど敵一人VS勇者パーティーじゃ一騎討とは言わないだろ? 普通にボス戦だ。
『はぁ?』
『こちらが勝ったら軍を引いてもらう! だがもしこちらが負けたら俺のコトは好きにするがいい!
怖いのなら断っても構わないがな!』
お、煽った、これはヴェラ嬢の入れ知恵だな。
だが敵に提示するリスクとリターンがつり合ってない、敵はこのまま攻めれば勝ちが確定しってるのに一騎討ちを受け入れても得られるのは勇者一人の貞操のみ……
こんな提案受けるバカいるか?
『バカバカしい、そんなお遊びに付き合うワケないだろ?』
『んなっ!?』
だよなぁ……
『お前たちに出来るのは諦めて苦しまずに死ぬか、抵抗して苦しみながら死ぬかのどちらか一つだけだ』
『くっ……!』
『あぁそうだ、たった一つだけお前たちが無事に生き延びる方法があるぞ?』
『なに?』
『英雄候補だ』
!?
『な……なに?』
『英雄候補を生きた状態で差し出せばここは見逃してやるぞ?』
英雄候補が来たことバレとるやん。
しかし情報が早いな…… アヴァロニア王国にスパイでも放ってるのか? この世界にやってきてまだ1週間ちょいしか経ってないぞ? 裏の世界に噂が広がるにしても早すぎる気がするが……
まぁ俺には関係ない話だな、俺は英雄候補じゃないから。
『………… ちょっと待ってくれ、タイムタイム!』
『はぁ?』
勇者はギデオンから離れてヴェラとヒソヒソ話を始めた。
たまには自分で考えて決めろよ……
『英雄候補ってアイツだよな? カグラバシ・イヅナ』
『彼は英雄候補じゃないですよ、迷い人です』
『異世界から来たんだろ? 似たようなものだろ』
『全然違います』
『いやでもさ? アイツを英雄候補として差し出せば数万の軍隊が引いてくれるんだぜ? コレを利用しない手はないだろ? たった一人の犠牲で俺たちみんなが助かるんだ、アイツもきっと喜んで自分の身を捧げてくれるさ』
…………
勇者失格。ナニ勝手なこと言ってんだコノヤロー。
何が悲しくて赤の他人のために生贄にならなきゃならないんだよ? そもそも英雄候補じゃねーつーの。
『偽物なんか差し出したらバレた時に事態が余計に悪化しますよ』
『大丈夫、バレないって♪ なんなら喋れないように舌を切り落としておけばいいんだから♪』
サラッと恐ろしいコト言いやがる…… 俺、アイツにそこまで恨まれるようなコトしたっけ?
あ、したな……
『彼は魔無です、一瞬でバレますよ』
『あ…… クソッ! あの役立たずめ!』
うん、前言撤回。
お前は自分で考えるな、常にヴェラに相談しろ、ロクなこと言いださないな。
…………
なんかもうコイツ等見捨ててもいい気がしてきた。
《特別解説》
『なろう系』
「異世界」「転生」「チート」「ステータスオープン」ここら辺が含まれてれば大体なろう系と呼ばれる。
あと「追放」「下剋上」「ストレスフリー」「ざまぁ」「味方の大半が女」なんかもなろう度数の上昇値が高い。




