第42話「平野とジャングルの国」
その後もアヴァロニア大陸について色々聞いた、主に風俗、物価、差別関連。
ついでに例え話ってコトで住所不定無職の少年がアヴァロニア王国の騎士を2人ばかり奈落の底に突き落として生死不明にしてしまったらどうなるかも聞いてみた。
まぁ…… 予想通りの答えだった。聞いた意味全く無し。
「うげ、渡航税とかあんの?」
「そりゃあるわよ、異世界には無いの?」
よく知らない…… でも出国税とか空港税ってのは聞いたことがある気がする。
異世界は言語も通貨も世界共通のくせに国の移動にはしっかり金が掛かるのか…… まぁユグドラシルに入るのにだって金が掛かったしな、それは仕方ないのか。
「ちなみに種族によって額は違ってくるわよ」
「うげぇ……」
「スマラグドス森樹国からアヴァロニア大陸に渡るなら人間族は一人10万ディル、耳長族は20万ディル、獣人族は30万ディルだったかな? あぁ、そう言えば奴隷はさらに課税されると思う」
高っか! 下手したらキララの購入金額超えるぞ? この国の成り立ちを考えると仕方ないことかもしれないが…… く、頭の痛い問題だ。
だいたい種族がUnknownのベルリネッタはいくら請求されるんだよ? いっそのコト人形のフリでもしててもらうか? 俺の恋人の南極1号ですって。
まぁプレアデスが使えるようになるのを待つのが無難か…… そこまで暇じゃ無いんだが……
人形扱いでベルリネッタがガチギレしたら困るから……
キィ……
「ん?」
談話室に誰か入って来た。
建付けが悪いのか仕様なのか、談話室の扉は開け閉めの度にキィキィ音が鳴る。
入って来たのは獣人族4人組の冒険者…… なッ!?!?
アレは虎の獣人、ウサギの獣人、鳥の獣人、猫の獣人! あ…あ…あの組み合わせはッ!!
「? なに?って!! か、彼らはッ!!」
俺に釣られてヴェラ嬢も4人組の冒険者を見る…… すると突然慌てだした。
「知り合い……なのか?」
「アナタ彼らを知らないの!? あ……そう言えばアナタはこの世界に来たばかりだったわね、知らないのも当然か……」
どうやら有名人らしい。
俺も彼らによく似た有名人を知っているぞ。子供の頃にテレビで見た。
「お、勇者の魂じゃないか」
「はい! ご無沙汰しております! シウ殿!」
突然、隣の席で聞き耳立ててた不審者が大声であいさつした、うっせーよ…… てか敬語使ってるの?
「勇者パーティーの方が格下なのか?」
「まぁ……そうね、アナタたちも冒険者ならすぐに耳にすることになるだろうけど一応紹介しておくわ。
彼らは東西ユグドラシルギルド最強の極級冒険者パーティー《挑戦者たち》。
世界でも十指に入るほどの実力者集団よ」
極級…… 極限級…… つまり冒険者パーティーランクの最上位か……
だがそんなコトはどうでもいい…… 俺は彼らにどうしても聞きたいコトができてしまった……
それを聞いたところで俺の求める答えが得られないのは分かっている、それどころか不興を買う恐れすらある。
それでも…… 例えリスクを背負ってでも知りたいコトなんだ!
我慢できずに聞いてしまった。
「…………羊は?」
「は?」
「?」
「??」
「?」
「プッ!」
その場にいる全員が疑問の表情を浮かべる…… ただ一人だけ違った反応を示したのはキララだった。
やはりお前も知りたかったのか。
「マトンとかそんな感じの名前の子、なぜリストラした? 彼女が一体何をしたんだ? それまでずっと仲良くやってきてたハズなのに何故一人だけハブるんだ? そして何故新メンバーがネコ科なんだよ! そこは犬科だろ? 猫まみれじゃねーか!」
「えぇっと…… 君は一体何の話をしているんだ?」
「アナタ、ホントに何の話してるの?」
何の話だと? そんなの“しましまとらのしま〇ろう”の話に決まってんだろッ!!
―――
――
―
この異世界でら〇りんが消えた理由が判明しました。
この世界…… 羊が存在しないそうです、要するに羊の獣人自体が存在しない……
つまり虎に喰われたワケでもなければ、出荷されたワケでもない、戦力外通告を受けたワケでもなければ、ましてや親の都合で外国に引っ越したワケでもない。
最初から居ない者として存在を消されていたワケだ。
…………
う~ん、赤の他人に全く関係ないコトを聞いてしまった。困惑されるのも当然だな。
ただ元の世界に戻れない俺はどうしても答えを知っておきたかったんだ……
もし日本に帰れたら真っ先に「ら〇りん リストラ」で検索してみよう。
多分忘れるだろうけど……
「すみません、彼はまだこの世界に来て間もないので常識が狂ってるんです」
俺の代わりに何故かヴェラ嬢が謝ってる…… 自分の連れが目上の人物に失礼をやらかしたらヤバいと思うのも当たり前のコトだ。
しかしだからって狂人扱いは…… まぁ…… 今のは仕方ないか、意味不明なことを宣ったんだ狂人認定も甘んじて受け入れよう。
「別に構わないさ、それに噂は聞いている」
「え? 噂?」
「難攻不落の第49階層が突破された……ってね、てっきり勇者の魂がやったのかと思っていたが、聞けば成し遂げたのは新人冒険者パーティーだと言う、ロビーはその噂で持ちきりだった」
「うっ……!」
成し遂げられなかった勇者がバツが悪そうな顔をしている、お前らの目的は攻略じゃなくレベル上げだったからな。
そもそもユグドラシル最強の冒険者は49階層を攻略しなかったのか? 確かに4人パーティーであのボスを倒すのは大変だろうけど…… 俺たちは3人で攻略したからね。
「反魔力同盟…… 魔無だけで結成されたパーティー、そのパーティー名を見ただけで普通じゃないのは明らかだからな」
普通じゃないってさ、魔力なんてものを持ってる奴がよく言ったものだ。
取り敢えず覗き見してみる……
名 前:“虎王”シウ・マジロ
種 族:獣人族・男・25歳
属 性:火・異
戦 種:武闘士
浸蝕率:A
―――
挑戦者たち
トラ男25歳!? 5歳くらいじゃねーのかよッ!?
名 前:ミー・リン
種 族:獣人族・女・25歳
属 性:水・土
戦 種:神官
浸蝕率:B
―――
挑戦者たち
ウサギ女み○りんは神官…… ヒーラー枠だな。
名 前:リー・トピック
種 族:獣人族・男・25歳
属 性:火・風
戦 種:魔術師
浸蝕率:B
―――
挑戦者たち
トリ〇ピーは魔術師……
名 前:ニッキー・キャット
種 族:獣人族・女・25歳
属 性:闇
戦 種:盗賊
浸蝕率:B
―――
挑戦者たち
ネコ女は盗賊…… イメージ通りだ。
何というか…… お前らの名付け親って日本人じゃね? すごく作為的なモノを感じる。
闇色腕の連中は人名事典から適当に持って来たって感じの名前だったのに、挑戦者たちの連中の名前の圧倒的1年生感、絶対狙って付けてるだろ。
これも六英傑の一人『博愛の英雄・犬飼健』が流行らせたのかなぁ?
「挑戦者たちの皆さんは空船での調査依頼を受けてたんですよね?」
「あぁ、一週間も掛かってしまったがな」
勇者とトラ男がこっちを無視して話を続けている、こっちは勉強会の途中なんだから余所行けよ。
大体調査依頼って低ランクパーティーがやるもんじゃないの? ……いや、もしかして空船を個人所有してるのかな? それなら広範囲の調査依頼を受けるのもあり得るか……
空船の個人所有……か、いや、俺たちには関係のない話だな。
「やはり確認できる範囲のゲヘナの炎はすべて消失していた、それに伴い砂漠外延部の…… いや、無限砂漠全体の魔物の活動が活発化していた」
「それは…… 近い将来、砂漠に魔物が溢れかえるコトになるかもしれないですね……」
………… 大丈夫、それはこの世界なら普通のコトだ、今までが異常だったんだ。
「あぁ、だがゲヘナの炎が消えたことにより今まで出来なかった砂漠の緑化が可能になるかもしれない、ならば悪いコトばかりでもないさ」
お! しま〇ろう良いコト言った! ゲヘナの炎消失は悪いコトじゃない、俺は悪くない。
まぁ元々俺は何も悪くないんだよな…… やったのは全部ベルリネッタだから。
「それよりも第7世界樹迷宮崩壊の噂の方が深刻だ、あそこは世界でも有数の精神感応金属の産出地だったのだから……」
え? そうだったの? まぁもう一回頑張って掘れ。
地球だって昔は金を取るために手作業で掘ってたんだ、魔法を使えばもっと簡単に掘れるだろ?
「さて、それじゃそろそろ勉強会を再開……」
カンッ!! カンッ!! カンッ!! カンッ!!
うるさ…… なんだよいきなり?
「これは非常事態警報?」
「この街で生まれ育ったけど初めて聞いたぞ?」
非常事態警報? 嫌な予感が…… あ、非常事態なんだみんな嫌な予感がしてるか。
『非常事態ッ!! 非常事態ッ!! 南西方向より魔王軍襲来ッ!!』
!? 魔王軍だとッ!?
「バカなッ!! いくらゲヘナの炎が消えたからといって早すぎる!!」
「南西!? 来るなら北東方向だろ!? 何で真逆の方角からやって来るんだ!!」
「み、見てください! あっち……」
ユリアが見ていた方角、砂漠の一部が黒く染まっていた。
その黒はじわじわとこちらに近づいてくる…… アレが魔王軍…… この距離じゃよく判らんが余裕で万は超えてそうだ。
『緊急強制クエスト発令! 緊急強制クエスト発令! 上級以上の冒険者は速やかに冒険者ギルドに集合! 都市防衛任務に就け! 繰り返す……』
魔王軍…… なんでこんな砂漠と平野とジャングルしかないトコに来るんだよ? 普通は麗しの姫君が御座すアヴァロニアに行くべきだろ?
でなきゃ宿敵の勇者に群がれよ…… って隣に勇者いるじゃん! 絶対コイツのせいじゃん!
…………
待てよ? アイツらの狙いが勇者なら魔王軍の予測進路上に勇者をポイ捨てすれば侵攻を止められるのではないだろうか?
その者、青き鎧をまといて金色の砂漠に降り立つべし……って言うじゃん? アレ? ちょっと違ったかな?
まぁたぶん姫姉様と子Ωみたいに轢かれて終わりだろうけど……
運が良ければ止まってくれるかもしれない……
さらに運が良ければΩみたいに帰っていくかもしれない……
ま、無いな、相手は蟲じゃなくって魔王軍なんだから。
「よし! ユリア!!」
「ッ!? はい!!」
「今すぐ水と食料を買えるだけ買ってこい!」
「はい!! …………はい?」
俺とベルリネッタ以外の全員が不思議そうな顔をしている。なんでそんな顔をしてるのかが分からない。
「お……お前、もしかして逃げる気か?」
勇者が聞いてきた。
もしかしなくても逃げる気だよ。
「こういった場合、俺の国ではまず一般市民を安全な場所へ逃がすところから始めるぞ?」
「それは…… 間違ってないのかもしれないけど…… でもお前は……」
「言いたいことは分かる、だがお呼びが掛かったのは“上級以上の冒険者”だ、下級冒険者がそんなところへ行っても邪魔なだけだろ?」
「いや、いや…… 間違ってない…… 確かに間違ってはいないんだが…… 何か違わないか?」
お前の言いたいコトはよく判る、普通の異世界主人公なら「目立ちたくない」とか言いながら後から出ていって美味しいトコだけ頂いて盛大に目立つ場面だ。
だが俺にそんなつもりはない! 今の俺に「なんとしてもこの国を助けなければ」という思いは一切ない!
せめてここが平野とジャングルの国ではなく山脈と不毛地帯の国だったのなら「守りたい」という気持ちが芽生えていたかもしれないのに……
いや、そもそも前提がおかしい。
「だいたい何でいきなり冒険者を招集するんだよ? この国、軍隊とか無いのか?」
いきなりボランティア頼みな時点でもうダメな気がする。
「スマラグドス森樹国の軍隊は大陸北東のゲヘナの炎が海に達していた場所、ブランチの街のケモナ砦に駐留してるのよ」
ヴェラ嬢が真面目な顔で教えてくれた……ケモナ砦って。いや、ツッコまんぞ。
「本来なら魔王軍はそちらの方向からしか来れないハズ…… なのにあれほどの魔物の大群…… 一体どこから湧いて出たの?」
無警戒の方角から現れたからここまで接近されるまで気づかなかったのか…… だがそれは備えを怠った国が悪い、来るはずのない方角から敵が攻めてくるなんて戦記物じゃお約束中のお約束、鉄板だ。
ファイヤーウォールがあるからって警戒を怠るからこんなコトになるんだ、これは政治家の明らかな失策、その尻拭いを冒険者という名のフリーターにさせるなよ。
「もしかしたら…… アレのせいかもしれない……」
「なんだ? 心当たりがあるのか?」
だったらなおさら国の判断ミスだ。
「ここから南東方向へ500kmほど行ったところに…… 大穴があいていた……って空船乗りが噂してた」
ん?
「砂漠に大穴? その方角なら俺たちも先日第7世界樹迷宮の帰りに通っただろ?」
「分かってるわよ、それほどの大穴なら誰も気づかないハズないし…… だったら私たちが通った後に開いたのかもしれない」
「それこそあり得ない! そんな大穴が何の前触れもなく開くハズないだろ!」
「分かってる! あくまでも可能性の話よ!」
南東方向500km地点に大穴…… 盤面世界を貫いて裏側まで繋がっていそうな大穴……
「わふ? ご主人様、顔色悪いですよ? だいじょーぶ?」
「お、おぉ…… おぉぉ……」
「??」
なんてこった…… それ間違いなくベルリネッタの《惑星破壊砲》の着弾跡だ…… その穴を通って魔王軍が現れた。
つまりこの魔王軍襲来も俺たちのせいってワケだ。
あぁ…… バレたら確実に吊るされるなぁ……
《特別解説》
『ら〇りん』
幼児向けアニメの登場キャラクター、レギュラーだったのに気付いた時にはいなくなっていた。
彼女に何が起こったのか気になる人は「ら〇りん リストラ」で検索。




