第4話「魔力判定《虚無級》の俺は仲間たちに追放されたので、世界が滅びることを願いながら田舎で陰鬱な生涯を送ります」
神楽橋飯綱は物申す!
異世界転移の設定についてだ!
大体おかしいだろ? なんで地球生まれ・地球育ちのヤツが異世界に行っただけでみんな当たり前のように魔力を持ってるんだよ!?
場合によっては「異世界から来たから魔力が大きい」なんてヤツもいる、白馬なんかはまさにこのケースだ。
なんでだよ! どういう理屈だそれは!!
これが転生ならまだ分かる、魔力のある世界で魔力のある親から生まれたのなら魔力を持っていて当然だ。
生後数日から魔力トレーニングをして無双する、ちょっと反則くさいけど生前の記憶も一種の才能、神様からの贈り物と考えれば活用しない手はない。
だがこれは転移だ! 元の肉体にどうやって魔力なんて正体不明な不思議パワーが宿るんだ!? そしてなんで俺には宿らないんだよ!!
みんな自分に宿った魔力を普通に受け入れてるけど有り得ないだろ!? 疑問に思わないの? 魔力を持つことによる弊害や副作用は気にならないの? 頭大丈夫ですか?
お前ら全員年齢を偽った30歳DTだってんなら納得してやる、あのバスの運転手みたいにな!
そもそも魔力ってなんなんだよ?
人間にはそんなモノを作り出す器官などないぞ? なんでそんなモノが体内にあるんだよ? むしろそんなモノがある方が異常だ!
つまりアレだ、病気だ、みんな30歳DT病に罹ったんだ。
少なくとも俺が病気なんじゃない! ないったらない!!
元の世界に帰ったらDT病患者たちは病院に閉じ込められ実験体みたいな生活を送ることになるだろう…… いや結構マジで。
自分で言っといてなんだけど、使える魔法によっては軍とか政府とか怪しい宗教団体とかに拘束されかねん、色々な意味で魔法は脅威だから。
決して魔力持ち共に嫉妬して言ってる訳ではない……
もちろん本音を言えば俺だって魔法使ってみたいよ。
代償として「30歳まで童貞だったら使わせてやる」って言われたら、結構本気で悩む。
だが俺には魔法を使うことはできない、後天的に魔力が身につく可能性はあると思う、実際に他のヤツらはそうなんだから。
しかしその可能性は限りなく低い、転移直後という一番のチャンスを逃したんだからな、もう諦めるしかないのか……
ふぅ……
そうだな、何かしらの理由で追放された奴が田舎でスローライフを送るのも異世界モノの定番といえば定番だ。
「魔力判定《虚無級》の俺は仲間たちに追放されたので、世界が滅びることを願いながら田舎で陰鬱な生涯を送ります」みたいなタイトルの……
いや、ここまでネガティブなタイトルはさすがに無いか。
まぁ俺は明るく豊かなスローライフを送るつもりだ、エルフのカワイイ嫁でもできれば日本に未練もなくなるだろう。
俺は……な。
ただアチラは世界が滅びることを願いながら暮らしそうな顔してる。
「嘘よっ! こんなの……フザケないで!!」
石版の前で荒れてるのは俺と同じゼロ判定喰らった虚無仲間の生徒会副会長、白河翡翠センパイだ。
「もう一度調べて! 私が…私が… こんなの絶対ありえない!!」
もう一度石版に触れるが、表示に変化はなかった……
「あの…… 残念ですがあなたは……」
「そんなハズ無い! 私が……ッ」
生徒会副会長…… 俺より遥かに優等生だった彼女にとっては初めての挫折かも知れない。
それはきっと想像を絶する屈辱だろう、俺にはま~ったく理解できない感情だが……
しかし白河センパイ、案外気性が荒いな、文学系少女だと思ってたのにめっちゃ怒鳴ってる、そんなに俺の同類が嫌なのだろうか?
…………
嫌に決まってるよな、この世界では落ちこぼれ認定みたいなものだし。
「少しは落ち着きたまえ白川くん、君らしくないぞ?」
「会……長……」
「キミならきっと俺の右腕になってくれると思ってたんだが……」
おいおい追い打ち掛けるなよ、腹心の部下だったんだろ? もう少し思いやりをだな……
「会長!! 私はっ!!」
「残念だ…… どうやら見込み違いだったらしいな」
「ッ!!」
感じ悪っ!? 次の選挙では絶対投票しない! ……って3年生だから次は出馬しないか。
「…………」
「…………」
「…………」
誰も喋らなくなった、センセー辺りがフォローしてくれると思ったんだが、掛ける言葉が見つからないのかも知れないな。
「これで全員のチェックが終わったか」
「はい、まさか1000万人に1人の《魔無》が2人も居るとは思いませんでしたが、それ以外は有望と言えましょう」
あ、王様と神官ジジイが喋った、置き物じゃ無かったんだ……
てか《魔無》ってなんだ? いや、聞くまでも無いか、俺と白川センパイのコトだ。
1000万人に1人なんて激レアじゃねーか、プレミアだろ? 明らかに蔑称だけど。
「帰還を望む者はついてくるがいい、この世界での生きる術を与えてやる」
今まで沈黙を守っていた王様が急に饒舌に喋り出した。
「そ……それは我々に魔王を倒せということですか?」
「やるやらないはお前達の自由だ、しかしこの世界で生きていくなら魔力を知ることは必須だ。
しかしお前たちは歴史に名を残せる《英雄候補》でもある、無理強いする気もないがどうする?」
「…………わかりました、お話を聞かせてもらいます。みんなもそれでいいな?」
会長がまた勝手にみんなの意思を代弁して喋る……
え? マジで? いかにも怪しい契約とか結ばされそうじゃん、気付いたら「魔力が高くなる壺」とか「魔力の回復が早くなる羽毛布団」とか買わされて、その借金を返す為に最前線送りにされそうじゃん。
しかし他の連中は……
「あぁ…… 構わない」
「魔力があるって言っても使い方が分からないんじゃどうしようもないしね……」
「そうしなきゃ帰れないってんなら仕方ない……」
みんな不自然なほど従順だ…… お前ら正気か? 俺達は九死に一生を得てこの世界に来たんだろ? せっかく拾った命だろ? なのにそれを使って命懸けの戦いに身を投じるとか意味不明。
そりゃ帰りたい気持ちは分かるよ、俺だって帰りたい…… しかし平和な国でお気楽に暮らしてきた奴が戦場に行っても命の無駄遣いだろ?
…………いや、そうか……
俺はもう帰れない事が確定してるから冷静になれてるだけで、帰れる可能性が僅かでもあれば何を犠牲にしてでも帰ろうとする……ってコトか。
バスの運ちゃん以外はみんなリアルが充実してたっぽいしな、そりゃ魔物との戦闘を強要される世界より平和な日本へ帰りたいだろうさ。
王様と神官たちが部屋を出ていく…… そしてみんなそれについて行く…… カルガモみたいだ。
さて…… どうしたものか? 俺も一緒について行くか?
元の世界へ帰れないなら帰れないで、この世界のコトを詳しく知っておく必要があるからな。
てか、これからどうしよう? 定番は冒険者という名の便利屋になって薬草採取とかの戦闘力を必要としない仕事で日銭を稼ぐ……ってトコロなんだが……
魔力が無い奴が冒険者になれるのか? そもそも魔力の無い奴がこの世界で生きて行けるのか?
それを知る為にも今は情報収集が必要だな。
「おっと」
うっかりしてた、白川センパイがうずくまり動けずにいる、置き去りにするワケにもいかないか。
生徒会長が薄情にも見捨てて行きやがったからな。
「白川センパイ、行きましょう」
「…………」
反応ナシ…… 気持ちは分かるが現実逃避しても状況は好転しないぞ? 仕方ない、強引に連れて行くか。
「ほら、立って下さい」
「…………」
強引に立たせ手を引いてみんなの後について行く、保護者になった気分だ…… 本来この役目はセンセーか会長がするべきなんだが……
ガシャン!
「うおっ!?」
みんなが出て行った後、最後に部屋を出ようとしたところで騎士に止められた…… 槍でとおせんぼされてる…… あぁ~嫌な予感がする、リンボーで潜れば見逃してくれないかな?
「えぇっと、通してくれませんか?」
「残念ながらこの先は王城、魔無を通すことは出来ません」
やはりか…… だったら放置しないで何か言っといてくれよ。
「あの……」
「はい? え?」
話し掛けてきたのは意外にもお姫様だった。
こんな魔力も持たない下民にお声がけしてくれるとは、有難くって涙が出るね……
「申し訳ありません、この国は王城に限らず王都ですら遥か昔から魔力を持たぬ者、そして他種族ですら立ち入りを禁じているのです」
「他種族も……ですか」
「はい、純人主義という悪しき風習がありまして……」
まぁ、分からなくもないか……
「ですのでお二人がこの国で暮らすことは…… 不可能では無いのですが、きっとお気を悪くするような事がたくさん……」
「つまり国外退去しろと?」
「申し訳ありません!」
そう言うとお姫様が頭を下げる、おいおい、お姫様がそんな簡単に頭下げちゃダメだろ?
「頭を上げてください、セレスティーナ様が謝るような事は何もありませんよ」
俺達に魔力が無いのはお姫様のせいじゃ無いんだから。
だからマジで止めて? 俺が騎士に睨まれる。
「アルフェッタ」
「はい」
アルフェッタと呼ばれたメイドさんが小さな革袋を二つ差し出してきた。
「これは?」
「王都から東へ行くと《ルース》という都市国家があります、そこはアヴァロニア王国とは違い魔力の無い人や他種族も受け入れてくれます。
魔人族の領土からも遠く、そこでならお二人も安全に暮らしていけるハズです」
他種族の住む町! イイね! せっかく異世界に来たのに人間オンリーの街とか興味ねーよ。
「その袋にはこの世界の通貨が入っています、あまり大きな額では無いのですが生活環境を整えるくらいにはなる筈です、どうぞそちらをお持ちください」
もしかしてお姫様のポケットマネーで用意してくれたのか?
ナニこの娘…… 天使じゃん!
異世界転移で一番最初に出くわす王族はクズばっかだと思ってた、実際王様はそんな感じだったし…… でもクズ王の娘のセレスティーナ様マジ天使!
「コンラッド騎士長は居ますか?」
「は、こちらに」
「部下を出してお二人をルースの街まで送り届けてください、くれぐれも丁重に……」
「は、お任せ下さい」
「お願いしますね。
それでは私は行かねばなりません。カグラバシ様、シラカワ様、このような事になって本当に申し訳ありませんでした」
「とんでもありません、寛大なお心遣い感謝いたします」
いやマジで、危うく放置プレーされるトコロだったんだから。
「それではいずれまた、お会いしましょう」
「また…… 会えるでしょうか?」
「えぇ、いつかきっと…… 私がこの国を…… 世界を変えてみせますわ」
そう言うとお姫様はメイドさんと共に去っていった…… 意外にも改革派だったらしい、彼女が第一王位継承者なら確かに出来そうだ、世界はともかくこの国だけなら。
セレスティーナ…… 俺が勇者だったら絶対彼女をヒロインに選んだな、うん…… あれ? もしかして白馬のヒロインが彼女なのか? だとしたらナンかムカつく!
「それではこちらへお越しください」
「あ、はい、ほら先輩、いきますよ?」
騎士長にみんなが出て行った扉とは正反対の方向へ導かれる、あっちにも扉があるのか? そこなら王城を経由しないで出れるのだろうか?
そんなことを能天気に考えていた僅か数秒後、部屋の中心付近で突然……!
ドカッ!
「うわっ!?」
「キャッ!?」
背後から衝撃を受け転倒した。
「いってぇ…… んだよ?」
「そのままでいろ、立つんじゃない、姫様から渡された袋を寄越せ」
コンラッド騎士長が剣を抜き、こちらへ突きつけていた……
oh…… 馬脚を現すの早過ぎだろ…… お姫様たちが出て行った扉が閉まった瞬間コレだよ、世界最速の男だな。
セレスティーナ様…… 改革は荊の道っぽいですよ……
正直、この展開も予想はしていたが、いくらなんでも早過ぎる。
今すぐお姫様に助けを求めれば声は届くだろうか? いや…… 扉が閉まるのを待って行動に移したのなら声は届かないか……
「…………」
「ッ!」
まるで虫けらでも見るような目だ、ここは逆らわない方が良さそうだ。
納得いかないがお姫様が手渡してくれた袋を差し出す…… あぁ! お姫様が俺の為に用意してくれたのに!
「これはどういうつもりなんです? お姫様は丁重に……と仰っていたハズですが、コレがこの国の丁重という言葉の意味なのですか?」
分厚いオブラートで包みながら嫌味を言ってみる、おう! どういうこった!? 冷静に答えろ! 頼むからこの程度で逆上しないで下さいね?
「ん? あぁ、あれは相手があくまでも「人間」だった時の話だ」
「??」
「察しが悪いな? 要するに魔力を持たない人間族などいない、つまりお前達は人間じゃないって言ってるんだよ」
えぇ~…… 異世界に転移したと思ったら、いつの間にか人間辞めてたそうです……
《特別解説》
『30歳DT病』
穢れを知らずに30年の月日を重ねるとその身に魔力が宿るという伝説。現代日本だと30代で同窓会を開催すれば魔法使いが1人や2人紛れ込んでいそうな気がする。