第38話「ガブリーナ・シッポフリフリ」
「ベルリネッタに質問」
「なに? マスター」
「その《接続式認識共有》ってのをこの娘にも適用するコトってできるのかな?」
「イエス、可能…… でもいいの?」
「? そりゃいいよ、このままじゃ不便だろ?」
何かマズいのだろうか? 《接続式認識共有》すると頭の上に今までの総オ〇ニー回数が表示されるとか?
…………
俺の頭上に数字は表示されてないだろうな? 思わず確認してしまった。
「今のままならマスターに対する依存度…… 極限まで高められる…… ベタ惚れさせるのも容易…… いいの?」
ん? ナニ言ってるのこの子? そんな人の弱味に付け込んで惚れさせるようなゲスな行いは……盲点だったな。
確かに言葉が一切通じない外国で放り出された時に颯爽と駆けつけ助けてくれる人がいたらさぞやカッコイイことだろう。
だがその作戦はナシだ。何故なら……
ジーーーーーーーッ
ケモノ娘にめっちゃ睨まれた…… 日本語で話したせいで作戦内容が筒抜けになってしまったからだ。
ベルリネッタと秘密の会話をする時はエニグマ暗号機でも噛ませておくべきだったな、次からは注意しよう。
―――
「ハァ、質問する前にまず俺たちの目的だけは説明しておく」
「も、目的?」ササッ
なぜ胸をかばう仕草をする? 俺のコトを何だと思ってるんだ?
…………あ、そうか。
俺はご主人様でこいつは奴隷、中身が転生者なら身の危険を感じるのも然もありなんって感じだな。
「俺たちは《反魔力同盟》、世界中で蔑まれているであろう魔無の救済・保護が目的だ」
「わふ…… 魔無……ってなんです……か?」
おっとソコからか。
仕方ないのでこの剣と魔法の世界における魔無の立ち位置ってやつを掻いつまんで説明してやる……
……
…………
………………
「え…… この世界観で魔力無しってウソ……でしょ?」
俺もそう思う、でも現実だ。
「トラックに轢かれて転生した人って詫び石みたいな感覚で膨大な魔力とかチートなスキルが貰えるんじゃないの?」
俺もそう思う、てかお前って異世界行き舞台装置で転生したのかよ、まるで主人公みたいな人生だな。
「ワタシ、前世でナニか悪いことしたっけ? 成績はともかく内申点は悪く無かったハズなのに!」
内申が悪くないのにこんな目に遭うってコトはよっぽど人生の成績が悪かったってコトだろ? そして同様に俺の人生の成績も平均を大きく下回ってたってコトだろうな……
オレ、今世でナニか悪いことしたっけ?
「悲しいけどこれ現実なんだよね、だから諦めて受け止めてくれ」
「くぅん…… こんな現実ヒドイ…… 神様いったいナニやってるんですか」
神様は今頃別のラノベで主人公にチートスキルを与えてるんだろう、いい加減現実を受け入れろ。
「さて…… 色々と話す前に「キミ」とか「お前」じゃ話し難い、名前を教えてくれ」
「…………名前?」
ん? 何か地雷踏んだか?
「私の覚えている一番古い記憶は生まれた直後、まだ目もろくに見えなかった霞の掛かった様な……そんな風景」
なんか語りだした……
「そこにいたのは…… 多分私の両親…… 見た目はおか〇さんといっしょに出てたキグルミっぽかったけど、あ、頭身はもっと高かった……です」
俺にしか解らないネタだなぁ……
「そして私は眠りにつき、目が覚めた時には捨てられていた……です」
「えっ!? いきなり!? 寝てる間に何があったんだよ!?」
「眠りにつく直前、両親らしき二人は激しく口論をしていました…… 今なら何があったのか予想が付きます。
それは私の見た目があまりにも獣人離れしているコト…… そして魔力が無いコト…… この世界では子供を捨てるのに十分過ぎる理由みたい……です」
う~ん…… 価値観は人それぞれだからなぁ……
白人の夫婦から黒人の子供が生まれてきたら修羅場待ったなしって感じだからな、遺伝学的にはそういうことも起こり得るらしいけど。
「そして、今から捨てようって子供に名前を付ける親がいると思いますか?」
え? 普通にいると思うんだけど…… 漫画とかだと犬・猫に「名前は〇〇です。可愛がってください」って書かれて捨てられてるシーンを見たコトがある。
現実にあるシチュエーションかどうかは分からんが……
「そんなワケで私には名前は無い……です」
「う~ん…… じゃあ前世の名前は?」
「わふッッッ!!」
「?」
「も……」
「も?」
「黙秘します……です」
何でだよ? もしかして有名人だったのかな? 話した印象だと普通かちょっとオタク寄りっぽい気がするんだが……
しかし困ったな、ずっと名無しってワケにもいかないし、ここはご主人様権限で名付けちまうか? 黒毛の犬系少女…… クロ…… クロ子? クロ美?
「あ、そうだ、一応念のため……」
「?」
おもむろにスマホを取り出しカメラアプリを起動。
「あの…… ご主人……様?」
「いいからいいから、笑って、はいチ~ズ」
「え? あ、はい、ぴ~……す?」
パシャ
カメラを向けると自然にピースサインを作る…… やっぱりコイツの中身日本人だわ。
「あの…… ご主人様、いくら私が天然ケモ耳少女だからって、写真を撮る時は一声かけるのがマナーだと思うんです……けど」
うん、間違いなく中身日本人だわ。
「ベルリネッタ」
「イエスマスター」
ピロリン♪
「あの! 勝手にSNSとかにアップしないでくださいね?」
「異世界でそんなコトできるワケねーだろ、今のはお前のステータスをスキャンしたんだ」
「わふッ!? まさか私が死んだ後にステータスオープン・アプリ《ステータスと唱えよ》とかリリースされたんですか!?」
ナニそれ? ちょっと面白そう。
「これはお遊びアプリじゃなくって本物のスキャン機能だよ」
お?
「喜べ、お前ちゃんと名前付いてるぞ」
「え?」
親はちゃんと子供に名前を付けていたんだなぁ…… 親子の絆を感じるね。
「ガブリーナ・シッポフリフリだってさ」
「は? え? なんて?」
「ガブリーナ・シッポフリフリ」
「…………」
ガブリーナは真顔で固まった、どうも感動で打ち震えている……って感じじゃないっぽいな。
「多分だけどこれは生みの親ではなく育ての親が付けた名前みたいだな」
「え? おかーさん私のことガブリーナって呼んでたの!? そりゃいつもガウガウ言ってたけどさぁ! てゆーかシッポフリフリってナニッ!? オオカミのくせにファミリーネームが有ったの!? そりゃしょっちゅうシッポフリフリしてたけどさぁ!! 衝撃の事実なんですけどぉーーーッ!!」
あ、壊れた……
「まぁ良かったじゃないか、育ての親は多分お前のことを愛していたんだと思うぜ?」
「それはどうかしら? 家族で狩りに行ったとき私はだいたい囮役やらされてたし……ね」
オオカミの狩りに囮って必要なの? まぁ余計なことは言わないでおこう。
「とにかく名前があって良かったじゃないか、今日からお前のことはガブリーナ・シッポフリフリと呼ぶことにする、名前の通りその可愛らしいシッポをブンブン振り回してくれ」
「やめて、お願いしますやめて下さい、そんな変な名前で呼ばないで……下さい」
「えぇ~、せっかく親が付けてくれた名前に何て言い草……」
「ご主人様には分からないんです、変な名前を付けられた子供の気持ち……なんて」
例え変な名前でも子供に対しては何とも思わない、ただその子の親はちょっとアレな人なんだなと思うだけだ。
「じゃあ適当な偽名を付けるか? 今気が付いたんだがお前って設定がもの〇け姫に似てるし、名前アシタカでよくね?」
「そこはサン……でしょ?」
「え? あ、アシタカって男主人公の名前か」
「わふ、もういいです、きらら……です」
「? まんがタイム?」
「そうじゃなくて名前! 雲母と書いてきらら、大神雲母! 私の前世の名前……です」
大神雲母…… 思ったより普通だった。勿体ぶるからどんなDQNネームが出てくるのかとワクワクしてたのにガッカリだ。
確かにキララって文字通りキラキラした名前だけど、この程度なら大人しい方だ、変な当て字も使ってないしね。
今どきの子供ならクラスに数名はこれくらい鏡面仕上げの名前の持ち主がいるさ、「伝説(※人名)」とか「運命(※人名)」みたいな珍名に比べれば遥かにマシさ。
俺の知ってる奴にも一人冗談みたいな名前のヤツいたしな。
「それじゃこれからはキララって呼んでいいよな?」
「はぅ…… それでいいデス、吹っ切れました……です」
「ガブリーナも捨て難かったが、これで冒険者登録も問題なくできるな」
冒険者カードは身分証代わりにもなる、異世界モノのお約束だ、実にシンプルな世界だ。
これが日本だったら身分証を作るのも容易ではないだろう、俺は未だに小学生探偵が小学校へ通える理由が分からない、やっぱり書類偽造したのかな? ハードルが高すぎる、異世界人が日本へやってくるラノベが少ないのも納得だ。
「イヅナ様は彼女を冒険者にするおつもりなんですか?」
俺がこの世界の行政のガバガバっぷりに感謝しているとユリアが質問してきた。
「え? ダメなの? もしかして奴隷って冒険者になれないの?」
「あ、いえ、そんなコトないですよ、奴隷を冒険者にして損失無視のダンジョンアタックをさせてご主人様は安全なダンジョンの外で待ってるだけ…… そんなコトをしている人もいますから」
それが正しい奴隷の運用方法なのだろうか? そんなラノベ見たコトないんだけど。
「ただどちらにしても冒険者試験は月に一度です、当分は受けられませんよ」
「そう言えば試験受けたばっかりだったな」
「どこのギルド支部も試験内容は違っても試験日時は世界共通です」
それじゃ1ヵ月するコトないじゃないか…… いいなぁ…… 夢のニート生活か…… そんな贅沢な奴隷がこの世に存在していいのだろうか?
いいやよくない! 例え冒険者ができなくても別の働き方があるじゃないか! そっちの働き方なら薄い本で予習済みだ! 覚悟しろよ? 足腰立たなくなるまで働かせてやるぜ!
「ちなみに奴隷は冒険者にならなくてもパーティーに加えられますよ」
「あれ? そうなの?」
「奴隷に荷物運びや護衛をさせるのは普通の事ですから」
なるほど、でも魔無の奴隷じゃ護衛にはならないんだよな…… 荷物運びも必要ない、ストレージがあるし。
だったら他に出来るコトをするべきだよな? 掃除とかご奉仕とか洗濯とかご奉仕とか料理とかご奉仕とかを……
…………
ただ一つ問題がある、それはこの奴隷娘の中身が日本人だってコトだ。
この世界の価値観しか持ち合わせていない異世界人ならともかく、余計な知識を大量に持っている元日本人の扱いはかなり難しそうだ。
俺だって奴隷にされて変態ホモ貴族にご奉仕を強要されたりしたら、相手を刺して逃げ出そうとか考える。
つまり下手に扱えば俺が刺されるってワケだ。
…………
うん、最初っから飛ばすのはよくないな、まずは慣らし運転だ。
相手のことも分からずにフルスロットルするのは危険だからな。
「マスター、彼女に関する方針…… 決まった?」
「え? あぁ、一応《反魔力同盟》のメンバーにする予定だ」
ユリアと違って戦闘力があるのか疑問だが、オオカミの群れに交じって狩りをしてたなら大丈夫だろ?
実際にはユリアの戦闘力はオーパーツ頼りだけど、それは俺自身も人のコト言えないからな。
「じゃ、失礼します」
「わふ?」
そう言うとベルリネッタはキララの手を引いて部屋を出て行こうとした。
「え? どこ行くんだ?」
「少々“教育”……してきます」
教育? 新人研修? 初日からそんな飛ばさなくても……
「あっ、私も行きます!」
えぇ? ユリアまで自主的に新人研修に参加するの? 俺も行ったほうが良いのかな? 異世界歴1週間程度のド新人だし……
「マスターは先に休んで……」
「わふ? わふ?」
「あ、行ってまいります」
パタン
「え~~~……」
4人部屋に俺一人が残された……
せめてユリアは置いて行って欲しかった……
《特別解説》
『ステータスオープン・アプリ《ステータスと唱えよ》』
架空のアプリケーション、対象の顔を撮影すると適当なステータスとチートなスキルが表示される。顔診断アプリの亜種。




