第36話「魔王倒しに着ていく服が無い」
「た……倒した? ウソだろ?」
「たった3人で?」
「そんなコトあり得るのか? もはや突破は不可能って言われてたのに……」
「いや、間違いないぞ! 模様の光が消えても魔物の残骸が消えない」
「た……倒したんだ……」
「「「「「うおおおぉぉぉおっ!!!!」」」」」
うぉっ!? なんだぁ? あぁ、ギャラリーが歴史的瞬間に沸いてるのか。
「「「「「うおおおぉぉぉおっ!!!!」」」」」
…………
「「「「「うおおおぉぉぉおっ!!!!」」」」」
うるせぇー! いつまで沸いてるんだ! さっさと弱火にしろ!
「イ……イヅナ様……」
「お、ユリア無事だったか」
なんか埃まみれでボロっちくなったユリアやって来た。
もしここがギャグマンガの世界だったらきっと頭にトゲ付き鉄球が刺さって血が噴水みたいに噴き出していただろう。
よかったな、ここがギャグマンガの世界じゃなくて。
「勝ったんですか? 骸骨将軍を倒したんですか?」
「おう、俺の策略が見事にハマったな」
「はぁ…… イヅナ様ってまともに戦えたんですね?」
おう、俺もビックリだ。戦闘はベルリネッタとユリアに押し付けて俺は後ろで優雅に眺めている予定だったのにな。
だが俺はそんなコトを堂々と暴露するほどアホではない、せっかくやりたくもない戦闘を行い勝利を掴んだんだ、そのことを恩に着せ服従…ゲフンゲフン! 好感度を上げる材料にしよう。
ポン ポン
髪や身体に付いた埃をやさしく叩き落としてやる、山頂の火山灰も落としてやりたいトコロだがそこはノータッチで、まだ早い。
「それにしても骸骨将軍を丸ごと消滅させたんですか? 一体どうやって?」
「あぁ、浄化したんだ、この世界には浄化魔法が存在しないから説明しにくいんだけどアンデッドを強制的に消滅させる力を使ったんだ」
「はぁ~、そんなコトができるんですか…… でも勿体ないコトしましたね?」
「ん? モッタイナイって何が?」
「49階層の守護魔獣の素材なら売れば1000万はしましたよ? それを欠片一つ残さず消滅させるなんて」
…………は?
「普通なら大赤字です」
おまっ! お前!! そういうことは先に言っとけよ!!
クエストの討伐報酬が少ないのはそういう理由があったからなのかッ!!
あぁ~クソッ! 大損だ! 知ってたらあんな極太レーザー撃たなかったっての!!
とは言え…… 他に倒しようがなかったんだが……
いや待てよ? アイツが振り回してた大鎌、ほら! アレはちゃんと残ってる! アレって結構なレア武器なんじゃね? 高値で売れるかも!
取り合えずスキャンでチェック♪
パシャ! ピロリ♪
死神の大鎌
属 性:死
(アンデット専用武器、生物が持つと絶大な力を得る代わりにアンデット化する。)
…………
持ったら死ぬってコト? さすがにこれは売れないな…… つーかこんな危険なモノ放置するワケにもいかない。
ストレージの奥底に封印決定。
もし勇者が約束破ったらプレゼントしよう。
はぁ…… まぁいい、幸いこの損益は補填できる、むしろユリアにこのことでネチネチ文句言われなかっただけマシと考えるか。
「じゃあ、あっちに転がってる下っ端ガイコツ共の素材は売れないのか?」
「10年前なら値も付いたらしいけど、今じゃどこも引き取ってくれないですよ」
下っ端ガイコツまさかの買取拒否…… かつて社会問題にまでなったチケがないCD並みの存在だ。それって完全にゴミじゃねーか。
「マスター、御苦労様」
「あぁ、ベルリネッタもお疲れさま」
光を纏ったベルリネッタが舞い降りた。
あ、しまった、ベルリネッタにご主人様を最優先で守るよう指示を出したいのにユリアが見てる前では言えない…… ナンテコッタ
「…………」ジーーー
「?」
ベルリネッタが視線を送ってくる、そんなに見つめるなよ照れるじゃねーか。
「マスター、身体に異常……ない?」
「? あぁ至って快調だが?」
「そう……」ジーーー
え? ナニその質問? 変なフラグ立てるなよ。
俺の無事を確認したいのなら全身くまなく調べたっていいんだぜ? ただし人がいないトコロでな?
もっともベルリネッタにはスキャンがあるから服を脱がせて触診とかする必要ないんだよな……
あ、今俺のことスキャンしてたのか。
とにかくこれで超級・討伐依頼『第49守護魔獣討伐』ミッションコンプリートだ。
しかしせっかくの勝利にケチがついた気分だ、このイライラはすぐに発散しなくてはならないな、うん。
……と、いうワケで……
「おぉ~~~い♪ 勇者さま~~~♪」
「……ッ」
露骨に目をそらす勇者…… ハッ♪ 楽しい時間になりそうだ♪
「お~~~い、こっちこっち! えぇっと名前なんてったっけ? 3人いる勇者様の中で序列が3番目の最下位の勇者さま~~~!」
「ぐっ! うるせーーーッ! なんだよ一体!」
勇者は渋々って感じでやって来た、なんだよって要件は一つしかないだろ?
「もちろん我々の勝負についてです」
「くっ……!」
ちなみに証拠映像はしっかり録画してあるからとぼけても無駄だぜ?
「守護魔獣をどれだけ倒したかで勝負……だったよね? それで勇者さんたちが倒した数は……」
「マスター、あの人たち……討伐数21」
ベルリネッタさんナイス乱入♪
「あぁ~、そうそう21体、それで俺たちが倒した数は……」
「直接討伐数61、残りの40は機能停止」
「そう言えばボスを倒すと勝手に止まったんだったな。併せて101体、機能停止の40体を除いたとしても61体討伐…… つまり…… どっちの負けでしょう?」
「くっ…… お前の勝ちだよ……」
「はい? スイマセンよく聞こえなかったです、も~1回お願いします」
「だから…… お前の勝ちだって言ってるだろ……!」
「あ~、俺が聞きたいのはどちらが負けたかなんですよねぇ? 声聞こえてます? 言葉通じてます? 意味理解できてます?」
「うぐ……ぐ……ッ」
勇者は赤くなってプルプル震えてる…… まるで赤スライム……
「そうだよ!! 俺の負けだよ!! これで満足か!!」
「はい結構です、勇者様、負けることは決して恥ではありません」
「はあッ!?」
「真に恥ずべき事とは開き直ったり逆ギレしたり、自らの敗北を認めないことです」
「は…… は?」
「たとえ魔王を打ち倒す勇者であっても最初から強い訳ではない、勝つ時もあれば負ける時だって当然ある、重要なのは自らの弱さと向き合い、認め、そして再び立ち上がる力を持つことなんです!」
「え? あ、は、はい」
「今日負けたあなたは明日には今日よりも強くなっています。強くなれ勇者! 負けを恐れるな! すべての敗北を自らの糧にして立ち上がれ! 魔王を倒し弱き人々を守れるのはお前しかいないのだから!」
「う…… は、はい! ぐすっ…… 俺……必ず成し遂げます!」
うむ、俺の何となくそれっぽい言葉は勇者の心に響いたようだ、涙を流して感動に打ち震えている。
魔(あぁ…… また簡単に言いくるめられてる……)
僧(ルー様はちょっと単じゅ……純粋すぎます)
剣(おぉ! 嫌な奴だと思ってたけどイイこと言うじゃないか!)
そして勇者の仲間はシラケた顔をする…… 一名を除いて。
「さて、それじゃ勇者を成長させるための対価を決めるか。やはりここは素材売却できなくなってしまった損害の補填ってコトで1000ま……」
ん? ヒエッ!?
「? どうしたの? マスター」
「あぁ、いや……」
今一瞬だったけど勇者の顔に死相が見えた…… 気のせいじゃないと思う、勘亭流フォントではっきりと「死」って書かれてた…… あんなベタな死相はじめて見たよ。
「マスター?」
「いや…… ベルリネッタは「ナニ言ってんだ?」って言うかもしれないけど、今勇者の顔に死相が見えた。このまま1000万の借金を勇者に背負わせたら…… 多分アイツ死ぬわ」
「…………」
「…………」
「ナニ言ってるの?」
ですよね? 俺も自分で「ナニ言ってんだコイツ」って思った。
はっきり言って勇者がどうなろうがどうでもいい、しかし直接的だろうと間接的だろうと俺が勇者の死の原因になるのは御免被る。
さっき見えた死相がただの勘違いだったとしても、ここで勇者に1000万の借金を背負わせたら割と高確率で死ぬ気がする。
そりゃそうだ、100万の借金でヒーヒー言ってる奴がその10倍の借金をどうにかできるとは思えない。
剣と魔法の異世界では自己破産とかできないだろうしな。
仕方ない、何か別の要求を出そう。
俺も甘いな…… しかしヒトの生き死にがかかわるとどうしても躊躇してしまう。
確かに異世界モノの主人公も殺しだけは避けるってケースは多い。
中には問答無用でヒトを殺しまくるぶっ飛んだ高校生とかもいるけどさ…… 俺もいずれはそんな感じでFly Highしなきゃいけない日が来るかもしれないな。
さて、気を取り直して……
「それでは勇者には賭けの代償を支払ってもらわなければならないな」
「うむ、それは男と男の約束だからな、勇者として逃げるワケにはいかない」
さいですか、しかし金を持たない男に何を要求するんだ?
「その高値で売れそうな聖剣だけは賭けの対象外なんだよな……」
「他はともかく聖剣だけは絶対ダメだ! そもそも聖剣を賭けの対象にすること自体神をも恐れぬ大罪だ」
「とは言ってもなぁ…… 後は身ぐるみ剥がして売り払うくらいしか…… だが大した値段にはならんだろ? 所詮中古だ」
「え?」
おいヤメロ、胸と股間を隠すまいっちんぐポーズをとるな。
女教師に生まれ変わって出直せ。
あと勇者の持ち物で欲しいものは……
「…………」
「…………」
「…………」
あ、あるじゃん。
持ち物ってワケじゃないんだが、勇者は見目麗しい仲間を3人も連れている…… ニヤリ
「一つ質問なんだけど勇者パーティーで一番物知りなのって誰?」
「物知り? ……と言ったらヴェラだな」
女魔法使いのヴェラ・イルクナーか…… いかにもって感じだな。
ちょっと気の強そうなツリ目と緩衝材のない胸元、とんがり帽子と黒いマントと大きな杖を持った古き良き魔法使いって感じのいでたち……
ふむ…… 悪くない、いやイイ! ナイス美少女だ。
「……?
…………??
……………………!!
ダダダッ! ダメだァァァ!!!!」
ヴェラを見つめる俺の視線にようやく気付いた勇者が騒ぎ出した、うっせーな。
「彼女たちは奴隷じゃない! 仲間だッ!! ヒトは対象外だ! そんなの常識だろッ!!」
「まだ何も言ってないだろ?」
「黙れ!! そのイヤラシイ目を見たら判るッ!!」
失礼な奴だな、こんな澄んだ目のエロ魔人がいるワケないだろ。
「勘違いするな、なにもパーティーメンバーの引き抜きをしようってんじゃない」
「信用できるか!! ヴェラはなぁ子供の頃から魔法研究一筋で男と手を繋いだことすらない純情娘なんだ! しかもズボラで今着ている一張羅以外はジャージしか持ってないような奴なんだ! 俺が勇者パーティーに誘った時だって「魔王倒しに着ていく服が無い」って言って断ろうとしたほど人付き合いがヘタクソな奴なんだ! それをお前は……ッ!!」
ガンッ!!
「ヘブッ!?」
変な方向にテンションが上がった勇者がヴェラ嬢の個人情報を盛大に垂れ流した。
本人の目の前でそんなコトをすれば当然止められるよな…… あのデカい杖で後頭部に痛恨の一撃だ。
「勇者ルーファス…… 少し黙りましょう……ね?」
「は…… はい、すみませんでした……」
そっか~、この世界にもジャージがあるのか…… どうせそれも過去の英雄が持ち込んだものなんだろ? 異世界には何故か学生がよく来るからな。
「それで? 賭けの代償として私を要求してアナタは何をするつもりなんですか?」
ヴェラ嬢が交渉役を引き継ぎ、とても穏やかに話しかけてくる……が、目が少しも笑ってない。
こりゃ冗談でも「性奴隷にする為」とか言えないな、俺だって命は惜しい。
「睨むなよ、俺はただこの世界のコトを知りたいだけなんだから」
「この世界のコト?」
「俺もベルリネッタもユリアもこの大陸から出たコトが無い。
だからこの世界、特にアヴァロニア大陸の情勢について知りたいんだ」
「ホントに? 私を奴隷にするつもりじゃなくて?」
信用が無いにも程がある…… まぁ今まで勇者にしてきた仕打ちを見れば信用なんかされるはずもないがな……
そもそも誰か一人を奴隷にするなら女僧侶を選ぶ、理由はもちろん一番巨乳だから。
「そんなに不安なら誰か連れてくればいい、どちらにしても勉強会は後日だ、この後用事があるものでね…… あぁ、勉強会には勇者は連れてこないでくれ? 世界情勢に疎そうだしどうせ騒いで邪魔するに決まってるから」
「なんだtッ!! あ、すいません、黙ってます、はい……」
勇者…… 序列最下位なのも納得だな、パーティーメンバーより弱いんだから……
《特別解説》
『まいっちんぐポーズ』
滲み出る昭和臭、実写映画化とかされていて驚いた。全く知りませんでした。




