第32話「毛のない獣人」
「ようこそいらっしゃいました!」
むやみやたらと元気のいい奴隷商人が出迎えてくれた、後ろめたさは皆無…… さすが公営の奴隷商だ。
そして毛のない獣人も存在していたのだと知った。
彼はネズミの獣人だ、そして出っ歯でハゲている…… おそらくハダカデバネズミの獣人だろう。
ブサイクだけど割と愛嬌のある顔をしている、まぁ相手はおっさんだからカワイイとは思えないな。
「本日はどういった奴隷をお求めでしょうか? それとも売却でしょうか?」
手をハエみたいに高速で擦りながら話しかけてくる、その視線はベルリネッタとユリアを完全にロックオンしている、さすが奴隷商、価値が分かる男だ。
だがその目で俺たちを見るな、危うくホモに売られそうになった記憶がよみがえるだろ。
「今日は奴隷の購入だ」
「ありがとうございます! 当館ではお客様のご要望にお応えできるよう極上の商品を取り揃えております!」
商品……か、正義感あふれる主人公ならここを潰して奴隷を解放してやるんだろうけど、公営の奴隷商でそれをすると後々大変なことになりそうだからなぁ…… いや、たとえ非合法でも絶対ろくなコトにはならないか、こんな逃げ場のない砂漠のど真ん中じゃなおさらだ。
あくまでも正規購入を前提とする、最悪の場合はベルリネッタの力ですべてを灰燼に帰しお目当ての獣人を奪うことになる。
もちろん最悪の場合にのみって話だ、やったら罪状が追加されるの間違いなしだからな。
「当館では戦闘奴隷、作業奴隷、性奴隷と各種取り揃えております、どういったものをお望みで?」
戦闘奴隷はそのまんまの意味だな、この世界だったら魔物と戦わせるための奴隷だ。
作業奴隷ってのは多分戦闘以外の身の回りの世話とかさせる奴隷のコトだろう。
性奴隷は言わずもがな……だな、エロ専用奴隷、一番聞き覚えのある奴隷だし一番お世話になってきた奴隷でもある。
対象が魔無である以上、戦闘奴隷として売られている可能性は無い、作業奴隷も魔力が無ければ使い道が限られる気がする。
ならばやはり性奴隷として売られているのだろうか? 俺もどっかのヘンタイ貴族に性奴隷として売られそうだったしなぁ……
だが俺は毛玉の性奴隷なんていらない、毛深いのはチョット趣味じゃないんで。
「店主、珍しい奴隷は扱っていないのか?」
「珍しい……ですか、そうですねぇ…… ウチでは取り扱ってないのですが知り合いの奴隷商人が最近《人魚族》の愛玩奴隷を仕入れたと聞きましたね」
「ッ!? 人魚族だとッ!?」
「はい、非常に美しい女だけの希少種族です」
非常に美しい女…… 毛玉奴隷とかどうでもいいからそっちが欲しい……って言ったら怒られるかな?
「知り合いの店なので都合をつけることも出来ますが、お求めになるのはあまりお勧めできません」
「? なぜ?」
「人魚族は生きるために常に大量の水を必要とします、後はお判りでしょう?」
「あ~…… なるほどね」
砂漠のど真ん中で大量の水を確保するとか余程の金持ちじゃないと無理だ。
要するに維持費が高いってコトだ。
「そうか、それは残念だな」
いやマジで。
「それでは他に何か居ないか? 例えば「この商館にたった一人だけの特徴を持つ奴隷」とか?」
「そうですね…… お客様のお眼鏡にかなう商品が一つだけございます。当商館どころか世界にたった一つだけ、唯一無二の奴隷がございます」
「ほぅ? それを見せてもらっても構わないかな?」
「もちろんでございます、どうぞこちらへ」
世界に一つだけ…… 魔無ってそこまで希少じゃないよな? まさか俺以外の唯一の男の魔無じゃないだろうな? 男はいらないんだけどなぁ。
―――
店主のネズミ男に案内され地下へ降りる。
通路の両側には牢屋が並び中に多くの奴隷がいる、みんな首輪の他にはコンビニ袋みたいな服一枚しか身に着けていない、きっと下から除けば丸見えだ。
……と言うよりも……
「取り扱ってるのは人間族の奴隷がメインなのか?」
獣人の国なのに獣人の奴隷がほとんどいない、八割以上が人間族だ。
たまに獣人族…… なぜかエルフが見当たらない、おかしいな? 異世界で奴隷といったらエルフが定番だろ?
「お客様はお若いですしご存じないのかもしれませんね? 我々獣人族は奴隷に身を落とすことを最大の恥と感じるのです」
「恥? そりゃ喜んで奴隷落ちする奴なんていないだろうけど……」
悦んで奴隷落ちする奴ならいるかもな。
「かつて獣人族は『獣族』と呼ばれヒトとして扱われない時代がございました、いわゆる『三人種時代』と呼ばれていた頃で、その頃の獣族の扱いは現代の奴隷と同じかさらに悪いものだったといわれています」
あ~…… 申し訳ないけど納得できてしまう。
やはり見た目が他のヒト種とは違い過ぎるからな……
「しかし今からおよそ800年前、一人の英雄が現れ獣族を奴隷の立場から解放してくれたのです」
「英雄……」
やっぱり日本人かな? 凄い清廉潔白な主人公だな、最近の異世界モノじゃ奴隷解放なんてする奴いないよな? 奴隷に嫌悪感を示しながらも結局奴隷ハーレムとか作っちゃうんだよ、いや、嫌悪感を示す奴も滅多にいないか。
まぁ俺も最初はそうだった、異世界といったらやっぱり奴隷ハーレムだもんな!
「そういった歴史があるため我々獣人族は奴隷になることを極端に嫌うのです。
余程の理由が無い限りこの国で奴隷落ちする獣人族はいないでしょう」
「それじゃこの店で取り扱ってる獣人奴隷は?」
「殆どが犯罪者です、解放が認められない契約になっているので終身刑か死刑の代わりですな」
うげ、それじゃココの獣人奴隷はみんな元凶悪犯かよ? そんなヤツ仲間にするのやだなぁ……
―――
地下2階
上とは違いだいぶ薄暗くちょっと不衛生な感じだ。
奴隷の品揃えもだいぶ違う…… 鎖で天井から繋がれてる者や手や足が欠損している者もいる。
……かと思えば奴隷らしくない豪華な服を身に着けてる者や素っ裸の者までいる。
基本全員レイプ目だ。
「ここは?」
「少々訳アリの商品たちです、理由は様々ですが買い手が付きにくいのです」
あぁ、きっとこの中には「亡国の姫君」とか居るんだぜ? よくあるパターンだ。
買っておけば後々トラブルと謝礼がセットでもらえるかもしれない、が、俺たちの目的はあくまで魔無の保護だ。
…………
「あのさ、一応念のために聞いておきたいんだけど……」
「何でございましょう?」
「ここに黒髪黒目で歳は10代中頃、人間族の女の子の奴隷っていないよな?」
「ふむ…… そういった商品は当館では取り扱っておりませんな」
「そうか…… うん、ならいい……」
そんなに簡単に白川センパイと再会できるワケないか、だが念の為そういった人物がいないかどうか他の奴隷商でも確認しておくべきか?
いや、ベルリネッタのスキャンに引っ掛からなかった以上この街にセンパイがいる可能性は無い……
俺たちが別れてまだ1週間も経ってないんだ、タッチの差でヘンタイ貴族に買われてドナドナされてったってコトも無いだろう。
「お客様、こちらでございます」
俺たちが案内されたのは部屋の隅っこに置かれた箱の前だった。
一片1m程で前面だけ鉄格子になっている…… はっきり言ってペット用のケージだ。あるいは猛獣用の檻にも見える。
つーか暗くてよく見えん…… なんか隅っこの方にバーバモジャみたいな毛の塊っぽいのがいるけどアレ?
「お客様のご要望に沿う当館で最も珍しい商品なのですが、少々問題もございまして……」
ハゲ出っ歯ネズミ男の店主はそう言うとランタンを渡してきた。
え? 俺が自分で照らすの? 近づいたら引っ掻かれるパターンだろこれ?
「ッ!!」
光を当てると奥の壁にへばり付くように移動っしてしまった、火が怖いのだろうか?
ん? あれ??
手は人間の手と同じで毛に覆われてない? おい、まさかハダカデバネズミの獣人じゃないだろうな? お前の娘とか? それはいくら何でも外道過ぎるぞ?
もう一度光を当てよく観察してみる……
「!? こ……これはッ!?」
ランタンの弱い光に照らされたのはケモノ成分20%以下の獣人、ぶっちゃけ人間に尖った犬ミミとふさふさのシッポを付けた女の子だった……
それは正に俺が思い描いていた理想の獣人娘の姿そのものだった!!
伸び放題のボサボサの髪のせいで顔は良く見えないが、これは恐らく……
「カワイイ……な」ボソ
「ッ!!」
ガン!!
「~~~ッ!!」
壁に頭ぶつけてる…… うん、カワイイ。
んだよ!! 居るんじゃないか!! ケモノ成分20%以下の獣人!
なんかテンションが上がってきました!! ヘイおやじ! この子をクリスマスプレゼントっぽくリボンで裸ラッピングしてくれ♪
「奇妙な姿をしているでしょう? 見た目はほぼ人間族なのですが正真正銘獣人族なんです。発見当時は人間族と獣人族のハーフだといわれていたんですよ」
「ん? 発見当時?」
「この娘、実は魔無なんです。それに加えてこの見た目ですから恐らく生まれてすぐに捨てられたのでしょう」
げ、魔無だと捨てられるのかよ? ただでさえ純血種は貴重だってのに……
「どういった経緯かは不明ですがケモノに育てられたようです、なので言葉も通じず名前すら持たないのです、その為なかなか買い手が付かなかったのです」
言葉が通じない…… いや、この際それは置いておこう。
野生児キャラによくある相手を「強いか弱いか」或いは「食べられるか食べられないか」でしか判断できない系のキャラだな。
「店主、ちなみにこの子、幾らだ?」
「ムホホ♪」
おい気持ち悪い笑い方するな。
「魔無ではあるものの恐らく世界にたった1人の非常に珍しい見た目の獣人族、仕入れにもそれなりの金額が掛かっております」
ふん、不衛生なエリアの小さな檻に閉じ込める…… 希少な奴隷の割には随分と雑な扱いじゃないか。
「それで?」
「そうですねぇ、ざっと300万ディル程になります」
「はぁぁあああッ!!? 300万!? 魔無がそんな値段するワケないじゃないですか!!」
俺が何か言う前に最低落札価格5,000ディルの巨乳エルフが吠えた。
まぁ気持ちは分からなくもない、俺に言わせればこの2人にそこまで天と地ほどの値段の差が付くとは思えないからな。
「やめましょうイヅナ様! これ絶対にぼったくりです! 300万なんて世界中すべての魔無を買い占めてもお釣りがくる値段です!!」
俺はそうは思わない、この子もユリアも他所の国に行けば300万じゃ買えないと思う、きっと桁が一つ増えるぜ?
だがここはあえて怒れるユリアに乗ってみるか、なにせ俺たちの予算は50万も無いんだからな。
「お、お待ちを! えぇっと…… 100万ディルでいかがでしょう?」
「一気にスゲー落ちたな?」
「魔無の奴隷なら高くても30万くらいが限界でしょ?」
こっちとしてはありがたい話ではあるのだが、ユリアの自己評価の低さが悲しい。
「ご…ご勘弁を! この娘の仕入れ値やこれまでの維持費を考えるとこれくらいは……」
どうやらネズミ男も売れない不良在庫をこのチャンスに処分したいらしい…… だったらもっと値下げしろよ。
しかしこれ以上 奴隷本人の目の前で値下げ交渉するのも可哀そうだしなぁ……
「分かった、100万ディルで買おう」
「おおっ!!」
「正気ですかイヅナ様!? ぶっちゃけ5,000ディルでもイイと思うんですけど!?」
ユリアは最低落札価格5,000ディルがトラウマになってるのかな? だからって5,000仲間を欲しがるんじゃありません。
「店主、今は手持ちがないから少し待て、ただし次に来た時に値段を吊り上げるような真似をしたら…… 分かっているな?」
「も……もちろん分かっております! 我々の商売は信頼で成り立っておりますから!」
信頼ねぇ? まぁいい、とにかく金をかき集めて理想の獣人娘をハダカデバネズミの手から救い出すんだ!!
《特別解説》
『ハダカデバネズミ』
女王制の珍しいネズミ、おしっこに呪い成分アリ、いろいろと不思議な生き物。
こんな(・w・)顔してる。




