第30話「反魔力同盟 ―アンチマギア―」
異世界生活6日目……
冒険者ギルド・西ユグドラシル支部
この日俺はついに異世界転移高校生の通過儀礼を終えた……
すなわち冒険者になったのだ。
…………
冷静に考えると冒険者になる必要ってホントにあったのだろうか?
何故なら俺にはベルリネッタがいる、それこそ大物女優の母親よりも子供を甘やかしてくれる存在だ。
俺が「お小遣いちょ~だい」って言えば100万くらいぽ~んと出してくれて、麻薬に溺れても敏腕弁護士を雇って無罪にしてくれるだろう。いやもちろんそんなモノに手を出す気はないんだが……
…………
この世界に麻薬は存在するのだろうか? まさか異世界知識無双で麻薬を栽培した英雄候補とかいないだろーな? もしいなければ知識チートで麻薬王になれるかもしれない!
ただし栽培方法を知っていればの話だが。
まぁこんな砂漠のど真ん中で目指すなら麻薬王より石油王の方がまだ可能性がある気がする。
ハァ…… 話がそれたな……
とにかく俺には青いタヌキ並みに願いを叶えてくれるロボ子がいる。
だが青いタヌキと違って俺を立派な大人に育てようって気が一切ないのが問題だ。
いや…… 青ダヌキの方も大概だった気がするが……
とにかくベルリネッタは俺を甘やかす……
そりゃベルリネッタを働かせて俺はヒモみたいな生活を送ることもできる、だがそれをすると俺は白馬あたりから「糞DTヒモ太郎」とか呼ばれるだろう、それは避けたい。
いや…… DT関係なくね?
そりゃ英雄候補の中でもトップクラスの才能を持ってた白馬なら今ごろ卒業してるだろうけどさ…… たぶん城のメイドとか教育係の女騎士とかとさ……
まさかセレスティーナ姫に手を出したりしてねーだろーな?
いったい何の心配をしてるんだろうな? 俺は……
ま、そんなワケでようやく冒険者資格を取得した、これで誰にもニートとか呼ばせないからな!
チラ… チラ… チラ…
何かさっきから視線が気になる、ここはギルドに併設されてる酒場の一角、当然俺たちのほかにも客はいる。
そりゃ中二コートを纏った美少年とゴスロリ姿の美少女と世界に一人だけの巨乳エルフが集まっていれば注目されるのも仕方ない。
だが不愉快だからチラ見すんじゃねーよ! 見るなら堂々と見ろよ、俺みたいに!
「あの…… イヅナ様…… 何故さっきから私の胸ばかり見てるんですか?」
「気にするな」
「えっと…… 目障りなようでしたら外套を纏いますけど?」
「必要ない、ありのままのキミでいてくれ」
「は? はぁ……」
ふ~む、異世界にもブラってあるのか…… そうだよな、無ければ絶対にB地区がひょっこり顔を覗かせるハズだもんな、もしかしてそれも英雄候補が広めたのか? 平地だらけの耳長族に広めるなよ、余計なことしやがって!
「マスター」
「ん?」
「今後のこと話したい」
「あ~…… あぁ、そうだな……」
あのプルプル動く物体の頂点を見極めたいトコロだが今は止めておこう。
テーブルの上には3枚のカードが置かれている、これが俺たちの冒険者ライセンスカードだ。
記されているのは《名前》《種族》《属性》《戦種》《等級》、簡易スキャンで見えたデータと大体同じだ。
しかしこの3枚のカードはその全ての項目が埋まっているワケではない。
俺のカードはこんな感じだ。
名前:神楽橋飯綱
種族:人間族
属性:Unknown
戦種:Unknown
等級:虚無級
……どうせなら等級もUnknownにしろよ。
このカード身分証明にも使えるらしいんだが、こんなUnknownだらけで役に立つのか?
まぁ俺のなんかまだマシな方だ、ベルリネッタのカードに至っては……
名前:ベルリネッタ
種族:Unknown
属性:Unknown
戦種:Unknown
等級:Unknown
ま、そうなるよな。
名前以外はすべて謎、これには職員たちの顔も引きつってた。
Unknown表記はたまに出るらしいが名前以外全部ってのは歴史上初だろう。
あ、ちなみにユリアは……
名前:ユリアリーデ・エルフィアナ
種族:耳長族
属性:Unknown
戦種:射手
等級:虚無級
俺と同じパターンだと思ったんだが戦種だけ埋まってた、要するにジョブとかクラスって意味だろう。
アレ? だとすると俺って未だに無職なのかな? せっかく就職できたと思ったのに!
「三人でパーティー組む」
「へ?」
「? なに?」
「あぁいや、そうだな、冒険者はみんなパーティー組んでるみたいだしな」
始めからユリアも連れてく気だったのか……
そうだよな、ベルリネッタの目的の一つは純血種の保護だからな…… てっきり冷凍してプレアデスの倉庫にでも突っ込んどくのかと思ってた……
んなワケないか、それは保護じゃなく保存だ。
「ユリアはそれでいいのか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
確かにこの娘を人間族の街に一人で行かせたら秒で攫われるに決まってる、ウチで保護しなきゃな、うん。
「え~っと、パーティーを組むにはまずパーティー名を決めないといけないんですけど……」
「パーティー名? それって必要なの?」
「はい、ギルドの登録に必要です」
ユリアが言うには単独で受けられる依頼はランクが低いものが多く、報酬が高い依頼は基本的にパーティーでしか受けられないそうだ。
相変わらず異世界は難易度が高い…… ボッチに厳しい世界だ。
「ですからリーダーのイヅナ様が名前を決めてください」
「え? 俺がリーダー?」
「違うんですか?」
まぁこの3人だったら…… 俺しかいないか。
「分かった、だがパーティー名ってそもそもどうやって決めるんだ?」
「何でもいいんですよ、最近は二つの単語をくっ付けるのが流行り見たいですけど」
「例えば?」
「例えば……そうですね、有名なトコロだと超級パーティー《暁の咆哮》とか……」
デ・イ・ブ・レ・イ・ク・ロ・ア(笑)
夜明けに叫ぶなよ、ニワトリみたいな奴らだな。まぁあくまでパーティー名ってだけで実際にデイブレイクにロアってるワケじゃないだろうが…… してたら本当に近所迷惑だ。
「あと、極級パーティーの《挑戦者たち》とか《仮面騎士団》なんてのもあります、要するになんだっていいんです、よっぽどヒドイのじゃない限り」
なにかクギを刺された気がする、これじゃパーティー名に「巨乳エルフと無表情少女とヒモ男」って名前は付けられないな。
仕方ない…… だったら別の俺たちを象徴するような名前がいいか、例えば……
「反魔力同盟・アンチマギア」
「はい? あんちまぎあ?」
ユリアの顔が引きつってる…… ま、そうだよな、アヴァロニア王国の騎士みたいな魔法絶対主義者に正面からケンカ売ってるようなモノだから。
「え~と、それは……」
「使用禁止用語とかはないんだろ?」
「もちろんです、でも反魔力同盟って…… この名前、たぶん目立ちますよ?」
「あぁ分かってる、だがこの世界には俺たちの他にも魔力を持たずに虐げられている人達がいる、そんな人たちの希望…… そして向こうから接触してきてくれれば…… そんな思いを込めてみた」
「私たちが魔無の希望?」
この世界にあとどれだけの魔無がいるかは分からない、だがなんとしても保護しなければならない……
何故なら…… みんな女の子だからだ、多分俺以外の男の魔無なんて存在しない。
うん、なんとしても保護しなければ!
あと、ちょっと残酷な予想だが年寄りの魔無も存在しないと思う。
この剣と魔法の世界では魔力無しで長生きできるとは思えないからな。
むしろユリアは運が良かったんだろう、無傷でここまで立派に育ったんだから…… マジで耳長族以外の多い国だったらとっくに散ってたぜ?
「魔無の希望…… いいですね! では《反魔力同盟》でパーティー登録してきますね、あ、ライセンスカード預かります」
ユリアは3枚のカードを持ってギルドの受付に小走りで駆けて行った……
―――
――
―
「お待たせしましたぁ♪ 下級パーティー《反魔力同盟》! 結成しました!!」
ワ~♪ パチパチパチパチ♪
ユリアは一人だけテンション高い…… 一応拍手だけはしてやるか。
きっと彼女は学生時代にフォークダンスの練習で相方になってくれる奴がいなくて一人で椅子持って練習してたんだろう、だから生身の仲間ができてうれしいんだ。
もっとも生身なのは俺だけで、ベルリネッタはどちらかというと椅子寄りだ、組成的にって意味だ。
受け取ったライセンスカードを見ると一つ項目が追加されてる。
反魔力同盟:下級
ふむ……
「あのさユリア、この「下級」ってのは?」
「下級っていうのはパーティーのランクです、全6段階の一番下のランクです」
そういえばあらゆるモノが6段階評価される世界だったっけ……
ユリア先生の解説によると……
第6位・下位級とか下級と呼ばれる。
意味は新人とか初心者ってトコロらしい。
第5位・中位級とか中級と呼ばれる。
意味は中堅や一人前って感じ。
第4位・上位級とか上級と呼ばれる。
意味はベテランとか一般人の限界。
第3位・特上級とか特級と呼ばれる。
意味はトップクラスってトコロか、白馬以外の英雄候補がここら辺だ。
第2位・超越級とか超級と呼ばれる。
意味はそのまんま、人類の限界を超越しているモノ、白馬や勇者のコトだな…… ちょっと眉唾物だ。
第1位・極限級とか極級と呼ばれる。
歴史上に数人いるかいないかのレベル。
話を聞いた限りだとヒトと魔物では等級と危険度が釣り合わない感じだ。
どうやらこの世界、魔物の方がヒトより圧倒的に強いようだ。
ベルリネッタの話では《龍種》とは超級か極級のヒトが魔物化したモノだろう、それは生物として一段階強化されるというコト…… だったら魔物の強さが一つズレるのも仕方ないコトなのかもしれない。
要するにヒトの上級と魔物の上級は魔物の方が強いって覚えておけばいい。
こういう説明はこの世界に来た日にして欲しかった、もっとも最下位のさらに下の虚無級の俺が聞いても何の意味もなかっただろうが……
…………
ランクの話を聞いていたら白川センパイのことを思い出してしまった、いや、忘れていたワケではないんだが……
彼女は無事だろうか? 俺のようにSF自立兵器の保護を受けねば生き残れるとは思えない……
あるいは運よく元の世界に生還できただろうか……
…………
考えるのは止そう、どうせ答えを知ることはできないんだ。
きっと無事さ、根拠は運勢最悪の俺が生き残ったからだ。
案外ルースに行ったら再会できるかもしれない、その時は眼鏡とおさげを止めて黒髪ロングの美少女になってるさ……
グレてヤンキーみたいになってなければイイんだけど…… 微妙に気性が荒かったからなぁあの人……
「仲間です! 私たちはパーティーです! ウェヘヘヘェ♪」
ユリアが気持ち悪い笑い方してる、嬉しいのは分かったから変顔ヤメロ、せっかくの美少女が台無しだ。
「とにかく金を稼がないといけないな、いずれアヴァロニア大陸に渡るためにも」
「あ、それなら他所のギルド支部に移ったほうが良いかもしれません」
「? なんで?」
「ギルドによってはランクによって受けられる依頼が限られるんです」
あぁ、よくあるアレか、下級パーティーは下級依頼しか受けられないってやつ。
「冒険者ギルド・西ユグドラシル支部は自分のランクかその一個上のランクまでしか依頼を受けられません。
私たちって多分…… 凄く強いですよね? なのでここで低レベルの依頼を受けるのは時間の無駄だと思うんです」
確かにそうなんだけど…… 実際はプレアデスが使えるようになるまで暇つぶしができればイイだけなんだよなぁ。
だが他所の支部へ移動するのは賛成だ、チラチラ見られるのも鬱陶しいし、少々試験で目立ちすぎた様だからな。
「しかし他所の支部へ移動するにも先立つものは必要だろ? 旅費は40万ちょいで足りるかな?」
「え? 旅費なんていらないですよ?」
「は?」
「え?」
なんでだよ? 砂漠のど真ん中のこの街から他所へ行くには金が必要だろ? もしかしてワープポイントでもあるのか? でもこの世界って世知辛いし絶対使用料掛かるだろ?
「あ~…… そう言えば説明……して無かった…… かな?」
「…… なんだよ?」
「えぇっと、イヅナ様はこの都市を真上から見たことがありますか?」
「あるワケないだろ」
「で……ですよね? この都市は真ん中に壁があって東西に分かれてるんです」
壁? 分かれてる?
「おい、まさか……」
「あ~…… ですから最初から言ってましたよね? ここは西ユグドラシル、耳長族の街だと……
そして壁の向こう側、東ユグドラシルは獣人族の街なんです」
昔のベルリンかよ…… そういうことはこの街に入った時点でいうべきだろ? 普通紹介するときに自然と出てくるハズだぞ? このポンコツめ……
「そこの壁に扉がついてますよね? あの向こうが冒険者ギルド東ユグドラシル支部なんです」
お隣の国まで徒歩10秒、そりゃ旅費なんか掛からないよな……
「も……もちろん冒険者にならなければ東へはいけません! なので冒険者になるまでは必要のない情報ですよね? ね?」
「それって耳長族のユリアにだけ適応される制度で、俺とベルリネッタには関係ないんじゃないのか?」
「……………………」
目を逸らすなポンコツ!
まぁいい、重要なのはわずか5mの位置にある扉の先に獣人の国があるという事実。
獣人…… ケモ耳とシッポ…… ぜひ我が反魔力同盟に欲しい人材だ! きっと獣人にも魔無がいて俺たちの保護を待っているハズ!
行こう! 獣人の国へ!!
―――
――
―
俺は希望を胸に扉を開く……だが……
10秒後…… 俺の希望はあっさり打ち砕かれたのだった。
―― 耳長族/エルフ 編・完 ――
《特別解説》
『DT/でぃーてぃー』
女性経験のない男、童貞、チェリーボーイのコト、戦士の称号。
拗らせると魔法使いになれる。




