第3話「虚無級」
「あなたは『終末師団』です、恐らく多くの人を指揮するのに向いている能力ですね、等級は…… 《特上級》です」
「フッ…… こんなものか……」
会長が眼鏡をクイッとしながらドヤ顔してる。
等級こそセンセーと一緒だったが「人の上に立つ能力」ってところに喜んでるっぽい、いかにも“ザ・生徒会長”って能力だもんなぁ。
「フン! どけ! 次は俺だ!」
チャラ男先輩が会長に対抗意識燃やしてる。
この状況を楽しみだしたな。
気持ちはわかる、俺もワクワクしてる…… しかし…… 個人情報を衆目に晒すことに危機感を覚えないのだろうか? まして俺たちには読めない文字で表示されてるんだぜ? お姫様が読み上げてくれる以外の情報が含まれてる可能性だってある!
例えば性癖とか、チ◯コのサイズとか、生涯オ〇ニーの回数とか……
…………
お……俺は他人に知られて困るようなことは…… な…な…な、無いケドね?
「あなたは『空間支配』です、これは……恐らく空間に干渉する類の能力だと思われますが前例がないため断言しかねます。等級は若村様と同じく《特上級》ですね」
「チッ、同等かよ……」
チャラ男は実に不満そうだった。
あいつら完全にライバルキャラだ、きっとどちらかがピンチに陥った時「お前を倒すのは俺だ、こんな奴に負けるのは許さないぜ」とか言って助けに来るんだ。
ぜひとも切磋琢磨して魔王討伐を成し遂げて欲しいものだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ここでぱったりと名乗り出る者がいなくなった、俺としてはもう一人くらい被験者をはさみたい。
それに少しばかり懸念を感じることがある……
それはこの世界ではとにかく『6』という数字がキーワードになることが多いようだ。
しかしこの世界にやってきたのは俺と白馬、センセーと生徒会長と副会長、それにチャラ男部長と…… バスの運転手。
7人だ……
誰か一人余るんじゃねーか?
もちろん全然関係ないかもしれない、だがもし余りが出るのだとしたら一人だけ学校と関係ないバスの運ちゃんの気がする。
でも最後にやるのはヤダな、オチが付きそうだし……
「それじゃ…… 次は俺が……」
!?
しまった! 運ちゃんが名乗り出てしまった! あんたオチ担当だろ!?
いや、モノは考えようだ、ここで運ちゃんがハズレを引いてくれれば後に残る俺は心穏やかにステータスオープン出来るってものだ。
ヴオン
「あなたは《特上級》の『参拾魔導』です。メイガスは最上位の魔法使いを指す言葉です、恐らくですが魔法関係に突出した能力だと思われます」
なんだよ、みんな《特上級》じゃねーか、全然特別感ねーな。
いや…… それよりも…… オチが付かなかったぞ? やはり俺の考えすぎだろうか?
しかしさっきから能力説明には必ず「恐らく」って言葉がつくな、お姫様が言ってた通り異世界人の能力はこの世界では異質なのだろう。
「おい飯綱、どっちが先行く?」
「ん?」
残っているのは俺と白馬と副会長。
「お前はどーせ最後は嫌とか言うんだろ?」
「ふむ…… いいだろう、お前に先を譲ってやる、感謝しろ」
「いや…… なんでお前そんな偉そうなんだよ? ったく……」
毒見はもう充分だが白馬に先を譲る、リア充度は俺と大差ない男だ、参考になるかも知れないしな。
「それでは石版に両手をつけてください」
「ふぅ~…… うん、よし!」
白馬が石版に触れる…… すると今まで同様、読めない文字が浮かび上がってくる……
…………ん? 今までより文字数が多い気が……
「え? うそ…… これは……」
「え? え? ナニ?」
「あなたの能力は『真技奪格』、前例がなさ過ぎてどういった能力かは不明です、等級は…… す…すごい! 《超越級》です!」
アレ? なんかスゴイ事になってる?
「え~っと…… 凄さが分からないんですけど?」
「これは物凄いことなんですよ! 《超越級》は上から2番目の等級で100万人に1人の才能の持ち主です!」
「お……おぅ、つまり選ばれし者ってことか……?」
「そうです! こんな凄い適性、勇者以外では見たコトがありません! 伝説の六英傑に匹敵するほどです!」
あ、やっぱり勇者っているんだ…… そうだよな、魔王がいて勇者がいないわけない。
白馬はさしずめ「異世界の勇者」ってヤツだな。
…………
コレは好都合♪ アイツを働かせれば俺は楽できるかもしれない。
「…………」
「……チッ!」
会長とチャラ男が白馬を睨んでる、年下の白馬に抜かれたのが余程気に入らないと見える。
フッフッフッ…… ますます好都合だ。
ココに居るのは殆どがちょっと見掛けたコトがあるって程度の薄い繋がりしかない連中だ、そして纏め役になれそうな上級生が揃って下級生に嫉妬してる。こんな纏まりの無い集団が一緒に行動することは無いだろう。
第一アイツの能力『真技奪格』って確証はないけど対象のスキルを略奪する系の能力だろ? 普通なら誰も近づかない。
さらに会長とチャラ男に睨まれてる白馬は必ず孤立する、そうなるとアイツが信用できる仲間は幼馴染の俺だけになる。
そうなればこっちのモノだ! 俺は白馬をよく知っている! アイツを馬車馬のように働かせるコトなど俺が真面目に働くより容易い!
あとは簡単、危険なコトは全部白馬に押し付けて、俺はパワーレべリングさせてもらおう♪ そうしよう♪
…………
ただ一つ懸念がある。
こと異世界モノでは親友同士が対立する設定がよくある、幼馴染の俺と白馬にもそういったお約束現象が起こる可能性がある、勇者っぽい白馬の能力とは真逆の能力、つまり魔王っぽい能力になるかも知れない。
その場合、俺の方がより孤立する事になる…… そうなると俺が白馬に扱き使われるかもしれないなぁ……
「おい飯綱、やらねーのか?」
「ん? あぁ、やるやる、しょーがねーからやってやる」
「だからなんでお前はそんな偉そーなんだよ」
うぅむ…… どうなることやら…… 俺はお人よしの白馬の保護欲を擽るような平凡な能力が良いなぁ、略奪する価値もないようなやつ、でも一人だけ一般人等級とかだと惨めだし……
「それでは石版に両の手の平を置いて下さい」
おぉ! お姫様近くで見るとさらに可愛いな! 思わずその真っ白でペラッペラなドレスの一部分をガン見したくなる、が、今はステータスオープンの時間だ。
目立たないようにサッとやってサッと終わらせよう。
ヴオン
あの独特な音と共に石版に文字が浮き出……アレ? なんか文字少なくね? つーかスカスカだ、下の方にチョロっと数文字出てるだけだ。
バグった? それとも強キャラのお約束『鑑定不能』か?
「あ…… こ…これは……」
お姫様が可哀相なモノを見る目をする…… その愁いを帯びた表情だけで一食分のオカズになりそうだ。
いやいや! それどころじゃない! なんかちょっとヤバそうな雰囲気だ!
「えぇっと…… 貴方はカグラバシ・イヅナさんですね? その…… 大変申し上げにくいのですが……」
「あ、大丈夫です、ハッキリ言っちゃってください」
もはや聞くまでもない、あの表情がすべてを物語ってる……
これから行なわれるのは告知ではなく処刑だな。
「えぇ…… イヅナさん、貴方の体内には魔力が一切存在しません。
つまり魔術適性ナシです。
あと等級は《虚無級》です」
「《虚無級》?」
「は……い、先程《下位級》が1番下と言いましたが、それは「普通の人」の話で、実際には更に下があるんです、それが《虚無級》…… この等級が出るのは魔力が発現する前の5歳児以下に限られます」
ほぅ? つまり俺は普通じゃなく、小学生にケンカで負けるレベルなのか?
ランドセル背負ってる奴にボコられるってのか?
もうヤメて、俺の心のライフも虚無よ。
白馬と対極のステータスを予想してたが、この対極は予想をはるかに下回る酷さだ。
剣と魔法の世界では魔力の有無でそこまで差がつくものなのか。
あ、手の平に《魔痕》が無い…… そうだよな、魔力が無いんだから魔力の出口も必要ないよな……
ハッハッハッ、ちょっと泣いてきていい?
「え……と、い……飯綱?」
白馬が遠慮がちに話し掛けてくる、なんだよ? 俺を哀れんでるのか? それとも気遣ってくれるのか? お前そんなキャラじゃないだろ?
ハァ~…… 仕方ない、いつものヤツをやるか。
「白馬キサマァ! 俺から焼きそばパンとコロッケパンを奪っただけでは飽き足らず、俺のステータスまで奪いやがったのか!!」
「はぁっ!!? なんでそうなるんだよ!? 大体パンはお前が差し出したんだろ!」
「やかましい! お前のステータスってどうみても二人分だろ! つまり俺から奪ったんだ!! 返せ! あとついでに小5の時に貸したドラクエも返せ!!」
「いっ!? 言いがかりつけんな! あとお前からドラクエ借りた記憶はないぞ!?」
「この野郎しらばっくれやがったな? 大体お前みたいな凡人がそんな主人公っぽいステータスを得た理由でこれ以上説得力あるものがあるか!?」
「うぐっ!?」
どうやら白馬自身も分不相応だと思ってたようだ。
だよな? もし俺が逆の立場だったとしても「なんでだよ??」って思うもん。
「しかし俺も鬼じゃない、返し方がわからないものを要求して謝罪と賠償を強いるつもりはない、ドラクエは返してもらうがな」
「そりゃどーも、あとドラクエ借りてねーよ」
「そこでお前に贖罪の機会を与える」
「贖罪って…… 飯綱はさっきからなんで被害者ヅラしてんの? 俺何もしてなくね?」
「黙らっしゃい! お前はとにかく魔王を半殺しにしろ、HPを0.1くらいまで削れ、具体的に言うとデコピン一発で死ぬくらいまでボコれ。
異世界からの勇者ならそれくらいやってのけろ! んで最後のデコピンは俺がやる、それで経験値をもらう、そこまでやれば許してやろう」
「無茶振りにも程があるだろ」
「あ……あのぅ……」
俺の天才的発想の帰還計画を語っているとお姫様が遠慮がちに声をかけてきた。
「なんですか? 俺の完璧な計画になにか穴でも?」
「完璧だと思ってるのお前だけだろ、むしろ穴しかねーよ」
白馬うるさい。
「えぇっと…… そもそも……ですね? 魔力を持っていない貴方がたとえ魔王を倒しても魔力は高まりません。
ゼロに何を掛けてもゼロです」
…………
「じゃあ俺はどうやって帰ればいいの?」
「残念ながら…… 生きて帰るのは不可能だと思います…… ごめんなさい」
謝られちゃったよ…… まぁぶっちゃけそんなことだろうと思ってたよ、白馬にやらせようとしてた計画だって実行できるとは思ってなかった。
こうなったら仕方ない……な。
白馬の両肩に手を置き、目を正面から見ながら真剣に話す。
「白馬…… 許して欲しければお前は絶対に生きて帰れ」
「!?」
「そして俺のパソコンを確実に処分してくれ!
あ、ついでに家族に俺が異世界で生きてる事も伝えといて、中二病を疑われるかもだがそれくらいはやってくれよ」
「飯綱……」
「なんなら報酬としてパソコンをくれてやってもイイ、闇に葬るには惜しい一品だからな…… お前が俺のコレクションを受け継げ!」
「お前は昔から全然変わらないよな…… 真面目な話をする時、照れ隠しで変なことばっかり言う癖」
照れ隠しじゃねーよ! パソコンは本気で処分して欲しい! 絶対に親に見られたくねーんだよ!!
「わかった! 絶対に生還してお前の無事をおじさんとおばさんに伝えるよ!」
うん…… それも大事だけど、パソコンの方も忘れないでね? いやマジで!
ドヨッ
ん? あ、しまった、白馬と話してるうちに最後の1人のステータスチェックが終わっちまった。
で? どよめきが起こるってコトはまた勇者レベルだったのか? チクショウ、勇者と勇者に挟まれたなら俺のステータスも反転しねーかな?
最後って誰が残ってたっけ? あれ? 石版の表示、俺の時と同じじゃね?
…………
まさか!
《特別解説》
『ドラクエ』
国民的RPGと呼ばれた人気ゲームシリーズの略称、個人的には3が最高傑作だと思ってる、異論は認める。