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非魔法使いによる反則的異世界攻略  作者: 群青
―― 耳長族/エルフ 編 ――
29/175

第29話「黒い悪魔 ―キング・オブ・カタストロフィ―」


 ついに来たぜこの時が!


 結局今の今まで試すことのなかった俺の実力を計る絶好の舞台が!

 異世界にやってきてここまで戦闘らしい戦闘と言えばゴブリンのキン●マ蹴り潰した時と、イモムシを遠距離から滅却した時くらいだ。

 あとは逃げるかベルリネッタに丸投げ、こんなの主人公じゃないだろ?


 ここらで一つ自分の戦闘力というものを把握しておきたい。

 より正確に言うとパワードスーツの性能テストだな。


 現代知識無双が使えない以上、冒険者としてチマチマ稼がなきゃならないからな。そういった意味でもテストは重要だ。


 もちろんわざわざ危険を冒さなくともベルリネッタが俺を養ってくれるだろう、だがそれに甘えたら俺はダメ人間に育つ、きっと部屋から出なくても一日三食自動で供給され週に一回ジャンプが配達されるだろう……

 そんな光景がリアルに想像できる! それはもうフルカラー音声付3D映像のハイクオリティで脳裏に浮かぶ! そこまで逝ったらもうお終いだ。


 そんなワケでこの試験はちょうどいい機会なんだ、ランダム召喚で出てくる魔物はたとえレアモンスターでも充分対処できるレベルだった。


 どんな相手でも俺が倒してやる!……とか言うとドラゴンとかが出てきそうで嫌だが、まぁちょっとデカい昆虫程度なら全く問題ない。


 極力ベルリネッタに頼らずにこの試練を乗り越えてみせるぜ!

 あ、パワードスーツはもう俺のモノって認識でね。


「それじゃ行ってくるぜ」

「マスター、危険を感じましたらすぐに言って…… 何とかする」


 ふっ……


「あぁ! その時は頼りにしてるぜ!」


 …………


 うん、言いたいことは分かってる、だが意地を張って危険を冒す気はない、死ぬくらいならベルリネッタに扶養してもらうルートを選ぶ。

 甚だ遺憾ではあるが夢のニート生活を送らせてもらうぜ。


「※※※※※※※※※※」


 ランダム召喚が始まった、さていったい何が出てくることやら……


 …………


 そういえば今まで2連続でレアモンスターを引いてたよな? 二度あることは三度ある……なんて言葉もあるよな……

 いや、いやいや、落ち着け、三度目の正直……って言葉もある! どっちだ? たとえレアモンスターを引いても何とかなると思う、でもできることなら三度目の正直で一般モンスターを引いて欲しい!


「むおっ!? こ…これはッ!?」


 魔方陣は禍々しい赤い光を放っている…… さっきまでは青白い光だったのに……

 嫌な予感が止まらない。


「な……なんだこれは!?」

「赤い召喚光? そんなもの聞いたことも……」

「いや…… これは!!」


 職員たちに動揺が走っている……

 あ~…… どうやら三度目の正直でレアモンスターを上回る最悪の激レアを引いたらしい。

 俺の運のステータスってどうなってるの? もしかしてマイナスなんじゃないか?


「あの~、いったい何事ですか?」


 一応問い合わせてみる、俺の試験なんだからな。


「赤い召喚光…… これは伝説の黒い悪魔“キング・オブ・カタストロフィ”の光……!」


 oh…… まるでラスボスの称号みたいな言葉が出てきました。


「今を遡ること666年前のコトじゃ…… あの時も今のような禍々しい光を魔方陣が放ったのじゃ……」


 なんかおじ~ちゃんが語りだした、見るからに話が長そうな顔をしている、きっと校長の話より長くなる……


「思い出話はどうでもいいから結論だけ頼む」

「むぅ……」


 おいおい、頬を膨らませて不満を表現するな! それは可愛い女の子にのみ許されるしぐさだ、シワくちゃヒゲもじゃの顔でしても価値がない。


「大昔に同じようなことが起こった、その時ユグドラシルは滅亡寸前まで追い込まれたのじゃ……

 奴はどんな魔物よりも強く速く硬い、そしてその姿を見た者すべてに《恐怖(フィアー)》を与えたのじゃ……

 立ち向かえたのはごくわずか、それ以外は逃げ惑うことしかできなかった……」


 げ、予想よりも遥かにヤバそうだぞ。


「そんなにヤバいならさっさと中断しろよ」

「出来るなら既にやってる…… もう…… 手遅れじゃ……」


 なんでそんな危険な行為を月に一度の試験でやってたんだよ、危機意識が足りないにも程がある。



 ブシューーーッ!!



「うおっ!?」


 突然 魔方陣から煙が噴き出した! 今までとは明らかに演出が違う! なんでスモークが焚かれてるんだよ!? 次はレーザー光線か?



 ヒュン ヒュン



「ん?」


「もうお終いじゃー!!」

「で……出たー!! 黒い悪魔だーッ!!」


 煙の向こう側でナニか…… 2本の釣り竿?のようなモノが揺れている……?

 そしてスモークが薄れると、次第に黒く巨大な物体が姿を現す…… 思ってたよりも平べったい……


 …………


 い……いや、ちょっと待て! 俺はいま黒い悪魔の最悪の正体を予想している!

 ま…まさかとは思うけど…… 黒い悪魔って日本でも人んちに勝手にホームステイくる招かれざる客のアイツのことじゃ無いだろうな!? 違うよな!? 誰か違うと言ってくれ!!


「黒い悪魔…… 要するに……巨大ゴキ●リ」


 誰もが目を背けたくなる現状の中、ベルリネッタだけは冷静に現実を見つめ黒い悪魔の正体をつぶやいた。

 そうだよなぁ…… 目を背けたって現実は変わらない。


 スモークが晴れるとそこには長い2本の触角、黒光りするボディ、体長5mはあろうかという巨大なG……

 なるほど「見た者すべてに《恐怖(フィアー)》を与えた」……か、納得だ、まさに身の毛もよだつ思いだ。


「うわぁぁぁああっ!! リタイア!! リタイアするーーー!!!!」

「俺もだ!! リタイアだ!! 頼むここから出してくれぇ!!!!」

「ギブアアアアァァァアップ!!!!」


 残っていた受験生が次々ギブアップ表明、お前らふざけんなよ? なんで俺より先にギブアップしてるんだよ?



 ヒュン ヒュン ビシュッ!! ボゴオォン!!!!



「ギャアアアァァァ!!!!」


 !? 出入り口の扉に殺到していた受験生たちが吹っ飛んだ、黒い悪魔の触角が鞭のようにしなり、伸び、受験生たちを襲ったのだ。


「音に反応したのか?」


 地球のゴキ●リにあんな触角鞭の能力は無い、やはり異世界ゴキ●リか…… ま、5mの昆虫なんてほとんど怪獣だ、そんなのが地球にいるワケが無い。あ、でもサナダムシとか10m以上になるんだっけ?

 つーか俺、あんな怪獣と戦わなきゃいけないのか? 虫の魔物なら何がきてもいけると思ってたけどアレは反則だろ? 触りたくない!!


「マスター」

「あん?」

「マスターのコト…… 私が養う、安心して」

「…………」


 ベルリネッタがやんわりとリタイアを進めてくる。まるで聖母(マリア)だ…… その脛に思いっきりかじり付きたい。

 なぜ彼女はそうまでして俺にニート許可証を発行しまくるのだろう? その魅力的な誘惑に今ほど乗っかりたいと思ったことは無い。

 だがダメだ! ここでベルリネッタに丸投げしたら俺はひきこもりになるだろう、10代の貴重な青春を薄暗い部屋の中で送るワケにはいかない!


 ……でも触りたくない! そしてベヒモスを使ったら自分の身すら危ない!

 そもそもこんな巨大なGをどうやって倒すんだ? スリッパで引っ叩いても1ポイントのダメージにもなりそうも無い…… そうだ!


「じーさん、666年前は滅亡寸前に追い込まれながらも黒い悪魔を倒したんだろ? どうやったんだ?」


 当時も余裕で生きていたであろう爺エルフに攻略法を聞く、異世界人を生贄を捧げる……とかじゃないことを祈る。


「と…当時は…… 我々のありとあらゆる技術を駆使しても何の効果も与えられなかった、そして繁殖を始め手を付けられなくなり滅亡寸前まで追い込まれた時…… 救世主が現れた」

「救世主?」

「“英雄”石崎アキ子…… 彼女の異能《以毒攻毒(メイズン)》により黒い悪魔は残らず地獄へ送り返された」


 英雄…… まぁ日本人だよな? そして以毒攻毒(メイズン)……毒…… !! ホウ酸団子か!!


 …………


 ホウ酸団子ってどうやって作るの? つーかホウ酸ってドコで買えるんだよ? 異世界の薬局でも買えるものなのか?



 ビュッ!! ドゴォオッ!!



「うわっ!?」


 黒い悪魔の触角鞭による攻撃をギリギリで回避した。

 うわ…… 武闘台の床石が砕けてる…… 鞭で石を砕くって相当な威力だろ? 当たったら色んな意味でヤバイ!

 少々大声で話し過ぎたせいでタゲがこっちに向いてしまった……


 ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! どうする!?


 いや落ち着け、あいつにはホウ酸が効くんだ、どんなにデカくてもゴキ●リだ! 現代知識無双はできなくても対G用の雑学なら少しはある。

 え~と、え~っと…… そう洗剤!! 確か洗剤で窒息死するとか聞いたことがある!!


 …………


 だからドコで洗剤仕入れるんだよ!! 今この場になければ何の価値もない!!

 落ち着け、スリッパじゃ攻撃力が足りな過ぎて意味が無い…… ホウ酸や洗剤はそもそも持っていない、化学薬品系の雑学は役に立たない……

 何かないか? 触らずにアイツを倒すすべは?



 ヒュン ヒュン



 触角が振られている、あれは触角鞭攻撃の前運動だ、攻撃が来る!

 なにか…… なにかッ……


 ……アレだ!! ストレージ!!


「中央半径2mを除いた全領域内の熱を収納!!」



 ビュッ!! パキィィィン!!



『ギャオオオオォォォオ!!!!』


 触角鞭は俺の半径5mの収納領域に入った瞬間に凍り付いた、しかもそれだけに留まらず触角の半分ほどが一気に凍結し砕け散った。


「ふぅ… ふぅ…」


 あ……焦ったぁ! 何とか間に合った! ベルリネッタにスマホの音声入力機能とのリンクを頼んどいてよかった! 手入力じゃ絶対間に合わなかったからな。

 あと音声入力エラーも出なくてよかった、結構早口だったし…… もしダメだったら汚らわしい鞭でシバかれてたところだ。


 だがこれでもう大丈夫、あいつは俺に物理的攻撃をする手段を失った。未だに見てるだけで精神的ダメージをチクチク与えてくるけど、この…… ん~…… なにか中二っぽい必殺技名でも付けてみるか?

 ……そう、この《大型冷凍庫開放(アブソリュート・ゼロ)》がある限り!!


 …………


 漢字表記に若干の庶民臭さと凡人臭さが見え隠れするが…… ま、いいか。


『ギャオオオオォォォオ!!!!』


 ゴキ●リは触角を凍らされると『ギャオオオオォォォオ!!!!』と鳴く……

 今日はいろいろと勉強になるな、もしかして地球でもホイホイの中でそんな声で鳴いてたのかな? 小さすぎて聞こえなかっただけで?

 まぁいい、後は地球の台所と同じく氷殺だ!!


「《羽のない扇風機(エアロシューター)》!!」



 フワァァァ~~~



 凍てつく空気を叩きつけてみたのだが……アレ? 全然凍らない? なんでだ?

 う~む…… ストレージの収納領域内で絶対零度まで冷やされた空気でも領域外に出た途端 外気と混ざってちょっと涼しい風になってしまうのか?

 いや、そもそも空気って絶対零度になるのか? その前に液化するか凍るんじゃないだろうか?

 何かしらのセーフティーが働いているのか…… いや、考察は後回しだ。


 とにかく氷殺ダ〇ソンは使えないってコトだ。

 このまま突撃すればいい話なんだが、下手に動くと周りの人間まで巻き込んでしまう…… う~ん。

 今の俺にできる遠距離攻撃なんて……

 ナニかないか? ストレージの収納物をチェックチェック。


 ん? 何でこんなに石が多いんだ?

 あぁ、昨日の採掘作業のゴミか、これならもしかして……

 射線を測りつつ、ソレっぽく右手を突き出して……


「《不人気属性の怒り(ロック・ペネトレイト)》」



 ズドドドドドドドドドッ!!!!



『ギャアアアアアアァァァァア!!!!』


 うわ、えっぐ…… 穴だらけになってしまった。

 採掘時に砕かれた石がそのままのスピードで保存されてたので土魔法っぽく撃ってみたら、機関銃で撃たれたみたいになってしまった。

 気体と違ってある程度の質量体ならストレージ領域外に出ても勢いは保持されるな、だが空気抵抗は受けるから弾丸のような形状…… あ、いいコト思いついちゃった、今度試してみよう。


 それよりも今はGだ、うぇ、まだ動いてる…… さすが黒い悪魔、しぶとい。

 放っておいてもそのうち死にそうだが、ここで逃がして卵でも生まれたら大惨事だ。

 足は半分取れてるけどアイツ等は飛ぶからなぁ…… うん、そんな姿は見たくない、特に腹側を見たくない!


 ぐぇ、想像しちゃった……


 しかしとどめを刺すにしても手頃な大きさの石は殆ど撃ち尽くしてしまったし…… やはり近づいて凍らせたうえで粉砕がベストか。

 アイツはまだ生きてるからストレージには収納できない、もちろんアイツの熱を直接奪うこともできない。

 だが周囲の熱を奪ってやれば凍らせることができる、細い触覚なんか一瞬だったからな。

 分厚い皮下脂肪を持つ相手には《大型冷凍庫開放(アブソリュート・ゼロ)》はあまり有効ではないかもしれない…… そこら辺は今後の研究課題だな。


 ハァ…… 近づきたくはないがこれも試験だ、覚悟を決めて接近しよう。

 周囲の人間に被害が及ばないよう効果範囲を調整する、ストレージ領域全ての熱を収納し続ける必要は無いからな。



 パキパキパキ!! ピキィン!!



 堂々と歩み寄る、ビビってることを周囲に悟らせないように……

 ゴキ●リの身体の約半分程をストレージ領域内に収める、少し時間はかかったが全身凍り付いたようだ。

 あとは……


「《不人気属性の怒り(ロック・ペネトレイト)》」



 パキイイィィィン!!



 残っていた高速石弾の欠片を撃ち込むと黒い悪魔は砕け散った―――

 死んだよな? これだけ粉々になってれば…… ストレージに入れてみれば死亡確認はできるがこんなの入れたくないので放置する。

 確認作業は受験生ではなく職員の仕事だ。


「ふぅ…… とにかくこれで合格だよな?」


 職員に確認する、すると……


「新たな救世主の誕生じゃーーーッ!!」


 爺エルフが血圧爆上げで喜んでた、大袈裟な……

 救世主とかどうでもいいから合格をくれ。






《特別解説》

『“英雄”石崎アキ子』

 六英傑の一人『憤怒の英雄・石崎アキ子』、666年前に日本からやってきたオバちゃん英雄、ゴキ●リに対してとても強い憎しみを持っていた、過去に何があったのかは不明。


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