第24話「世界樹迷宮」
異世界生活4日目……
まだ4日目だったのか異世界濃密すぎだろ?
多分去年一年間の俺の人生を凝縮してもこの4日間の濃さには及ばないだろう。
俺の今までの人生って一体…… 薄すぎる…… ウチのカルピスより薄い、もうほぼ水。
しかし濃すぎるのも考え物だ、このままじゃ糖尿病一直線、命の危険を感じたのだって一度や二度じゃない、たった4日の間にだ! 限りなく透明に近い水の生活を送りたい。
やはり田舎でスローライフを送るしかないのか?
ベルリネッタの科学力があれば異世界にやってきた日本人の9割が気にする問題も解決できると思う。
すなわち「食」と「風呂」の問題だ。
食に関しては先輩転移者に頼ることになるかもしれない。
俺のようにマヨネーズ無双を取られた先輩たちの中に味噌や醤油を開発してくれた人がいるかもしれない…… 味噌・醤油の作り方は知らないからなぁ。
ラー油くらいなら作れるけど無双できるほど需要があるだろうか? そもそも既に存在してるかもしれないしね。
だがそれらの問題に頭を悩ませる必要はない、超科学なら有機物からどんなものでも合成食材が作れる!……かもしれない、味は期待できないが……
あとは風呂、異世界転移者はだいたいフロ風呂ふろFUROいうんだよな、中世ヨーロッパ風世界観は当たり前のように受け入れられるのに風呂事情はかたくなに受け入れない。
まぁ気持ちは分かる、俺は面倒くさがりだからシャワー派だがそれでも2~3日も入らなければな~んか気持ち悪くなるだろう。
でもストレージで解決済みなんだよね、体表面の老廃物とか収納しちゃえばいいだけだから。
ちなみに万が一に備えて排泄物も収納していた、超科学力の前ではトイレ問題も余裕で解決だ。
ウォシュレット? そんなもの必要ないね? 例え垂れ流しにしてもストレージ収納でいつでも清潔だ!
…………
でも一応トイレには行ってるぜ? パンツはいたままウ〇コする気にはならないから。
どちらにしてもこんな砂漠のど真ん中の異人さんの国では夢のスローライフは叶いそうにない。
なので仕方なく冒険者になる、金が無ければ理想の田舎暮らしも送れないからね。
―――
そんなワケで朝10時に冒険者ギルドへやってきた。
さすがにこの時間から飲んだくれてる奴はいない、その代わり昨日より人は多いが全員 耳長族だ。
昨日は人間族もチラホラ見掛けたんだが…… もしかして全員受験者かな?
「おいアレ」ヒソヒソ
「まさかここで試験を受ける気か?」ヒソヒソ
耳長族だらけの中に変わった服装の人間族が混ざるとさすがに注目を集めるな…… 確かにこんな砂漠の国にやってくる人間族なんて殆どが冒険者だろう、この国に来てから冒険者になろうとする人間族なんているワケないよな。
まぁいい、逆の立場だったら俺だってチラ見してただろうから。
みんな武装しているようだが、弓と剣と……杖、弓が圧倒的に多いな。
剣と魔法の世界でもエルフと言ったらやっぱり弓か、ベタだな。
「ユリアはどこだ? まだ来てないのか?」
試験の前に傾向と対策を聞いておきたかったんだが…… 今更聞いても手遅れか。
「マスター、あっち」
「ん?」
ベルリネッタの指す方向…… 部屋の隅に隠すように置かれた袋…… あ、ユリアの外套か、何やってんだあんなトコロで?
「ユリア」
ビクッ!!
「あ……しょ、少年…… オハヨウゴザイマス」
「何してるの? こんな隅っこで? ……あ」
「その…… えっと…… 隅が好きなんです……」
なんだその言い訳? というか聞いてる途中で気付いた、彼女は魔無だ、そんな奴が部屋の隅っこで目立たないようにしてる理由なんて一つしかないよな。
「おい見ろよあそこ」
「お? 駄肉がいる?」
「何か月ぶりだ? しばらく来てなかったよな? もう諦めたのかと思ってた」
やっぱり……
他種族でも魔無を蔑む風潮があるとは聞いていたが、耳長族にもあったか。
異世界モノのエルフってプライドが高かったり傲慢だったりすることがある、この世界もそっちのパターンかぁ……
つーか駄肉ってなんだよ? 耳長族はスリム、貧乳、細マッチョしかいねーじゃねーか。
「え~っと、ほら隅っこって落ち着くじゃないですか? それに自然に埃とかゴミとかが溜まるじゃないですか? そんなところが私にピッタリ…… な~んて…… ハハ……ハ……」
まだ言い訳が続いてた、周りの連中の言葉だって聞こえてただろうに…… そして言い訳が悲し過ぎる。
「ユリアは何度もこの試験を受けてるんだよな?」
「うっ! はい…… 今回で10回目のチャレンジになります……」
そんなに受けてるのか、完全に常連だな……
しかも試験料は1回20万ディル…… うぇ~……
「ということは、あっちにいるユリアの顔見知りも以前の試験に落ちた奴ってコトだよな?」
「うっ!?」
「……チッ!!」
「くっ……」
何人かの耳長族が目を逸らした、偉そうに魔無をディスってたくせに自分たちだって試験に落ちてるじゃないか。
まぁこれで外野も少しは静かになるだろう。
「もしかしてここのギルドの試験って他所より厳しいのか?」
「あ、はい、アヴァロニアとかに比べるとかなり難易度が高いといわれています」
なんで俺はこんなに運が悪いんだ、いや…… 魔無の俺は世界中どこのギルドで試験を受けても高難易度なことに変わりはないか。
むしろベルリネッタがいる今こそが一番可能性が高い。
絶対一発合格してやる!
「受験希望者は集まってください」
ギルド関係者らしき人が出てきた、ようやく始まるらしい……
……あれ? みんな大荷物抱えてるな…… 一泊二日の荷物にしては多すぎる気が…… 完全に手ぶらなのは俺とベルリネッタだけだな。
「それでは事前に登録されてるチームに別れてください、これから一次試験の課題素材を発表します」
「課題素材?」
「あ、一次試験はダンジョンに入って課題の素材を収集してくる試験なんです」
ユリアが補足してくれた、さすがベテラン。俺たちは第5チームだそうだ。
しかしいかにも冒険者らしい試験だ。
「ここで運が試されます」
「運? 試験だよね?」
「課題素材はチームごとに違う物が指定されます、ここで激レア素材をお題に出されるとほぼ試験終了ですね」
運……かぁ…… ダメな気がする。
「第1チームの課題素材は「光キノコ」だ」
「よぉっし!!」
「やった!!」
「なにか喜んでるけど……?」
「光キノコはトップクラスの簡単素材です、ダンジョンのどの階層にも自生していて、しかも光っているから見つけやすい……」
コレ試験なんだよな? そんな素材入れるなよ、もしかして耳長族的忖度か?
「第2チームの課題素材は「下級魔石」だ」
「ラッキー!!」
「助かったぁ!!」
「下級魔石?」
「コレもトップクラスの簡単素材です、ゴブリンからでも取れますからね……」
え? それってあの人型のモンスターを解体しないといけないってコトだろ? 日本人には超高難易度だぞソレ……
「第3チームの課題素材は「漆黒苔」だ」
「ウゲッ!?」
「うわぁ……!!」
「漆黒苔って?」
「少し難易度が高いですね、暗いダンジョン内で探すのは大変なんです、でも群生地は限られてるからそこまで行ければ……」
「第4チームの課題素材は「キロタイト鉱石」だ」
「あ~……」
「面倒だな」
「キロタイト鉱石って?」
「この迷宮で一番よく取れる鉱石なんですが第5階層より下で採掘できるんです、第5階層は初心者が潜れるギリギリの階層ですね」
なるほど、そこそこ難易度が高そうだな。
「第5チームの課題素材は「世界樹琥珀」だ」
「ウワーーッ!?」
「デターーーッ!!」
我々第5チームのお題が発表される、だが今回だけは周りが大騒ぎしている、まぁ理由は予想がつく。
「世界樹琥珀って?」
「ッ……ッ…… お……大ハズレ……で……す」
だろうね、ユリアは世界の終わりみたいな顔してる、ピエロじゃなくって死にそうな顔って意味ね。
「世界樹琥珀なんてここ数百年は発見すらされてない素材です…… もうすでに枯渇しているといわれています……」
そんなものを試験の課題にするなよ、明らかに不合格にする気満々じゃないか。
大体世界樹が倒れたのって1000年ちょっと前だろ? そんな短い時間じゃ琥珀なんてできないだろ、それきっと琥珀に似た別の何かだぜ?
「ご……ごめんなさい、私の運が悪いばっかりにお二人まで巻き込んでしまって……」
いやいや、運の悪さで言えば俺だってワールドクラスだ、ユリアだけのせいじゃないさ。
それにこのお題チョイスは作為的なものを感じる、魔無迫害関連のような……
もしかしてユリアが試験に落ちまくってるのもそれが原因じゃないのか?
「まだ落ちたと決まったワケじゃないんだ、始める前から諦めてどうする?」
「そ、そうですよね! ……でも…… ハァァァァ~~~~~……」
「ま、まあ、20万は高い授業料だが試験の傾向が知れただけでも無駄じゃないさ」
思ってもいないことを言ってユリアを慰める、どう考えたって無駄以外のナニモノでもない。
「目標の素材を入手したら第1階層の“闘技場”まで来ること、制限時間は24時間、それが第1試験です」
「第1階層“闘技場”?」
「そう呼ばれているエリアがあるんです、初参加の人には後で地図が配られますが私が持っているので…… 私…… それくらいしかお役に立てませんし……」
なんかイジケてるなぁ、まぁこれから存在してるかどうかも分からない物を探しに行くんだ仕方ないだろう。ツチノコ探しに行くより夢が無いもんな。
だが存在さえしていれば……
ダメだった時は他の受験者の邪魔をして憂さ晴らしでもしていよう。
この試験は恐らく他のチームの妨害も想定されているだろうから。
大体この試験 システム的に穴だらけだ、お題がダンジョンで取れる素材ってことは余程のレア素材でもない限り街で買うことだってできるだろ?
実際俺たちの収集素材以外は安価で買えそうな雰囲気だ、「試験中ダンジョンの外へ出てはいけない」みたいなルールはあるかもしれないが、仲間に買ってきてもらってダンジョンの中で受け取るって手もある。
1回20万の試験だ、失敗して何度も金を払うくらいなら事前に素材を買い集めておくのもアリだ、5人1チームなら一人の負担も少ない。
そういう不正の可能性は考慮されてないのか? 異世界人って純朴だなぁ……
―――
一次試験参加者は5チーム計23名、俺たち以外はみんな5人一組だった。
そしてこれから忌まわしきダンジョンアタックが始まる…… つい先日やったばっかりなんだけどなぁ……
…………
ん? 試験官はなぜか外ではなくギルドの奥へ入っていく、そして受験者も黙ってそれについて行く。
ここは剣と魔法の世界…… もしかして転移魔方陣とかあるのだろうか?
「あ、説明してませんでしたね、この街の地下には「第1世界樹迷宮」があるんです、試験はそこで行われます」
「え? 街の地下に迷宮があるの?」
大丈夫なの? 夜寝てたら急に「アリだー!!」とか言って襲撃されたりしないだろうな?
「ちなみにこの無限砂漠には第1から第7まで、全7つの世界樹迷宮があります、私がバイトで荷物を運んでいたのは第7世界樹迷宮だったんです。
そういえば…… その第7世界樹迷宮で「魔物が溢れ出した」なんて噂になってたけど…… そんなコトあり得ないですよね、調査クエストが出てたけど」
あ~……
残念ながら噂は事実なんだよね、でも今更どうでもいいことだ。
だってその第7世界樹迷宮は先日崩壊しました、しかも原因は宇宙船が発進したから…… 絶対に真相が究明されることは無いだろう。
《特別解説》
『アリだー!!』
とあるゲームの有名なイベントセリフ、屈強な重装歩兵も身体の内側からアリに喰われる、ただしイベントが終わると何事もなかったかのように復活する。




