第23話「ベルリネッタの計画」
日が暮れる直前、ギルドに例の4人組が入って来た…… 言わずと知れた最下位勇者御一行様だ。
俺とベルリネッタは(ユリアに奢ってもらった)ジュースを飲みながら優雅に出迎える。
「いらっしゃい、金は用意できた?」
「ハァ…… ハァ…… ハァ…… ハァ……」
うわ…… ハァハァ言いながらメッチャ睨んでる…… 例えるならアレは魔王との最終決戦時に相手に向ける視線だ、一般人の学生相手になんて目を向けやがるんだ。
ドンッ!
「これよ」
財務担当のヴェラが重そうな革袋をテーブルに乱暴に置いた。
中を覗いてみると大量の銅貨や鉄貨が入ってる。
「多いな…… 両替してから持ってきてよ」
「ムッ!! 別に数えればイイだけでしょ? それくらい自分でしたら?」
普通のコトを言ったらキレられた、もの凄く不機嫌だ、全く隠そうとしない。
「あぁそうか、この世界に来て3日目の、貨幣の種類すらろくに知らない俺達に対する嫌がらせか、勇者ってそういうみみっちいコトする人達なんですね?」
ワザと大声で勇者のみみっちさを宣伝する、ここが日本ならSNSにアップしてたぜ。
「なっ!? こ……これは時間が無かったから……っ!!」
「ハァァァ~…… こんなのが勇者とはねぇ…… 俺の思い描いていた勇者って強きを挫き弱きを助ける清廉潔白を絵に描いたような正義の使者だったんだが、実際は思い込みと勘違いから異世界からの来訪者に一方的にケンカを吹っ掛け、負けたら負けたで言い訳だらけ、その上嫌がらせまでする……
ハァァァ~~~…… ガッカリだよ、ルー様ガッカリ」
まぁ嘘だけどね、勇者=役立たずのイメージしか無かったから、このみみっちい嫌がらせも想定の範囲内だ。
「お前がルー様呼ぶなぁっ!!」
言われなくたってルー様なんて呼ばないよ、お前をおちょくる為に呼んでみたんだ、予想通り効果てき面だった。
「さて…… それじゃ確認させてもらうか」
しかし俺はこの世界の貨幣の種類なんかわからない、ココは現地人に頼むか。
「ユリア、ちょっとコレ数えてくれるかな?」
「え? わ……私?」
「あぁ、硬貨の種類も分からずに数えるなんて不可能だからな、バイト代も出す、それの一割」
「一割……? 10万ディル!?!? せ…誠心誠意努めさせて頂きます!!」
ユリアの目の色が変わった……
異世界人って小銭を一枚一枚お岩さんみたいに数えるんだろ? 超重労働だよ、10万ディルでも安いくらいだ。
「あぁ、ゆっくりでいいから、ついでにこの世界の貨幣を覚えておきたいし」
「では私が丁寧にお教えいたします!」
やべぇ、凄い必死だ…… やはり試験費用は自分たちで出そう、90万あれが足りるよね?
―――
「……100……万、ピッタリです、これだけ小銭が多いと一仕事ですね」
「ありがとう、勇者さんたちの嫌がらせのせいで迷惑かけちゃったな」
「「「「……ッ……」」」」
ちなみに硬貨の種類だが……
鉄 貨:約1円
大鉄貨:約10円
銅 貨:約100円
大銅貨:約500円
銀 貨:約1,000円
大銀貨:約5,000円
金 貨:約10,000円
大金貨:約50,000円
白金貨:約100,000円
でた、異世界定番の大金貨・小金貨、大体これだよな? きっと大判小判みたいなモノだろう。
この世界には5円・50円が存在しない、なのに5万・10万単位の硬貨は存在する…… 必要かなそれ? 銀行が存在しないなら必要なのか?
コレよりも上の貨幣もあるらしいが一般には出回ってないそうだ、当然ユリアも見たことがない。
ちなみに袋の中には鉄と銅しかなかった、これだけでもかなりの重量だし街中の小銭を集めてきたのかも知れない…… その情熱をもっと別のことに使えよと思う。
「どうしますか? 両替します? 手数料が掛かってしまいますが……」
これが目的か、結構重いしそのまま持ち歩くヤツはいないだろう、ストレージに収納してしまえば関係ないが人前で堂々と使うのは憚られる……
ま、いいか。
「そうだな、お願いしよう。どうせあぶく銭だから手数料取られても大して気にならないし」
俺が自分で汗水流して貯めた金なら躊躇するところだが、実際に俺がやったことは砂漠に小一時間立ってただけだ。
「くそっ! くそっ!」
死にかけた勇者は納得いかないだろうが……
「さぁカネは払ったぞ!! さっさとアロンダイトを返せ!!」
「あろんだいと?」
「俺の剣だ!! さあ返せ!!」
まるで泥棒に盗んだものを返せって言ってるようだ、コイツは根本的に勘違いしている。
「返せ? 何を言ってるんですか? この剣の所有権は俺に移ったんですよ? 「返せ」じゃなく「どうか譲って下さいお願いします」が正しい」
「カネは払っただろ!!」
「まだ分かってないのか? 俺の気が変わればこの取引は不成立になり代金は返却され剣の所有権は俺のままだ、こっちはみみっちい嫌がらせをされて機嫌が悪いんだよ」
「ふざけるなッ!! それこそ契約違反だろッ!!」
そんな契約してねーよ。
どちらの立場が上か分からせてやるか。
「ユリア、トイレってどこ?」
「え?」
「ま……待てっ! な…何をするつもりだ!? なぜ剣を持ってトイレに行こうとする!?」
ニヤリ
「俺の持ち物を俺がどう扱おうと俺の自由だろ?」
「だーーーっ!! 分かった!! 頼むから譲ってくれ!! いや! 下さいっ!!」
折れるの早や……
「そんなに嫌か? 別にションベン掛けられたって性能が落ちるワケじゃあるまいし……」
「落ちるんだよ…… 聖剣は穢れると力を失うんだ……」
マジか? 良いコト聞いた! いつか俺が魔王に転生したら城に肥やしトラップ仕掛けよう、もちろん臭いでバレないように対策を施して。
でも今は善良な一高校生だしこれ以上追いつめても可哀相だだから今回はココまでにしとくか、聖剣を汚物漬けにするのは別の機会にとっておこう。
勇者は他にも居るらしいしね……
「ふっ…… 冗談だよ、元々旅の資金さえ得られれば剣は返すつもりだった、ただ嫌がらせされたからちょっとお返ししたくなっただけさ」
「ほ……本当か?」
「もちろん、俺はこっちへ来たばかりで魔王討伐とかよく分からないから、是非ともこの世界の勇者には頑張ってほしいと思っている。
さあ、恐怖に怯える人々の為に…… いや、この世界の未来の為に、この剣を受け取り魔王を倒してください勇者様」
「あ…あぁ、感謝する、そして誓おう! 俺は必ず魔王を倒すと!! うおおおおぉぉぉ!!」
勇者は聖剣を受け取ると勢いよく外へと駆け出していった。
「えっ!? ちょっ!? ルー様!?」
「あぁぁああ、病み上がりでそんな走らないで下さいぃぃぃ!」
「え!? まだ言いたい事が……! もおぉぉぉ!!」
取り巻きガールズ達も勇者に追随した…… 嵐みたいな男だったな。
「………… マスター」
「なんだ?」
「勇者は何故マスターに感謝したですか?」
「さあ?」
きっとアイツが超越級のバカだからだな。
―――
ユリアに安宿を紹介してもらってご宿泊、当然ベルリネッタとは相部屋だ、それでも一人一泊5,000ディルもするからな。
今日は試験受付だけしてきた、明日は一泊二日で冒険者試験だ。
試験料一人20万ディル…… 必要物資は各自用意……
…………
100万ディルも持ってたのに、あっという間に半分以下…… これじゃ空船でアヴァロニア大陸まで行くのは無理っぽいな。
クソッ! 200万で売ればよかった!
まぁしばらく待てばプレアデスが使えるようになるんだ、それまでに餓死しなければそれでいい。
「マスター」
「ん?」
「相談したいこと……あるです」
「相談?」
ベルリネッタが相談とは珍しい、俺との相部屋が不満なのだろうか? しかし二部屋取れるほど裕福でもないし、ホントはベッド一つの一人部屋に二人で泊まろうと思ってたくらいなのに……
「ユリアリーデ・エルフィアナの事です」
「ユリアリー…… あぁユリアのことね、彼女がどうかしたのか?」
「彼女は純血種です」
「は?」
え? そうなの? そういえば手の平に魔痕は無かったような…… あ、アレがあるのは人間族だけなんだっけ?
耳長族は見た目で魔無の判別がつかないのか? そもそもユリアはずっとダボダボの外套を纏ってたからなぁ……
まぁベルリネッタが言うなら間違いないだろう、スキャンもしただろうし……
「じゃあユリアを保護するのか?」
「ある計画を立てた、その第1段階として保護しようかと思う……」
計画? まさか純血種以外の耳長族を滅ぼす計画じゃないだろうな?
アヴァロニア王国なんか滅びろ……とか考えたこともあるけど民族浄化は流石にヤリ過ぎだ……
…………
流石にそこまではしないか、惑星を簡単に破壊できる装備を持ってるんだ、やるつもりがあるなら1000年前にやってたハズだ。
「純血種の保護に関してはベルリネッタに任せるよ、そこは俺が口出しする問題じゃないと思うし」
「イエスマスター、純血種に関する計画…… 今後私の方で進める」
このベルリネッタの計画―――
俺がその内容を知るのはしばらく先のことになる―――
そしてその時にはもう引き返せない所まで行ってしまっていた―――
もう少し考えを巡らせてみるべきだった―――
ベルリネッタがなにを求め―――
そしてなにを目指しているのかを―――




