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非魔法使いによる反則的異世界攻略  作者: 群青
―― 耳長族/エルフ 編 ――
20/175

第20話「超越級 ―オーバード―」


 俺とベルリネッタは冒険者ギルドへ向かっている。


 ユリアに「先に行っててください」と言われたから…… 先に行って何をしてればいいのやら。

 今頃ユリアは店長にジョセフィーヌが死んだことを告げ怒られているのだろう、別に彼女が悪いわけじゃないんだが誰かが責任を取らなきゃならないからな。

 バイトに責任取らせるなよ、異世界はフリーターに厳しすぎだよ。

 やはり剣と魔法の世界でも安定した生活を送りたいなら正社員を目指すべきか? 冒険者って正社員なのかな? どう考えてもフリーターだよな。

 できれば公務員になりたいものだ。


「マスター、見えた、アレが冒険者ギルドみたい」

「お……おぉ!」


 デカい樹に多くの人が出入りしている、中がくり抜かれて建物として使われているようだ、ファンタジー世界ならではの光景だ。


「しかし……」


「…………」「…………」「…………」

「…………」「…………」「…………」


 さっきから視線が気になる、すれ違う人々がみんなこっちをガン見してくる、そんなに人間族が珍しいのか?


 …………


 あ、違った、エルスヴィタールを見てたのか。

 しまった、さっき店の裏でしまっておくべきだった、歩くのが面倒くさくて普通に乗ってきちゃったよ。

 まぁいい、ここまで来たら手遅れだ、堂々としていよう。



 シュウゥゥゥン―――



 ギルドの樹の脇でエルスヴィタールを降りると転送時の黒い箱形態に戻った。

 これが駐輪モードだろうか? 鍵かけないと盗まれるぞ。


「ベルリネッタ、これ放置しても大丈夫なのか?」


 盗まれたり行政に撤去されたら困るんだが……

 だからといって衆人環視のなかストレージに収納するワケにもいかない。


「オートロック掛かる、心配ない、重量も現時点で60tある、強引に動かそうとすると重力制御機能が働くから重量が増加する、未許可で移動させることはほぼ不可能」


 60トン…… そんなに重いのか…… 駐輪場の手前に止めたら奥に自転車止めた人に大迷惑だな。

 まぁここは駐輪場じゃないからどうでもいいか。


「それじゃ中でユリアを待つか」

「イエス」



 キィ……―――



 両開きのドアを開けて建物内に入る。

 漫画だと無駄に注目を集める瞬間なのだが誰もこちらを見ない…… 荒くれ者にからまれるよりマシだが注目されないのはそれはそれで少し寂しい。

 外はエルフだらけだったが、ここには耳が長くない奴も結構いる。


 …………


 なんというか…… どう見ても酒場だ、アレ? 建物間違えた?

 いや…… 奥の方に掲示板がある、あっちが冒険者ギルドの受付か。


 そういえば冒険者ギルドと酒場って一緒になってるケースが多かった気がする、ギルドって日本で言えばハローワークみたいなものだろ?

 酒場と職業安定所を一緒にしたらダメな気がする、せめて喫茶店にしろよ。


 さて、酒でも飲みながらユリアを待つか……ってワケにもいかない、この国の飲酒可能年齢が分からないうえに、そもそも一文無しだった。


 仕方ないので張り出されている依頼でも見て時間を潰すか。


「…………」


 読めない。

 俺なにしにココに来たんだっけ?


「ここに張り出されているの……採取系の依頼だけ」

「!? ベルリネッタは読めるのか!?」

「イエス」


 あ~…… そうだった、ベルリネッタは一晩で日本語をマスターしたんだ、異世界言語なんて当の昔にマスターしてて当然だった。

 それじゃ暇つぶしに採取系依頼の報酬の相場でも調べておくか。



 ギィッ―――



 そんな時、ギルドに誰か入って来た……


「おい、そこのお前」

「ん?」

「ちょっと表に出ろ」


 お…… おぉっ! ついにキタ! テンプレイベントか! 唐突に始まったな?

 きっと酒臭くて、顔に傷とかあって、大剣とか斧とかハンマーみたいな重量級武器を背負った“ザ・荒くれ者”って感じの奴なんだろう。


「おい! 聞こえないのか!?」


 ん? いやチョット待て、普通ならギルド内で飲んだくれてた奴が声を掛けてくるのがセオリーだ。

 例えば「ここはお前らみたいなガキが来る所じゃねーぜ」とか「お家に帰ってママのオッパイでも吸ってな」とか言われる場面だ。


「オイッ!!」


 当然オレのママンはこの世界にはいない、ベルリネッタに代役を頼もうにも見た目が幼い彼女ではバブみを感じてオギャれない。


「こっちを見ろ!! 黒ずくめ!!」


 黒ずくめ? …………あ、俺のコトだ。

 思わず思考が変な方向にそれてしまったがコレで心置きなく絡まれる事ができるな。


「なにか用でs……アレ?」


 そこに居た男は青い鎧に純白のマント、装飾過剰な高そうな剣を携えた赤毛のイケメン…… 荒くれ感が全然ない。

 そして何よりかなりハイレベルな美少女を3人も連れている、荒くれ者というよりもリアルが充実してる奴にしか見えない……


 つーか思いっきり見覚えのある奴だ。


 そう、先日ダンジョンで出くわしたリア充冒険者パーティーだ。

 お前らがハイオークごときから逃げ出したせいで俺は死にかけたんだぞ? まぁ悪いのはハイオークであってこいつ等じゃないんだけどさ……

 そうだ、このリア充グループがこの世界でどれくらいの強さなのか調べてみよう。

 こんな時こそ《スキャン》の出番だ、ベルリネッタにアイコンタクトを送る、どれどれ?


 目の前でこちらを睨んでいる男を無視してスマホを弄る…… 失礼にも程があるが、まぁいいや。



 名 前:“勇者”ルーファス・バレンティア

 種 族:人間族(ヒウマ)・男・17歳

 属 性:火・水・風・土・光

 戦 種:勇者

 浸蝕率:B

 ―――

 勇者の魂(ブレイブソウル)



 お…… おぉっ!?

 思わず二度見してしまった、まず二つ名があるのは別にイイ、問題はそれが“勇者”ってトコだ。

 あの時、白馬のステータスを見てお姫様が言っていた「勇者」ってのはコイツのコトか?

 つーか魔物を調べた時より情報量がはるかに多いな。


 そして浸蝕率B、つまり等級も白馬に匹敵する《超越級(オーバード)》、上から2番目の等級で100万人に1人の才能の持ち主だ。


 …………


 やっぱりBランクって言うと急にショボく感じるな……

 あと『勇者の魂(ブレイブソウル)』ってのが何のコトかよく分からんが……


「……ッ! ……オイッ! こっちを見ろ!!」

「んだよウッセーな?」

「なっ!?」


 あ…… いかんいかん、思わず口調が荒くなってしまった。

 相手はきっとこの世界でもトップクラスの存在、無闇矢鱈と敵対するのはヨクナイ……が、もう手遅れかな?


「ちょっと! なによコイツ! ルー様に向かってなんて口のきき方!?」

「あの! あの! 落ち着いて下さい!」

「身の程を知らないとはこの事、少し教育してあげればいい……」


 うわぁ…… 取り巻きガールズが相変わらず男をヨイショしている…… 聞きました?「ルー様」だって? 自分のコトをそんなふうに呼ばせている奴、少女漫画の中にしか存在しないのかと思ってた……


「なぁ、ベルリネッタ」

「なに? マスター?」

「ベルリネッタもあの子たちみたいに俺のコト「イー様」って言って持て囃してみてくれない?」

「イヤです、あんなバカみたいな話し方、断固拒否」

「それは残念」


 あれれ? なんとなく女の子たちの怒りの視線が強まった気が……


「コホン! 失礼しました、ちょっと心の声が漏れました。 それで? どちら様で? どういった御用件でしょうか?」

「コイツ抜け抜けと……ッ、まぁいい、ちょっと表に出ろ」

「え? なんで? 嫌だよめんどくせー」

「ッ!?」


 なんか驚いてる…… 俺間違ったこと言った?


「なにか用件があるならココで聞きますよ?」


 建物内は静まり返り全員がこちらを注目している、きっとアンタが美少女引き連れて入って来たせいだ、だから俺は何も悪くない。


「それは……」


 なにか言い淀んでる…… 人前では話せないような事なのか? もしかしてカツアゲか? それともヤラナイか? 生憎こっちは一文無しの上にノンケだぜ?


「チッ! まぁいい、お前、異世界からの英雄候補だろ?」

「? 何故そう思うのです?」

「見たこともないオーパーツを使いこなしていた、そんなこと異世界関係者にしかできない」

「あぁ~……」


 空飛ぶバイクなんか地球人だって使いこなせないと思うよ? 免許持ってないし。


「えぇ、まぁ…… 異世界から拉致同然で召喚されたみたいです、それがナニか?」

「今すぐ冒険者を辞めろ」

「え?」


 冒険者になる前から冒険者を辞めろと言われた…… どうやって? てか何で?


「お前達、異世界からの英雄候補は迷惑なんだよ」

「迷惑? 生憎と私はまだ何もしてませんが?」


 無限砂漠問題を解決したくらいかな? うん、大偉業だな、誰にも言えないけど……

 もしかして英雄候補たちが自分の手柄を横取りするとか思ってるのだろうか? だとしたら言う相手が間違ってる、俺以外の正規の英雄候補に言ってくれ。

 しかし本家勇者の器ちっせーな。


「今なにもしてないかは問題じゃない、これから高確率で問題を起こすから迷惑なんだ」

「?? 仰りたい事の意味がよく分かりませんが? 何が言いたいんですか?」

「異世界の英雄候補は英雄の資質に欠けている!」


 英雄の資質? それは異世界にやってきて右も左もよく分からない少年にケンカを吹っ掛けるのが勇者の資質なのか?


「異世界の英雄候補は強大な力があるにもかかわらず、その力を苦しむ民の為には使わず、元の世界の知識とやらを駆使し便利な道具や美味い料理を発明し金稼ぎに傾倒し大富豪にまでなる奴がいる!!」


 別にイイじゃん、便利な道具や美味い料理が発明されて誰が困る? マヨネーズ無双を取られた俺くらいしか困って無い。


「異世界の英雄候補は大国の莫大な援助を受け、その豊富な資金で高級な武具や貴重なアイテム・薬を買い漁り、有名冒険者をヘッドハンティングしまくる!!」


 そうやって経済が回るんだろ? むしろ援助を受けて引きこもるより遥かにマシだ。

 大体ヘッドハンティングだって犯罪じゃない、より条件が良い方に移籍するかは個人が決める事だ、お小遣いを取り上げられた俺に言うなよ。


「そして異世界の英雄候補は大体どこかの国の姫とか街一番の美女とかを嫁にしやがるんだ!!」


 なんだぁ、最後のが本音か……


 でも確かにこの世界に一夫多妻制とかあったら美女を乱獲されるかもな…… しかし美人の嫁が欲しいのはどの世界の男でも共通だろ?

 あと女の英雄候補もいるからイケメンも乱獲対象になる、お前みたいなイケメンにも等しくチャンスはあるだろ? 何が不満なんだ?


「と、いうワケで、冒険者を辞めろ!!」


 なにがというワケだ、俺には何一つ恩恵の無い話だ、大体冒険者を辞めることとの因果関係がいまいち分からん。


「ハァ…… 断ると言ったら?」

「断るのなら力ずくでも「はい」と言わせる」

「ほぅほぅ、暴力に訴えるのがこの世界の勇者の資質というワケですか?」

「ち…違う!! 勇者や英雄とは実力が無ければ成り立たないモノだ! それを分からせるだけだ!」

「だからそれが暴力で無理矢理従わせるってコトなんでしょ?」

「違う!! 違う!! 説得するってコトだ!!」


 力ずくって言ったじゃん、なんだろう? この勇者知能が低いのかな?

 大体冒険者を辞めさせてどうするんだよ? 支援を受けながら引きこもりになれって言うのか?

 それともアレか? やっぱりどっか田舎でスローライフしてろってコトか?


 どちらにしても金銭面の支援を受けられない俺にはハードモード過ぎる。


「では謹んでお断りさせて頂きます、赤の他人にとやかく言われる筋合いはありませんから」

「チッ! ずいぶんと口の回る奴だ…… だったら勝負をしろ!」

「はぁ? 結局暴力で解決ですか? それがこの世界の勇者のやり方なんですか?」

「違う!! 何も戦うだけが勝負の方法じゃないだろ!!」


 そりゃ確かにそうだけどさ……


「私にその勝負を受けるメリットが無いようですが?」

「負けた方が勝った方の言うコトを聞く……って条件ならどうだ?」


 いや、やっぱりメリット無いじゃん、こんな奴無視すればいいだけだし。

 しかしコレはチャンスでもある……


「なんなら勝負方法はお前に決めさせてやっても良いぞ?」

「!?」


 こいつマジで言ってるの? な……なんてコトだ!

 勇者は超越級(オーバード)のバカだ!!






《特別解説》

『バブみを感じてオギャる』

 平成の終わり頃から令和の最初期の短い期間にネットのごく一部で流行ったキモい言葉。

 年下の女性に母性を感じて甘えたいという願望。

 案の定すぐ廃れる。


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