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非魔法使いによる反則的異世界攻略  作者: 群青
―― 異世界転移/トリップ 編 ――
2/175

第2話「ステータスと唱えよ」


 突如現れたお姫様は言う……


「ここは《盤面世界(プラニティア)》、いわゆる剣と魔法の世界です」


 ……と。


 その「剣と魔法の世界」って表現をこの世界に住む人に言われると違和感を感じるのは俺だけだろうか?


 お姫様はこの世界のこと…… そして世界情勢を話してくれた。



 ………………


 …………


 ……



 この世界はとんでもない危険地帯だった……

 外務省が渡航規制かけるレベルだ…… なんて世界に来てしまったのか。



 まず《盤面世界(プラニティア)》……

 なんとこの星、丸くないらしい、いや、丸いことは丸いのだが球状の地面を持たず、盤面世界の名の通り円盤状の大地が存在しているらしい。

 たぶん天動説が信じられてた頃の地球のイメージに近いだろう、もちろん象とか亀とか蛇が世界を支えているわけではない。


 そしてそんな盤面世界には現在、人間族(ヒウマ)を含め、全6種族が暮らしている。

 異世界モノ定番の亜人種だ、それらを総称して六種族(セトラ)と呼ぶそうだ。


 この世界は元々危険がてんこ盛り、竜やら魔物やら、人類の生存を脅かすような存在が彼方此方にいる。

 代表的なのが六大厄災という1000年以上の歴史を持つ災害があったが、そんな中でもとりわけ厄介なのが《魔王》と呼ばれる存在だ。

 この魔王、何が気に入らないのか迷惑なことに積極的に人間族(ヒウマ)を襲ってくるそうだ。



 嫌な予感が止まらない……

 異世界モノのお約束ってヤツがやってくる。


 ネット上にはタダで読める異世界モノの小説が腐るほど転がっている。

 バイトもしない貧乏学生の俺にはタダで読めるそれらは非常にありがたい。

 そんな無料読者の俺は今の状況に非常に危機感を覚えている。


 異世界モノには大きく分けて2つの種類がある、転生モノと転移モノだ。

 どっちも字面は似たか寄ったかだが、前提が大きく違う。


 転生モノで最も重要なのは元の世界で死に、生まれ変わったという事だ。

 元の姿のまま異世界にやってくる転生モノもやたら多いが、一度死んでさえいれば転生って括りなんだろう、その場合は生まれ変わりより生き返りと言うべきだが。

 そしてこのケースの場合、帰還は絶望視されている…… 当然だ、死んだ人間に帰る場所などない。


 そしてもう一つのケース、転移モノ…… コレが非常に問題だ。

 やって来ることができるのだから帰ることもできるのでは無いか? という希望が生まれてしまう。


 転移モノの導入にも大きく分けて2つのパターンがある。

 1つは異世界のどっか適当な場所に放り出されるパターン。

 そしてもう1つは召喚者(責任者)の元へ転移するパターンだ。


 後者の方が色々説明してもらえてありがたい、俺達は別に召喚された訳では無いようだが神様とやらが手を回して責任者を用意してくれていたらしい。


 ただ…… この責任者が問題なんだよ。


 俺が今まで読んできた責任者有りの転移モノ、責任者は大抵「無能」か「悪党」だった……

 もちろん全部が全部無能悪党だった訳では無い、中には困窮する世界を真剣に救ってほしくて藁にもすがる思いで拉致紛いの異世界召喚をする奴もいた。

 実に迷惑な話だ。


 そして今俺達が置かれている状況がどちらのパターンか?

 フレンドリーに話し掛けてくるのはお姫様だけで兵士たちは全く喋らない、よく訓練されてる感じだ。

 神官っぽいジーサンはまるで値踏みでもするようにこちらをジロジロ見ている。

 王様に至ってはチョイ悪オヤジだ、いかにも他国に侵略戦争とか仕掛けそうな顔してる。


 もちろんそう言うパターンが多いというだけで、そうと決まったワケでは無い。


 もしかしたら兵士たちはただ単に緊張してるだけなのかもしれない。

 ジーサンは若い男の筋肉を凝視する趣味があるだけかも知れない…… それはそれで別の問題が発生するのだが……

 あのチョイ悪王様も見た目とは裏腹に、裏では昔のヤンキーみたいに子猫とか助けてるのかも知れない。


 まだルートは確定していないからどちらのパターンもあり得る。


 ただどちらのルートだとしても、過酷な運命に翻弄されることになりそうだ。



―――



「お話は分かりました、いまだに信じられない気持ちでいっぱいですが、タダの悪戯ではない事も何となくわかります」


 生徒会長がナゼかみんなを代表して喋っている。

 それは別に構わない、むしろ彼が主人公になって色々な厄介事を引き受けてくれるとありがたい。

 つーか俺の防波堤になれ。


「ご理解いただけて幸いです」

「しかし話を進める前にどうしても聞いておかなければならない事があります」

「はい、それはどういった事でしょう?」

「我々が帰れるのか否か……です」


 そうだな、それは非常に重要だ。

 しかしこの場で向こうからもたらされる情報が正しいとは限らない。

 帰る方法など無いのに適当言われる可能性もある。


「そうですね…… ただ帰るだけなら今すぐにでも可能かもしれません」


 かも?


「どういう事ですか?」

「その虚境界(エンベロープ)に飛び込むのです、虚境界(エンベロープ)は時間と空間を超越する道です、運さえ良ければ皆様がここへ来る直前へ戻れるかもしれません。

 ただし戻った直後に死ぬ事になると思います、皆様は死の直前に拾われて来たのです、元の世界に戻ったらその瞬間からやり直す事になる筈です。

 皆様ココへ来られる直前に事故か何かで命を落とす寸前だった記憶はありませんか?」


「なっ……!」

「ッ!」

「そ……そんな……」


 みんなその時の記憶があるらしい、生憎俺は寝てたからそんな記憶はないんだが……


 それよりも俺はお姫様がなぜその情報を知ってるのかの方が気になる、仮に今の話が本当だとしたら、誰かが一度地球に帰ってどうなったかを観測して、更にもう一度この世界に戻ってきて事の顛末を報告したことになる……

 普通にありえないだろ? 余計疑わしくなった。


 もっとも魔法の言葉「神様が仰った」でどんな疑惑も強引にぶっ飛ばせるんだがな。


「つ…… つまり生きて元の世界に戻るのは…… 不可能ということですか?」

「いえ…… 時間は掛かるかもしれませんが一つだけ方法があります」

「そっ! それは!?」

「マナ…… つまり魔力を極限まで高めることです」


 あれ? 思ってたのとちょっと違う?

 てっきり魔王を倒せって言われると思ってた。


「ま……魔力?」

「はい、極限まで高まった魔力は物理法則を凌駕することができます。

 例えば運命を操作することすら……」

「し…しかし魔力と言われても、そんなものどうやって……」

「そうですね、訓練でも魔力を高めることは出来ますが、すぐに頭打ちになると言います。

 ですが魔力は魔力を持つものを殺めることで大きく伸びるそうですよ?」

「あ…… 殺める……」


 あぁ、そうきたか。


「それはつまり我々に魔王を倒せということですか?」

「とんでもありません! 魔王と戦うということは命を懸けるということ! そこまでしなくとも魔物を倒すなどの方法もあります」


 ……ただし時間は掛かる、ヘタしたら何年も…… 早く帰りたかったら魔王を倒せ……ってことか。


「しかし魔物を倒すと言っても、我々にそんな事ができるのか……」

「大丈夫ですよ、この世界に生きる生物は一部を除いて全て魔力を持ってます。

 魔法を使えば魔物を倒すことも可能でしょう」

「それは…… もしかして我々にも魔法が使えるってことですか?」

「その通りです」


「おぉっ!」

「マジかよ…… 魔法って……」

「はっ、信じられるかよ……」

「いや、俺先月に魔法使いになったし……」


 ん? いま誰か変なコト言わなかったか?

 しかしこのお姫様、プレゼンターの才能がある。

 あらゆる物事を疑ってかかるひねくれ者の俺がちょっとワクワクしちゃってるよ、隠れ中二病の俺には刺激的な話だ。


「それでは皆さんの《属性(タイプ)》を測ってみましょうか」

「《属性(タイプ)》?」

「各々に与えられた力の事です、この世界に生きる者は誰しも《属性(タイプ)》を有しています。火・水、風・土、光・闇、の計6種類あり、人によっては複数持つこともありますが、誰でも必ず一つは持っているモノです。

 しかし異世界からやってきた方々はそれらの型にはまらない特殊な《属性(タイプ)》を宿しているといいます。

 それをこれで測ります、お願いします」


 お姫様が声をかけると10人程の兵士が巨大な何かを運んできた。


「この石板に両手で触れて見てください、その人の《属性(タイプ)》が浮かび上がるはずです」


 石版というより石柱に見える…… 高さ3メートル程のミニオベリスクって感じだ。

 しかし触れるだけで良いのか? ふぅ~、良かったぜ、「ステータスと唱えよ」とか言われないで、それを言われたら異世界じゃなくゲーム世界だろ?

 まぁゲーム世界も異世界の一種と言えなくも無いか……


 しかしちょっと残念だ、空中に半透明のウィンドウが出て個人情報が表示されるのやってみたかったんだけどな……


「これに…… 触れる……?」


 生徒会長が二の足を踏む…… おら! さっさと触れ! そして危険が無いか確認しろ!


「おい若村、早くしろよ! それとも……もしかしてビビってんのかぁ?」

「くっ……」


 チャラ男先輩がここぞとばかりに会長を煽ってる…… それはもうニヤニヤとイヤラシイ顔で…… そこまで言うならアンタが先にやれよ。

 俺は一番手は遠慮させてもらうが……


「待ちなさい! わ……私が最初にやります!」


 ここで綾野センセーの待ったが入る、確かに教師の立場なら名乗り出ないワケにはいかないよな。


「それで、コレ…… 触っても人体に悪影響とかは……?」

「ご安心ください、そう言った事は一切ありません」

「い……痛かったりは?」

「ご安心ください、そう言った事は一切ありません」

「た……魂とか吸い取られたりとか?」

「ご安心ください、そう言った事は一切ありません」


 センセーめっちゃビビってる…… そんなに嫌ならやらなきゃいいのに。

 てかお姫様、軽くイラッとしてないか?


「わ…わかりました! や…やります!」


 センセーが意を決して石版に触れる。



 ヴオン



 妙な音が鳴ると石版の中央付近に文字が浮き出てきた……


 …………


 読めん。

 言葉は通じても日本語表記はされないのか…… まぁ普通はそうだよな。


「これは…… 素晴らしいです」

「え? え? 何が書いてあるんですか?」

「《特上級(エクストラ)》の『精神看破(サトリ)』です、恐らくこれは周囲の者の心を覗ける精神感応能力ですね」


 うげぇ! 友達なくしそうな能力だな、確かに便利そうではあるが戦闘の役には立つのだろうか?

 案の定センセーも微妙な表情している、いきなり個人情報バラされたもんな。


 てか《特上級(エクストラ)》ってなに? 等級かな?


「え~と…… 《特上級(エクストラ)》ってなんですか?」

「あ、そうでしたねすみません、この世界にはあらゆるモノに6段階の等級がついております…… 現時点でのあなたの魔法レベルと考えてもらっていいです。

 《特上級(エクストラ)》は上から3番目です」


 上から3番目か…… 最上位をAランクとすると《特上級(エクストラ)》はCランクだな…… なんか……ショボく感じるな。一番上にSランクが欲しくなる。


「6段階の上から3番目…… 低いのか高いのかよくわからないですね……」

「とんでもありません! 普通なら一番下の《下位級(ロー)》から始まるんです!

 一般人が死ぬまで努力しても辿り着けるのは上から4番目の《上位級(ハイ)》までと言われています。

 《特上級(エクストラ)》は1000人に…… いえ、1万人に1人の才能なんですよ!」

「そ……そうなんですか……」


 ……センセーが1万人に1人の才能持ち? あのセンセーが?

 もしかしたら定番の異世界人補正が掛かってるのかも知れないな、だとしたら非常にありがたい。


「とにかく身体に異常は…… ん? な、ナニコレ!!? なんかついてるー! 嘘つきーッ!!」


 センセーが自分の手の平を見て騒ぎ出した、なんだ? デカいほくろか? あんなの無かったよな? よかった、センセーが生贄になってくれて……


「お、落ち着いて下さい! それは《魔痕(スティグマ)》です、身体に害はありません!」

「スティ……? なんですそれ?」

「《魔痕(スティグマ)》は人間族(ヒウマ)特有の証しのようなモノです、人間族(ヒウマ)は体内の魔力をこの魔痕を通して外へ放出します。

 つまりコレが無ければ魔法は使えない、この世界を生きる為に絶対必要なモノなのです」


 そう言うとお姫様は両手の平をこちらへ向けた。

 ………… いやいや、お姫様、アンタ肘まである真っ白な手袋してるから見えないよ。

 お姫様、結構天然だな……


 代わりに周囲の兵士や神官が手の平を見せてくれた。

 なるほど、みんなある…… ただ形がヒトによって違う、○が圧倒的に多く、数人×がいる…… 等級によって変わったりするのかな? センセーのは◇みたいだし。


 手の平に変なタトゥー入れられるのは嫌だが、この世界で生きる為には仕方ないんだな……


 …………


 とりあえず人間盗聴機になったセンセーには今後極力近づかないようにしよっと。




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