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第1章第20節

 双畑すごばたはシャワーを浴びて用意された服を着た。折り目が綺麗な黒いズボンと白いワイシャツだ。

 それから清掃自立機械(ドローン)に案内されて廊下を歩いた。


「今日はどこに連れてかれるんだ……?」

 そう呟く双畑に自立機械(ドローン)はピーピーと音を鳴らして返事をした。



 数分間ぼんやりと長い廊下を歩かされたところで、双畑は遠くに見える人だかりに気がつく。

「なにあれ」


 黒い制服の纏った多くの男女が部屋の入口に固まって談笑していた。

 また別の世界観が登場したな。双畑は思った。軍服にしか見えなかった。

 軍人も登場するのかよ。甲冑騎士がたくさんいる世界で布製の制服を着た連中がいるのはどう考えてもおかしい。こいつらもまた別の世界の住人ってわけか。

 

 バケツ型の自立機械(ドローン)はモップを唸らせながら人ごみをかき分けて彼を案内する。

 軍人たちの後期の視線を浴びながら双畑は部屋に入る。


 真っ白男に放り込まれた広い部屋だった。

 床は透明ではない。壁だけが異世界の空を映していた。空には〈テンペスト〉に似たデザインの飛行戦艦が数隻浮かんでいるのが見えた。



 彼に知るよしもないことだったが、この部屋は〈テンペスト〉の揚陸指揮所であった。


 地球の強襲揚陸艦であれば、船内奥深くに指揮所を設置する。

 自らを危険地帯に置くことはなく、海から戦力投射をした後は情報面での支援のみが仕事である。  

 よって、電子計算機が画面越しに映し出す情報を追っていれば良い。


 しかし、〈テンペスト〉は違う。

 搭載した各種兵器・人員を単艦であらゆる場所に運び、その支援を現地で継続する。それが強襲揚陸転移艦〈テンペスト〉の設計思想である。

 指揮所も肉眼で戦況を確認する必要があった。よって、この全面透過型の部屋が用意されているのだった。 



 昨日は何もない空間だったが、今日は椅子がずらりと並べられている。

 部屋の外にいた連中と同じ格好をした軍人たちが席の大半を埋めていて、周囲のものと談笑していた。


「こんなに人がいたのか……?」

 そう呟いたところで、双畑は部屋の端に座ったルリから手招きされていることに気がつく。


「これは何の騒ぎだ」

 ルリの隣の席に座りながら尋ねる。


「作戦会議」

「なんのだよ」


 双畑が聞き返した瞬間。電子音が天井から響いた。

「着席」



 外にいた軍人たちがぞろぞろと揚陸指揮所に入室してきた。

 部屋のざわめきが徐々に静まっていく。


 と、正面側の扉がスライドした。

 再び電子音が鳴り響く。

「ウィリアム・バートレット修正軍中将入室」

 


 真っ白男が入ってきた。堂々と歩みを進めて正面で仁王立ちする。

 双畑の周囲に座る軍人たちと同じ意匠の軍服を着ていたが、色はやはり白い。


「あいつ偉かったのか。なあ、中将って偉いんだろ?」

「静かに」



 ウィリアムが話し始める。

「まずは、司令部を通さない召集に応じくれた同志諸君に感謝したい。奴らの攻勢準備は急過ぎた。諸君らの自発的協力がなければどうしようもなかった。まことにありがとう」

 双畑に対面した時とは異なり、至極真面目な態度だった。


「本作戦の主力を担ってもらう現地軍総指揮官のコルガー卿に同席を賜った」

 ウィリアムは壁際に立つコルガーを紹介する。

 昨日とは異なり、貴族そのものといった風な刺繍がたくさん入ったひらひらした服を着ていた。


「五年前の東大陸撤退戦でご一緒した方もちらほらいらっしゃるようで。常と変わらぬご助力に多大なる感謝を。よそ者に我々の世界をかき回されるの気に食いませんが」


 出席者から苦笑がもれた。


「あなたがたが頼りだ。よろしくお願いします」

 コルガーは一礼した。


 双畑は戸惑っている。

 ウィリアムもコルガーもふざけた性格の持ち主だと思っていただけに、周囲の雰囲気についていけないものを感じている。


 ウィリアムが再び話し始める。

「過去数年間停滞していた〈無限帝国〉の征服事業が再開されようとしていることは、既に諸君らの承知しているとおりだ。少なくとも二等転生体相当が十以上(ここで呻き声が部屋中から上がった)確認されている。これ以上奴らの好きにさせては、全世界の崩壊を招きかねない。本来であれば我々の最終兵器を使用すべきところではあるが……」



 周囲の視線がルリに集まった。ルリはいつもどおりのすまし顔でそれらを受け止めている。



 最終兵器? 双畑は不審がりながらも静かにしている。大人だらけのこの空間で変に浮きたくはなかった。

 参加者全員が周囲を圧す程の真剣さで臨む会議など初めてだったのだ。年不相応の図太さを持つ双畑といえど空気を読まずにはいられなかった。



 ウィリアムは淡々と続けた。

「世界番号11283--地球--において最優先阻止事象が発生したとの連絡が入った」


 転生体の数について語った時以上のどよめきが部屋中に広がった。


「当然これも捨て置けん。だが、諸君らの船は本世界への集結に当たりエネルギーの大半を損耗している。つまり、即応可能なのは最終兵器だけということになる」

 ウィリアムは一度言葉を切ってから続けた。


「敵は強大で、我々の戦力は限られている。だが、勝利せねばならん」


「いつもどおりじゃないですか」

 部屋の片隅から茶化すような声が上がった。わざとらしい笑いが周囲に広がる。


「最高だ諸君」

 ウィリアムは笑い返してから真剣な表情に戻す。そして言った。

「我々の誓いがそれを求める。あるべき未来のため」


「あるべき未来のため」

 部屋中から復唱の声が上がった。空気が震えた。何事か叫んでいるものも少なくない。




「助けてくれ……」

 周囲の熱狂を前にして、双畑はいつもどおり困惑の呟きを漏らした。



 部屋が静けさを徐々に取り戻していく。

 ウィリアムの代わりに、黒い軍服を着た長身の男が正面に立った。

 桃色の長髪をポニーテールにしていた。そのポニーテールは地面につかないようにするためか巻かれている。


 凄いな異世界。髪型もありえねぇ。状況に翻弄されながらも双畑はぼんやりと思った。



「作戦参謀のメレアレ特務中佐です」

 桃髪ドリルテールの男はそう名乗ると、丁寧語を一切排して話し始めた。


「これよりウィリアム中将の構想を説明する。本作戦の要諦は敵主力をいかに引き寄せるかにある。既に、コルガー卿麾下の現地軍主力を上陸予定域全面に配置しているが、諸君らは--」

 彼より上席のものはこの場に少なくなかったが、作戦指揮官たるウィリアムの代理として発言するという形を取っているので誰も反論しない。



 この新キャラは状況を説明してくれるのかな。双畑は思った。

 もちろん違った。メレアレは軍事用語満載で作戦について語った。普通の高校生だった双畑に理解できることは何一つなかった。

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