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第12話 罠なのか、試されているのか、メシを食う!

先ほどの老女エルフの一撃で死ぬことになり、俺達は魂だけになったらしい。

火の玉らしいものが自分の周りに5つ、下を見るとぐったり白目を向いた自分とガッチャン・ハロルド・クゥラの肉体、加えて事態を把握できてないでオドオドしているエミーナの姿があった。


「え、どうして!? 憑依が解けたの!?なんで!?」


老婆は混乱しているエミーナの頭に触れて、少し笑みを浮かべた。

そして、もう一度呪文を唱えていた。


『イジェクトソウル!』


エミーナの体から、また魂らしき火の玉が抜け出てきた。


その場に浮遊している魂6つを、左手で掴んでは右腕で抱えるようにしながら、寄せ集め、それぞれに指を突っ込んできた。

それで俺たちの魂から記憶でも読んでいるのだろうか、明らかに意味深な言葉を発しながら何かを察してくれていた。

『…ふむ、なるほどね。

こっちが転生させてたエンマの魂か、で、この娘っ子達は依代ってところかね。 

この娘達は適性がなまじ高いからって負担も低くないだろうに、体の方がそうも長くはもってくれないよ!?

…そうだ!! あの子が丁度いいさね!? 用意してやろうかね!!』


老女エルフは俺達の魂をもちながら笑みを浮かべ、うんうん…とうなづいて呪文を唱えた。


『リュートジェクト・メモリー』


詠唱と同時に、かなり膨大な量の情報が入ってきた。

走馬灯よりも遥かに早いが理解しやすくまとまっていて、かなり掻い摘んだダイジェストという内容との前おきが過ってきた。

内容は老女エルフの記憶だった。


150年前、俺たちと同様にエンマによってエルフへと転生したナギ(めちゃくちゃ美少女)が、エルフ達の食事の単調さや薄い味気のなさに嫌気が差し、16歳になる頃に、世界で使われている4大属性である火・水・土・風の魔法を習える限り習得して里を出たこと。

調味料の開発をし始め、世界樹の根元に生えてたツタ豆から醤油に近いもの“しょう油もどき”を製作したこと。


自分の噂を聞いていた魔族の侯爵 “シャレイド“ と出会い、戦友や旅仲間としての契約条件に惹かれて旅に同行。20歳で料理と調味料の旨さを高く買われ、シャレイドの実家が所有するロックダンジョン(城)でエルフの料理人として雇用されて務めたこと。


魔物達に、現世で覚えていた料理や調味料を再現しながら試しに振る舞っていたら、ものすごく好評を機した為、15年間高待遇で、小規模ダンジョン1棟を丸々買えて、なお遊んで暮らせる位にまで荒稼ぎしたこと。

その後もしばらく平和に働いていたが、55年前にしょう油もどきを含む調味料の存在が人間達にも知られ、噂から誤解につぐ誤解が生まれたこと。


その時にいた勇者を含む人間達とエルフ族がナギの境遇を勘違いし、囚われて奴隷労働を強いられていると思いこんで、悪魔侯爵討伐と、ナギと調味料と料理レシピの奪還戦を組んだこと。


奪還戦が長期化・広範囲・別のいざこざまでに及んでしまった事から、50年前の大戦に発展してしまい、一部事情を知る者達からは“しょう油大戦争“と揶揄されたこと。

出てくる言葉は『しょう油うことか、しょうもない』などと揶揄られもしたらしい。


開戦から5年が経ち、大戦の発起人だった勇者や人間達が長期化を恐れて魔族相手に休戦交渉を持ちかけてきた。

シャレイドも他魔族の貴族達からの嫌味と資金調達難に陥り、上の立場である公爵や王族からの圧力で代替わりを強いられた為、甥っ子に家督を譲って隠居、丁度よく終戦協定が結ばれたこと。


元侯爵となって隠居の身となったシャレイド共々、ナギ自身もお役御免になった為、大戦の後始末もそっちのけで恋仲になり仲良く駆け落ち。

当時の勇者などの人間達が全員死ぬまでうまーく逃げ延びて、シャレイドは人間の初老の男性に見た目を偽装し、ナギは美女から老女へと変身魔法で共に姿を偽ってレストランを始めたこと。

そして現在に至る…といった内容だった。


この間、1秒も掛かっていないで、走馬灯すらも5倍以上凌ぐ再生速度の映像を見せられたかのように説明をされたわけだ。暗記ができる食パンもおやくごめんになる魔法だった。

だが、やはり魔法も万能では無い様で、老婆姿のナギは疲れた顔を覗かせながら、荒く深呼吸を繰り返して整えていた。


この後に、老女エルフのナギは自身の変身魔法を解く呪文を唱えていた。


『レリース:メタモルフォシス!!』


するとナギの姿がみるみる若返り、老女から美しい淑女へと姿が逆行するように変化していった。


「…ふぅ、やっぱり老婆の格好での魔術は疲れるわね〜。これだけ高等なのを何度も何人も掛けてると、魔力も足らなくなるのよねっ!

体の状態に併せて体力や魔力や効率が決まるの、ホントなんとかならないかしら… 

 

さて、これで説明しなくてもこの子達に理解してもらえたでしょうから、最後は魂を体に戻して…って、この子達の体、見た目以上にボロボロじゃないの!!

治癒力含めて体の性能を底上げしてあげないと、このままうちのご飯を口に入れたら倒れちゃうわよ…仕方ないわねぇ!!」


そういうと、俺たちの肉体に対して手を向けて魔法をかけていた。


『オールステータスブート!!』

『リュートジェクトソウル!!』


呪文を唱えると、俺たちの体が緑色の光に包まれた。

同時に魂がそれぞれの肉体に吸い寄せられ、最後は一つ一つナギの手で押し込まれた。

一つ、ノアルの魂だけがナギの手元に残っていた。


「ふぅ…、やっぱ若い肉体の方がピチピチしててパーペキねっ!!老婆の姿だと色々動くのも大変だし、やっぱり高等魔法をバカスカ使うなら若い方がいいわぁ!!

あとは、この子達が目覚めるまで少し時間が掛かるだろうから、このエンマちゃんの魂をあの子に入れてあげよっとw(ルンッ」


姿も若いと仕草や口調も若々しくなるようで、死語こそ多かったが、先ほど肩で息をしていた老女とは別人と言わんばかりにハツラツルンルンとして、声もハリがあってキャピキャピとしていた。


ノアルの魂をもったまま、ナギは一度店の奥へとスキップで戻っていった。

明らかにおもちゃを見つけてルンルンしてる感じである。


魂が戻された後、5秒ほどで白目を剥いていた俺たちの肉体が目を覚まし、皆で目を合わせながら確認をすることとなった。

全員の体が店に来る前より軽く、力が溢れてくる感覚に戸惑っていた。クゥラに至っては傷の回復まで、傷跡すら消えてる程にほぼ完全に済んでいる様子だった。

すると、ナギが店の奥から一度顔を覗かせた。


『あの魂ってエンマちゃんのでしょ? あの子とはじっくり話をしたいんでね。お前さんらが飯を食い終わる頃には、別の肉体に入れてで返してあげるよ!

さあ、あたし自慢の煮付けも用意できたし、しっかり味わっとくれっ!!』


指パッチンの音が聞こえた。

困惑している俺達5人の目の前のテーブルに、魔法で料理が出現した。

ニジイロダイの煮付け定食 と呼ぶべきものが5膳、見た目からして美味しいやつと一目でわかるものだった。

この時点で魂を抜かれて約40秒、時間ピッタリだった。

どこぞの少女奪還作戦を組んだ盗賊飛行艇に乗る準備にも間に合っちゃうわな!!


ここまで言葉通りの“お膳立て“をされている以上、空腹な俺達5人には食べない選択肢は無く、恐る恐るだが全員一緒に口に入れることにした。


全員が驚いた。


食べるほどに体に染み入って力が湧き上がる。 例えるなら、レベルアップに近いがそれとは違う。

毒が抜けるというか、基礎的な力を底上げされているというか、元からあった潜在能力を引き出されているに近い… 

どこかのナメった感じの名前の星の緑のデッカイ最年長者に頭ポンポンされてる状況に近いといえばいいだろうか!?未体験で例えようの無い感覚と味だった。

どこぞの味にうるさい白髪老齢の某テイストキング様や、ピエロもござれなパン食審査員もびっくりなリアクションが取れれば良かったが、そこまでの空想具現化しちゃう表現力は、俺達にはついていない。


俺たちは云十年レベルで怒涛に濃い話のダイレクトインプットからうまい昼食に舌鼓をうった。


「ん〜うまいっ なんだこの味、口に入れて食う度レベルアップしてるっ!?」

俺は思った感想を声に出していた。


するとハロルドが相槌打って、飲み込んでから説明してくれた。

「だよなぁっ…(モグモグ)…っぐっ… どっちかてーと、ベースアップに近いかもなぁ」

ハロルド、涙目になってっけど、大丈夫か? 俺もだけどさ。


エミーナの目も満悦さを物語っていた。

「ム〜 煮付け最高っ、口に入れたら舌触りでとろけるぅ〜」

これよ、コレコレっ!!と、日頃我慢してから数日開けて食べるご褒美のような評価が飛び出てきた。  


クゥラなんて泣いちゃってるぞ!?尊いとか言ってそのまま天に召されそうな雰囲気で食べてるよ!! 

「ひぁあ、慈悲深いにゃんて言葉じぇはありゃわしぇないっ!(ムグムグ)…んっ、味が人智を越えていますっ、絶品ですぅ、生きててよかったっ(ぁむゥ」

口ごととろけてないか!?そりゃそうか、美味の味だもん!!


ガッチャンの箸のペースときたら、もはやどこかの戦闘民族超えてるんだよなぁ!?

「うむ、たまりゃん…(ガツガツガツッ…) おかわりいってくりゅっ(4回目」

人それぞれ、食べるペースは違うことは承知しているがね、

ガッチャンよ、おかわり自由でも、しゃもじ10回使うのはなかなかだぞっ!?

俺の分はまだ残ってるかっ!?(ガタッ


と、そんなこんなで至福を満喫していたら、奥からノアルのか細く精魂尽き果てた感じの悲鳴やヘルプコールも聞こえてきたが、


あえて知らんっ!飯を食わせろっ!


と、皆が食うことに全集中して、全回復、全能力が大幅に向上した。

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