第11話 ランチ・ミーツ・ボス・アンド・デス
クランから封印器具を預かって服のポケットに仕舞った後、飯は外出して食べに出ようというガッチャンの意見に賛同した。
クランにも声を掛けたが、宿舎の食堂で軽くつまみながら別の仕事を済ませるそうで、残念そうに断ってきた。
「私も同席したいのだが、流石に近日中に終わらせないといけない仕事も残っているのでな、宿舎で済ませて仕事に打ち込むよ。若い子同士で行ってきなさい。」
最近、宿舎の裏側にできたらしいモールダンジョン内のレストランに、
特性メニューというものがあるらしい。
そこに行こうと意見がまとまったが、なんでも、“食べたものの特性が手に入る裏メニュー“が期間限定で公になり、特性目当てに食べにくる人が続出しているらしい。
今期のメニューは、地龍のしっぽ肉のステーキが食べられるとのことで、ごく稀に龍族の特性や土属性魔法の適性や耐性が体に宿ることがあるそうだ。
ただ、その確率も非常に低いとのことだが、
とある戦で隻腕になった錬金術師が、食材の調理を頼んで食べた際、その特性の恩恵を受けて瞬時にレベルが上がり、その場で鋼鉄の義手や武器を作れる程に技能が上がった食べ物をレシピの原案にしているらしく、そのまま裏メニューとなった…とか噂が立ったらしい。
他にも吸血鬼の使徒の血を使った生き血ソースやホウオウのもも肉、人魚の涙の真珠を溶かしたビネガー… 雪女の冷や汗からの氷で作ったフラッペ…胡散臭さが抜けないものや癖の強い食材もあるとのことだった。
行くにしても移動に時間が取られるかな?
と思ったが歩いて数分との事で、司令室にあった簡易地図で見るからに警備詰所をでて西へ3分、隣の崖の横穴にあるから時間も掛からない場所だった。
俺、ハロルド、ガッチャン、クゥラ、エミーナ(中にはノアル)で行くことになった。
司令室からそのレストランまで、ガッチャンとハロルドが先頭を歩いて案内してくれるとのことだった。
「じゃあ、俺が案内するから皆んな着いてきてくれ!」
ガッチャンが張り切って先頭を進んで行こうとしたが、司令室から出る手前で話が聞こえていたのだろう、部屋のデスクに向かっていたクランから声が掛かった。
「ちょっと待て、皆あの店に向かうのか、ガテンツァも好きだなぁ…まあいい、あの店のマスターと料理長によろしく伝えてくれ。
あとハロルド、良かったらコレを持っていくといい。あの店のコーヒー券だ、あまり時間はないかもしれんが楽しんできなさい。」
ハロルドが呼ばれ、デスクの手前まできて差し出されたコーヒー券を受け取っていた。
「マジですか!司令、あリがとうございます!!」
クランから人数より多めの枚数の紙を預かって、ハロルドが後から追いかけてくる形でついてきた。
警備詰所から出て西に、本当に歩いて3分だった。
崖の横穴に転移装置と書かれた石板があり、そこに手を触れてどこの店で何名かを指でなぞったら、瞬時に転移が起こった。 最新の魔道アイテムらしいが、本当に便利なタッチパネルな石板だった。
看板には日本語で、『ゴハンドコロ エルフ亭』と書かれていた。
ハロルドが店のドアを開けてのれんをくぐるなり、常連めいた言動をした。
「こんちわ、マスター!! 選べるランチ5人分お願いっ!! あと、人数分のコーヒー券ね!!」
あいよ〜 という声と同時に、奥からウエイターの格好をした男性が出てきた。
「おー、ハロルドくんとガッチャンじゃないか、いらっしゃいっ!!」
どうやら、二人は常連らしい。
すぐに席に案内されたが、店内の空席には他の客が食い終えて帰ったすぐ後で、食器が片付けられていないままのテーブルもある感じだった。
昼食で賑わった後だった様で、すぐに通されたのは運が良かったようだ。
ガッチャンが席に着くなり笑顔で話し出した。
「ここのニジイロダイ定食がなかなかに美味でな、水龍の生き血ソースで作られた魚料理や芋と野菜の煮物も絶品だ!! 少し値段が張る料理もあるが、傷も癒える。前に酔っ払ったサイクロプスを制圧・討伐する前に食べた時の世界樹の葉の和物では防御力と魔法の耐性が一時的に上がったな!!」
先程よりテンションがおかしな位に上がっている。
「あのっ…、もしかしてここでは、サキュバスの方々が丹精込めて作ったと言う伝説の夢見ワインや幻惑ビネガーソースなども置いているのでしょうかっ?
前に冒険者の方々が携行していた調味料で、食べさせてもらった際の味付けソースが美味しくて忘れられなくて(悦」
え、クゥラもそわそわしながら聞いてるし、顔が悦になってるぞ!?
てか修道女が酒や酢とか飲み食いしていいんだ!?びっくり〜!!
「俺も異世界の特有の料理って今日が初めてだから、楽しみだよ!!」
と相槌まぎれで語ったが、皆の期待度高い雰囲気と顔が悦に至っている感じに引っ張られてか、内心、少しワクワクしていた。
横をみたら、話を聞いていて想像していたのであろうノアルの顔にもワクワクが滲み出ていた。
よっぽど昼が待ち遠しかったのか、それとも異世界料理を食べられるのが嬉しいのかといった感じだろう。
「そうね!!どんな料理か一度見てみたいものだわ!! あ〜お腹すいたッ!!
…そういえば、上司のメダオが飲み会で酔っ払って言ってたけど、この世界で80年位前に起こった人と魔族との大戦の原因は、転生者のエルフが作る料理や調味料が絶品だったから な〜んて話もあるのよね〜」
「「え“っ!?」」
皆がメニューからノアルに顔を向けた。
ちょっ、ノアル!!また余計なフラグを立てんな!? そのまさかだったらどうすんだっ!!
俺はハロルドに恐る恐る聞いてみた。
「ハロルド、ちょっと聞きたいんだが…まさか…」
ハロルドの顔が青ざめていたが、絞り出されるように返答が返ってきた。
「っ…、あの大戦の原因は公には不明になってんだわ。
それに、この店の初代オーナーシェフは転生者だって話だ…
ダンジョンマスターの称号持ってる100歳の女性エルフのネクロマンサーで、僻地からきたって噂だから、まず関係無い…と思いたい…」
ガッチャンも顔が固まっていたが、声を絞り出していた。
「だ、だよな〜。 流石に大戦を引き起こせる料理とか…」
ガッチャンの言葉を遮るように、更に緊張感を強くする第三者の声が聞こえた。
『そのまさかだよ!? ヒャッハッハ…、久々に、その余計な事を知っているお客様がいらっしゃるとは…その話題も実に懐かしいねぇ!!』
皆にギクッと変な緊張感が走り、右後ろから聞こえた声の方を向いた。
声の主は、ハロルドが言っていた老齢女性の風貌をしたエルフのオーナーシェフだった。
5種類の穀物を水で炊き出したご飯のようなものに味噌汁に似てるスープ、小鉢に入った和物を4人分を魔法で浮遊させて運んできていた。
目の前で老女エルフは右手の指でパチンッと音を出した。
浮遊魔法の他に、何かやばそうな魔力の球体が8つほど浮かびあがらせた。
それら一つ一つが俺たち全員を葬ることができる程の力を帯びているのを感じた。
だが、不思議と殺意を感じない。
おいおいまさかの状況なのか!?ここでやばい局面とかねえだろ!?初期の簡易装備位しかねえんだぞ!?
いきなりダンジョンのラスボスみたいなのが臨戦体制で出てきちまったじゃねえか!?
ここで俺の冒険終わるの!?
などと頭の片隅で思っていたが、老女エルフはメニューを指さすなり一言。
『さっさとメインの皿の注文を選びなっ!?一部を除いて40秒で出して食わせてやる!』
あ、よかった、死なないのか。
安堵とともに、全員で顔を合わせてメニューの文字に指をさした。ガッチャンおすすめのニジイロダイの煮付けを五つ頼んだ。
『あいよ、煮付けね!!
…しかし20年ぶり位かねぇ…滅多にこの話はしないんだが、訳ありの様子だから聞かせてやるよ…
だけど長くなるし時間が勿体無いから、時間概念すっ飛ばす為に経緯を一気に魂に押込むよ!その為に死んどきな!?』
あ、やっぱり俺達死ぬんだ。
『リジェクト・ソウル!!』
え、呪文って英語で詠唱なんだ!? 俺は耳を疑ったが、突っ込むことはおろか、言われた瞬間にはもう何も出来ず、力ではない何かが抜けていく感覚を味わった。
俺たちは空腹感と戦闘寸前の緊張をくぐり抜け、待ちに待った昼飯と過去の小話の為に一旦全滅する事になった。
ーリヒトたちはぜんめつしたー
だが続くっ!!