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一番大切な物


「俺の一番大切な物――グヌヌヌヌ……」


 この白金の剣は、ダメだ。絶対にダメだ。命の次に大事だ。ならば、やはり私の一番大事な物は……私自身の命だ。

 いや、違う……。私の命よりも大切な物……それは、言うまでもない……アレだ。みんな分かるよねえ。アレ。絶対にアレっしょ。


「グヌヌヌヌ。ちょっと、考えさせて貰えるかなあ」

 頭を抱えたいぞ――! いま、物凄く頭を抱えて考え込みたいぞ――! 首から上が無いのが、こんな時に非常に恨めしいぞ――!

「……いいわ。でも、わたしと鎧に傷がつく前に……答えて」

 真剣な眼差しだ。

「分かった」

 これ、ガチなやつだ。


 返り討ちに遭うって……この事だ……。



 頭を抱えて魔王城へと帰った。炎天下の中を歩いたせいか、少し頭がクラクラするぞ……。

 今、手に入れておかなければ、あの「女子用鎧、胸小さめ」は必ず傷だらけになってしまうだろう。傷はつかないとしても、土や泥や返り血で汚れ放題……。言わなかったが汗染みとかもファブリズして陰干ししなくてはいけないだろう。

 だからといって、交換条件に一番大切な物を渡せだなど……グヌヌヌヌ。


「――やはり勇者はやる事が卑怯だ! 考える事が卑劣極まりない!」


「――おいデュラハン! 魔王城内で急に叫ぶなよ。ビックリするじゃないか」

 四階にある玉座の間へ向かう途中、階段でソーサラモナーに怒られてしまった。

「す、すまん」

 周りにいたスライム達も顔が引きつっている。恐がらせてしまったようだ。ごめんごめん。

「また魔王様に変な仕事を押し付けられたのか?」

 そうなのだが……。他の四天王には絶対に相談できない。それも辛いところだ。


 いや、ニセ魔王様作戦ってどうだろう。こいつなら「のし」を付けて差し出してやっても構わないが……それはジェントルマンナイトのすることではない。


「ストレスの発散ならいい魔法があるぞ。禁呪文だがな」

 禁呪文ってのが、凄く怖いぞ危ないぞ。

「ああ禁呪文、『脳内垂れ流し』。言いたい放題で気持ちいいぞ」

「……いらぬ。そもそも私にはそういった魔法が効かないのだ」

 効くのは瞬間移動(テレポーテーション)とかの類だけなのだ。

「そうか、不便だな。じゃあな」

「……」

 不便って……言われてみればたしかに不便だ。



「ただいま戻りました」

 玉座の間は西からの陽が射しこんでいる。

 最上階なのに夏の暑さを感じないのは……魔王様の冷却魔法のお陰なのだろう。エアコンが効いているようで心地良い。

「おお、デュラハンよ。早かったではないか」

「はい。仕事が雑でも早いのが私めの取り柄でございます」

 玉座に座る魔王様の前で片膝をついて跪く。


「して、人間共は予の存在をどう思っておったのだ」

「はっ! ええっと、幸せの天使……魔王なのにぜんぜん魔王らしくな~い……。っていうか、ほとんど見たことないから知らないッス……などなどでした。あまり関心を持たれていないようで遺憾でございます」

 玉座からずり落ちる。そういうところが魔王様らしくないのだ。

「予は魔王だぞよ。予の無限の魔力を使えば、人間共を恐怖のどん底へ叩き落とすことなど……。


 ――赤子の手をさするほど容易いのだぞよ……」


 鳥肌が立った――全身鎧なのに。こんにちは、赤ちゃん?


「そして、女勇者にも魔王様のことを聞いてまいりました」

「ほうほう、勇者はいったい何と申しておったのだ」

「『ぜったいにぶっ殺す』『ぶち殺すから首を洗って待っていろ』と意気揚々でした」

 ちょっと盛ってみた。

「こわいぞよ」

 アワワと口に小指から人差し指までくわえないでほしい。

「あの女勇者はダメダメです。悪者をやっつけてハッピーエンド的な物語しか読んだことがないのでしょう。それなのに……」

「それなのに?」

「……それなのに、私の弱点を握り……、揺さぶりをかけてくる……あくどい性悪女でございます!」

「なに、デュラハンの弱点とな」

「はい。悔しくございます! ……今一歩というところで女勇者の一番大切な物を奪おうとしたら、代わりに一番大切な物と交換してやると言い出す始末……。――まったく手に負えません!」

 こんなに怒ったのは……今までもたくさんありましたが、とにかく怒っているのです――!

「――ちょっと待つのだ。大丈夫なのか、それ。色んな意味で」

「色んな意味で大丈夫でございます。言いにくいのですが、交換に応じなければ、無理やりにも奪おうと考えております」

「ダメー! それだけはダメだ。ダメダメ! 『魔警察』に捕まり魔新聞の一面(トップ)を飾るぞよ!」

「魔王様はいったい、なんだとお考えなのですか」

 ひょっとして、エッチいことをお考えなのでは?

「……。デュラハンの意地悪う」

 顔が青紫から赤紫色に変化する魔王様。アジサイのようでお美しくでございます。

「とにかく、一緒に来ていただきたく思います。どうせお暇なのでしょう」

 唖然としたお顔をされる。

「……。卿と違い、暇ではないのだが……色々と気にかかるから仕方ない。行くとしよう」

 どうせ暇なのだ。


 魔王様はよっこいしょと言いながら玉座からお立ちになる。まだお若いのにおっさん化現象が進んでいる。言わないけど。



 魔王様の瞬間移動(テレポーテーション)で人間界へと移動した――。


読んでいただきありがとうございます!


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