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その七 (嬉々として)振るわれる伝説の力

 「魔王軍幹部の奇襲があったのです」

 

 ディセルト王が重々しく口を開いた。

 

 今いるのは豪華で重厚だけど狭い部屋だった。オレとユウゴとチサトの対面には今話し始めた王と、あとなんか強そうな髭の中年が座っている。

 

 と、オレの視線にディセルト王も気付いたみたいだ。

 

 「これは失礼、紹介もしておりませんでしたな。この者はスルムルティア、この王国の軍事を纏める将軍の地位にある男でしてな」

 「ナット・スルムルティアと申します。勇者殿にお目に掛かれるとは武家を自任するスルムルティアの現当主として光栄ですな」

 

 王の紹介を引き継いで、ひげの中年改めナットさんが名乗った。胸板が厚くて背も高そうだからかなり威圧感のある風貌だけど、オレたちに会えてうれしいといってくれるその笑顔は少年みたいにも見えてわりと好感を持てる。

 

 「勇者殿を召喚したシーレインは疲労が大きいようでしたので、自室へと下がらせました。どちらにしろ今の状況には役には立ちませんので」

 

 シーレイン様っていうのは第二王女だったか。少女だったけど、ディセルト王と同じ銀色の髪が良く似合う儚げな美少女で、腰くらいまでの長髪だったこともあってなんていうか文学少女って感じだったな。

 

 と、それよりまだ名乗ってなかったよな。勇者殿って呼ばれ続けるのもやり辛い。

 

 「まだ何もわかっていない状況ですが、とりあえず私はタクト・カサマツです」

 「チサト・ナナホシです、魔力なら自信があります!」

 「ユウゴ・イトー……です」

 

 一応気を使って丁寧に名乗った。

 

 チサトは魔力言いたいだけだな、きっと。ユウゴの方はまだやっぱり警戒しているようだ。露骨に探るような目でディセルト王とナットさんを見ている。

 

 「状況は先ほど王が仰った通りです」

 

 ナットさんがさっきの笑顔を引っ込めて厳しい表情で言った。とりあえずオレたちの態度とか口調はこの感じで問題ない、と。

 

 あとはとにかく緊急事態っぽいこの状況だな。

 

 「具体的に何が脅威で、私たちに何を求めていますか?」

 

 不敵な笑みを浮かべて、余裕があると思わせられるようになるべくゆっくりと告げた。

 

 オレの狙い通りにいったようで、ディセルト王は軽く瞠目しているし、ナットさんは小さく「なんと豪胆な……」とかいっている。

 

 いやもちろんはったりだけどな。内心パニックだし、不安だけど、せめてペースくらいは握らないとなんか癪じゃないか。一応オレたちは女神の遣わした勇者で間違いない訳だし、まあ何とかなるだろ、という楽観的予測もある。

 

 「ではこちらも単刀直入にいきましょう。ここ王都のすぐ近くに突如魔王軍幹部とその手勢が現れました。我々の騎士団では手勢の半分を相手にするのが精々でしょう。勇者殿には残りの半分と幹部を討ち取っていただきたい」

 

 ナットさんの目線がさっきまでとは別人のように鋭くなった。こうなると体格と相まって本当に武人という言葉がぴったりな人だな。

 

 けどいきなり魔王軍の幹部とその軍勢を相手に戦えときたか……。女神を信じるなら世界を壊さない程度の神力がオレたちにはあるはずだけど。

 

 ……いや、オレだけちょっと違うんだった。今更だけどビニ傘直してどうしようとしたんだろうか、オレは。

 

 「その……傘が、どうかしましたかな? 変わった素材のようですが」

 

 こっちに来てからもずっと握っていたビニ傘をみているとディセルト王が不思議に思ったようだ。当たり前だけど傘とは認識されるんだな、いやあるか傘くらいは、透明のビニールは不思議に見えてるようだけど。

 

 「いや、別に」

 「ああー、そっかタクトは……」

 「戦えるのか?」

 

 チサトとユウゴはオレの授かった神力を思い出して不安に、というか心配になってきたみたいだな。まあオレも心配だけど。

 

 「呼び出したばかりで戦場へ送り出すのは申し訳ないのですが、シーレインが言うところによると古代に呼び出された伝説の三勇者は召喚直後から圧倒的な強さであったと……」

 

 ディセルト王の説明を聞きながらチサトの方をみて、次にユウゴの方を見た。どっちも自分が強いかどうかの自覚とかないようだった。

 

 チサトは圧倒的魔力で、ユウゴは適当に勇者っぽい感じだったよな。……改めて考えるとユウゴの方本当にひどいな。

 

 そんなオレたちの雰囲気を見て不安になってきたのか、徐々にディセルト王の声は小さくなってくる。

 

 「――一応、三勇者の遺物は我が王国で受け継いでいましてな……。勇者の鎧、大魔導の杖、剣聖の聖剣の三つです。シーレインの見立てではユウゴ殿が勇者、チサト殿が大魔導、そしてタクト殿が剣聖ではないかと言っておりましたが……」

 

 “剣 聖 の 聖 剣”――それっぽい言葉の羅列に突如差し込まれる微妙な回文! 空気の読める大人のオレは何も言わないけどな。

 

 「ぷふっ」

 「くっ」

 「「――?」」

 

 チサトはわりと大きく、ユウゴは遠慮がちに小さく吹き出したから、対面の二人は不思議そうだ。あれかな、言葉はおそらく現地語がオレたちには女神的な力で翻訳されてるのだろうから、向こうからすると何がおかしいのかわからないのか? いや頭がこんがらがりそうだから、深くは考えないでおこうか。

 

 「そ、それを話してくださったということは貸与してもらえると受け取っても?」

 

 とりあえず話を戻そう。向こうはこちらの反応が気になったみたいだけど聞かれても説明しづらいから流してもらうほかはない。

 

 「貸与も何もそれらはオルヴィア王家がお預かりしたものです。それをお返しするのは当然のことですから」

 

 ふむ……、強そうな武器もいきなり手に入るみたいだし、多分基礎能力値的なものは高いんだろうから、何とかなるか?

 

 「うん」

 「それ以外に選択肢もない、だろ?」

 

 二人も同じような考えみたいだ。というか、ずっとノリがいいチサトはともかく、ここで片頬を上げて決め台詞みたいに言ってきたユウゴも実は調子に乗っている気がする。

 

 「では、その遺物を受け取って、私たちの――勇者の力を魔王軍とやらに見せてやりに行きましょうか」

 

 いや、オレも相当だった。

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