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その三 上位世界を統べる神との(思ったより事務的な)邂逅

 徐々に光が収まり、それからしばらくして視力も戻ってくる。

 

 「んあー、きっつ……。あれ、事務所?」

 

 少し痛む目を頑張って凝らしながら見回すと、周囲は“事務所”としか言い表しようのない空間だった。

 

 白を基調とした面白みのない色合い、実用的だが華のないデザインの什器(じゅうき)類、そして正面のデスクについて書類仕事をしている地味な外見の女性事務員。…………いや誰だよ女性事務員。

 

 いやいや、それも気になり過ぎるけど、さすがに年長者としてこいつらの心配が先か。

 

 「おい、大丈夫か?」

 「あ、ああ、だ、いじょうぶ……みたいだ」

 「ボクも、目は見えるようになってきた。ケガも……ないかな」

 

 おお、この女子高校生ボクっ子だよ。かわ……とか軽率に言うと訴えられたりしそうだから平常心を装うけども。

 

 「お前らが無事なら――」

 「伊藤(いとう)だよ、お前じゃなくてさ」

 

 名前がわからないから適当に呼ぼうとしたらさすがにむっとしたらしい。まあそれはそうか、年上から無条件に威圧的な感じにされると癪に障る年頃だもんな。

 

 「で、ボクは七星(ななほし)ね。珍しい苗字だー、とかそういうくだりは聞き飽きてるからパスで」

 「お、おう……。そうか、わかった」

 

 そうとしかリアクションしようがないだろ。確かに思ったけどな。

 

 「落ち着きましたか?」

 「「「っ!?」」」

 

 そこで唐突に掛けられた言葉に、三人そろって肩を大きく震わせた。

 

 ……この女性事務員、精巧な置物の可能性も無きにしもあらずかと思っていたけど、人だったようだ。

 

 「無きにしもある訳がありませんが、人でもありませんよ、笠松(かさまつ)

 「は?」

 

 唐突に思考内容に返答されたことに八割、丁寧な口調と態度で何か呼び捨てにされたことに二割で戸惑う。

 

 「敬称など必要ありませんので。(わたくし)から見ればお前らは全員目下です」

 

 もはや思考を読まれていることは確定か……。それに目下? 加えてこの状況……。

 

 「笠松と七星の予想で正解です。何も考えていないバカは置いておいて、話を進めましょう」

 「じゃあやっぱりあんた神とかそんな存在で……」

 「ボクらは転生? それか転移させられるってこと?」

 「俺はバカじゃねぇっ!」

 

 オレの口にした突拍子もない言葉に、七星が追従した。目の前の女性事務員改め女神が否定しないところをみると、何と驚いたことに正解らしい。ちなみに騒ぐ伊藤は全員が流している。

 

 「その通りです、理解が早くて助かります」

 「そっか、ボクらは死んだってことかぁ……、っぐす、お母さん、お父さん、ポチ、ごめんね……」

 「は? 死? 何の話なんだよバカじゃない俺にも説明してくれって」

 

 魔法陣で明らかにウキウキしていた推定オタクな七星も、ショックを受けて泣き出してしまった。取り乱すまではいっていないようだけど、それはそうだよなぁ。

 

 「正確にはこれから死ぬことになっていました。死の運命が確定していたお前ら三名を(わたくし)が拾い上げたのです。理由は先ほど七星が言った通り、別の世界へ送り込むために」

 「死が確定?」

 「詳しく説明はできませんが、そうなっていました。あの後一日以内にそれぞれ別の理由での死が決まっていたのを、運命と人生を中断させてここへとお連れしたということです」

 

 若干引っかかる物言いをスルーして聞き返したものの、死の運命というものに関しては断言された。というか理由はうまく説明できないけど、この女神が言っていることは嘘偽りない真実だとなぜか信用できる。要するにオレたちからみて存在として上位だということなんだろうな、神というものの定義をうんぬんするまでもなく言い返しても無駄な事だけは理解できる。

 

 「ぐすっ、それで、これからどうなるの?」

 「先ほど言った通り別世界へ行ってもらいます。(わたくし)が送り込む訳ですが、現地の人間は『召喚に成功した』と認識しているはずです」

 「おいぃっ、いい加減バカじゃない俺にも理解できるように喋れって…………、召喚?」

 

 相変わらず騒ぐ伊藤はいかにもな“召喚”という言葉に反応している。うるさかったこいつが聞きにまわったことでちょっと話しやすくなるな。

 

 「召喚が必要な状況のところだと。それはあれかモンスターとか魔王とかそういう世界観でいいのか?」

 「そうですね、お前らごときでもわかりやすいようにいうとファンタジー異世界です。そこでは魔王の発生に伴って魔物が活性化、人類が危機に陥ったことで伝説上の勇者召喚へと縋っています。通常はその世界の問題はその世界で解決するべきなのですが……」

 「発生した、ぐす、魔王が“その世界”のものじゃない?」

 

 大分涙がおさまってきた七星は、やはり一番この状況に順応しつつあるな。

 

 「そう睨んでいます。それを調査して、別世界からの干渉であることが確定すれば討伐してください」

 

 なるほどな、ちょっと違うかもしれないけど毒を以って毒を制する作戦ってわけか。

 

 「一応聞いておくけど、別世界の存在じゃなかった場合は?」

 「お前らに任せます。(わたくし)からお願いすることは、別世界の存在であった場合は確実に排除してほしい、それだけです」

 「後は自由ってことか……」

 「それがお前らへの報酬ということにもなります」

 

 なるほど、使命を背負わされる代わりに、死期が迫っていたオレたちに第二の人生が与えられるってことか。

 

 ……聞くまでもなく、断ったらこのままあの場所に戻されて一日以内に死ぬだけか。こう考えているオレをみる女神の目つきを見る限り、そういうことなんだろうな。

 

 「じゃあ、頑張ろうね!」

 

 いつの間にか涙がすっかり乾いている七星が元気よく宣言する。割り切るのが早いというか、こういうシチュエーションにちょっと喜んでいる節があるな。

 

 「まあ、選択肢はなさそうだしな」

 

 オレも同意を言葉にして示す。……色々選択肢を思考しただけでじぃっと見てくる女神が怖いわけでは決してない。…………あの、ないので、そんな見ないでください、神への反逆ルートとか考えて済みませんでした。

 

 「あ、うん、おう、そうだな」

 

 召喚とか魔王とか勇者とかの言葉にワクワクして大人しくなったと思っていたら違ったらしい。伊藤は色々と諦めて一つ大人の対応を習得していただけのようだ。流されるだけの大人がこうして作られていくんだな。

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