その一 剣(ビニ傘)に身を捧げし人生
「いちっ、にっ、さんっ、しっ」
オレは今、日課に励んでいるところだった。
何の日課かというと、まあ運動だ。ちょっとした有酸素運動、……いや無酸素? よくわからんけど、とにかく体を動かしている。
「――きゅうじゅうきゅっ、ひゃ……くっ!」
基本の構えからの攻撃の型を百回。力を込めて、しかし丁寧にやり終えたところだ。今日も我ながら剣筋が冴えている。
「次は防御の型だな」
続けてやや地味な受け手を想定した型の反復に入った。地味な努力を惜しまない者こそ、戦場では派手な戦果を挙げられるものだ。……戦場行ったことないから知らんけど。
そう、今やっている運動とは剣術の稽古だ。それも幼いころから磨き上げてきた我流。
幼少のある日、自分の中の剣才に気付いたオレは公園の裏手の誰も来ないところを秘密基地にして、毎日鍛錬をし始めた。敵を、戦いを、そして己の死地すらも想定し、型として組み上げて体の芯まで染み渡るまで反復し続けた。
鍛錬にはずっと愛刀、いや相棒を使っている。二十五歳になった今でも壊れずオレの厳しい鍛錬に耐え続けてくれているこの、――ビニ傘を。
……、…………、………………。
何か文句あるか?
子どもの頃からずっと、いい年した大人になってもいまだに、毎日ビニ傘振り回して妄想チャンバラしているオレに、何か文句があるのだろうか?
「いやいや、取り乱すな笠松拓斗。脳内の第三者の声に返事してもつらくなるだけだぞ」
よし落ち着いた。この鍛錬中は精神統一が重要だ。無性に胸元を掻きむしって叫びたくなる謎の感情――断じて羞恥心ではない――を感じても気にしたら負けだ。剣の道に意味を求めた時点で己に負けてしまうのだ。
「よし続きを――」
こんなくだらないけど、悪くもない日常が、……ずっと続くと思っていた。
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