第2話 俺はメイド忍者な彼女に恋してる
ひとまず2話連続投稿します。
乃理乃のメイドでありボディーガードである桃花はいつも鋭い目付きで周囲ににらみを聞かしているため男子生徒の評判は悪い。
しかし整った顔立ちをしているのだから、笑えばきっと素敵なのだろうと思う。
彼女がどんな顔で笑うのだろうと思っていたら、いつの間にか好きになっていた。
それだけだ。
決してその胸が大きいと評判の乃理乃より、さらに桃花のほうが大きいからというわけではない。
断じてそんな不純な気持ちではない。
いつも校門でやっている朝の持ち物検査で、桃花のチェックは俺の仕事になっている。
本来女子生徒の持ち物チェックは風紀委員会の女子の役割だが、今年の風紀委員会の女子生徒は1年生だけで、生徒を見ただけで持ち込み禁止の物を見抜く眼力がまだ備わっていない。
そのため俺がチェックをするのだが、桃花は胸の間とかスカートの中に暗器を隠し持っているため、それを俺に渡す時に色々と見えそうになる。
そんな事を続けていたら気になっても仕方ないだろう?
風紀委員長として、そんなふしだらな理由で好きになったとは言えない。
でも、桃花の笑顔を見たいのは本当だ。
だから今日は乃理乃の誘いを一度は断ったが二度目は了承した。
それというのも桃花のメイド姿が見たいからだ。
やがて大きなお屋敷に着き、敷地内をさらに車で走る。
「今日はお父様もお母様もお仕事で居ませんの」
そんな時にお邪魔していいのかと思ったが、執事たちも居るからいいのだろう。
それにこの運転手をしている執事はおそらく俺より強い。
まさに執事兼闘士だ。
「こちらになります」
車を降りてその執事に案内されたのは大きな浴場だった。
「替えの服は用意してございます。お嬢様をお守りくださった際の汗をお流しください」
名家での来客の扱いはそういうものなのかと思いつつ、一人で入るには広すぎる風呂に入る。
広いだけじゃなくて天井も結構高いな。
そう思っていたら急に体を捕まれた。
抵抗しようと思えばできた。
でもできなかった。
なぜなら俺の体を掴んだのが桃花だったから。
しかもバスタオル1枚巻いただけの。
「何を?」
「声を出すな」
そう言われて桃花は身長180センチ体重90キロある俺を軽々と壁を伝って天井の隅へと運び、そこに押し付けた。
「はっ!」
桃花の掛け声で風呂場の蒸気が濃くなる。
おそらくこれも壁や天井に移動したのと同じような忍術なのだろう。
そして、誰かが入ってきたのがぼんやり見えた。
「健二郎様。お背中をお流ししますわ」
乃理乃だ。
蒸気でぼんやりしているがバスタオル1枚なのがわかる。
俺に礼をするために風呂に入ってきたのか?
「あら、居ませんわ?確かに入るのを確認したはず…」
なるほど、だから桃花は乃理乃に先んじて俺をここに追いやったのか。
(動くな、話すな。死にたくなければな)
心に直接呼び掛けられる声に必死でうなずく俺。
普通に戦って桃花に負ける気はない。
しかし忍者である彼女が持つ暗器や毒を使われたならさすがにまずい。
特にこの前没収した『男性を不能にする毒』とかを使われた日には人生が終わってしまう。
「仕方ありませんわ。せっかくですからこのままお風呂に入ってしまいましょう」
するするとバスタオルを脱ぐ乃理乃。
(見るなっ!殺すぞ!)
すぐに目を閉じるがその目がさらに柔らかいもので塞がれる。
(わかっているぞ。薄目を開けているのだろうが、これで見ることはできまい!)
手が使えないからって自分の大きな胸で目隠しするとか何を考えているんだ?
もにゅん
バスタオル1枚越しの柔らかさは半端ない。
(おお、お嬢様は相変わらずお美しい!なんて艶やかな肌!美しい曲線!)
そんな感想まで心に語りかけてこなくていいから!
それともこの『忍法以心伝心(俺命名)』って、伝える言葉を選べないのか?
(くっくっくっ。うらやましいだろう?あれを見られるのはお嬢様の専属メイドでありボディーガードでもあるこのあたしだけだ!)
俺が桃花の事を好きと誤解した結果、俺にとってはものすごくありがたい状況になっているが…。
これ以上桃花の体を押し付けられると腰に巻いているタオルが自発的に落ちかねない。
「ああ、健二郎様の入ったお風呂に…幸せですわ!」
普段から熱い視線を感じていたから薄々気づいていたが、どうやら乃理乃は俺の事が好きらしい。
こちらとしてはまったく興味が無いのだが。
(おのれ!聞くな!あれは気のせいだ!断じてお嬢様は貴様の事など好きではない!)
むしろその方がありがたいのだが。
乃理乃が湯船に入って入り口に背を向けている隙に、俺は桃花にそこから連れ出された。
「ふっ、ざまあ見ろ。これでお嬢様の裸はおろか、バスタオル姿すら見られなかっただろう?」
勝ち誇っているけど、目の前でバスタオル1枚でふんぞり返っている桃花のほうがずっと魅力的なんだけどな。
「よし、着替えるか」
「え?」
ばっ!っとバスタオルを捨て去る桃花。
思わず両手で目を覆ってしまう。
恐る恐る指の隙間から見ると、すでにメイド服に着替えた桃花が!
忍術ってすごいな!
「何だ?あたしのことなんか見たくもないってか?お嬢様の風呂上がりを見たいだろうが、すぐに広間に案内させてもらうからさっさと着替えろ!」
置かれていたのはタキシードや燕尾服のような正装だった。
着慣れていないから結構手間取ってしまう。
「もたもたするな!あたしが着替えさせてやる」
ばばばばっ!
俺を異性と認識していなくて恥ずかしくないのか、ほとんど下着姿の俺に服を一瞬で着せてくれる。
この『忍法早着替えの術(俺命名)』って全身まさぐられるような感じなんだが…いいのか?
当人は気にもしてないみたいだけど、こっちが恥ずかしい。
「広間はこっちだ。来い」
その広間までがものすごく遠かった。
おかげで目の前を歩く桃花のメイド姿を十分に堪能できた。
お読みいただきありがとうございます。
感想とかブックマーク次第で連載ペースを考えるつもりです。
よろしくお願いいたします。