第75話:不利な戦闘
現ミカエル国王のヒニクンを調査するため、王城の地下の鉱脈に潜入。
怪しげな神殿風の建造物を調査する。
そんな時、突然現れた“魔族人形”に完全に包囲されてしまう。
『ガッガガガ……』
『グゲッ、グゲッ!』
“魔族人形”は魔物辞典にも載っているが、実物をボクは初めて見る。
人型をしているが顔は魔物のように鋭い。背中にはコウモリのような羽が生え、素早くボクたち四人を包囲してきた。
「ちっ……この状況で“魔族人形”は、ちょっと厄介ね」
赤髪の女剣士エルザは、剣を構えながら舌打ちをする。冒険者である彼女は“魔族人形”と対峙したことがあるのだろう。
「ねぇ、エルザ、こいつらってヤバイの⁉」
「ええ、そうね。普段の地上なら、それほど強敵じゃないわ。けど、この魔素が濃い環境だと、厄介すぎる相手ね!」
生物ではない“魔族人形”は、魔素の悪影響を受けない。
むしろ闇系の魔物のために、濃い魔素のお蔭で強化。そのため超重力の悪影響も受けにくいという。
「それに比べてこっちは“この格好”で、戦いにくいからね」
一方で魔素と超重力を回避するため、エルザは《対環境服》を着ながら戦う必要がある。彼女曰く、剣士にはかなりのハンディキャップになるという。
「あと、正直なところサラたちが特に心配ね」
耐性が常人なサラは、《対環境服》が万が一でも破けてしまったら一大事。魔素の悪影響をまともにくらってしまうのだ。
「それはたしかに。よし、二人の方は、ボクに任せて! サラ、ドルトンさん、荷馬車の中に避難しましょう!」
ボクは駆け出しの冒険者で、エルザの足手まといになる。
せめてものサポートして、サラとドルトンさんを“ハルク式荷馬車・参式”の中に避難誘導する係りだ。
荷馬車はミスリス製なので、ある程度の攻撃に耐えられるはず。
二人を無事に避難させたら、ボクもエルザの援護に向かう。微力かもしれないが“魔族人形”と戦う覚悟を決めていた。
「分かりました! ハルク君も無理をしないでください!」
「小僧、信頼はしているが、ヤリ過ぎるなよ。鉱脈が落盤してきたらシャレにならんからのう!」
「あっはっはっは……気を付けます。さぁ、荷馬車の中に急ぎましょう!」
ボクは駆け出し未熟な冒険者。ドルトンさんが心配しているよう、不適切な戦いをしないように、気をつけよう。
「よし、エルザ。二人が荷馬車の中に避難するまで、援護してもらっていい?」
「ええ、もちろんよ! でも、ハルクも気をつけて。こんなに濃い魔素の中だと、“魔族人形”も普通ではない強さなはずよ!」
魔物辞典によると魔素が濃い場所では、魔族や魔獣の力は強くなる。一方でエルザは《対環境服》を着ながら戦う必要がある。
全身を使う剣士だからこそ、エルザはハンディキャップが生じるのだろう。
「なるほど、了解!」
腰に下げていた《ハンマー剣》を手に取り、ボクも武器を構える。
相手の強さは分からないけど、これで牽制代わりになるはず。なんとしてもサラたちが避難する時間を稼ぐ。
『ガッガガガ……』
『グゲッ、グゲッ!』
今まで様子を見ていた、“魔族人形”の動きに変化がある。奇声を発しながら、攻撃態勢に入ったのだ。
「サラ、ドルトンさん、今です!」
そのタイミングを狙って合図を送る。ボクも二人と共に、荷馬車に向かって駆け出す。
『『『ギャルル!』』』
急に動き出したこちらに反応して、“魔族人形”も一斉に動き出す。逃げ出したボクたちに攻撃しかけてきたのだ。
「させないわ!」
それと同時に動いたのは女剣士エルザ。素早い踏み込みで、“魔族人形”に斬撃を繰り出す。
スジャッ!
見事な斬撃で“魔族人形”を一刀両断。彼女はかなりの腕利きの剣士なのだろう。
「えっ⁉ い、今の私の動き、っていったい⁉」
相手を倒しながらも、エルザは驚いた顔をしている。もしかして何かのトラブルでも起きたのだろうか。
『『『ギャルル!』』』
そんな相手の隙を狡猾な魔物は見逃さない。残りの“魔族人形”が一斉に、エルザに攻撃を仕掛けていったのだ。
「ちっ⁉ しまった! 相手も、予想以上に速すぎるわ⁉」
濃い魔素の影響力で、“魔族人形”は予想以上の強化されていた。戸惑うエルザを全方位から襲いかかる。
「くっ……ダメージは受けても、反撃しないと!」
エルザは回避を諦めて防御態勢に移行。左腕を犠牲にして、カウンターの体勢に構える。
『『『ギャルル!』』』
数匹の“魔族人形”の鋭いかぎ爪が、防御態勢のエルザに襲いかかる。
かなり危険な攻撃。
ガッ、キ――――ン!
だが直後、鉱山内に甲高い金属音が響きわたる。エルザは左腕で、“魔族人形”の全ての攻撃を跳ね返したのだ。
「えっ⁉ 今のはいったい、何が起きたの⁉ 私の腕は無傷⁉ というか、逆に相手が爪がふき飛んでいる⁉」
攻撃をしかけた“魔族人形”が全て、逆に衝撃を受けて吹き飛んでいく。
まさかの事態にエルザは自分の左腕を見つめている。
「もしかして、この《対環境服》って、防御力がとんでもない高さだったの⁉」
《対環境服》は薄い生地で、動きやすさと快適性を最優先にしている。
だが元々の素材は全てミスリス製。まさかの防御力の高さに、エルザは唖然としていたのだ。
「それにさっきの攻撃でも、動きやすさが倍増していたわよね、私は⁉ 何が起きているか理解できないけど、この“異常な防御力と動きやすさ”なら、いけるわ! いくわよ! ハッ! ハッ!」
そこからはエルザの一人舞台だった。まるで水を得た魚のように、動きが変わる。
連撃を繰り出し、残る“魔族人形”を一気に殲滅していく。
「す、すごい……」
その剣舞のように華麗な連続攻撃に、ボクは思わず見とれてしまう。これが本格的な剣の稽古をした剣士の動きなのだろう。
我流できた自分とは雲泥の差だ。
「ふう……これで最後ね。とりあえず全部、片付いたわよ。私たちも荷馬車の中に戻りましょう、ハルク!」
「うん、そうだね!」
サラとドルトンさんはすでに避難済み。ボクたちも安全な荷馬車の中に移動していく。
「あと、ハルク。荷馬車の中に入ったら、説明してよね! この《対環境服》の異常な戦闘能力について!」
「えっ……異常な戦闘力?」
エルザが何を驚ているか分からないけど、とりあえず荷馬車の中で話を聞くことにした。




