第70話:劣悪な環境でいる存在
新たに追加装備した超魔具のお蔭で、過酷な環境に対しての対応は万端。
ボクたちは更に下層を目指す。
ヴィ――――ン!
ミスリル鉱脈に本格的に入ったので、“ハルク式荷馬車・参式”はあまり速度を出せない。
速度ギアをパワー重視モードに切り替え、第一階層を安全に走行していく。
「うん、今のところ、ここは異常ないかな?」
下層への入り口に向かいながら、第一階層の現状を確認していく。ボクが採掘していた時と、なんの変化もなく異常もない。
おそらくミカエル王国の誰も、この辺には足を踏み入れてないのだろう。まるで時間が止まっていたかのような雰囲気だ。
「ちなみにハルク君。ここでヒニクン国王にバッタリ遭遇する、危険性はないんですか?」
「今のところ大丈夫かな、サラ? ミカエル城からの入り口は、もっと奥の方だし。それに“人の気配”もないし」
ボクたちが入ってきた秘密の入り口は、鉱脈的にけっこう南の方に位置していた。対してミカエル城からの入り口は北にある。
つまりここから更に北に進まないと、ミカエル城の入り口から入ってきた人には遭遇しないのだ。
「なるほど、それなら、まだ安心ですね。あっ……でも不思議ですね。こんな大変な環境なのに、どうやってヒニクン国王は鉱脈に入れるんですかね?」
「あっ、そういえば、たしかに!」
サラの疑問に思わず賛同する。何しろこのミスリル鉱脈は、一般の人には普通の環境じゃない。下層に降りていくほど魔素が濃くなり、重力も強くなる。
ボクは慣れているから平気だけど、普通の人はサラのように具合が悪くなるのだ。
「ふむ。もしかしたらヒニクン国には、何かしらの“力や加護”があるのかもしれんのう?」
「えっ、“力や加護”ですか?」
博学のドワーフ職人のドルトンさんは、何か知っているのだろう。意味深なことを口にしてきた。
「ああ、そうじゃ。こうした悪い環境でも神具を持った連中や、加護持ちの奴らは自由に動けるはずじゃ」
「なるほど、そうだったんですね」
大陸には色んな力や加護をもった人たちがいる。有名なのは《大賢者》や《聖女》などの選ばれた存在だ。
彼らは神が作りしたと言われている“神具”を有している人も、劣悪な環境でも戦うことが可能だという。
「つまりヒニクン国王も加護や神具を有していて、このミスリル鉱脈でも自由に動ける、ということですか?」
「ふむ、そこまではワシも分からん。だが間違いなく大人数では、この鉱脈には潜れないはずだ」
ヒニクン国王が加護持ちだという情報は、実父のルインズ様から聞いてはいない。ということは何かしらの神具を所有している可能性が高い。
だが大陸に現存している神具の数は、それほど多くはない。つまりミスリル鉱脈に潜っている時のヒニクン国王は、少人数で動いている可能性が高いのだ。
「あと、別の可能性もあるが……まぁ、そっちは無いことに祈るしかないのう」
ドルトンさんは独り言のようにつぶやく。何やら思うこともあるようなので、深く聞かないことにした。
「情報ありがとうございます、ドルトンさん。つまり、このミスリル鉱脈で見かけた者は、『加護を有している凄い人』か『神具を所有している人』『何か危険な力を持った人』だけ、という訳ですね!」
客観的な情報をまとめていく。
そう考えると、このミスリル鉱脈で人と出会う可能性はかなり低い。つまりもう少しペースアップをして調査をしてもいいのかもしれない。
ヴィ――――ン!
ボクは“ハルク式荷馬車・参式”の速度をアップ。第二下層への入り口へと急いで向かう。
「あっ、あそこです! 下への入口は!」
しばらく進むと、また縦穴が見えてきた。先ほどとは違いそれほど大きくないが、ギリギリ荷馬車は通れる坂道だ。
「あっ、そうだ。あのゲートを開けないと、駄目なんだ」
この入り口にボクは金属製のゲートを付けていた。それを動かさないと“ハルク式荷馬車・参式”は通過できないのだ。
「ちょっと、外に行ってきます。待っていてください!」
“ハルク式荷馬車・参式”から降りて、ゲートを開けに向かう。
うん、久しぶりのミスリル鉱脈だけど、空気が美味しい。
地上の澄んだ空気も悪くないけど、ボクにはこっちの魔素が濃い空気も好きなのだ。
「さて、ゲートの開錠は……ん?」
ゲートに近づいた時だった。
その先に一人の人影があることに気がつく。
「なっ⁉ な、何者だ、キサマは⁉」
相手の人影が声を上げる。
ボクは呑気に鼻歌を歌っていたので、向こうも気がつかれてしまった。
「こんな場所にいるなんて、キサマ、まさか上級魔族か⁉」
ゲートの前にいた人影は剣先を向けてきた。
相手は一人の少女……女剣士だ。
「えっ、魔族じゃない? あんたはまさか、あの時の⁉」
相手もボクの顔を確認して、表情が変わる。何故なら互いに前に会ったことがあるからだ。
(あっ……この子は……)
剣を向けてきたのは赤髪の女剣士、“一角ウサギもどき”の死骸の側にいた、赤髪の女剣士だった。




