第66話:潜入の準備
先々代の国王ルインズ様から、現国王ヒニクンの情報を入手。
ヒニクン国王が密かに行っている地下鉱脈のことを、ボクは調べることにした。
地下鉱脈はかなりの広さと深さがあり、調査は半日では終わらない。長い調査になるため、留守のドルトンさんとサラにも事情を説明することにした。
「……という訳で、地下鉱脈に行こうかと思います。すみませんが少しの間、出かけてきます」
今回は大国の君主が相手。しかも裏があるヒニクン国王が相手だ。
かなり危険な調査になり、もしかしたらボクにも危険が及ぶかもしれない。
だが二人には危険なことは内緒にしておく。心配をさせたくないのだ。
「なるほどな。ついにハルクの育った場所か……それならワシらも準備を、万端にしていかんとな」
「そうですね、ドルトンさん。ちょっと怖いですけど、ハルク君の育った場所に行くのは、楽しみですね!」
驚いたことにドルトンさんとサラは、出かける準備を始める。いったいどういうことだ?
「ふん。どうせ一人で危険を抱え込んで、行くつもりだったんじゃろ? 相変わらず嘘を隠すのが、下手なんじゃ、オヌシは」
「そうです、ハルク君。私たちは仲間じゃないですか! 置いてけぼりなんて、水臭いですよ!」
驚いたことに、二人とも気が付いていたのだ。
ボクが危険に立ち向かおうとしていたことを。話を聞いてたけで感じ取っていたのだ。
「ごめんなさい、二人とも。そしてありがとう!」
正直なところ今回の調査は、一人では心細かった。
だから二人の同行の申し出はありがたい。頭を深く下げて感謝をする。
二人の頼もしい言葉に、ボクの中で大きな力が溢れてきた。
「頭を上げてください。ハルク君。マリエル様のために、一緒に頑張りましょう!」
「ところで小僧。たぶん、オヌシが育ったほどの場所だ。何か準備が必要なのだろう?」
「はい、そうですね。少し準備をしてから、潜りましょう!」
ミスリス鉱脈の深い部分は、普通の人にとって危険な場所。対策の道具を、事前に作っていかないといけないのだ。
三人で手分けをして準備をすることにした。
「えーと、サラは、このポーションと、これを準備してもらっていいかな?」
「はい、任せてください!」
サラには数種類ポーションを作ってもらう。
ミスリス鉱脈は魔素が濃く、重力も地上とは違う環境。色んな準備が必須なのだ。
「ドルトンさんは、これと、これを作るのを手伝ってください!」
「ああ、任せておけ」
ドルトンさんにはボクの鍛冶仕事を手伝ってもらう。熟練の老鍛冶師の手伝いで、ボクの作業効率は何倍にもアップする。
「あっ、ちょっと魔道具の買い出しに行ってきます!」
新しい魔道具が必要になった。マルキン魔道具店に買い出しに行く。
買い物中にオーナーのマルキンさんに遭遇する。
「おお、これではハルク様! 本日もご利用ありがとうございます! どんどん持っていってください!」
「ありがとうございます、マルキンさん。それではお言葉に甘えて」
マルキン商会グループの『生涯買い放題の権利』がボクにはある。必要な魔道具を、遠慮せずに買い物していく。
「お買い上げありがとうございました。何か困ったことがあったら、いつでも来店ください、ハルク様!」
マルキンさんの好意のお蔭で、必要な魔道具は無料で入手。工房に戻って、再びドルトンさんと作業に取り掛かる。
「おい、小僧。こっちは完成したぞ」
「ありがとうございます。それでは次はこっちをお願いします!」
「任せておけ。それにしても、オヌシから借りた、この工具は、凄まじいな。あの頑丈なミスリル金属が、簡単に加工可能じゃのう」
「実はそれもミスリル製の工具なんです。だから相性がいいんです!」
貸した工具のお蔭で、ドルトンさんの作業効率は数倍に向上中。お蔭でボクは自分の新しい道具の作成に集中できた。
「ハルク君、頼まれていた新しいポーションの試作ができました。確認お願いします」
「ありがとう、サラ。……よし、OKだね。それじゃ、次はこっちをお願い!」
「はい、分かりました!」
サラのポーション製造も順調だった。
ボクの作った魔術工房は、サラの実家よりも使いやすいという。お蔭で今までないポーションを、サラは作ることに成功していたのだ。
「よし、今日も、いい作業ペースだぞ。あっ、時間だ。ちょっとマリエルの様子を見てくるね!」
数日間の作業の途中でも、マリエルの状況は必ず確認しにいく。彼女の身の安全を確認するためだ。
マリエルは婚姻の提案を断ることを決意していた。だが今のところまだ誰にも言っていない。
こっそり確認したスケジュールによると、四日後にまたヒニクン国王と謁見予定。その時に断りの言葉を伝えるのだろう。
つまり、それまで期間はマリエルの身は、けっこう安全だという予想だ。
「……という訳で地下鉱脈の調査のタイムリミットは、あと四日です」
「分かりました。ハル君!」
「ふん。最後の仕上げをするぞ!」
必要な道具の製造は、佳境に入っていた。ボクたち三人は寝る間も惜しんで、道具の製造に取りかかる。
交代で仮眠を取りながら、サラの回復ポーションを飲みながら、集中で作業をしていく。
――――そして、予定していた道具が全て完成する。
◇
「ボク、ちょっと行ってきます。すぐに戻ります! 二人は仮眠してください」
徹夜で完成させた道具の一つを持って、ボクは秘密の通路に潜っていく。向かう先はマリエルの屋敷だ。
《怪盗百面相》で前回と同じ護衛騎士に変装。マリエルの屋敷の家臣の気配に注意しながら、彼女の部屋を訪ねる。
「マリエル様、失礼します」
「どうぞ入りなさい。どうしました――――か⁉」
護衛騎士に扮したボクの顔を見て、マリエルは一瞬だけ言葉を失う。
何かに気がついたような雰囲気。
「ハ、ハルク様……ふう……」
でも小さくな何か呟き、マリエルは深呼吸。何事もなかったかのような、冷静な顔に戻る。
「……どうしましたか?」
「えーと、実は、この指輪を王都の店で見つけて、マリエル様に似合うかと思い持ってきました」
ボクが手渡したのは指輪型の超魔具。万が一の時、マリエルの身を守る機能が組み込まれているもの。
ボクたちが地下鉱脈に潜っている期間、彼女に是非とも身につけて欲しいのだ。
(ん? 待てよ。よく考えたら『護衛の騎士がいきなり指輪を買い物してきて、主に渡すって』明らかに怪しいよな⁉)
渡してしまってから、急に不安になる。勢いに任せてやってきたけど、家臣としてはありない奇行なのだ。
「ああ……わたくしに指輪のプレゼントを⁉ 本当にありがとうございます。一生身につけておきます」
だがマリエルは受け取ってくれた。目を潤ませながら、愛おしおうに指を見つけている。
しかも言葉使いが家臣に向けるものと違う。どうしたのだろうか。
だが今は確認する時間はない。急いで戻って、地下鉱脈に潜る必要があるのだ。
「受け取ってくれて、ありがとうございます。それでは失礼します、マリエル様」
「はい……お気をつけて……ハルク様」
ん?
最後にマリエルが名前を呼んできたような気がする。
でも小声だったから、もしかしたら聞き間違いかもしれない。きっとそうだろう。
(とにかくマリエルに超魔具の指輪を受け取ってもらえたぞ。これで心置きなく地下に行けるぞ!)
秘密の通路を使い、自分の屋敷に戻る。
ドルトンさんとサラは出発の準備を終えていた。二人とも仮眠と回復ポーションのお蔭で、体長は万全だ。
「お待たせしました。それではミスリス鉱脈に行きましょう!」
こうしてボクたち三人はミスリス鉱脈へと向かうのであった。




