第57話:ゲーム
サラの買い物に付き合って、高級魔道具店に来店。
接客をした男性店員がクビにされそうになる。
「そうだね……よし」
自分たちも無関係ではない。意を決してボクはソファーから立ち上がる。
「マルキンさん、外部のボクたちが口を出すのは道理でないですが、エドワードさんを許してあげてくれませんか? ボクもサラも特に気にしていないので」
「私も気にしていません! 今だから反省していますが、私も買いもの前に確認するべきでした、お店の雰囲気を」
ボクに呼応してサラも立ち上がる。興奮するマルキンさんを、二人で説得する。
「ハルク様、そうは言っても、この男は悪態をついていたました。いくらはハルク様たちが許しても、エドワードを雇うことは当商会に理はないのです」
マルキンさんは商人。人情よりも理を優先するのであろう。断固として解雇の決断を揺るがない。
応接室は緊張した、こう着状態になる。
(これは困ったな。エドワードさんも顔を真っ青にして、全身を震わせているし。どうしよう……ん?)
正座したままの男性店員エドワードを見つめて、ボクはあることに気がつく。気がついたのは、彼の手の様子について。
(あれは? もしかしたら、そうだったのか? それなら、理を求めるマルキンさんを説得できるかもしれない!)
あるアイデアが浮かんできた。
実行するためにリュックサックに手を入れながら、【収納】を発動。小さな石を十コ手に取る。
よし、準備はできたぞ。興奮気味のマルキンさんに話しかける。
「さて、マルキンさん、一つゲームをしましょう!」
「なっ、ゲームですと⁉ いきなり何ですか、ハルク様⁉ なんで、こんな時に⁉」
いきなりの提案に、マリキンさんは驚いていた。何しろ緊迫した中で、客のボクがゲームを提案してきたのだ。誰でも驚くだろう。
だがボクは話を続ける。
「このゲームにマルキンさんたちが勝ったら、先ほどのガルネット宝玉を“無料”でお譲りします!」
「なっ⁉ さ、先ほどの見事なガルネット宝玉を、タダで⁉ 本当ですか、ハルク様⁉」
無料と聞いて、マルキンさんの態度が一変する。目を大きく見開き、前のめりになって食いついてきた。
よし、これならいけるぞ。
「はい、本当です。なんだったら契約書にサインしても大丈夫です!」
「い、いや、そこまでしなくても大丈夫です、ハルク様。ところで、どんなゲームを⁉」
興奮状態のマルキンさんの興味は、既にゲームの内容に集中している。
何しろ喉から手が出るほど欲しい、ガルネット宝玉が無料に手に入るのだ。いつの間にか鋭い商人の視線、戦闘態勢に入っていた。
「ゲームは簡単です。この十個の石の中から、ガルネット宝玉の原石を当ててください!」
収納から取り出しておいた十個の石を、ソファーテーブルの上に並べる。
並べたのは何の変哲もない小さな石ころ。外見的には全て同じに見える。
「ほほう……なるほどですな。これは目利き勝負という訳ですな、ハルク様! 受けて立ちましょう!」
目利き勝負だと分かり、マルキンさんの口元に笑みが浮かぶ。
何しろこの人は王都の有数の大商人。目利きは何よりも大事な生命線なのだ。
特に宝玉を扱う魔道具店の当主として、絶的きな自信をもっているだろう。
「うーむ、うーむ……」
鑑定用のルーペを使い、マルキンさんは一つずつ石を調べていく。うなり声をあげながら、丁寧に調べていく。
「……うぐぐ……うむむ……」
マルキンさんは真剣だった。全ての石を何度も調べて、正解に辿りつこうとしている。
全身全霊で鑑定をしていた。
「……うっ…………」
だが様子が段々と変わっていく。大粒の汗をかきながら、顔が青くなっていく。
おそらく正解が見つけられないのだろう。何度も鑑定しても、答えのガルネット原石が分からないのだ。
「ハ、ハルク様……ほ、本当に、原石は一個だけあるんですか、この中に?」
「はい、もちろんです! ギブアップなら、この場で石を割って、証明しますよ?」
もちろん嘘なのではなく、ちゃんと一個だけガルネット原石が紛れている。
でも外見的な違いはほとんど無いから、マルキンさんでも見つけられないのだろう。
ちなみにボクはひと目で分かる。というか目で見て確認しなくても、“石の声”や雰囲気で分かるのだ。
「ギ、ギブアップはしません……ですが私には分かりません……くっ……どうすれば……」
マルキンさんは板挟みになり、追い詰められていた。
魔道具店の大当主としてのプライド。
喉から手が出るほど欲しい、ガルネット宝玉への欲望。
鑑定歴数十年の自分の実績と自身。
答えが見つからない孤独なマルキンさんを、その全てが苦しめていたのだ。
「うっ……うぐぐ……」
あっ、まずい。
これ以上のプレッシャーをかけると、マルキンさんが倒れてしまう危険性がある。ボクは助け舟を出すことにした。
「マルキンさん。それなら“仲間”の協力を仰ぐのをオススメします!」
「え? 仲間……ですと? それは、どういう意味ですか、ハルク様?」
「ボクは先ほど『このゲームにマルキンさん“たち”が勝ったら』と言いました。つまりマルキンさんには仲間”がいるのです。しかも強力な人物が。エドワードさん、鑑定の手助けをしてあげてください!」
「「「⁉」」」
ボクの提案に、室内の誰もが驚く。
鑑定中のマルキンさんと正座中のエドワードさん。あと隣にいたサラですら、意味が分からず驚いていた。
「ハ、ハルク様……それは、どういう意味で? その男がいったい、どうして……」
「信じてください、マルキンさん! エドワードさんは必ず、貴方を助けてくれます!」
こうしてクビを宣告された悲運のエドワードさんを、原石鑑定ゲームに巻き込むのであった。




