第40話:ハメルーン城の状況
第三王女マリエルから手紙を貰う。
「サラ、おはよう! 今、大丈夫? マリエルから手紙がきたんだけど?」
「あっ、ハルク君。おはようございます。お城に⁉ はい、もちろんです!」
魔術街に寄って、見習い魔術師サラも誘い、二人で城に向かう。
城の正門では手紙を見せて、王宮へと向かう。
「ハルク様! サラ! こちらです!」
途中の城の中庭で、銀髪色白の少女が声をかけてくる。第三王女のマリエルだ。
「マリエル、おはよう。あれ、今日は王宮じゃないの?」
「はい、ハルク様。実は城の敷地内に、素敵な“展望台”を見つけたのです。今日はそこでお茶会をしようと思っております!」
前にお茶会をしたのは王宮の中庭。活発なマリエルは、新しい場所を見つけたのだろう。
マリエルの案内で展望台に向かう。
城の敷地内を進んで、目的の場所にたどり着く。
「ここです。私の見つけた秘密の展望台は!」
「えっ……ここ?」
マリエルの先導でたどり着いたのは、城の最上階にある展望台。
いや……兵士の使う“見張り台”だった。
地上からかなり離れていて、時おり強い風も吹きつけてくる高所だ。
「マ、マリエル……ちょっと高すぎて、怖いんだけど、本当にここなの?」
「はい、ハルク様! 素敵な眺めで、お茶会にピッタリだと思いませんか?」
「いや、たしかに眺めは最高だけど、少し怖いというか……サラも、怖くない?」
「いえ、私は大丈夫です、ハルク君。むしろ高いところには憧れていたので、凄く嬉しいです!」
マリエルとサラは大はしゃぎで、見張り台からの景色を眺めていた。もしかしたら女の子は高い所が好きなのだろうか。
(高い所か……うっ……真下を見ないようにしよう)
一方でボクは高い所は、あまり得意ではない。
幼い頃から地下鉱脈に籠っていたから、こうした開放感のある高所は少し怖いのだ。
でも『高い所が怖いから止めよう』と言ったから、男としてカッコ悪い。我慢してお茶会に参加することにした。
「では、お席はこちらです、ハルク様!」
お茶会のテーブルセットは、前もってセットされていた。
侍女の人たちが見張り台の脇で、お茶とお菓子も用意してくれる。移動式のケータリングセットみたいな感じだ。
ボクとマリエル、サラの三人で席に座り、お茶を頂いていく。
「ふう……美味しいね。そういえば、こうして三人でお茶会をするのは、久しぶりな感じだね。お城の方はだいぶ落ち着いたの、マリエル?」
邪竜バルドス討伐後は、ハメルーン城も色々とバタバタの雰囲気だった。
この三人でゆっくりと話ことは久しぶりなのだ。
「はい、ハルク様。先日のミカエル軍との戦によって、メルーン軍にも多少の被害は出ておりました。それでも、あの大規模な襲撃を考えたら、異常なほどの軽い被害でした」
街の城壁を指差しながら、マリエルは状況を説明してくる。
ミカエル軍との戦いでは、剣を交えた直接的な戦闘は行われなかったという。
城壁の上から一方的にハメルーン軍が、弓矢と投石で攻撃しかけていた。
そのため守備隊の死者もほとんど出ず、回復魔法によって今は全員が元気だという。
「あと、その後の邪竜の襲撃の件で実は、城で不思議な現象が起きていたました」
「不思議な現象? どんな?」
「邪竜の“火炎吐”攻撃が、城に襲いかかってきた時、不思議な光が城を守ってくれたそうです」
マリエルの説明は次の通りだった。
邪竜バルドスは“火炎吐”で、ハメルーン城にも攻撃してきた。
だが命中する寸前、城の中の柱が黄金色に光ったと。
その光の加護のお蔭で、城内では死者は一人もでなかったというのだ。
「ちょうど、あの柱の辺りです。発光現象が目撃されたのは」
「へー、あの柱が。不思議なこともあるんだね」
マリエルが指差した先に、一本の柱があった。
あそこに神の加護なんかが、かけられているのかな。ボクも後で帰る時に触って、ご利益を受けていこうかな。
ん?
そういえば“あの柱”は、どこかで見たことがあるような。
最初に城に来た時に、ボクが勝手に修理した柱に、少し似ているような気がする。
まぁ、でも気のせいだろう。
建物の柱なんて、どれも似たような形と色をしている。
まさか『偶然ボクが修理した柱に、“火炎吐”を弾き返す加護がかかっていた』そんな非常識的なことは起きるはずがないだろう。
「とにかく城も無事で良かったね。あっ、そういえばマリエル。城の中に随分と、異国の商人が歩いていたね? なにかあったの?」
ここに来る城の敷地内。
道中に異国の衣装の商人と、すれ違ってきた。以前にはなかった、不思議な光景なのだ。
「実は彼ら他国商人は、アバロンの素材を買いに来ているのです、ハルク様」
「アバロンの素材を? でも、わざわざどうして他国から?」
「邪竜とはいえアバロンは古代竜の一匹。その素材は魔道具や武具などの、貴重な材料となることです。そのため噂を聞いた他国の大商人が、かなりの高値で買っていくそうです」
「そうだったんだ。そんなことが……」
そういえばドルトンさんも『国が買える価値がある』と言っていたような気がする。あれは大げさな話ではなかったのか。
「バルドスの素材の売上高は、今では国家予算を大幅に超えています。お蔭で街の復興や低税率で、ハメルーンの市民に還元できています」
「なるほど。そういうことだったのか」
最近のハメルーンの街は、市民が暮らしやすくなっていた。バルドス素材の売上が、その根底にあったのだ。
バルドの素材に関しては、誰にも言えない当事者だけど、何となくボクも嬉しくなってしまう。
「ハメルーンがここまで上向きになったのも、全て……“邪竜殺しの英雄”様と“虹色の聖獣”様のお蔭です。本当に感謝しかありません」
「…………」「…………」
マリエルの感謝の言葉に、ボクと隣のサラは思わずドキリとしてしまう。
何故なら“邪竜殺しの英雄”の正体はボク。“虹色の聖獣”を作ったのもボクで、砲手はサラ。
マリエルには言ってないから、何となく気まずいのだ。
「ハルク様…………」
そして意味深な顔でマリエルは、ボクの顔を見つめてくる。
何かを言いたそうな、何かを勘付いているような、そんな不思議な表情だ。
「ふう……さて、少し難しい政治の話になってしまいましたね。では、また楽しいお話をしましょう、ハルク様、サラ!」
マリエルはいつもの元気な表情に戻る。
微笑みながらお茶のお替りを、侍女に用意させる。
――――そんな時だった。見張り台に一人の騎士がやってきた。
「マリエル様、失礼します! 申し訳ありませんが、国主様がお呼びでございます。大事な話で急用でございます!」
騎士は近衛騎士の人。かなり緊迫した表情だ。
「大事な話ですか? いったいどのような用件ですか?」
「はっ……ですが……」
ボクとサラの顔を、騎士は見てくる。部外者には言えない、大事な話なのであろう。
「この二人は信頼のおける、私の友です。構わず報告しなさい」
「はっ、失礼いたしました! それで申し上げます。隣国のミカエル王国への使節団の件です。マリエル様の出発が急遽早まったとのことです!」
「そうですか……分かりました。それなら今すぐ参ります」
用件を聞いて、マリエルの表情が変わる。かなり妙な顔だ。
しかも近衛騎士の発した内容は、ボクがとても気になること。思わず口が開いてしまう。
「マリエル、ミカエル王都に行くの?」
「はい。新しいミカエル国王は戦の補償金を、こちらに送ってくれました。かなり有効的な方です。ですが今までは両国は敵対同士……そこで親善を深めるために、友好の使節団として私が行くことになりました」
なるほど、そういうことか。
噂によるとミカエル王国の新しい国王は、かなり友好的な人らしい。
だから莫大な補償金を貰った礼を、今度はハメルーンから行うのだろう。友好関係を深めるために。
そのためには身分の高い者ほど、相手に誠意が通じる。第三王女であるマリエルが、今回は使節団の代表に選ばれたのであろう。
「でも、マリエル。まだミカエル王都は少し危険だと思うよ。大丈夫?」
噂によると新しいミカエル国王は、半ばクーデターに近い状態で、王座に就いたという。
そのため前国王派の傭兵崩れと、未だに王都で対立している。
前国王の間接的な死因である、ハメルーン国の使節団がどんな目に合うか、想像もつかいない状況なのだ。
「ご心配ありがとうございます、ハルク様。ですが危険な状況だからこそ、使節団が向かうことで効果はあります。ハメルーンの今後の発展のために、私は命を賭けて、この任務を成功させてきます!」
マリエルは強い覚悟でいた。
危険が待ちかまえていても、国主の娘として責務を全うしようしていたのだ。
「それでハルク様、サラ。申し訳ありませんが、お茶会はここまで。王都から戻ってきたら、また必ずお茶会をしましょう」
「うん……マリエルも気をつけて」
覚悟を決めたマリエルを、ボクたちは見送る。
お茶会も急遽中止になったので、ボクたちは城の外から出ていく。
大通りを歩きながら、ボクとサラは重い雰囲気になってしまう。
「ハルク君……マリエル様、大丈夫かな……」
「そうだね、少し心配だよね。護衛的に」
今は豊かになってきたけど、ハメルーンは基本的に小国。使節団の護衛にも、それほど多くの護衛は付けられないだろう。
その分だけ王都でのマリエルの危険度が、格段に上がるのだ。
「マリエル様……」
サラはかなり心配そうな顔をしている。
その気持ちはボクも同じ。
同じくらいの年ごろの少女が、命を賭けて国のために尽くそうとしているのだ。
ボクにも何か手伝うことがあれば。
でも自分は一介の駆け出し冒険者でしかない。騎士のように護衛に付くことは出来ないのだ。
「ん? あっ、そうか!」
そんな困っていた時だった。ナイスアイデアが浮かんでくる。
「どうしたんですか、ハルク君?」
「マリエルのことが心配なら、王都での彼女を守ってあげればいんだよ、サラ!」
とても簡単なことだった。人手が足りないのなら、増やせばいいのだ。
「それはたしかに、でも、どうやって?」
「ボクも王都に行って、コッソリとマリエルのことを守ればいいだよ!」
自分で発案したけど、これはナイスアイデア。
勝手に王都にいって、密かに彼女を守るのなら、何も問題はないのだ。
何も事件が起きなかったなら、またハメルーンに戻ってくればいいし。
「なるほど、それは名案ですね! ぜひ私も付いていきたいです! マリエル様は大事な友だちなので!」
先ほどまで重かったサラの表情が、パッと明るくなる。そして強い覚悟を秘めていた。
「でも大丈夫なの、サラ? 店の手伝いとか?」
「はい。お婆様は基本的に一人で、何でもできる人。実は私がいなくても大丈夫なんです。必ず説得してみせます!」
「そうだったんだ。それならボクはドルトンさんに相談してくるね。旅の準備が終わったら、サラの店に迎えにいくから!」
「はい、私も必ず説得して、旅の準備をしておきます!」
作戦は決まった。
ボクたちはいったん分かれて、旅の準備に向かう。後で合流して、一緒に王都に向かう作戦だ。
「マリエルのために、王都か……よし、頑張っていこう!」
こうして王女マリエル……“友だちマリエル”のために、ボクたちは王都へ旅立つことを決意するのであった。




