第8章 疑惑
試験前なのに勉強もせずに、投稿してしまいました。
本当は前々に9割がた完成していたのですが、なんか気に食わないというか、まとまらないというか、なかなか投稿に踏み切れなかったのです
ならば、何故今なのか。ふと、整理していたら、まだ投稿していなかった事を思い出したというか、勉強が出来ない事への逃避なのかもしれないです。
一応投稿したものの、多分続きは早くても3月になると思います。
そのまた一年後にならないようにと思うのですが、身が入らないし、出来ないのです。まぁ、今日投稿したのは、ふさぎ込んでいた頭を切り替えて、投稿に踏み切ったのが本音でしょうか。
私の駄文を待ち望んでいた方には申し訳なかったと思います。でも色々と悩んでいたので……
こんな事を書くなら、続きでも書けと思うかもしれないですが、そこはご理解頂きたいと思います。
車は気だるいように走り出して、ロータリーを一周して、信号で止まった。窓の外からは地方都市の寂れた狭いアーケードが見えるが、人はそう多くは居ない。ただ、彩りに乏しい服を着た人々が歩いていた。車内に目を戻すと、協力者が手がかりだと言い張るカーナビはこの車とは若干ミスマッチのようにも思えた。時代の流れに取り残されたような車載用機械式ラジオとハイテク機器であるカーナビが同じ空間にあるのだから……。
「この車…大分古そうに見えるけど。」
「……。まぁな。まぁ、1つこの車から教わった事があるが。無料ほど高い物はないっていう事さ。」
「……」
「…メンテとか面倒だし、よくエンストも起こすし、良いことなんてそう多くない。でも、こう乗っているとこんな旧式でも愛着が湧いてくるもんだ。愛着が無ければ、とっくに廃車にしているけど。」
そんな事を言いながら、車は再び走り出した。
「そういえば、名前を聞いていなかったな。ちなみに、俺は栗田だ。お前は?」
「……まだ信用している訳じゃねぇし。」
「あっそ、可愛くねぇの!じゃ、お前ってずっと呼んでやる!」
口元が緩みながら、そう言った。
このカーナビの地図と奴らから送られた地図を見比べると、細い路地などが省略されているが、大通りは省略されてはいない。しかし、この道を見ると、細い道ではないが、見事に無い。この道の先にあるのは……。
‘バスターミナルのある大きな駅’
奴らの手によって、列車は運行していない。となると、乗客はバスを利用しようとして殺到する。そのどさくさに紛れ、満員のバスに乗れば……。
急な検問や規制に対応仕切れない警察は、乗用車やタクシーの様に鮨詰め状態のバスから運転手や乗客の身元を確認するためにいちいち降ろしたりする事はないだろう。警察は、タブチが危険を冒してバスに乗らないだろうという先入観がある。また、検問による規制が強ければ、バスターミナルから発車した多くのバスやタクシーを処理仕切れずに、通勤時間帯の急いでいる乗客が暴徒化する懸念があるからだ。
「実はタブチは白いバンを所有している、バンに乗って、そこからターミナルでバスに乗るかもしれない。その白いバンはタブチの所有であるということがしられているからだ。」
どうして、栗田はそんなことを知っているのか疑問には思ったが、ターミナルに向かうことに決まり、バスのターミナルがある駅を目指すことにした。栗田の握るハンドルに力が入った。やる気の無さそうなこの車も、アクセル全開して、驚いているように変な音を出していた。
「今の自分にとって一番大切な物って何だろう、という疑問があって、よく一番大切なのは命だ、と言うけれども、命、それに付随する人生という物が自分の中で考えが変わってきたというか……」
栗田は、静かに聞いていた。俺は、何だか心の中から流れた言葉を言っているので、文法的に良くない発言をしているのは分かっていた。でも、ストレートに口から出た言葉だった。
「人生―命―という物は、その人が、その人として存在する……
フっ、やっぱり、そういう宗教的な事は分からない。命が何だかなんて、科学などの普遍的な知識ではそんなことを教え導くことはできない。なぜなら、それは客観性に基づくのではなく、人それぞれの主観だからだ。よく、他人がああしろだ、こうしろだの言うけれども、本当は、それはその人の中での主観であって、本人の主観ではない。だから……お前は、自分で答えを見つけなければいけない。だが、俺は一応協力はするけれども。」
俺は、多大なる災害に無力である事を痛感していた。それで、自分に対して、不信感や劣等感、いや、悔しさを募らせた。常に、人の目に負い目を感じ、自分一人が暗闇の中に置き去りにされていたような状態だった。だから、他人にどう接し、どう感情を表現すれば分からなくなっていた。いつも、そのような感情を内に秘めて、作り笑いをしていたけれど、自分が人として他人に自分の気持ちをどう発信すればいいのか分からず、逆に自分の言っている事など信じてくれる筈もないという様に見放されたように感じていた。
苦しい…辛い…助けて…
複雑な感情の動きを抜きにして、自分の気持ちを表すとすればこの様になるだろう。いくら、強がっていたって、どうにもこうにも、心の奥には弱さがあった。
「辛いなら、我慢しないで泣いてしまえばいいさ。人なんてそんなに強くない。だから、ずっと強がって立っていられるわけ無いし、それならば、いっそ泣いてしまえばいいさ。締め付けられる感情を解くには、泣いて、心の中にあるその溜まった感情を出すしかない。まぁ、そんな風に溜め込める事が出来る感情のダムをいきなり壊す事なんて出来ないだろうけど。
絶望に打ちひしがれる前に、前を向いて、今自分の状況を見直してみると、大抵それほど深刻な状況ではないと気が付く。でも、生きていくというのは、ただ、快楽のみを享受するものではないから、そこには辛辣な出来事があるし、むしろ、そういった事の方が大半を占めているんじゃないかな。
だから、お前は泣いた分だけ、強くなれ。」
案の定、バスターミナルには、通勤通学者で溢れていた。しかし、バスの運転手はバスの扉の前で客に対して、何か説明をしているような様子が伺えた。つまり、おそらく、運転手は警察による規制を知っていて、この区域からは出られないという事を客に説明しているのだろう。すると、サイレンを鳴らしながらパトカーが数台、ターミナルに入ってきた。中から警察官が出てくると、拡声器で何か言い始めた。
「えー……みなさんには、多大な迷惑をかけている事をお詫びします…えー…今現在、連続殺人犯がこの地域に出没したとの情報が入り、緊急規制を敷きました。その為、交通に大きな支障が出ています。ですので、出来る限り、支障を減らす為に、このターミナルにて、身元確認を行い、確認が出来次第、バスに乗車して、目的地へ迎えるようにとバス会社と折り合いをつけました。えー……鉄道につきましては…」
栗田に腕を掴まれて、路地に入った。
「何、いきなり掴むんだよ!」
「…お前の様子を見ていたら、あの群衆の中に飛び込むんじゃないかと思ってね…ああいう事を言われたら、タブチもここから離れるに違いない。」
すると、電話が鳴った。番号は、さっきと同じ。
「残念だが、君達のロジックにはまだ不十分な点があった。不十分だが、まぁ、我々の予想通りにここに来てくれたのだから、スタートラインに立つ権利は得たという訳だ。」
「……散々、人を虚仮にしやがって!」
「ああ、そうさ。散々、虚仮にしたさ。こっちからはそうやって右往左往している君達の姿が滑稽に見えるから。ハハハ…。もう遅いかもしれない。彼は、もう既に君達の予想を超えた所にいるかもしれないな。」
「……あぁ、そうかい。お前の眼に俺たちがお前の陰謀を阻止し、憎々しい姿を焼き付けてやる!覚えておけ!」
「フフン…。威勢だけはたいしたものだな。まぁ、それくらいでなければ途中で挫折してしまうだろう。せいぜい、奪い返してみるがいい!」
電話は切れた。完全に読まれていた……
奴らは、滑稽だと言っていた。もしかして、滑稽とは、自ら居場所を知らせていた事なのか。これは、大きな問題だ。だとすれば……
それ以上に滑稽なこと…
もし、滑稽ならば、どういった事が最も滑稽だろうか……いや、それだけは考えるな。…だが、最も滑稽だと思えるシナリオはどう考えたって……‘栗田の正体はタブチで、俺は栗田と一緒にタブチを追っているが、本当はタブチの逃走を手伝っている’という灯台下暗しのような状況だ。…いや、そんな事は……ありえない……何故なら、栗田とタブチの顔は……顔……そう言われてみれば、何となくは分かるが、人混みの中で一瞬だけ見た顔を細部まで思い出すことは出来ない。思い出すのは、タブチの服装ぐらいだ。……ならば、顔が違うと断言出来ない……。ならば……。…いや、いくら疑心暗鬼であるとはいえ、そこまで人を疑えば、俺は人を信じる事が出来ないじゃないか。まして、たった1人で立ち向かうのかい?この現実逃避に走ってきた弱い人間の俺が?
…やはり、あの栗田は奴らの仲間で、俺の自由を奪う為なのか?いや、違うと信じたい…でも、何故奴らはずっと俺の行動を熟知しているのか、全く分からない……
それは飛躍し過ぎる論理に思えた。
「奴らは、俺らの行動を把握しているのか?」
栗田は、静かに尋ねた。俺の表情の変化を見て、先に怪しまれないようにということか?……いや、そんなバカな…でも、なにが真実か分からない、逆に裏の裏を読みすぎて、判断がつかなくなる。言ってしまえば、俺は真実と疑惑と殺戮が入り乱れる狂気の中にいるのだから……
「ああ…やはり、そうみたいだ…。」
栗田は、やはりと言わんばかりに頷いて、
「賭けだが、一つの可能性がある。…その携帯の電源を切って、電池を抜いて置いてくれないか?」
最初、何を言いたいのか分からなかった。
「いいから、早くしろ!」
若干、苛立ったように言った。でも、言われた通りに行うか迷った。
これはわざと俺に信用させようという策なのか?だが、携帯の電源が切れた所でこのゲームにどんな影響があるだろうか……
落ち着け……
何を考えている。
考えすぎだ。
確かに、思っているような影響は無いだろう。むしろ、栗田の言う事に耳を貸すべきだ。まず、信用するのが重要じゃないか?少なくともここは協力しなければ、タブチを捕まえられないだろう。
携帯の電源を切った。
「……何故、奴らが俺らの動向を知り、コンタクトを取れるのか、という事を考えた時、いつも携帯電話が介在していた。さっきの二つの要素を結び付けると、その携帯電話に疑問を持つ。もし、奴らがその携帯電話に細工――ウィルスに感染させる等――をして、奴らに位置情報を発信するようにしていたら……ウィルスによって、俺らの所在を奴らに発信するのは不可能ではないだろうな。なぜならば、多くの携帯電話にはGPSが入っているはずだ。それを利用すれば、所在なんて簡単に発信出来るだろう、理論的には。」
冷淡に言い放った。さっきと違って、そこに何かしらの感情が無いように。
「……じゃ、まさか。俺は、奴らに居場所を教え、タブチの逃走に加担したかもしれないのか?」
「…いや、まだそうだと言った訳ではない…。あくまで、憶測だが…」
「……それと、奴らは『我々の予想通りにここに来てくれたのだから、スタートラインに立つ権利は得たという訳だ。』と言っていた。」
「ほう……」
「早く、移動しないと!タブチは、俺らの居場所を把握していたかも知れない。早く、逆の方角へ!」
「おいおい…そんなに慌てても、事は好転しない…奴らがスタートラインに立てたとか言っていたが、それはタブチに関する手掛かりがここにあるっていう意味じゃないのか?」
いくらなんでも、考え過ぎじゃないか、と心の中で思った。あれは、ただ単に奴らの予想通りに俺らがここに来たという意味の発言ではないか。
「…もしかしたら、本当にここにタブチがここに寄り、そのあと別な手段で移動したかも知れない。タブチ自身が、俺らを撹乱させようとして…」
そう、解説を加えながら栗田は歩き出した。どうなるか、分からないが少なくとも、栗田なりの勝算は有るのかもしれない。