第6章 暗澹
長くなりそうだったので、とりあえずここで切っておく事にしました。
今回は一段と物凄く忙しく、書く暇が無くて、なかなか進行しませんでしたが、ようやく書くことが出来ました。大変お待たせしました。(>_<)
今回も駄文にお付き合いください。
いつにもなく、暗い気持ちのまま歩いていた。方向もわからない……。
肩が重いのは、罪悪感という重荷の上に“衝撃”が加わった為だろうと思った。そのせいなのか、姿勢は前かがみになって、足取りは若者らしい快活とした歩みが俺から消え去ったように鈍かった。ともかく俺はその時、人に会う事に対して怯えていた。だから、警察の申し出を断って、バスにも乗らずにこうして歩いている。歩く度に、街灯が揺れて、俺はどうしたら良いのだろうかと思う。
俺は、どこにむかってあるいているのかもわからなくなってきた……。
俺自身、いま何に怒り、何に怯え、何を望み、何をすべきなのか。そう、自分がしなくてはいけない使命を全うするという事も大きな課題であるけど、俺自身はどうなるのか。俺だけがこんな常に苦渋の選択肢を余儀なくされるのは納得できなくなってきた。
歩いていても前後不覚になり電柱に肩をぶつけて歩いた。
街灯の光は昼の時の光より強くないのに、街灯の光の当たる所だけ、とても明るく、むしろ、昼光より街灯が光る時の方が賑やかに見える。
逆に街灯の当たらないひっそりとした街の暗闇は、俺の体を包み込むようだった……いや、闇が俺を包み込むというより、俺自身がその暗闇に溶けてしまったからなのだろうか……。
俺はもう自分が何故生きているのか分からなくなった。そして、俺はこの暗闇のように人生の先が見えなくなった。何もかもどうでも良くなった。……俺は生きていてはいけない……俺が死ねば、償えないが少なくともこれから起こる災害は防げるだろう……と、冷淡な声が聞こえる様な気がした。
背後から気配がすると思った時に、
「……お前はあの目の前にいた哀れな青年の死でさえも止められもしなかった。君はまるっきり人命を救えていないじゃないか。……忘れ物だよ。」
歩いていると不意に後ろから聞き覚えのある声がした。
「だめじゃないか。君がこれを持っていなければ、何も始まらない。」
俺は、当惑した。そいつは、何もかもお見通しだというような口調だった。
「……俺に人命を救うなんて、甚だ無理だったんだよ! それよりも、俺がそこまでする必要ってあるの? なんで目的を果たさなきゃいけないの? “なんで、俺が人を殺さなきゃいけないの!?”」
俺は、その時まで感じてきた怒り、苦痛、矛盾をそれらの言葉たちに込めた。
「…どうしてそこまでして、目的を達成しようとするかって?……お前はまだ思い切れていない様だが、形ある物が壊れるように、命が途絶えるのは抗えない宿命だ。つまり、人間は死ぬ為に生きている。社会でも、生産があるから消費があり、消費があるから生産があるように、死があるから生があり、生があるから死がある。言い換えれば、生と死は表裏一体の物なんだよ。」
「……消費と生産?消費…生産…。人の命が単なる生産と消費?」
「ハハハ…。ごめんね、君に大人の世間知が通用しないと分からなくて。」
そいつは、嘲笑……自嘲も含んだような笑いをした。
「君はこのゲームにおいて大変重要な役割を担っている、君を中心にして全てが回っているように。君が小さい変化起こしても、周りを回る者には大きな変化となる。それが、今君の置かれている立場だ。しかも、私とお前がこのように話せるのはこれが最後の機会だ。私は色々とやったが、とうとう奴らに嗅ぎつかれたようだ。お前も私との接点が合ったことが分かれば、お前の身と‘それ’が危険に晒される。」
「…??奴らって何だよ?なぜそんなに恐れるのか!?」
「…奴らの存在は、はっきりとは分からない。しかし、奴らは我々の知識を遥かに超えていて、我々の既成概念を否定するような存在…あるいは、それに準じたものを持つ者であることは間違いない。だから、お前がそんな奴らにこれを渡してしまったら、何もかもが終わりだ。お前の命、延いてはこの世界をも破滅させる事になる。」
そいつは、紙を差し出した。
「協力者がそこに居る。ずっと奴らから逃げる事は出来ないが、当分はそこで匿って貰える筈だ。」
「……逃げるっていう事?」
「ああ…そうだ……。いい加減、事実を認めて、決心しろ。お前はもう引き下がれない。なおかつ、お前には失うものは何も無いだろ。」
「…………えっ…………」
言葉が続かなかった……
何も無い…失う物……何も?…無いの?…ナニモナイノ?……
気がつくと俺は今まで寝ていて、俺の目が覚めた時、まだ夜は明けていなかった。
魘されていたのか、服は汗で濡れていて、体には緊張が残っていた。体を起こして辺りを見て状態を把握すると、俺は、とある公園のベンチの上で横になっていたようだ。暗い公園には、昼間の様に賑やかな子供の声はしない。ただ、そこには俺がたった一人置き去りにされたように居るだけだった。
ふと、視線を自分の胸ポケットにやると、紛れもないあのペンが刺さっていた。俺はその事に狼狽し、さっきまでの事が、どこからが夢で、どこからが現実なのか分からなくなった。
そして、あのホームレスの存在に対する疑念と恐怖心が沸いてきた。
俺は、これから先の事が全く見えなくなった。
人が夜を怖がらなくなったのは、光を自らの手で手に入れれる様になっただけではなく、夜そのものが必ず明けると分かっているからだ。
俺はこの夜がいつかは明けてくれる事を願った。