第一章 単なる始まり
本当に拙い文章ですが、最後まで読んで頂けると嬉しいです
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無彩色でモノトナスな高層ビル群の風景が過ぎる。全てが何も異常を来さずに動いている。
あまりにも日常的すぎて、何の面白みもない。むしろ、自分の気持ちを陰鬱にさせるばかりだ。いつもと同じ電車に乗って、いつもと同じように学校に登校する。刺激もなく、変化のない、単一な日々。
今日も同じ時刻に改札をすり抜け、いつもと同じ4号車に乗り込む。やはり今日も、通勤通学者で車内は溢れていた。本を読む人、音楽を聴いている人……。だが、他人の行動等、自分にはどうでもよい事だ。
「えー……当車両は7時32分発の予定ですが、ただいま、信号トラブルの影響により、急遽運転見合せております。誠に、ご迷惑をおかけしますがご了承をお願いします。代替運転のお知らせを申し上げます……」
えっ、運転見合わせ?はぁ、マジかよ!!と心中で悪態を付いた。いや、待てよ。遅延切符を貰って、それを理由に学校サボろうかな?なんてな、ハハハ!!と開き直る。
いや、こういうことなんて、なかなかあることじゃない。むしろこれは、こんな日常に飽きて不貞腐れてた自分へのプレゼントなのではないかと、思った。
俺は、駅を出た。みな、タクシーやらバスに乗るために右往左往して慌しい。こんなに暢気にしていられるには、俺ぐらいであろう。さぁて、何処に行こうかな。洋服でも見に行くか。マンガでも読むか。て、いうよりも10時前だからどの店も閉まってるじゃないか。と一人漫才をしてる内に高架下に歩いてきていた。
いつもは、この高架下は薄暗く、近寄りがたい異様な雰囲気を醸し出していて、通ることは滅多になかった。
すると、一人の老いた男が居る事に気がついた。その男はいかにもホームレスのような薄汚い服を着て、俺のことを凝視しているのか、それとも、何処にも焦点を合わすことなくボーっとしているのか分からなかった。その男の目の前を通ろうとした時、突然。
「おい。おい。そこ。」
唐突に呼ばれたので、一瞬ドキッとした。何がなんだか知らないが、何の用だろうか。とりあえず、嘗められないように不良学生でない俺だが、いかにも不良学生のように見えるように、眉間に皺を寄せ、上目遣いでその男を睨んだ。
「はぁ、なんだぁ」
個人的には、これで相手の男もビビッて逃げ出すであろうと踏んでいたが
「そうだ、おまえだ。おまえに、このペンをやろう。」
話のつながりが全く分からず、唯呆然とした。何でペンなの?
その見窄らしい男は奇矯な笑みを浮かべた。それに俺は戦慄を覚えた。
「このペンは只のペンじゃねぇ。悪魔に呪われてんだ。このペンを連続で20回ノックすると、何処かしらで災害が起きんだ。」
何を言い出すのかと思ったら、とんだ法螺じゃないか。馬鹿馬鹿しい。何がしたいのか、こいつは。
そいつは、またしても異様な笑みを浮かべた。そして、最後に
「これは考えて使えよ、退屈から解放されるだろう へへ……」
と、言い残し、目の前から去っていった。その後ろ姿を追い掛けようとは思わなかった。それにしても、状況を未だに理解するのは難しく、狼狽えた。
渡されたペンを手にとり、投げ捨てようと手を振りあげたが、腕に変な痛みが走り、ペンを落とした。はっとした。
その後、何もする気が起きなくなった俺は、仕方なく代替運行のバスに乗り、いつもより一時間遅く学校に着いた。
「遅れました……」
生徒はまだ来れないのか、それとも俺と同じ思考なのか教室内の生徒数は疎らだ。
「電車が遅れてると言っても、学校は休みにはならないからな。よし、やっていくぞ……」
えーと生徒が文句を言って、教室がざわついた。先生はこういう時に限って張り切りやがる。俺は全く、やる気がしない。
「えー…今日やるのは三角関数の方程式、不等式……」
すっきりと晴れた青空を上の空で見ている俺は、ペンを見て考えていた。あのホームレスが言った事はあまりにも、現実離れし過ぎていた。災害だなんて、ふん、よくまぁ嘘をつけましたねぇ、と誉めてやってもいい。
だけど、全て何もかも嘘だと否定できない自分が居た。また、半ば興味本位もあって、馬鹿馬鹿しいと分ってはいるものの、ちょっと本当なのか試したくなった。徐に、ペンを取り出し、言われたとおりに連続でノックをした。1、2、3、4……20…でも、何も起こらなかった。あぁ、やっぱりか。だろうと思ったよ。全く、驚かせやがって、ざけんなよ。
と、鼻で笑った矢先、窓枠がガタガタと鳴り出した。そして、奇妙な感覚に襲われた。すると、教室が揺れ始めた。
「…地震?」
生徒達がぶつぶつと言い始めた。先生も、異変に気がついたのかきょろきょろしている。
その時だった、教室が大きく揺れたのは。あまりにも強い揺れに唯成す術もなく、机に隠れる事しか出来ない自分はあまりにも無力だと感じた。少しの時間しか揺れていない筈なのに、物凄く長い時間のようであった。
俺は、まだ半信半疑だった。単なる偶然だろ…。そう思う事しか出来ない、いやそうであってほしかった。
地震はやっと収まった、物が多少倒れてはいるものの、校舎やそとの建物には大きな損傷は見当たらないので揺れは思っていたほど強くはなかったのだろう。
今すぐにでも、地震の情報がほしかった俺は携帯のワンセグで現在の情報を確認した。ワンセグによれば、震源は太平洋沖で震度は4であると伝えられた。
放課後、もう一度あのホームレスのところへ行ってみようと思った。だが、どうしても信じる事なんて出来ない。かといって、安易に検証するわけにもいかない。どうすればいいのであろうかと思った。
とりあえず、本当にこのペンが普通の科学による説明が出来ない力を持っているのかどうか、はっきりさせねばならない。
俺はあのホームレスに会った高架下へ行ってみた、しかし、ホームレスは居ない。ちくしょう、どうすりゃ良いんだ。
何をどうして、どうすべきであるか、悩んだ。あのホームレスの居場所すら全く見当が付かない。
とりあえず、家に帰る事にした。もうこうなったら、自分で検証せざるを得ない。だが、災害が起きたことによって、罪のない人たちの命が失われる可能性は…十分にある。
だが、災害ではないか。災害ならば誰が悪いというようなことはないんじゃないか。誰のせいでもない、災害によって命が失われたのであれば、運が悪かったですねとしか言いようがない。
つまり、俺がこれを使うことによって命が失われたとしても、俺は悪くはない。きっとそうだろう。いや、きっとそうであってほしい。俺は悪くはない。俺は悪くはない……。
俺は決行することにした。自分の鼓動が聞こえ、ペンを握る手には脂汗が出てくる。
1、2、3、4……20…
何も起こらなかった。
なんだ、偶然か。はぁ、びっくりしたぜ。こんなことにドキドキしてたなんて、馬鹿みたいだ。
……いや、待てよ。災害といっても日本で起きたとは限らない。世界の何処かしらで起きているかもしれない。
近くにあったテレビのリモコンを手に取り、テレビをつけた。
……嘘だろう…… そこに映っていたのは目を覆い隠したくなるような光景であった。
何処の国であるか分らないが、市街地であったと思われる所の真ん中には大きなクレーターがあった。
そのクレーターは数キロにも及び、町の跡形なんてない。
場面が変わると、そこはクレーターとなった土地より少し離れた所と思われる所で、救助隊が懸命に崩れかかった建物から人を救い出そうとしている場面だった。
俺がやったのか?俺がやったのか?俺がやったのか……
同じ言葉が何回も繰り返され、頭を駆け巡った。
日没しかけた陽光に照らされ普段自分の部屋から見る姿とは違う家々の風景が見える。そして、その向うには大きな太陽。
沈んでいく太陽に何かしらの共感を覚えた。
その時ほど、自分の存在の小ささを感じたことはなかった。