019 七転八起
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
やっと書けたので、投稿しますね。
前回のあらすじ
● 真弓さんと再会。ウェイトリー襲撃。
それでは、本編をお楽しみ下さい。
グシャリと崩れる天井。
ミシリと壊れる壁。
「ククク! さあ、殺戮の時間の始まりだ!」
白衣の魔術師が吠える。
すると空間を歪ませ、怪物がこちらへと近づいてくる。
思えば、此処まで来るのに多くのモノを取りこぼしてきた。
天音の嘆き、リテイク先輩の想い、累たちの願いを斬り捨てたて来たんだ。
「ウウウウ、ヴォオオオオオオン!!!」
怪物が咆哮する。
その遠吠えに世界が震え、目の前にノイズのような傷が増えていく。
「──光よ!」
真弓さんが怪物へと魔術を放ち、光の雨を降り注ぐ。
しかし──。
「シュルルル!」
光の雨を避け、僕らへと毒牙を向ける蛇の頭。
まるでこれまでの奮闘が無駄だと囀ずるよう、舌を捲し立てていた。
「──っ」
ヤバい。
咄嗟に魔術破戒を現実化しようと構える。
──だが。
「大丈夫です!」
それを真弓さんが手で制する。
光の雨を物ともせず、僕らの前へ躍り出る怪物の尾。
「シッ、シャアアア!!!」
死が迫る中、数秒後に訪れる末路が頭に過る。
ドクン。
真弓さんが叫ぶ。
「輝く光の盾!」
すると、僕らを大きな光の膜が覆う。
「キッシャアアア!」
蛇の頭が弾かれ、吹き飛ぶ。
続いて獅子の腕が振るわれるものの、それを押し上げ光の膜は広がっていく。
「グゥウウウア!!!」
異形の怪物が後ろへと下がる。
──しかし。
「──ッハ! それがどうした!」
それをウェイトリー=ウェストは許さない。
真弓さんの魔術を、宙を掴むように継ぎ接ぎの腕を構えて、無意味と嗤う。
すると──。
ピキリ。
何かが罅割れる音。
ピキリ、ピキリ。
光の膜が輝きを増す。
「そ、それは!?」
真弓さんが驚愕する。
僕も目を見開く。
空気が凍るような感覚に襲われ、ドバドバと圧縮された何かが僕らへ向かって堕ちてくる。
「────」
ゾクリ。
現れたそれに言葉が出ない。
いや、怖気が走ったと言い直すべきか。
「ぅう、あ」
光の膜を覆うように、それはゴポリと落ちてくる。
真っ黒い泥のような何かが無数の目玉をギョロリと睨むのに、震えが止まらない。
ダズゲデェ、ダズゲデェエ!
ミズデナイデェ!
アビャ、ビャ、ビャ、ビャアアア!
泥から這い出ようと無数の人の腕が藻掻いてる。
得体の知れない何かの助けを乞う叫びも聞こえてくる。
「あっ、あ、ああ、ぁあああ」
真弓さんが悲鳴を漏らす。
黒い泥を敬うように、異形の怪物が後退する。
光輝く膜に罅が入る。
「偽物よ。幾ら模倣しようと、本物には至れぬことを思い知るが良い」
人形男が嗤う。
ゴポゴポと泡立って、黒い泥が光の膜に侵蝕する。
怨嗟の声が止まらない。
そうして──。
「目覚めよ、混沌」
遂に光の膜が破られ、『混沌』が僕らをあっという間に飲み込んだんだ。
キキキ。
キキキ。
キキキ、キキキ。キキキィ、キキキ、キキキ! キキキ、キキキ、キキキ。キキキ、キキキ、キキキ。キキキ。キキキ、キキキ、キキキ、キキキ、キキキ! キキキィ、キキキィ、キキキィイ!
海の藻屑と化す意識。
キュルキュルと巻き戻る人の理性。
正気を失う直前、地の果てで僕は再び目を覚ます。
「──っ」
身震いする。
先ほどの光景が頭から離れず、思考が定まらない。
「あ、あ、ぅううう」
その所為か言葉を上手く喋れず嗚咽し、頭を思い切り殴られたように目の前が眩んで仕方ない。
「──っ! あ、ぐぅ、うううう」
呂律が回る。
舌が上手く働かない。
ジタバタと手足を動かすも、哀れな虫けらは何も出来ない。
「あ、ああ、ぁああああああああああああああああ」
助けに行かないといけない。
なのに、夢へ戻ることを体が拒んでる。
「──! ──!」
どうして、駄目なんだ?
やっぱりオレなんかじゃ、出来ないのか?
これじゃあ、みんなが託したもの、全部、無駄にしちまう。
ひしひしと無力感が押し寄せる。
オレがオレである限り、その性を責め立ててしまう。
そうしていると──。
「こんなとこで何やってんの?」
見知らぬ誰かが声をかけてきた。
「──んぁ、れ?」
声のする方へ目を向けると、こちらを見知らぬ青年がそこにいた。
「誰でも良いだろ。んで、何やってんの?」
「──っ」
淀んだ青い瞳がオレを睨む──が、不思議と悪い気はしなかった。
寧ろ、懐かしさを感じてる始末だ。
何処かで会った訳でもなく、此処に来てから死んだ自分でもない筈なのに。
「何? もう諦めんの?」
胸を穿つ強い言葉。
突き刺さる筈のそれは不思議と痛くない。
「……そうだな。お前は頑張ったよ。天音も、鈴手も、瑞希も、ウェザリウスも──そして、あの『アトラク=ナクア』さえ倒した。スゲーことだと思うぜ」
男子生徒は尊いモノを見るような眼差しを送るだけで、オレを傷つけない。
「ああ。此処で逃げたって罰は当たらない。なんせ死ぬ気で努力した結果なんだから、な。──んで、だ。此処まで言っておいてだが、どうするんだ?」
唐突な質問をされる。
それは目を逸らしてはいけない現実を突きつけられたと思った。
けど。
「ぅうう、ぐぅ」
言葉が喉に閊える。
想いをぶつけたくても、うまく声が出せない。
「このまま、諦めるか。それとも、また辛い現実に立ち向かうか。どちらを選んでも良い」
究極の二択。
目を背けて人間未満の生を望むか。
それとも自分の意志を以て生を諦めるか。
どちらにしても最悪な未来が待っているだろう。
「そうか? まあ、お前がそう思うんなら、そうなんだろうよ。──けど、よ。それでも、あの子はお前を待ってるんだ」
青年は見つめる。
迷うばかりで選べないオレを見つめ続けてる。
「ああ、そうだ。最悪だ。確かにこいつは逃げ出したくなるぐらい最悪だ。起き上がる為の薪もなく、戦う為の炎もない。しかも何も見えない暗闇に一人ぼっちときてる。そりゃあ、心が折れるのも仕方がない」
似ている。
誰にと聞かれたら言葉が詰まってしまうが、いつか見た少女の想い人と姿が被ってしまう。
「だが、そんなお前を待っててくれてる女がいる。そんなお前に手を引っ張って欲しいと願う女がいる。誰でもない、お前じゃなきゃ彼女は救われない」
青年が気さくに、誰でもないオレを彼女が待ってるんだと肩を叩く。
「……あ」
「ほら、これで少しは楽になったろ」
「ま、待って! 貴方は──」
ヒーローがオレを突き飛ばす。
せめて名前だけでも聞いておこうと思ったのに、再び意識が遠のく。
「今度こそ泣かせんなよ、──じゃあな!」
夢へと微睡む中、その言葉が頭の中を響いた。
◇
キキキ。
キキキ。
ウルタールの猫が鳴きました。
影絵たちも混沌の誕生を喜びました。
誰の願いも届かない深淵で、希望を求めて『私』は歩くのです。
カタカタカタ。
カタカタカタ。
何も見えない。
誰の鼓動も聞こえない中で、彼を一人きりにさせたと思うと胸が苦しくなった。
「────」
夢があった。
願いがあった。
想いというものに憧れたから、此処まで私たちは紡いで来れたのに。
「う、ぅううう」
その結果がこれだ。
人形男が召喚した『混沌』によって、彼は再び過負荷させられてしまった。
意識を強制シャットダウンさせられると言うことは、彼の意識の片隅で影絵が形成するこの夢世界の死である。
つまり、何が言いたいかというと。
電源を入れる為のエネルギーがない機械と同じで、今度こそ彼は立ち上がることが出来なくなったということだ。
だから、それもこれで終わり。
此処では『名城真弓』が求めた未来も、『フィリア』が見た夢も叶わないってことだ。
「……ゃ、だ」
それが、現実。
それこそが、作り物の私たちが得られる精一杯だった。
「……い、やだ」
本音を漏らすも、現状は何も変わらない。
キキキ!
キキキ!
遠巻きに見ていた影絵たちが私に手を伸ばす。
「こんなの、嫌だ」
影絵たちが私を侵蝕し、全身を真っ黒に染めていく。
気が狂いそうな激痛にのたうち回るも、現実は変えられない。
「こんなの、──あんまりです!」
そうだ。
やっと彼が彼であることを思い出せたのに、こんな最期じゃ報われない。
シスカさんの努力も。
ナコトさんの親愛も。
リテイクさんの犠牲も。
久留里さんの慟哭さえ無駄になる。
────「もう一度、彼に果てのない空を見せてあげて」
そして、飛鳥さんとの約束も果たせないのだ。
「誰か、誰か助けてください」
立ち上がる。
無意味でも、これまでの過程を無駄にしたくないと私は懇願する。
「──っ! お願いです! 誰でも良いから、■■さんを助けて下さい!」
叫んだ。
自分の体がどうなろうと構わず、叫び続けた。
瞬間。
「そういや、知ってたか? 今日、転校生が来るって話をよ」
キーン、コーン。
カーン、コーン。
真っ暗な世界に鐘が鳴る。
どうしようもない現実に光が差す。
キキキ?
キキキ!?
影絵たちが消えていく。
塵となって世界の一部へと戻っていく。
カツン。
誰かが駆けつける。
「よう、待たせたな」
動けない私。
半分が黒くなって使い物にならない身体で、突然現れた男子生徒を見る。
「なんで、此処に戻って来れたかって? それはオレも知らねぇけど──」
助けを呼ぶ声にやって来る。
窮地の時に駆けつける人を知っている。
誰かの為に傷つく人のことを、ヒーローと呼ぶらしい。
「まあ、でも。戻って来れたんなら、やることは一つだよな!」
そう言って、私のヒーローが私の手を取った。
次話の投稿は未定となっております。そんな作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!
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