026 時間遡航の恩恵
安定の更新遅れで申し訳ないです。
次で四章、解決させたい一心でしたが無理そうです。
前回のあらすじ。
● 魔女の策略を真弓さんが何かを使って回避した?
それでは、本編をお楽しみ下さい。
気づいたら、僕は何もない白紙の世界に居た。
チクタク、チクタク。
キーンコーン、カーンコーン。
何をすれば良いのか分からない。
けど、そのままでいることが良くないことだけは解った。
「……あ」
分岐点。前へ行く。『エラー認証。エラー認証』満ちる刻。話し合い。想いの結晶。奇跡を願うことより大切なこと。残留データ。拙い言葉で、意味が解らない理屈だ。泣き疲れたら■■さんが来た。その手に──。
「──ぐっ」
雑音が脳に響く。
痛みが身体を支配する。
すると、目の前の景色がモザイクと化していく。
────「ユーキ!」
誰かの声がし、僕に向かって何かを投げる。
それを見つめて──。
手を伸ばして! 時間切れ、か。キキキ。──ま、待って! えへへ。わた、し。では、ご機嫌よう。邪魔ヲ死タから殺したノ! 勇貴さん。思春期ですね。素晴らしい。試してみます? 待っていたまえ、魔導魔術王。うん。久しぶり。──遅いですわよ、七瀬勇貴。
────「忘れ物だよ!」
パシッ!
「──っ!」
ナイスキャッチ。
何かを掴むことに成功すると全身に力が漲っていく。
「行く、か」
前を見る。
息を整える。
そのまま手にした何かを握って、僕はモザイクの嵐を駆け抜ける。
「──っ」
終わりの見えない果てを目指す。
それに意味が有るかは全く理解出来ない。
キィン!
身体が痛い。
どうやら、先を目指すと僕の身体は悲鳴を上げるらしい。
「ぐぅ、ううう」
痛い。
痛い。
とても痛くて、前へ進むのが困難だ。
「……ま、だ。やれ、る」
でも、僕は先を目指した。
手が折れても。腕が消えても。足が動かなくて、倒れても。
「ハア、ハア!」
僕は、何度でも立ち上がる。
そうしなければならない。
そうしなければこれまで僕が捧げてきたモノが無意味になる。
そんな脅迫概念に突き動かされて先を目指した。
────「お前なぁ! 此処で消えたら承知しねぇからな!」
言葉が聞こえる。
何も出来ない僕は、その言葉の重みですら理解出来ない。
ドクン。
ズシャ、バシャバシャ。
「──ッガ!」
倒れても。壊れても。幾度、粉々に砕かれようとも。
僕は、この白紙の世界を駆け抜けるのを止めない。
ズキズキ。
ズキズキ。
そうして、何かが欠けていく。
大切なモノが失われようとも、僕は頑なに振り返らない。
でも。
どうして?
僕だけがそんなことをしなくてはならないんだ?
────「だから! 早く行って殴り飛ばして来い!」
地平線も見えない。
先があるかないか解らない。
知らない人たちの声は止まらない。
────「……それでも、私たちは前へ行くんです」
見えない。
分からない。
けれど、前へ進む。
嗚呼、そうか。
僕は知っているんだ。
その先に光が、──希望があるから、それを手にする為に僕は必死で白紙の世界を駆け抜けている。
私は、やりたかったことなんだって思うんです。そんなこと、とっくに気づいちゃったよ。終わり? 終わりなんて誰がするかよ!? 生徒会長はミステリアスな方が魅力的なんだって仰られたのですから。時間切れ、か。まあ、精々頑張ってみれば良いさ。見事でした。そうだ。これは君の物語じゃない。これはオレの物語だ。お前に殺されて良かったなんて、あんまりじゃないか!
脳にノイズが駆け回る。
苦しいだけの現実に涙が出る。
そう思わなきゃ、嘘になる。
今まで培った時間が無意味になる。
「ハア、ハア。……そんなのは、ごめんだね」
先は、まだ見えない。
駆ける足は止まらない。
ジグザグ、ジグザグ。
ジョキジョキ──、ジョッキン!
────「どんなに絶望的でも。どんなに救いがなくても。終わらせる為に行かなきゃいけないんです」
そうして残留思念がシナプスを駆け回り、手に握った何かにカタチを与える。
そうね。確かにそれは貴方には要らないものだったのでしょうね。大丈夫。貴方ならまたたどり着けます。だって貴方は、私の希望。私のヒーローなんですから。私の名前? ああ、そういえば教えてなかったっけ。
空白の物語は、無色の魂を現した。
悪意の代償は、己の内にある罪を払った。
記憶の復元は、幻想へと回帰する選択をした。
────「だから、その為に貴女は此処で堕ちろ」
忘れてしまった道だけど、帰らなきゃ。どうしようもねーな。私の物語はそこから始まったんです。──嘘つき!!! みんな、みんな大好きだよぉ……畜生! ノンノン違うのだ、ド戯けぇい! 鏡の話です。ボクは僕で、キミは僕。始まりにして傲慢を騙る原初の愚者。言ったでしょ。私たちは認めないって。何だよ、こんなにも笑えるじゃねぇかよぉ。
「──っ!」
嵐を越えた先に、あるべき未来を見る。
それはどうしようもない不幸の塊で、触れればきっと僕は後悔することが予見出来た。
「あ、う。ぐぅ、ううう。……でも、行かなきゃ」
だが、変わらなかった。
そんなモノを見ても、この先に待つ終わりを僕らは願ったから走り続けた。
「────」
そうしていると、身体が光に包まれるのを感じる。
Hello,New_World!
頭の中に文字が打ち込まれる。
遠のく意識は■へと浮上して──。
「──っむぅ」
目が覚める。
瞼をパチパチさせ、周囲を見渡す。
「あ、れ?」
中庭に居た筈なのに自分の部屋にいた。
手足に力を入れる。
陽気な小鳥のさえずりが僕の目覚めを朗らかにさせた。
コン、コン。
そうしていると、部屋のドアをノックされる。
このタイミングで誰が来た?
「おはよう。起きたばかりで且つ突然の訪問で申し訳ないが、出てきてはくれないか? 話がある」
清涼そうな少女の声。
彼女の名前は確か──。
「シスカ。シスカ・クルセイドだ」
シスカ・クルセイド。
自称『鬼の風紀委員長』であり、起きたばかりの僕から真弓さんじゃない真弓さんを連れ去った人だった筈。
ドア越しに感じる少女の気配。
正直、寝間着から制服に着替えたいが中庭での出来事が夢じゃないなら時間が惜しい。
そう思い、ドアを開ける。
「……一応、戦闘になるかもしれないとは思わなかったのか?」
ドアの前に目も眩む金髪の女子生徒が立ってた。
────「ど、どどど、どうやら、わたしは■■のことが好きらしい」
「──っつぅ」
その姿に、また頭に記憶が過る。
けれど、それも一瞬のことで。
「──あ」
直ぐに靄が掛かり、何を見ていたのか思い出せなくなった。
「……そうだな。それは、もう無かった話だ」
僕の言葉に目の前の少女はそう頷く。
「そう、かな」
そんな少女に見つめるしか出来なかった。
チクタク、チクタク。
時間は迫っていると言うのに、僕らは無言で見つめ合う。
「ああ、そうだった。時間がないのであったな」
少女が声を振り絞る。
「……うん。そう、だった、ね」
それに僕は頷く。
「今がいつで、どんな状況かは把握できているか?」
シスカがそんな僕に問う。
「解らない。けど、中庭でのシェリアと戦っていたという記憶はある」
君が現れて、真弓さんが何かした。
それぐらいしか解ってない。
「いや、それで良い。そこまで理解しているのなら、これから彼女が説明するだろう」
シスカは僕の疑問に意味深な言葉を返す。
「……?」
彼女?
「ああ。言っておくが名城殿ではないぞ。彼女はこの時間だとまだ介入出来ていないから無理だ。此処に来れるのは──」
シスカが僕の問いに答えようとした時。
「いや、説明は不要だよ、シスカ。この時間にボクが来るというのは決定事項なんだからね」
ジジジ。
聞き馴染みのある女の声。
それには、何かが欠け、何か違和感が継ぎ足された気がした。
「──誰?」
声がする方に向く。
ドクン。
心臓が高鳴る。
「また会えて嬉しいよ、愚者七号。──と言えば、ボクが何者かを察してくれるかな?」
バラバラ。
ズキズキ。
会ったことのない黒髪の少女が僕を愚者七号と呼ぶ。
突然部屋に現れるなんて離れ業には驚かされたけれど、僕をそう呼ぶ奴には会ったことは有る。
しかし、それは人ではなく一冊の魔導書だった筈……。
「おや、それほど驚いてないね。見知らぬ人間が部屋に居るんだ。少しは驚いても良いと思うよ。それぐらいの方が可愛げがあるものだ」
……。
「いや、驚いてはいるよ。魔導書だった筈の君が少女の姿を取っているなんて思いもしなかった。というより、今まで何処で何をしてるだとか文句を言ってやりたいだとか思っちゃいないよ。うん、それは本当だ。本当だよ?」
解らない。
今、言ったことが自分の本心だってことだってことも。
何もかもが理解出来ないということで頭の中はいっぱいになっている。
「ほうほう。それは上々。キミも拍が付いたというものだ。とはいえ、現状は芳しくない。これでボクらは時間遡航の恩恵を使えなくされたに等しいのだからね」
時間遡航?
「驚いた。そこに突っ込むのかい? これでは益々、作り物になったというものだ。感情が抜けているではない、もっと別の感情というモノを理解することが消失してしまっている」
黒髪の少女はぶつくさと言いながら、僕に近づいて来る。
……というか、他人の部屋に土足で上がり込まないで欲しいものだ。
「……まあ、良いだろう。それについてあれこれ議論する時間も惜しいものだ。結論から言おう。後、十分程で魔女がこちらに向かってくる」
シェリアが来る?
「そう。赤い髪の方の彼女さ。それはもうカンカンに怒り狂ってね。せめて目的のキミを■■■ド・■■ターにしようと躍起になるんだ。何故、それをするのか考えもしないんだから、彼女も賢いのか解らないものだけどね」
黒い髪の女子生徒は値踏みするように僕を見つめる。
その視線は、何処までも冷徹なモノであり。
その眼差しは、何の感情も満たされない深淵のようなモノだった。
つまり、何が言いたいかというと。
「さて、ここまで勿体ぶらせたんだ。いい加減、自己紹介の一つでもしておこう。察しはついてる? 意味がない? けれど、それも大事な伏線になるんだから大事にしないとね」
カチカチカチ。
ドロドロとした黒い瞳が僕を見つめる。
色白い肌が彼女を不気味だと印象付ける。
それはまるで、何もかもがお見通しだと言わんばかりに道化染みた物言いだった。
「そうとも。道化だとも。最も道化でいて噂好きな女子生徒。ゴシップ大好きとはよく言うものだ。キミとて気づいてるんだろう? 魔導書であったボクを名前で呼ばなかったのも薄々感づいていたからなんだろう? まあ、そう思っていても仕方ないんだけど。……良いさ。此処まで来たのならこう名乗ることにしよう」
シスカは何も言わない。
無造作に近づく女子生徒が誰かなんて僕は解ってる。
けど、少女は通行儀礼だと言ってそれをする。
「最果ての今にして絶対なる知識を司る魔術師が一人。藤岡飛鳥、その人だよ。この姿でキミと出会えるなんて嬉しいよ、愚者七号」
そっと僕の頬に手を添えると彼女は微笑む。
カチリ。
また何かの欠片が填まる音がした。
「さて、残り五分。こうして会話するだけで五分という時間が消費された。それはいけないことだよ、愚者七号。キミには賭けをして貰わなきゃ、此処でボクら三人はご臨終だ」
賭け?
「そう話を聞いてくれる気になったのはこれまた嬉しいことだ。これはサービスだ。持っていくと良い」
カラン、カラン。
藤岡飛鳥を名乗る女子生徒が懐から何かの箱を転がした。
黒い歪な模様の立方体。
僕らにはお馴染みの権能を与える魔道具。
「ダーレスの黒箱?」
そう。外なる神による魔導魔術のアイテム。
それをどうして彼女が持っている?
「おっと。それは、違う。正確に言うならば、それはダーレスの黒箱じゃない。限りなくそれに似せたレプリカさ」
クスクス/キキキ。
クスクス/キキキ。
少女が嗤う。
謳うようにそれを僕にひけらかした。
「なーに。失うものが今更一つや二つたいしたことないだろう?」
何かが可笑しいと言うのに彼女はそれを受け入れている。
ドクン。
何かが違う。
何かが違う。
何が違う?
クスクス/キキキ。
クスクス/キキキ。
パン!
そう思っていると、突然、何かがした。
パン!
再び、何か手を叩く音がした。
パン!
三度目で漸く、気が付いた。
地べたには何も転がっていないことにも。
藤岡飛鳥と自称する少女は事態を重く見ていることにもだ。
「なるほど。これは重症と見た」
僕の頬に手を添えた彼女が言う。
「妄想を現実として見せるとは、彼女も考えたじゃないか。これでは、どれが本当か偽物かなんて区別出来ないだろうね」
パリン!
何かが砕ける。
そうすることで僕の中の何かが解放された気がした。
時間と空間が交じり合い、幻惑の今を手放そう。
そうすれば、もっと夢の終わりへと近づくのだから──。
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