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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第四章:影絵情景
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016 その手に未来を──


 「──っがぁあ!!!」


 虚構と現実の狭間へ跳ばされる。

 同時に意識が曖昧になり、記憶が欠けていく。


 「あ、ああ、ぁああああああ!!!」


 酷い話だ。

 きっと目が覚めたら、今までの出来事を忘れているのだろう。


 「……ぅう、ぐぅううう」


 全部、忘れる。

 リテイク先輩を殺した絶望感も、累の葛藤も、真実に近づいたことの何もかもが無かったことにされてしまう。


 「『■■■■!』」


 視界を砂嵐(ノイズ)が埋め尽くすと、僕の中の何かが消えていく。


 隣で笑っていた(■い)も。

 一緒にいた■■(か■り)ですら居なくなる。


 そうして僕を知る誰もが居なくなって、最終的に僕という存在さえ消されてしまうのだろう。


 「ち、くしょう」


 底なしの闇へと堕ちていく。


 「『■■■■■■!』」


 すると、誰か解らない──少女の声が僕の頭の中に呼び掛ける。


 「アハハ──もう良い。もう、良い、ん、だ」


 ……けど。


 ジジジ。


 それも、もう……いい。

 どうせ何をしたって無駄なんだ。


 それなら、このまま諦めてしまえば楽になる。


 「う、ううう、ぅぐぅう!」


 ああ、不思議だ。

 全部がどうでも良いモノに思えて、何をする気も起きない。


 あんなに必死で足掻いてた筈なのに、僕は──。


 ────「それで、良いの?」


 そう、何をする気も起きなかったのに。

 今、(る■)の言葉を思い出すのは、卑怯だ。


 「……生きたかった、なぁ」


 本音が漏れたことで、最後まで自分という存在が許されなかったことに涙が止まらない。


 ザー、ザー。

 ザー、ザー。


 「──っつぅ」


 頭痛(ノイズ)が激しさを増すと、名も知らぬ誰かの記憶が脳に刷り込まれていく。


 「あ、う」


 疲れた。

 疲れた。

 僕は生きるのにとても疲れたんだ。


 「ぐぅ、──がぁ」


 二度目の人生でさえ、神様は碌なことをしない。


 ……嗚呼、そうか。

 きっと神様って奴は人間の苦しむ顔を見るのが好きなサディスト野郎なんだ。


 「ハア、ハア」


 そうでなきゃ、こんな仕打ち出来ない。


 「う、ぐぅ」


 ズブズブと足下が埋まっていく。

 でも、底なしの闇に堕ちる僕を誰も助けない。


 「■■■■、手を、■■■■!」


 それなのに震えが止まらない。

 まだ消えたくないと体が叫んでるようだ。


 頑張りたくない。

 何も頑張りたくないんだ。


 そうだ。どうせ足掻いたところで、生きることを望まれないならこのまま消えてしまえば良い。


 それこそが正しい選択だって理解しているというのに──。


 「■■さん! 手を、の■■て!」


 声がする。

 誰かが必死に手を差し伸べてるのに、生きたいと叫ぶ僕の身体は言うことを聞いちゃくれない。


 苦しい。

 痛い。

 もう嫌だと言ってるのに、心の何処かがまだ生きたいと願ってる。


 そんな時。


 ────「ユーキ!」


 (るい)の声が聞こえた。


 「──っ」


 今にして思えば、走馬燈(それ)が見えたのは奇跡だった。


 だって、その証拠に■の姿があんなにもはっきりと見えたんだ。


 ────「忘れ物だよ!」


 振り被って何かを■が投げた。

 とっさに投げつけた物を掴もうと手を伸ばすと──。


 「つ■め■■た!」


 誰かが僕の手を掴み、そのまま雑音(ノイズ)の先へ引き上げようと引っ張った。


 しかし。


 「う、うぅううう! あ、後もう少しなのに──!」


 未だ僕の視界は砂嵐で埋め尽くされている。

 このままでは深い闇に呑まれるのも時間の問題だと思われた時──、







 「お前なぁ! 此処で消えたら承知しねぇからな!」


 ──誰かが僕を闇の底から押し上げたんだ。


 「あ、う」


 諦めてた。

 彼女以外、こんな自分を助けてくれるなんて思いもしなかった。


 だから、その声が聞こえた時は嬉しかった。


 「お前さんが此処で消えたらよぉ、一体誰が瑞希ちゃん(あの子)を叱るんだ!」


 強い叫びが、温かな慟哭が僕を闇から解放させようとひしめき合い、人間嫌いの■■(かとり)の声が響き渡る。


 何が彼を動かしたか。

 今になってどうして■■(かとり)が僕を助けるのか解らない。


 だけど。


 「だから! 早く行って殴り飛ばして来い!」


 今、解るのはそんな彼の激励が僕の意識を途絶えさせたってことだ。


 ◇


 目を覚ますと崩壊していく校舎の中に僕はいた。


 「──っ」


 そう。屋上にいた筈なのに、見知った教室の中で倒れてた。


 瓦礫と共に砂塵が舞う。


 チクタク、チクタク。


 時計の針が逆さまに回っては止まり、──二つの人影が対峙する。


 「勇貴さん!」


 ■■さんが叫ぶ。

 きっと、彼女が僕を暗闇から助けてくれたのだろう。


 その証拠に起き上がった僕を見て心配そうに声を掛けてきた。


 「……どぅ、じで? どう゛じで、邪魔ずる゛ん゛ですか! どうしてどうして!」


 影を纏う黒髪の少女。

 最早、その深い闇のような目は誰の姿も捉えていなかった。


 ズキリ。


 ────「お兄ちゃん!」


 だというのに、まだそんな彼女の泣き顔を見たくない自分がいる。


 「わ゛だ、じ。──私は! 私はただ、兄さんに会いたいだけなのに!!!」


 少女の纏う影が膨張し、その魔の手を伸ばす。


 「──っつぅ!」


 その姿を見て、更に僕の頭は痛みを訴える。


 「ハア、ハア」


 ブゥン。


 それに応えるように、幻想破戒の魔剣を現実化(リアルブート)する。


 「ぐぅ、──う」


 ジジジ。


 大丈夫、どんな魔術を切り裂く権能(チート)は、この少女でさえ例外じゃない。


 「止めて。……止めて、止めて。止めてよ!」


 未練を断ち切るべく、■■へと駆ける。

 そうだ。今更どんなに願おうと、あの仲慎ましかった光景は戻らない。


 だから、僕は今を生きる為にこの魔剣を握るんだ。


 キィン!


 僕の想いに呼応するよう、魔術破戒(タイプ・ソード)の輝きが強くなる。


 「止めてよぉお! お兄ちゃん!!!」


 はち切れんばかりの絶叫が影に広がり、


 「──光を!」


 ──駆ける僕を追うように、光の雨が影へと降り注がれる。


 「──っつぅ、あ!」


 光の雨を浴びた影から不安げな■■(み■■)が露わになる。


 「う、──っらぁあああ!!!」


 そこへ一秒も速く、露になった■■(■ず■)の懐へ魔術破戒(タイプ・ソード)を振るう。


 「────!!!」


 声にならない絶叫(悲鳴)と共に、あらゆる幻想を葬る一撃が■■(■■き)の身体を砂塵のように散らす。


 それは、死した兄との再会を願った少女には救いのない光景だった。


 「お、おに、い、ちゃ、──」


 小さく吐き出される断末魔。

 虚空へと伸ばされた手は届かず、粒子となって消えていく。


 カランと転がる黒い箱。

 そうして、少女──『古瀬瑞希』の生涯は儚くもその幕を閉ざす。


 「ハア、ハア」


 僕の名前は、七瀬勇貴。

 ただ、七瀬勇貴と呼ばれるだけの人間に過ぎず、彼女のお兄さんでは決してない。


 チクタク、チクタク。


 時間が巻き戻る。

 少女が消えた場所を見つめながら、再び僕の意識は闇へ堕ちていく。


 「──です、ね」


 意識を手放す間際、ギュッと誰かに後ろから抱きしめられるのを感じた。


 ◇


 「──っ」


 目が覚める。

 朝の日差しに何処か微睡みが抜けず、ベッドの上で呆然とする。


 「……何だろ?」


 いつも通りの朝だというのに、何かが可笑しい。

 眠っている間に夢でも見たのか、目から涙が溢れてくる。


 「アハハ。可笑しぃ、な。何で、僕、泣いてるのさ?」


 悲しくなんてない筈だ。

 悲しいことなんてない筈なんだ。


 ──だというのに、涙が止まらない。


 それはまるで、僕が悲しんでいるみたいじゃないか。

 いつも通りのことなのに、涙が止められない。


 「本当、どうして、な、ん、だ?」


 それから、訳も分からず僕は泣き続けた。


 「──っ」


 何かを思い出そうにも、それは霞んでは消える幻だった。


 ジジジ。


 蜃気楼のように消える幻は、忘却するに限る。


 「────」


 涙が止まる頃には始業の鐘が鳴っていた。

 この日、僕は学園生活始まって以来、授業を欠席したのだった。



 どうしよう、続きが書けなくなりました。

 また一章の四話から手直しするべきか悩みますね……。

 取り合えず 二章と三章は絶対手直しますので、更新は止まります。


 この作品が面白い、続きが気になる、応援してると思ったらと少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!


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