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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第四章:影絵情景
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015 夜が明ける


 「どう、して? どうして今になって立ち上がるの!? もう良いって言ったじゃないか! それなのに、どうして立ち上がるんだよぉお!!!」


 声を荒げ、狼狽える累。

 痛みを耐えるように剣を振るう彼の姿は、今を生きる人間そのものだった。


 刹那の一時、君を通し煌めく星を見る。

 重い一撃を受け止めると、僕は『■■』(ボク)で僕がオレで俺がボクなのか曖昧にされていく。


 「変に、なり、ぞ、うぅ」


 何が正しいのか解らない。

 何が正しいか考えても解らない。

 何もかもが間違いで、本当のことなんか無かったかもしれない。


 「そうだよ! 本当なんて有りはしないんだ! ちっぽけな嘘があるだけで、キミには何もなかった! 生きることから逃げ出した癖に誰かの言葉に期待するなんて恥知らずにも程がある! そんな大馬鹿野郎の間抜けに生きる理由なんてある訳ないだろう!!!」


 再び累から屈しそうになる罵声を浴びせられる。


 「──っ」


 夢を見た。

 いつもの教室で累がふざけて、火■(かとり)が怒って、僕がそれを宥めるっていうもの。


 それは何処にでもありそうな他愛ない日常で、手を伸ばせば直ぐに壊れてしまう泡沫の幻で。


 嗚呼、でも、それは夢だ。

 誰もが持っている小さな幸せだとしても、それが叶わないことを知っている。


 「────」


 目の前に必死で痛みを堪える累。

 傷ついてるのは僕なのに、何をそんなに痛がるのか理解出来ない。


 でも、彼は痛いと叫んでる。

 そんなことないって必死で装うも表情は隠せない。


 「わけわかんないことを!」


 虹色の一閃。

 見ているものが曖昧になる一撃が放たれる。


 「──!」


 ジジジ。


 眩む先にいる少女が僕に剣を通して語り掛ける。

 ■■■の声を聞いていると落ち着いて、累の一閃に魔術破戒(タイプ・ソード)を合わせられた。


 痛くて辛くて、苦しいけどその先にいる誰かを想えば大丈夫。

 涙は出ない。

 もしかしたらこの記憶も累が剣を通して思い出させようとしているのか。


 「あああああああああ!!!」


 気合いの入った一撃。

 単調で何よりも重たい剣撃にまた一歩、圧される。

 何のために此処まで来たか、忘れてしまいそうになる程に目の前の現状が理解の範疇を越えていた。


 ──それでも、目の前の親友(とも)と殺し合う為に此処に来たんじゃない。それだけは確かだと魔術破戒(タイプ・ソード)が呼応する。


 「ぼく、は。……僕は! 君と戦う為に来たんじゃない!」


 未だ名も知れぬ誰かの記憶に頭が悲鳴を上げる。

 その先にある真実を求めて僕は此処までやって来たのに、それを自分と認識するのが不快で仕方ない。


 「そうだ! 僕は何者で! どうして自分がこうなったかを知りたくて来たんだ!」


 ────「その結果で死んだとしてもさ。それで誰かが助かるのなら、私は良かったって思うよ」


 金髪の少女が語る。

 月明かりが照らす中で話した、その言葉の意志は計り知れない。

 でも、そんな単純なことを中途半端な自分でさえ理解出来たというのに。


 「──っ!」


 累の剣筋が揺らぐ。

 その一瞬の隙を見逃したら、きっと僕らは後悔する。

 特に、目の前の大馬鹿野郎は絶対に後悔するに決まってる!


 「決して! 君を倒す為なんかじゃない!」


 柄を握りしめる力が強くなると、身体の底から活力がみなぎって。

 そのまま光輝く魔術破戒(タイプ・ソード)を振り抜き、踏み込んだ。




 そして──。


 虹色に輝く剣と魔術破戒(タイプ・ソード)がぶつかると、辺りは眩むような光に包まれる。


 ピシッ!


 「……あ? あ、ああ、あああ!!!」


 パリン!!!

 累の悲鳴と共に砕ける、虹色の剣。


 「う、嘘だ。こんなことはあり得ない。…ぅし、て。どうして、今更になってそんな記憶だけを取り戻すんだ!? よりにもよって、今その言葉をユーキじゃなくて彼に言うのさ!?」


 ユーキが誰を指して、彼が誰のことを指しているのかは知らない。

 それでも、今にも崩れ落ちそうな彼に何かを言わなければいけない。

 きっと、あの金髪の少女もそれを望んでる。


 「……剣が折れたってことはさ、もう君に戦う手はないんだろう? ──なら、終わりだ、累」


 夜が明ける。

 黄金の朝陽によって、この不毛な勝敗が決した。


 「──……そっかぁ。負け、たのか」


 何処か遠い眼差しで僕を見つめる累。


 「……実を言うとさ。最初から反対だったんだ」


 彼は折れた剣を掲げ、ポツポツと何かを語り始める。


 「ユーキが嫌うやり方だったし、何よりシスカが似たようなものの犠牲者だった」


 その姿はまるで死に急ぐ人のように見えた。


 「ねえ、キミが求めるのって何なの? この世界の真実? それとも七瀬勇貴(ななせゆうき)の過去? それとも有るはずのない外の世界? どちらにせよ、それらは誰の救いになりはしないよ」


 累は知っている。

 僕が何者で、僕を取り巻くこの世界の真実を知っている。

 僕だけが蚊帳の外にされた、見なければいけない事を知っている。


 「それでも。それでも、僕は知りたい。誰の救いだとか関係なく、何もせず後悔はしたくないから」


 僕は真実とやらを見なくてはいけない。

 そうしなければ、きっとその先の未来に自分でさえも自分を信じてやれなくなるから。


 「そっか。そうだった。そんな人間だって解ってたから、こんなにも迷ったんだっけ」


 累の姿は、いつか見た誰かの笑みに似ていた。

 その誰かは影が掛かって思い出せないが、とても大切な人だったことは思い出せた。


 「何だよ、それ」


 同じく笑いながら、いつも会話する時と同じように手を差し伸べる。


 だけど。

 その手が握られることはなかった。


 「あーあ。本当にどうしようもない人ですね、先輩」


 気付けなかった。

 深い闇の底から這いあがる魔の手に気付けなかった……!


 「──ぐふぅ!」


 鮮血が飛び散り、一瞬で累の臓物が地べたにぶちまけられる。

 聞き覚えがある少女の声をしたら、突然現れた影がその細長い腕を振るったのだ。


 「る、──累!!!」


 影の一撃によって、大きくバランスを崩す累。

 慌てて体勢を立て直そうとするも、乾いた銃声と共に吹き飛ばされる。

 そうして毬のように弾むと、何処からか放たれた魔弾によって跡形もなく肉塊へと変えられてしまった。


 キキキ!


 そんな肉塊を影絵の猿が嗤う。

 出来の悪い白昼夢の如く、魔術師(エイプ)が現れた。


 「そうです。貴方はいつも此処一番というところで反抗する。いつもいつも、あと少しのところでです! ……でもそれもこれで終わりです!」


 なんてこと、だ。

 あの夜、みんなの力を結集して倒した彼女が現れるなんて夢にも思わなかった……!


 肉塊は立ち上がらない。

 それを確認すると、影絵の猿はこちらに向けて手を伸ばす。


 「うぐぅ!」


 再び割れるような頭痛が僕を襲う。

 頭の中を無理やりに書き換えられるような感覚に立っているのがやっとだ。


 「別に、貴方に恨まれたって文句は言いませんし、同情もします。でも、これだけは譲れないんです! ……だって、その為だけに私はあいつらと同じことをしてきたんですから!」


 ズリズリ。

 ズリズリ。


 伸ばした影の手が僕の頭を掴み、そのまま地べたに引き摺られる。

 そうするとまた現実と虚構の境界が曖昧になっていく。


 「っが、ぐぅ、はっ、ぁあああ!」


 見えているものが現実で、聞こえているものが虚構で、触れているものがどちらでもない存在だと書き換えられる。


 「頭が、可笑しく、な、る!」


 正義の魔術師を志す青年の記憶。

 その幾度も理不尽に立たされようと理想を諦めなかった最期は呆気ないもので──。


 それらがぐるぐると頭を駆け回った。


 「──っがぁ、ぁあああ!!!」


 何が正しくて。

 何が間違いで。


 嗚呼、愚かにも■■■■・■■■―を殺した男の最期がこれだなんて見たくなかった。


 ジジジ。


 ────「俺は、許せないんだ」


 死んだ男の声がする。

 ■■の頭を撫でる癖も、その温かい眼差しも()は覚えている。


 「早く! 兄さんに! なっちゃって下さい!!!」


 少女の叫びはとても頭を痛くする。


 ────「えーと、貴方は勇貴。七瀬勇貴。それが貴方の名前」


 ──そこで。

   ふと、懐かしい記憶を思い出す。


 ────「私? 私の名前?」


 ジジジ。


 大切な人。

 忘れてはならない過去。

 僕が僕で、■■だった時に彼女と出会った。


 ────「あー。そーいえば、まだ教えてなかったわね」


 腰まで届く栗色の髪が好きだった。

 風に靡くその髪を掻く仕草に僕は惹かれた。

 そうだ、あの翠眼に見つめられる度に赤面したんだっけ。


 少女の声を聞くと安心するのは、その時のことを無意識に思い出すからなのだろう。


 ────「私は──」


 暗闇に意識が堕ちていく。

 忘れないように鍵をかけた筈だけど、その鍵も何処かに落としたままにしていたなと思い返す。


 「■■さん、手を伸ばして!」


 七瀬勇貴じゃない僕を呼ぶ誰かの声が聞こえる。

 そうだ、傍にいてくれた■■さんが僕の居場所なのだから、帰らなくちゃいけない。


 「──か、と、りぃ!」


 だから、■鳥を呼ぶ。

 そうしたら、火■が来てくれる気がしたから叫んだ。


 瞬間。


 「──な、何ですか!?」


 鉄の拉げる音と硝子の砕ける音が響き渡る。


 「今だ! やっちまえ、ルイ!!!」


 同時に、此処に来るはずがなかった誰かの叫びが木霊する。

 暗闇に呑まれた視界がモザイクだらけになりながらも晴れていく。


 すると、肉塊が光を纏いその傷を癒していく光景が目に留まった。


 「──ぅううう」


 ピクリ、と指が動く。

 忘れてしまった感覚が取り戻される。

 ゴウ、ゴウと熱を持たない炎が爆風と共に広がった。


 「──っ!?」


 予期せぬアクシデントに影の魔術師は動けない。

 当然だ。

 だって彼女は、僕を助けに来た友人の想いを知ろうともしなかった。

 だから、この結末は必然だった。


 「火、鳥? ──まさか、貴方まで私の邪魔をするのですか!?」


 霞む頭を振り払い、魔術破戒(タイプ・ソード)を構える。


 「──っはぁあああ!!!」


 そのまま狼狽える魔術師の懐に潜り込もうとするも、いつの間にか炎の剣を持った累が渾身の一閃を揮う。


 「──っつぅ、ぁああ!」


 目に見える記憶が乱雑に切り替わる。

 無邪気な■■(みずき)の笑顔が愛しくて仕方ない。


 「きゃあああ!!!」


 満身創痍の累が一閃を放つと、鮮血が舞った。

 影が怯む。

 その隙をつくように僕は間合いへと踏み込んだ。


 「──ま、待って!」


 懇願するような少女の叫びを無視し、僕は渾身の一閃を放つ。

 それをキキキと影が嘲笑い──、


 「ぃい、やぁああああああああ!!!」


 栄光ある魔術は刹那の瞬きにて霧散する。

 こうして、今度こそ月の猿と名を馳せた魔術師は潰えた。


 「ハア、ハア、ハア」


 荒くなる息遣いを整えようとするも、それを待たずして累が口を開く。


 「時間切れ、か。まあ、精々頑張ってみれば良いさ」


 カチリと欠けていた何かが嵌る。

 願うように累は僕らに応援(エール)を贈った。


 「──応」


 累が持つ炎の剣から火鳥の声が聞こえる。


 カチカチカチ。


 そうして、再び僕の意識は闇に呑まれるのであった。



 うぉおおお! ストックが残り1話しかないです。申し訳ないのですが、明日で更新が止まるかもしれません。

 そんな筆の遅いこの作品が面白い、続きが気になる、応援してると思ったらと少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!


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