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バッドエンド・ガールズ  作者: 青波 縁
第四章:影絵情景
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012 頬伝う


 前回のあらすじ


 ● 主人公、先輩を殺す。


 それでは、本編をお楽しみ下さい。



 月のない夜。

 血で浸水した半壊の教室の床を踏みしめ、僕は歩く。


 「何で、だ」


 どうして、僕は先輩との記憶を忘れてしまったのか。

 真弓さんの名前を忘れるだけで飽きたらず、リテイク先輩まで殺したのか自分でも分からない。


 「どうして?」


 目指す先も解らず、夜の校舎を歩く。

 いつだって、そうだ。

 僕は、余計なことをしてしまう。


 分かってた筈だった。

 でも、解ってなかったから僕が先輩を殺したんだ。


 「嫌だ。もう、沢山だ」


 何も考えたくなかった。

 このまま眠ってしまいたくなった。

 さっきまでと同じように、都合の良いことだけ忘れてしまえば良かったのに。


 これは夢だ。

 質の悪い夢に過ぎないのなら、早く目を覚まさきゃいけない。


 「教えて、よ。教えてくれよ」


 なのに、未だ僕は目を覚まさない。

 暗闇に一人佇むだけで、何も変わってなかった。


 「誰でも良いから──!」


 声が大きくなる。

 自分が自分でいられない。

 そもそも自分という存在が解らない。


 七瀬勇貴。

 それが、僕の名前だ。

 七瀬勇貴。

 それは、本当に僕の名前なんだろうか。


 自分が何者なのかが疑わしい。

 自分の記憶に自信が持てない。


 何だよ、畜生。

 一体、僕が何したって言うんだよ。


 キキキ。


 ピシャリ、と水を弾く音が聞こえた。

 先の見えない暗闇を進んでる。


 キキキ。

 キキキ。


 そんな時、何かに躓いて転んだ。

 錆び臭い血をバシャンと浴びて、全身を濡らしてしまう。


 「──い、たぁ」


 自分の鈍くささに苛立つものの、何に躓いたのかを確認する。


 「──え?」


 ジジジ。


 それを見た時、頭の中が真っ白になったと言っても良い。

 呆然とその赤黒いモノを見つめる。


 ぐちゃり。


 嫌な音がした。

 嫌な音がした。

 嫌な音がしたけど、それが何なのか理解出来なかった。


 びちゃり。

 びちゃり。


 潰れた頭部。

 捻れた四肢。

 倫理感を腐らせるそれが、誰なのか見覚えがあった。


 「──ま、ゆみさん?」


 面影が微塵も残されてない惨殺死体。

 グチャグチャに潰れたそれを見て、何故か真弓さんだと断定する。


 「なん、で?」


 彼女と思える根拠なんか見当たらない。

 しかし、頭の中ではそれが彼女なのだと決めつけてる。


 「……う、うぅう」


 吐き気がする。

 死体を見てそんな可笑しなことを考えるなんて、どうかしてる。


 びちゃびちゃびちゃ。


 何かが弾ける。

 吐瀉物のそれが何色をしてるか、考える余裕はなかった。


 「──いや……」


 無言でそれを見つめた。

 数秒そうしてるだけで、それがただの肉の塊だと判断する。


 「やっぱり違う。違う、じゃ、ないか」


 何で思ったか。

 どうしてそんな間違いを認識していたのか。

 忘れる訳がないことを忘れるのもそうだけど、僕は普通じゃない。

 何かが可笑しい。

 何もかもがあべこべだ。


 カチカチカチ。


 まるで、僕の見ているモノを誰かにそう信じ込まされてるみたいだ。


 「そうだよ。そうじゃないか」


 ただの肉の塊。

 無数に散らばる死体をどうしてか真弓さんと認識してる。

 否、真弓さんなのだと信じ込まされている。


 ずっと可笑しいと思ってた。

 ずっと何かが違うと思ってた。


 キキキ。


 「──ゴクン」


 おびただしい血で浸水した校舎、──現実離れした中心に僕は息を呑む。


 「そういえば──」


 そこで、可笑しなことに気が付いた。


 「キキキって、何?」


 背筋が凍るとはこのことだ。

 キキキなんて声を僕は出してない。


 だとしたら、この声は一体──。


 「誰だって良いでしょう。考えても仕方のないことです。邪魔者が一人消えた。その事実だけが解れば良いんです」


 何処かで聴いたことのある声が聞こえた。


 「──え?」


 周囲を見渡す。

 暗い校舎があるだけで、誰の姿も見えない。


 「そうです。考えても、考えても無駄なんです。……というか、貴方の頑張りは目障りなんです、私」


 少女の声は止まらない。

 キキキと誰かが嗤う声も続いた。


 「誰? 誰なの!? いや、もう誰でも良いから教えてくれ! 僕が何者なのか教えてくれ! 何だって良いんだ! 頼むよぉ……ねえ、そこにいるんだろう!?」


 幾ら叫ぼうと答えは返ってこない。

 少女の声が一方的にするだけで何も変わってくれない。


 「後は貴女だけです。貴女さえ始末してしまえば今度こそ、そいつをお兄ちゃんに出来るんです」


 塵となる少女の影。

 死者との再会を夢見た彼女を思い返す。


 「──っつぅ。あ、たまが。頭がイタい」


 幾つもの記憶が混濁し、頭の中をかき回す。

 目障りなことこの上ないのに、それは容赦なく僕を苦しませた。


 ────「大丈夫。貴方ならまたたどり着けます。だって貴方は、私の希望。私のヒーローなんですから」


 真弓さんの言葉が頭を過ぎる。


 「ぐぅ、う。……うぁ、ぁあ!」


 崩れるように僕は倒れる。

 そうして、目の前が真っ暗闇へと堕ちていき──、


 そこで意識が途絶えた。


 ◇


 ■を見た。

 酷い■だった。


 先輩を殺す■を見たんだ。


 ズブリと突き刺す感触が拭えない。

 いや、突き刺したんじゃなくて、真っ二つに斬ったんだ。


 キキキ。


 まあ、どちらだって同じことだ。


 ザー、ザー。

 ザー、ザー。


 フィルムが巻き撮られる。

 その間、砂嵐が画面を支配した。


 ノイズがする。

 ノイズがする。

 ノイズが止まらない。


 頭が痛くて、胸が苦しかった。

 汗が止まらず、心臓がバクバクとうるさかった。


 僕は見たくもない現実から逃げたのに。

 楽になりたくて死んだってのに、酷いものだ。


 キキキ。


 神様なんていない。

 神様なんていない。

 もし神様がいても、そいつはとんだ糞野郎だ。


 考えても、考えても■は終わらない。


 死んだ。

 死んだ。

 また殺した。


 誰も彼も殺し尽くしても、その悪■から覚めることはない。


 「────」


 積み上げられた死体の山──その頂に佇み、僕は見下ろした。


 「酷い話じゃないか」


 四面楚歌の状況。

 血みどろな世界。


 ツギハギの記憶と二重螺旋の複線に(ぼく)は酔いしれる。


 「そうだとも、これは酷い話だ。人形に自我を残すなど、あの女狐共は正気の沙汰じゃない」


 あべこべな言葉が僕の口から吐き出され、キキキと嘘つきの男は嗤う。


 「嘘ではない、事実だとも。──まあ、嘘であったとしても結果は何も変わらなかっただろうし、どれだけ心を強くしようが凡人の域は越えられまい」


 僕の意志に反し、誰かが喋るのは自分の身体じゃないみたいで気持ちが悪かった。

 これじゃあ、操り人形だ。


 でもこれは■だ。

 僕が僕じゃないとしても、それは気にすることじゃない。


 「そうだとも、気にする必要はない。何れ、その考えも失われる。だから、安心して眠るが良い」


 どのみち、考えるの嫌になったんだ。

 それならば、男の言うとおりにしていれば良い。

 楽になるのなら、そうするべきじゃないか。


 ズブズブ。

 ズブズブ。


 微睡みが抜ける。

 悪■が終わり、意識が闇に呑まれる。


 そうして、僕の自我は消えようとして──。


 「駄目です! そんなのは駄目です、■■さん!!!」


 ──それを少女の悲痛な叫びが止めた。


 前を見る。

 すると、暗闇に光が灯った。


 ザー、ザー。

 ザー、ザー。


 ノイズの嵐が邪魔をする。

 でもその先に見覚えのある少女が立ってる。


 「────」


 綺麗だと思った。

 少女の姿が眩しくて、目に涙が溢れた。


 「ま、ゆみ、さん?」


 腰まで届く髪が風に浚われる。

 栗色のそれが光を浴び、美しいものを見たと高揚感を与えた。


 ドクン。


 妖精のような翠眼が見つめると、嫌なことの何もかもが消し飛んでいく。


 「あ、あああ、」


 ■■さんの姿に嗚咽が止まらなかった。


 「立って下さい、■■さん。貴方はこんなところで終われない。いや、終わってはいけないんです」


 早くと■■さんが手を伸ばす。


 「ああ、あああ!」


 ズキリ、と割れるような頭痛がやって来る。

 何度も悩まされてきた痛みは■■さんが見つめるだけで、力が漲って全身に力を込めれた。


 「そうです。何度繰り返そうが、貴方は立ち上がる。そうでなくては生きられない。■■さんが知らなくても、それを私は覚えてます。大丈夫。貴方なら出来る。──だって、こんなにも貴方は強くて優しいんですから!」


 弱い僕が地べたを這いずるのは、見苦しいのかもしれない。


 ────「だって僕は、最高のヒーローなんだろ? そんなヒーローが現実の一つ変えられなくてどうするんだよ!」


 けど僕は『■■(ぼく)』にヒーローだって言った。

 ならば、どんなに無様でも最期まで戦わなきゃいけない。

 そうでなくては、こんな自分を信じた『■■(ぼく)』を裏切ることになる。


 「──っ!」


 差し伸べられた手を掴む。

 その手の温もりは、どんなモノよりも優しく心地よかった。


 「ハア、ハア」


 闇を掻き消す少女の名前は思い出せない。

 だが、掴んだこの手が僕を立ち上がらせてくれたことは忘れない。


 「えへへ」


 少女が微笑むと、その姿は幻のように消えてしまった。


 「──あ」


 先ほどの出来事が何なのかは分からない。

 けれど、どんなに辛くとも前を向いて行こうと思えた。


 「行こう」


 拳を強く握り、半壊した教室を後にするのだ。



 本日、31歳の誕生日を迎えました。その記念に本編を投稿することにしました。本編の書き直しはメンタル激落ちで進まないです。ごめんなさい。

 そんな作者の作品が面白い、続きが気になる、応援してると思ったら画面下の☆からポイント入れて頂けると滅茶苦茶嬉しいです!


 批評、アンチ何でも励みになりますのでよろしくお願いします!


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